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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 77

    ナンナル

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    もぶ🌟と🎈くんの話。
    続きを書くかは分からない。元々書きたいけど書くつもりなくて放置してたネタ引っ張り出して来たやつ。一応🎈🌟になる話ではあるけど、書ける気してない。

    吸血鬼は伴侶を求める※注意※

    ・モブ×司と類くんの話。
    ・類司になるの前提だけど、この話はモブ司で終わるので、類司要素がほぼない。(類くんの片想いで終わる)
    ・前に考えて放置してたネタ引っ張り出してきてます。
    一応、吸血鬼モブ×半吸血鬼司くんです。
    類くんは人間。
    ・年齢操作、捏造有り。女装もいつもの如く。
    続くとは言わない( ˇωˇ )
    いつも通り雰囲気で読み流して下さい。

    大丈夫ですか?
    ーーー

    満月の綺麗な夜は、苦手だ。カーテンが揺れるのをじっと見つめて、布団の中へ籠る。もうじきあいつが起きる時間だろう。今日も始まるかくれんぼに、目を閉じる。
    「…誰か、助けてくれ」
    独り呟いた言葉は、部屋の中に溶けて消えていく。
    ―――
    (類side)
    街外れの森の中には、大きなお屋敷がある。そこに住む人は、今はいないらしい。けれど、その屋敷からは子どものすすり泣く声が聞こえるとか、夜中に少年の悲鳴が聞こえるとか、色々な噂があった。そんな噂が広まって、あのお屋敷はちょっとした幽霊屋敷になっていた。取り壊そうとしたら事故が連続して起きるとか、中に入ったら一生出てこられないとか。興味半分で忍び込む人が帰ってこなかったという噂もあって、今じゃ誰も近付かない。そんなお屋敷に肝試しに行こうという話になった。時刻は夕方五時だ。
    「ほ、本当に行くの…? 類」
    「ふふ、幽霊なんて興味があるじゃないか」
    幼馴染に止められたけれど、好奇心には勝てなかった。同じクラスのクラスメイトについていって、僕はその日初めてそのお屋敷に入った。
     お屋敷の中は普通だ。人がいない割には綺麗に整えられた外観。お花がキラキラしていて、とてもきれいだった。鍵のかかっていない屋敷の扉に手をかけて開くと、中は真っ暗だった。電気をつけるスイッチは見つからない。柔らかい絨毯を踏んで、全員で中へ入った。小学一年生にしては、かなりの勇気だったと思う。バタンッ、と閉じた扉の音と、一切の光が遮断された室内で、クラスメイト達がパニックに陥る。
    「もう帰ろうよッ!」
    誰かが言ったその一言に、誰も否を唱える者はいなかった。バタバタと走り回る音がして、ドアが開けられる。キイ、と開いた扉に体を滑り込ませるクラスメイトを横目に、僕は屋敷の奥を注視した。掃除が行き届いているとは言い難い室内。けれど、誰かだ住んでいるのは確かなようだ。埃が溜まっていないのと、水を零したような跡が床に残っていたから。足を踏み出して、その跡に近付くと、扉が閉まってしまった。ガチャン、と音がして、振り返ると、クラスメイトは誰一人いなかった。僕に気付かずに、皆逃げてしまったみたいだ。
    「…どうしようか……」
     このまま帰った方がいいのかもしれない。けれど、ここまで来て帰るのももったいない。この奥がどうなっているのか、見てみたかった。本当に誰かいるのなら、会ってみたかった。真っ暗な闇に、視界が段々と慣れてくる。ゆっくりと歩き始めて、絨毯の上を進んだ。この奥には、何があるのだろうか。きょろきょろと辺りを見回していると、カシャン、と何かの落ちる音がする。振り返っても、そこに変化はなかった。どこから音がしたのだろうか。
