亡霊騎士の話（仮）轟々と黄金樹が赤く焼け落ちる様を冷めた心で見下ろしていた。
狭間の地の生ける者達からの怨嗟の声も雑踏でしかない。一身に向けられた憎悪もまるで他人事のよう。

数多くの戦技を身につけ、心得のない魔術や祈祷も修めたが結果はこの様。
どんなに足掻いても唯の褪せ人の枠から抜け出せない事実だけが積み重なっていく。これまでも、きっとこれからも。
全てを壊してしまえば気も晴れるかと思ったが残ったのは虚しさだけだった。暴君は静かに王座を降りた。


叶わない願いを抱いてもそれをどうやっても捨てきれない。人気のなくなった円卓に輝く大祝福を前にその放浪騎士は仄暗い誓いを立てた。






ある時を境にリムグレイブではとある噂が囁かれるようになった。『ストームヴィル城には亡霊騎士が巣食っている』というものだ。狭間の地なぞ幾らでも生ける屍が彷徨いているのだから怪談には事欠かないのだが、どうやら違うのだ。
ゴドリックが住まう城であるから騎士がいても不自然ではない。褪せ人の一部は大ルーンを求めて城に侵入していて中にはその騎士と出くわしている。そして皆が口を揃えて「あれはゴドリックの兵ではない」と答えるのだ。君主軍はそれぞれ所属が分かる紋章を身につけている。ゴドリックの兵ならば黄金樹の紋があるように装飾のどこかに印があるはずなのだ。しかしその騎士にはそのようなものは身につけていないという。それどころか傷みも目立つ鎧を纏っていて放浪騎士そのものらしい。ただどうも褪せ人の味方ではないのだ。接触した者は例外なく刃を向けられている。デミゴッドの城に突入していく褪せ人は血の気も多いが腕に覚えのある者達であり当然抵抗する。
尚誰1人撃退できた者はおらず目が覚めたら関所前だったと話す。中には漂流墓地まで戻され通りすがりの従軍医師に助けられた者もいた。

ゴドリックが褪せ人をスカウトしたのかとも言われたが、がめついストームヴィル城の門番曰く「どこかの馬鹿のおかげで接木の材料も集まらないってんでゴドリック様は大層ご立腹さ。アンタらの仲間なんだろ？どうにかしてくれよ」と酷く疲れた顔で手引きした褪せ人達に声をかけていた為ゴドリックの私兵説もなくなった。
城内の兵士も血眼で探しているのに尻尾も出さない。放浪騎士が現れるのは決まって褪せ人が城内へ紛れ込んだ時のみ。音もなく突如として褪せ人の前に姿を晒し、気がつくと城の外へ追い出されている。
そしていつしかその怪異騒動は【ストームヴィルの亡霊騎士】と敵味方問わず知られるようになったのだ。

迷惑な亡霊に多くの人間が頭を抱える中、ここにも突破の糸口を探す褪せ人がいた。
「うーん、困りましたね」
魔術師のような風体の若い剣士は関所近くのボロ屋から嵐の城を見上げていた。