「ゾルタンはタバコ休憩行かないんだね」
最初は何気ない一言だったのだ。
吸っているところを見たことがないのだから元々嗜んでいないとこの時気づくべきだったのである。
見栄っ張りな彼が自爆するのは目に見えていたのだから。
「ヨナちゃん吸わないからタバコ嫌いだと思ってな、匂い染み付いてたら悪ィし」
「吸わないだけで嫌いではないよ。俺の事気遣って禁煙させてた?」
ゾルタンの目が少し泳いだ。
が、ヨナは「やっぱり我慢させてたんだな」という勘違いから申し訳なさそうな素振りを見せる。
「そうだ!これ同僚からあまり好みじゃなかったからって渡されたタバコがあるんだけど」
「...おう」
ごそごそとスーツの内ポケットを漁り出すヨナに顔が引き攣り出すゾルタン。
「よかったら吸わないか?」
「...」
「タバコ咥えてるの似合いそうだなって思ってたから、俺の前で吸って欲しい」
一切の悪気がない笑顔が眩しすぎて直視できない。
今更「吸ってないんだよヨナちゃん」なんて言い出せず精一杯の(ぎこちない)笑顔で受け取る。
ニコニコと見守るヨナ。
若干目が死んでいるゾルタン。
吸い慣れてますよ、という動作でタバコを咥えたまではいい。
着火してからが問題だ。吸ったことがないのだからどうリアクションするべきか分からない。
ヨナがまだかな、という様な目で見ている。
半ばヤケクソになったゾルタンがタバコに着火した。
恐る恐るタバコを吸い
「........ごふっ!!!」
盛大にむせた。
我慢できると思ってたんだよなぁ!これが!!(涙)
「ゾルタンーーー!?大丈夫!!??」
「ごほっ!!だいっ...ヒューじょう...ごほごほ...ぶっ!!けほっ!!」
尋常ではない咽せ方にヨナが焦る。そして気づく。フリじゃなくて元々吸ってない事に。
「ゾゾゾルタン!?背中叩けばいい!?」
「ばっっっか、...ぐふっ!!さすれ...ごほ!!ヒュー...ヒュー...」
「ごめんーー!!!」
ひとしきり咽せこみ終わり、落ち着きを取り戻した2人。
「どうして吸えないのに無理したんだ...」
とヨナが聞くが未だ目尻に涙を溜めて無言のゾルタン。
「タバコ吸えなくてもゾルタンはカッコいいよ」
とフォローしたらこれまた無言で肩パンしてくる。
顔は真っ赤だったが。
後日。
「はい、ゾルタンこれあげる」
ヨナが差し出してきたのはロリポップ。
「別に俺、甘党じゃねーぞ」
と答えながらも包み紙を開いて口に含む。
「タバコは吸えないけど、咥える仕草は好きだったからね」
「だからたまにでいいからそれ咥えててほしいかな」
悪気のないヨナの爽やかな笑顔に赤面する羽目になって、なんだか癪に触って思いっきりその頬をつねってやった。