    「…誰か、いるのかい……?」
     小さく問いかけてみるけれど、返事はない。そのまままた前に進むと、今度はカツン、と足音が聞えた。電気の一切ついていない屋敷の中に、誰かだいる。ドクン、と心臓が跳ねた。ごくりと喉を鳴らして、けれど足は止めずに先に進む。大きな扉を開くと、そこは食堂だった。物語に出てくるような、長いテーブルに近寄っていく。何か黒いものが染み込んでいた。指で触れると、乾ききっているのか、ちょっと硬くなっている。そのまま視線を辺りへ向けると、テーブルの上にはお皿が一枚置いてあった。空っぽのお皿は綺麗だ。埃も落ちていない。こんな綺麗なお皿があるなら、やっぱり誰かいるのだろうね。食堂の奥にある扉の方へ足を進める。そっと取っ手に手をかけると、後ろの扉がゆっくりと開いた。
    「誰か、いるのか…?」
    「ッ…!」
     思わずしゃがみ込んで隠れてしまった。扉が閉まって、足音がこちらへ近づいてくる。ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。その足音は、次第に僕へ近づいてくる。金属の音も一緒に響いていた。何か、硬くて重いものの音。口に手を当てて、僕は必死に息を殺した。机の下へゆっくりと移動して、そっと白いテーブルクロスの下へ隠れる。ほんの少し見えるクロスと床の隙間から、白い足が見えた。幽霊ではなさそうだ。その白い足が、ぺた、ぺた、ぺた、と音を立てる。それに合わせて、カシャ、ガシャ、カチャン、と金属のぶつかる音も響いた。ドクン、ドクン、ドクン、と心臓が音をたてて、背中を冷たいものが落ちていく。
    (見つかったら、怒られてしまうのかな…)
     どうしようか。震える体に気付かないフリをしながら、必死に頭を回す。この人が別の部屋へ行ったら、走って逃げよう。ドクン、ドクン、と心臓はもっとうるさくなる。もし、この声が聞こえてしまったらどうしよう。ぎゅっと目を瞑ると、その白い足が僕の隣で立ち止まった。足の先が、テーブルの方へ向く。ドキッとした。ゆっくり一歩後ろへ下がった足は、床に膝をつく。白いワンピースのような裾が見えた。揺れたテーブルクロスに、細い手が触れる。ドキドキドキドキ、と心臓は一層早鐘を打ち、ヒュ、と息を吸い込んだ。視界が揺れて、震える唇を引き結ぶ。ゆっくりと、テーブルクロスが持ち上がった。陰った夕焼け色の瞳と目が合う。
    「…ここにいたのか」
     ふわりと微笑むその人は、凄く綺麗だった。
    「…ぇ……」
    「どうしたんだ? 出口が分からなくなったのか?」
    「…え、と…」
     怒っている様子は全くなくて、凄く優しい声は綺麗な音になる。僕へ差し出されたその手に触れると、温かかった。テーブルの下から手を引かれて出る。綺麗な金色の髪が暗闇の中なのにキラキラして見えた。優しく細められた瞳に映る僕は、呆けた顔をしている。大人と言うには若く見えるその人は、僕の頭を優しく撫でた。
    「勝手に入ったのがバレると、怒られてしまうぞ」
    「おにい、さんは…だれ?」
    「オレか? オレは…この家の客人だな」
     立ち上がったその人は僕の手を引いて、食堂の扉へ向かっていく。低い声から、男性なのは分かった。けれど、肩まで伸びたその綺麗な髪も服装も女性の様で、声を聞かなければ間違えたと思う。それくらい、綺麗な人だったんだ。まっすぐ出口に向かっていく彼に手を引かれるまま、僕は歩いた。その綺麗な横顔をじっと見つめながら。ふわふわと揺れる髪も、その綺麗な瞳も神秘的で、目が逸らせない。僕を安心させるためだろう、優しい声音で話しかけてくれるところも、僕の胸を煩くさせるんだ。ドキドキと、さっきと違う音を聞きながら、胸に手を当てる。
