楠石兄弟からみたサトリ楠石が別室に設えてある薬瓶などを置いてある棚は、時折雑に並んでいるときがある。
蒼汰の容態が急変したときにかき回すことがあるからだ。
片付けをすると立ち上がると、ひさびさに体調が良い蒼汰が手伝うと名乗りを上げてきたため、楠石は踏み台を抱え(もともとサトリがここを整頓する際、身長が低いため必要に応じて置きっぱなしにしていたものだ)、二人で棚掃除と整列をしていた途中。
「サトリがわかってるようにいうの、なんかむかつく」
蒼汰から零れた声は怨みがましいものでなく、むしろ照れを隠すように白々しく顔をしかめている風情だった。
だから、これが陰口というより子供の意地っ張りのようなものだと、兄の立場からして微笑ましく口元が緩んでしまう。
「それはさっきの、二人して片付けを名乗り出た時に、サトリが蒼汰さんとしてあげてくださいって引いたことか?」
「あいつがサトリだってわかってるけど、心の中見透かされてるのがやだ」
「オレが寝てたお前をみてくれって頼んだからだな…ごめんな」
「別にっ、責めてるわけじゃ」
目を覚まさない蒼汰の心を視てもらったのは独断専行だったのは事実である。殊勝な顔をして踏み台により視線を下に流さなくても、だいたい真横にある蒼汰の顔をみると、弾かれたように面を上げて噛みついてくるような勢いで視線がかち合わせてきた。
「……わかってるよ本当のことは」
「うん、だけど心の整理がついてない、だろ?」
サトリの覚能力での苦悩も弟に伝わっているのだろうと相槌を打ちつつ、しかして無防備な心を…特に境遇が特殊だった蒼汰が、それに感情が揺れないはずもないのも兄として理解に及んでいた。
図星を突かれた蒼汰は顔色を曇らせるかと思ったが、やや頬を紅潮させて眉尻を跳ね上げはしたものの、拗ねた子供の顔をして黙秘を始めたものだから、笑みをかみ殺さねばならなくなってしまう。
要するに、サトリの気遣いがこっぱずかしい。そういうことなのだろう。
含むものを読み取ったのか、鋭い眼光がすぐさま投げられ、薬瓶を棚に押し上げて乗せたあと、蒼汰の頭をかき混ぜるようにして撫でる。
「終わったらサトリが用意してるおやつでも食おうぜ」
すぐ切り返し、反発する声が聞こえても構わず再び作業に移ると、しぶしぶ遅れて蒼汰も動く気配がした。おそらく作業はそうたたずに終わるだろう。
サトリのおやつが実は気に入っているのを、楠石は知っている。
おわり