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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 77

    ナンナル

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    お弁当屋のバイトの子は、俳優さんのお陰で夢を見つける。

    やっとここまで書けた( ˇωˇ )
    漸く始まった感があるけど、長かった…。
    もうここでやめて続きはご想像にお任せしますでもいい気がしてきてる。(まだ書くけれど…)

    注意事項はいつも通りです。お前誰だってくらいキャラ崩壊してますが、雰囲気で読み流してください。

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です×!7(司side)

    「……………」

    視線が、泳ぐ。隣が見れなくて、何故か目を逸らしてしまう。時折、肩がぶつかってしまっては、慌てて謝るのを繰り返した。なんというか、周りの視線が痛い。

    「天馬くんは二年生だっけ?」
    「…はい……」
    「すごいね、どのクラスも気合いが入ってる」

    神代さんの綺麗な声に、何故かドキドキする。今日はとうとう本番だ。神代さんに、オレのクラスの劇を見せる日。劇をすると決まってから、何度も神代さんに演技の仕方や台本作りに協力してもらった。本職である神代さんから教わるなんて、普通なら有り得ない事だ。ここまでしてもらって、失敗したらどうしようかと不安も大きい。が、昨日のリハーサルも、かなりいいものだった。練習通りに出来れば、きっと…。

    「もしかして、天馬くん、緊張しているのかい?」
    「…ひぇ、…あ、いや、そのっ…」
    「大丈夫、君の演技は、きっと誰よりも輝いて見えるよ」

    ぽんぽん、と頭を撫でられて、目を瞬く。さらっと言ってのけた神代さんの言葉に、ぶわっと顔が熱くなった。オレなら大丈夫、と、迷いなく言われた言葉に、もっと鼓動が早くなる。何故、こんなにもドキドキするのだろうか。

    (……練習の時も、こんな感じだったな…)

    神代さんは、直ぐにオレを褒めてくれるから、落ち着かない。声の出し方が良いとか、笑顔が良いとか、立ち方が堂々としてるとか、覚えが早いとか、沢山褒めてくれる。嬉しいが、その度にドキドキが止まらなくなって、おかしくなりそうだ。ちら、と神代さんを見ると、とても優しい月色の瞳と目が合って、慌てて逸らす。このままじゃ、心臓が破裂しそうだ。

    「そういえば、舞台は何時からなんだい?」
    「あ、…一時半からなので、一時にステージに集合になっていて…」
    「なら、その前に何か食べようか」

    まだ開場したばかりだが、神代さんがそう言って辺りを見回す。飲食系は入口すぐから、校舎の1階までだ。どこもそれなりに並び始めた屋台を見ながら、神代さんがオレに手を差し出してきた。目を丸くして、その綺麗な手を見つめていれば、神代さんが苦笑する。

    「はぐれないように、繋いでいいかい?」
    「は、はいっ!」
    「元気がいいねぇ」

    返事を返したら、すぐに手が掴まれた。じわ、と掌が熱くなって、思わず息を飲む。神代さんの優しい声に、もっとドキドキした。手汗とか、大丈夫だろうか。引かれるままに歩いて、神代さんの声に耳を傾ける。落ち着くような、低くて綺麗な声。

    「天馬くんは、何か食べたいものはあるかい?」
    「…かみ、…類さんは、何かありますか?」

    つい、神代さんと呼びそうになって、慌てて言い換える。今日は、神代さんと呼んではいけないと言われたばかりだ。実際、メガネやスカーフ、帽子で顔を隠しているというのに、神代さんは目立つ。すれ違う他の生徒たちが、立ち止まって神代さんを見つめる程だ。それに少しもやもやしてしまうのは、何故だろうか。きゅ、と神代さんの手を握り返して、ほんの少し体を寄せる。

    「そうだね。フランクフルトとか、わたがしとか…?」
    「……ふ、ふふ、…いいですね!それなら、良いお店を知ってますよ」
    「なら、案内してもらおうかな」