    「さ、もう帰った方がいい。暗くなるからな」
    「あ、りがとう…おにいさん」
    「あぁ、気を付けてな」
     お屋敷の扉の外へ背を押されるように出る。振り返ると、彼はひらひらと手を振って僕を見送ってから、その扉を閉めてしまった。見えなくなってしまった彼の姿に、残念な気持ちになる。もっと、話がしてみたかった。
    「…だれ、だったんだろう…」
     この日、家に帰ってからも、彼の事が頭から離れなかった。
    ―――
    「…で、なんでまた来たんだ」
    「お兄さんの名前を教えてください」
    「…もうここには来るな」
     帰れと手で示す彼に、僕は頬を膨らませる。翌日、僕は学校が終わってからまっすぐあの屋敷に来ていた。理由は、彼に会いたいからだ。陽の光もまだ高い時間なら、お屋敷の中も明るい。鍵はやっぱりかかっていなくて、当たり前の様に中に入れば、彼が慌てて僕の方に来てくれたんだ。カシャ、ガシャ、と鎖の音を立てて。
    「お兄さんのお名前を聞くまで帰らないよ」
    「…お前なぁ……」
    はぁ、とあからさまな溜息を吐いた彼は、僕の目線に合わせてしゃがみ込む。昨日は暗くて気付かなかったけれど、彼の髪は金色なのに毛先にかけて薄い桃色にグラデーションがかっていた。夕焼け色の瞳もキラキラしていて、男性にしては大きく見える。ふんわりと揺れる白いワンピースは裾が広がっていた。黒いレースが白い足を目立たせている。そして、彼の白い首に付けられた黒い首輪が異様だった。後ろ側には長い鎖がついていて、先が何処に繋がっているのか分からない。二階の方なのはわかるけれど、なんでこんなものがついているのだろうか。彼はお客人じゃないのかな。
    「…オレは司だ」
    「…つかさ、くん?」
    「あぁ、天馬司だ」
    「ふふ、よろしくね。僕は類だよ。神代類」
     にこにこしたまま彼、司くんに僕も名前を教える。良かった。名前が聞けて。嬉しくなる気持ちを抑えて、司くんの手を掴む。びくっと肩を跳ねさせた司くんが、目を瞬いた。そのまま背伸びをして、彼の唇に、僕のを押し付ける。
    「…んぇ…」
    「僕が大きくなったら、結婚してください」
    「な、ななななッ…」
    「僕ね、司くんが好きになっちゃったんだ」
     にぱっと笑みを浮かべて、彼にそう言った。昨日の夜はずっと眠れなかった。司くんの事ばかりが浮かんで、ドキドキして落ち着かなかった。今日だって、彼に会いたくて会いたくて仕方なかった。だから、会いに来た。会いに来て、大好きの気持ちが大きくなった。司くんは綺麗だから、お嫁さんになったら、もっときれいだと思うから。
    「僕、いっぱい会いに来るから、いいでしょ?」
    「いや、もうここには来るな…」
    「ダメッ! 僕は司くんに会いに来るの!」
     お約束。と彼の手の甲にキスをして見せると、彼は言葉に詰まったようだった。そのまま盛大に溜息を吐かれてしまう。僕を完全に子ども扱いする彼は、何度も僕を返そうとするけれど、門限の六時まで僕は彼の傍で粘った。沢山話しかけて、沢山好きだと言って、そうして、別れ際にはまた来ると言って逃げた。子どもの戯言、で片付けてほしくなかったから。この気持ちは、ちゃんと本物だから。
    「早く大きくなりたいな…」
     このドキドキも、大人になれば伝わるだろうか。なんて。幼い僕は、この初恋をずっとずっと大事にしようと決めた。
    有名な幽霊屋敷で出逢った、不思議な初恋相手への想いを。

