なあ、おまえ、指せるか、と二宮の部屋へと来た影浦が、着替えやさしいれを詰め込んだジムバッグから取り出したのは、二つ折りの簡素な将棋盤だった。
「駒の動かし方くらいなら知ってるが、ちゃんと指したいなら水上にでも頼めばいいんじゃないか。確かプロを目指してたとか聞くが」
「わざわざ呼び出したり、押しかけたりしてまで指したいわけじゃねーし。イヤか?」
「いや。たまにはこういう一対一も悪くない」
と二宮は盤面にざらりと空けられた駒の群れから、王将と玉将をまずより分け、王将を影浦側へと押しやった。しかし影浦はおまえのほうがランクは上だろう、とよく分からない理屈を持ち出して、王将を二宮に託して、自分は格下の玉を引き寄せた。
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