夢の話藍曦臣には婚約者がいるという噂は、少しながらも流れていた。
藍氏宗主なのだから、当たり前と言えば当たり前の話。
座学時代にも、斜日の征でも、彼の周りには女性の影は見ることは無かったはずだ。
「江澄、江澄」と、江澄に木陰から手招きをしている義兄の魏無羨に導かれるように近づく。
彼が示した先に視線を送れば、藍曦臣が慈しむ様に見つめて微笑んでいる少女の姿があった。
「誰だ?」
「知らない。だけど、藍氏の校服着てるから修女かな?」
しかも抹額をつけているために、内弟子だ。
十代の頃の姉を思い出させる穏やかでありながら、藍氏にもれずに美しく控えめな女性だ。
「花々(ファンファン)」と藍曦臣が呼び掛けるのが、聞こえてきた。
なるほど、花のような女性には花の名前というわけだ。
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