    ―――
    (司side)
    「…そろそろ、逃げねば…」
    月が輝きだしたのを見て、部屋を飛び出した。どういう仕組みなのか、月明りに照らされると消える鎖はもうない。黒い首輪だけがついた状態で、屋敷の中を走る。この前は食堂に隠れていたら見つかってしまった。ならば、今日は奥の部屋に隠れようか。いや、そっちは前に簡単に見つかってしまったはずだ。どこに隠れても見つかってしまうのに、それでも隠れるしかない。はぁ、はぁ、と息を乱して、エントランスを見渡した。このまま外に出れれば、どれだけ幸せか。鎖は無くとも、外に出ることは出来ない。出たら、どうなるのか知っているからな。
    「…どうすれば……」
     きょろきょろと辺りを見渡すと、階段下の物置を見つけた。今日はそこにしよう。身を滑り込ませて、なるべく奥へ向かう。埃っぽいが、仕方あるまい。誰の服か分からんものばかりが段ボールに埋まっていた。その奥へ潜り込んで、身を丸める。荒い呼吸をゆっくりと落ち着かせていれば、階段上からキシッ、と音がした。ギッ、ギシッ、ギッ、と軋む階段の音に、息を飲む。夜はこれからだ。この長い長いかくれんぼはまだ始まったばかり。遠ざかる足音に安堵して、オレは目を閉じた。浮かぶのは、昼間この屋敷に来た子どもの顔だ。
    (…まさか、いきなり求婚されるとはな……)
     何度目だろうか。なんて、変な事を考える。会って二度目の、しかも男に求婚するとは、変わった少年だった。幼児か、小学生だろう。そんな幼い子どもの姿が、なんだか懐かしい。オレがこの屋敷に来たのも、あれくらいだったな。もう何年も前の事だが。
     この屋敷は、オレの家ではない。何年も前にここに連れてこられて、以来この屋敷から出られない。この鬼ごっこが始まったのは、いつだったろうか。毎夜泣くオレに、あいつがゲームを持ち掛けたのが始まりだった気がする。逃げ切ったら、その日は手を出さない、と。
    「今日はこっちか?」
     近付く声に、息を潜める。大きなお屋敷の中でも、匂いである程度の場所はバレるらしい。逃げ切った事なんて、今までなかった。それでも、一縷の希望を求めて、今日も隠れるんだ。この無謀なかくれんぼで。ドクン、ドクン、と心臓が飛び出しそうな程煩く鳴り響く。
    そういえば、あの子どもも隠れていたな。月の様な瞳がキラキラした、綺麗な顔の少年を思い返す。藤色の髪に空色の髪が混じった、少年。確か、類と言っていたな。それどころではないのに、何故か脳裏に浮かぶ子どもの姿に、ほんの少し気持ちが落ち着いてきた。オレを好きだ、なんて、変なやつだったな。こんな、女性の服を着せられて、首輪までつけられた、ペットの様な自分を。いや、ペットですらないか。ここでオレの意思なんて関係ないんだからな。
    「ここか? 司」
    キィ、と物置の扉が開く音がして、思わず体が固まる。オレの名を呼んだ男の声に、心臓が大きく跳ねた。もうバレてしまったのか。口を押える手に力が籠る。差し込んだ光を遮る影が、オレを探していた。背中を向けたまま黙るオレを、まだ見つけられていない様だ。スンスンと鼻を鳴らす音に、目を強く瞑る。早く諦めてくれ、と心で願いながら。
    「…いないのか?」
     返事は返さない。黙っていれば、物置の戸がゆっくりと閉まった。パタン、と暗くなったのが分かって、固まっていた体から力がゆっくりと抜けた。今日は、誤魔化せたようだ。シン、と静まった物置の中で、ゆっくりと息を吐く。緊張で早まった心臓はまだ落ち着かん。パタ、と汗が床に零れて、オレはゆっくりと目を開いた。暗闇に慣れた目が、赤い瞳とぶつかる。ヒュッと、息を飲んだオレの腕が、男に掴まれた。
    「残念だったな、司」
    「いッ…ぅ、…」
    噛みつくようにキスをされて、強く目を瞑る。あぁ、またダメだった。性急に差し込まれた舌が口内を好き勝手に舐めて、呼吸が奪われる。息苦しさにじわりと涙が滲んだ。熱い舌が絡むたびに、とろとろと唾液が混ざって喉奥に流れてくる。それを飲み込む度に、体が熱くなっていく気がした。震える手から力が抜けて、ぐったりと床に落ちる。ぢぅ、と舌先を吸われて、ビクッと体が跳ねた。そんなオレの体を、男が横抱きに抱え上げる。
    「じゃぁ、食事の時間にしようか」
    「んぅ…は、…」
    「こんな所に隠れて、すげぇ埃くせぇな」
     物置から出た男は眉を寄せて顔を顰めると、舌打ちをする。知っている。これだけ埃臭ければ、オレの匂いも誤魔化せると思ったのだからな。力の入らない体では、逃げる事すら叶わない。そのまま階段を上がっていく男から視線を逸らした。このままどこへ連れて行かれるかなんて分かりきっている。階段を上がりきってそのまま廊下を進んでいく。最奥の部屋の戸が開いて、中央の寝台まで運ばれた。投げる様にその上に体を下ろされる。オレ用に用意された部屋の寝台。一人には大きすぎるそのベットに、男が乗り上げる。カチャ、と鍵が差し込まれて、首輪が外された。それをヘッドボードに置いて、男がオレに顔を寄せる。
    「知らねぇ奴の匂いがするな」
    「…迷い込んだ子どもの匂いだろ」
    「へぇ、子どもね」
     唇を赤い舌が舐める様を見て、オレは顔を逸らした。だから、来るなと言ったのに。男の目が赤く光る。月明りが、カーテンの開ききった窓から差し込んだ。ギシッ、と男がベットを軋ませて、オレに背を向けようとする。その腕を掴むと、ひんやりとした。
    「……どこ、行くんだ…」
    「たまには子どもも良いと思ってな」
    「…そんなの、放っておけばいいだろう」
     案の定、探しに行こうとしている男に、オレは小さく息を吐く。昔から、食に見境ない奴だと知っている。まだたった二回しか会ったことはないが、見過ごせるわけもない。上半身を起こして、男の首に両腕を回した。顔を寄せて、自分から男の唇に自分のを重ねる。男の首を抱き締めたまま、後ろへと重心を倒してシーツに体を預ける。自然とオレの上に覆いかぶさる男が、その赤い瞳にオレを映した。そっと手を離して、服のボタンに手をかける。ぷつん、ぷつ、とゆっくり外すと、男が喉を鳴らした。
    「……なら、オレはいらないか?」
     襟を開いて、男の目の前に肩を晒す。首に自分の指で撫でる様に線を引いて見せると、男の唇が弧を描く。舌なめずりをする際に、鋭く長い牙が覗いた。それに、背筋を冷たいものが滑り落ちていく。今日は眠れないのだろうな。そう察して、目を瞑る。
    「珍しく乗り気だな」
    「…気の所為だろう」
    「そんな所も愛おしいさ」
     べろ、と首を舐められる。機嫌の良くなった男の声音に安堵した様な、一層不安になった様な、変な気持ちだ。人助けなんてしている場合ではないだろうに。
    (それでも、あいつになにもないなら、それでいい)
     まだ鮮明に思い出せる小さな子どもの笑顔に、ほんの少し安心してしまう。ざりざりとする舌が何度も首筋を往復し、その度に背が震えた。お腹の奥が熱く疼くのは、何度も教え込まされた所為だ。この行為が始まれば、そう感じる様に。熱くなっていく体も、紅潮する頬も、熱を帯びる吐息も、全部全部こいつの所為。「ッ、はぁ…」と息を吐くと、男が首筋を唇で食む。柔く食まれて、ゾクゾクッ、と背が震えあがった。太腿を擦り合わせて身をよじるも、男の体で抑え込まれる。大きな手が、オレの手を掴んだ。グッと頭上で両手をまとめ上げられ、顔を上げる。涙で滲んだ視界に、欲を孕んだ赤い瞳が映った。
    「ぁ…、」
    「叫ぶなよ、うるせぇから」
    「ッ…、…゛いッ…!」
     大きく口を開いた男が、オレの首に牙を立てる。肌を突き破られる痛みに顔を顰め、強く目を瞑る。ズキズキと痛むそこから、熱いものが流れるのがわかった。それをぢゅる、っと音を立てて男が吸い出す。一気に体から力が抜けて、くらりと頭が揺れた。ドクン、ドクン、と脈打つ心臓が一層早くなる。男の手から解放されても、もう手を動かす気にもなれなかった。縋るように枕を弱々しく掴み、ぼろぼろと涙を零す。お腹の奥が熱くなって、くらくらとする頭が段々とハッキリしてくる。
    (…ほ、しぃ……)
     ごくり、と喉が鳴って、飲み込み切れない唾液が口の隅を伝い落ちた。ギュウッと手に力が入って、枕を強く握りしめる。とろり、と思考が溶けて、視界が一瞬赤く染まった。男の手がお腹をゆるりと撫でるから、もっともっとお腹の奥が疼く。自分の中から抜けていく感覚が消えて、男が傷口に舌を這わせた。舐められるたびに、心臓はドクドクと脈打ち、体が熱くなっていく。ぼんやりとするオレに、男が口付けた。唇が食まれて、舌が差し込まれる。それに自ら舌を絡めて、両手で男の首を抱く。
    「…ん、ぅ……ふぁ、…」
    「……あぁ、やっぱ綺麗だな、その目」
     男がうっとりとした目でオレを見つめてくる。その赤い瞳に映るオレの目は、赤く染まっていた。喉が渇いて渇いて仕方がない。ごくり、ともう一度喉を鳴らして、男の肩に顔を寄せる。服が邪魔だ。きっちり襟を占めてリボンタイを付けた首に擦り寄る。血の匂いに、どろりと思考が揺れた。喉が渇いて苦しい。早く欲しいと口を開けて、襟を食む。くすっと笑う男が、オレの体をシーツにおろす。
    「司、口開けて」
    「……んぁ…」
    「まだ噛むなよ」
     くちゅ、と太い指が口内に押し込まれて、上顎を擽る。トントン、と軽くノックされたり、撫でられたりすると、自然とお腹の奥がきゅう、と音を立てた。舌で指を舐めて、ちぅ、と軽く吸うと、口の中にほのかに甘い味が広がる。こくん、と喉を鳴らして唾液を飲み込むと、男がオレの頭を反対の手で撫でた。
    「良いぞ、噛んで」
    「ん、んぐ…」
    お許しが出て、牙を突き立てる。指の先からどろりと血が口内に流れ出す。それをぢぅ、と吸えばあの甘い味が口いっぱいに広がった。んく、んく、と少しづつしか出ないそれを必死に飲み込む。喉の渇きが少しずつ満たされて、頭の奥が痺れていくような気持ち良さに包まれる。じわり、とお腹の奥に熱が広がって、男の足に下半身を擦り付ける。両手で男の手を掴んで、必死に吸い付くオレを、男は満足そうに見つめるんだ。
    「んぅ、ん…、ぁ、…」
    「今日はこれでおしまい」
    「ぁ、もっと…、もっと、ほしぃ…」
    「残りはこっちでくれてやるよ」
     指が引き抜かれて、まだ足りないと渇きを訴える喉を鳴らした。あの甘い味が欲しくて堪らない。縋るように男の胸元を握りしめると、男の手がスカートの裾を捲り上げた。お腹を直に撫でられて、ビリッと電気が背中を走り抜ける。期待で腰が揺れて、男の方へ視線を向ける。赤い瞳に見つめられて、ドクン、と心臓が跳ねた。
    「今夜はたくさん啼けよ」
     その声に意識がどろりと溶ける。
    ―――
    「…んぅ……」
     ぼんやりとした頭がゆっくりと覚醒する。窓から差し込む光に、目を細めた。起き上がれば、首に付けられた首輪が少し苦しく感じる。昨夜は何時ごろ寝たのだろうか。そんなことももう覚えていない。腰がズキズキと痛んで、涙の乾いた頬が変な感じだ。のそのそとベットを降りて、部屋を出た。シン、としたお屋敷の中を歩いて、食堂に行く。その奥の厨房で冷蔵庫の中から適当に食材を取り出す。一人分のご飯を簡単に作って、それを食堂のテーブルで手を合わせてから食べた。料理の味は、まだする。それに少し胸を撫で下ろした。
     そのあとは庭に出て、庭の花に水をやった。誰も育てない花々。綺麗な薔薇の花に顔を寄せて、鼻を鳴らした。ふわりと匂いがする。陽の光の温かさが気持ちいい。のんびりとそれを楽しんでから、お屋敷の中にもう一度戻った。次は何をしようか。そう考えながら、代わり映えのないお屋敷を歩き回った。夜までの自由時間。オレが、人でいられる唯一の時間。そんなオレの耳に、子どもの声が聞こえた。
    「こんにちは」
     この声は、まさか。もう来るなと言ったはずなのに。そんな聞き覚えのある声に、慌ててエントランスへ向かう。玄関の戸を開けて中に入っていた小さな子どもの姿に、オレは頭を抑えた。
    「こんにちは、司くん」
    「…類、なんで来たんだ…」
    「司くんに会いに来たんだよ」
     はぁ、と盛大に溜息を吐いてみせる。何も知らない類は、にこにこしたままオレの方へ寄ってきた。もっとはっきり言わなければ伝わらなかっただろうか。ここの主はオレではないのに。危機感のない類にしゃがみ込んで目線を合わせた。首を傾ぐ類は、その月色の瞳でオレをじっと見つめ返してくる。
    「ここは危険だから、もう来るな」
    「何故だい?」
    「ここには怪物がいるんだ。狙われたら大変だぞ」
    「それなら、司くんも危険じゃないのかい?」
     全く聞く耳を持たない類は、オレの手を取る。小さな手が、オレの手を引いて、外へ向かっていく。太陽の下、雲一つない晴天の今日は気持ちのいい風が吹いている。
    「ね、遊ぼう、司くん」
    「お、おい、類ッ…」
    「僕ね、もっと君と仲良くなりたいんだ!」
     ね。と笑う子どもに、オレは肩を落とした。これは遊ぶまで帰らないのだろうな。致し方ない。あいつが起きるまでに、何としても帰さねば。
     
    結局、オレは類と夕方まで遊んでしまった。またねと帰っていく類は、また来る気なのだろう。その後ろ姿に釘を刺しても聞きはしなかった。その次の日も類はここに来てオレを呼び出すんだ。ダメだとわかっているのに、その小さな子どもと遊ぶのが楽しくて、オレは段々と類が来るのを楽しみにしてしまう。朝起きて、いつ来るのかと、考えてしまう程に。
    (けど、オレの正体を知ったら、類も居なくなってしまうのだろうな…)
     新しく出来てしまった小さな友だちに、オレは言えない秘密を抱く。このお屋敷の主の事。そして、オレ自身の事。
     街外れの大きなお屋敷には、人ならざる者が住んでいる。
    これは、人でなくなったオレに出来た、小さな友だちとの話である。
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    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。やつを一話分だけ書き切りました。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写有り(性的な事は特になし)
    ※突然始まり、突然終わります。

    この後モブに迫られ🎈君が助けに来るハピエンで終わると思う( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    9361

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    14289

    recommended works

    yuse_koumu

    PROGRESSきつねの神様🎈と人の子🌟の話(🎈🌟)。
    とりあえず途中まで進捗晒します。捏造のミルフィーユ。
    本当にこのまま書き進めていいのかまったくわからん……!って感じなので大丈夫かどうか教えて欲しい……です……。
    タイトル未定(きつねの神様🎈と人の子🌟) ——街外れの、そのまた外れの山の中。
     ぽっかり開けた空間に、人々に忘れ去られた祠が一つ。
     ひとたびうっかり迷い込めば、悪い狐に化かされて、酷い“いたずら”に遭うのだとか。

     行きはよいよい、帰りはこわい。
     鈴の音一つ聞こえたら、振り返らずに帰ること。
     恐ろしい御狐様と、目を合わせることの無いように。


        ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




     人による手入れが行き届いていない、街外れの小さな山。その中腹辺りに一箇所だけ、がらんとした空き地があった。そこだけ丸く切り取られたかのように木が生えていないその空き地の奥には、こぢんまりとした祠のような木造の建物が一つ、寂し気に鎮座している。長い間放っておかれているのか、苔むして今にも崩れてしまいそうな屋根の下、縁側で一人の青年が片足をぶらりとさせながら辺りの木々を眺めていた。赤、黄、橙。冬支度を始めた樹木たちが、その葉を色とりどりに染め上げている。
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