    返ってきた返答に、つい笑ってしまった。お祭りの定番なんて、焼きそばとかたこ焼きとか、お好み焼きとかだろうに、神代さんかひ可愛いチョイスが返ってきた。寧々さんの言う通り、野菜嫌いな神代さんらしいメニューだ。世間的には公表されていない、数少ないオレが知ってる神代さんの事。それが、少し嬉しい。
    わたがしなら、冬弥のクラスが確かやっていたはずだ。神代さんに大きく返事を返して、冬弥のクラスが行う屋台へ向かう。

    「そういえば、天馬くんは今日は友だちと回らなくて良いのかい?」
    「…そうですね、友達なら、今日は他の友達と回るそうなので、大丈夫だと思います」
    「君は、友人が多そうだね」
    「そんなこと、ないと思いますが…」

    ふと考えてみるが、友人と呼べる人も少ない。えむや冬弥、あと彰人くらいだろう。咲希の幼馴染み達は、オレの友人と言うより、咲希の友人だ。オレがこの高校で仲良くしているのは、えむくらいだろうな。ちなみに、そのえむは、別の高校の友達と約束しているらしく、ほとんど別行動だ。
    校舎にほど近い位置にある屋台の一つに、見慣れた看板を見つけた。何度か準備の際にお邪魔させてもらって、見覚えがある看板。列も少なかったので、その後ろに並んだ。神代さんがまじまじと看板を見ているのを、ちらりと盗み見る。ちょっとだけ、子どものような顔をしているように見えて、新鮮だった。

    「ここが、オススメのお店かい?」
    「はい!オレの後輩の店なんですが…」

    列がどんどん進んでいく。そうして、漸く次まで順番が来たところで、店頭にいた一人と目が合った。夕焼け色の髪が揺れて、変な顔をした彰人と目が合う。

    「げ、司センパイ…」
    「おぉ、彰人ではないか!」
    「…………何してんすか、ここで」

    はぁ、と溜息を吐いた彰人に、にこ、と笑みを向ける。彰人は冬弥の相棒だ。二人は仲が良いからな。弟のように接してきた冬弥が大切にしている友人ならば、オレにとっても大切な後輩だ。そんな彰人が、オレの手元を見て、隣に目を向けた。

    「……司センパイ、その人誰っすか」
    「む…、あぁ、…えっと…」
    「…もしかして、父親っすか?」
    「違うぞ?!」

    明らかに彰人の視線がオレの手元を凝視している。神代さんはスカーフで口元を隠しているが、何やらにこにこしていた。愛想笑いにも見えなく無いのに、とても綺麗な笑顔に、思わずこれがプロの営業スマイルというやつなのだと実感した。だが、神代さんをなんと説明すればいいのか全くわからん。知り合い?知り合いと手を繋いで文化祭なんか歩かないだろう。親戚?神代さんみたいな有名人の親戚とか、おこがましいが?!オレの父親は至って一般人である。神代さんが父親とか、有り得るわけが無い。

    「お、オレの師匠だっ!」
    「…………師匠?」
    「そうだ!オレの尊敬する師匠だっ!」
    「……………………そ、そうっすか…」

    思わず大きな声が出てしまったが、致し方あるまい。若干引いたような顔をした彰人が、屋台の奥へ顔を向けた。綿菓子機の前で割り箸を手に持ったままにらめっこしている冬弥が呼ばれて、こちらに向かってきた。オレに気付いた冬弥が、パッと表情を綻ばせる。

    「司先輩」
    「おぉ、冬弥!店の方は順調か?」
    「はい。彰人が手伝ってくれているので、とても助かっています」

    冬弥と交代に奥へ引っ込む彰人を目で見送って、冬弥に話しかける。なんでも、電車の遅延でクラスメイトが遅れているらしい。たまたま暇を持て余していた彰人が手伝っていたそうだ。冬弥の視線が、隣の神代さんに移る。「司先輩、そちらの方は…?」と問われて、慌てて先程と同じ返事を返した。

    「司先輩のお師匠さんですか…!」
    「あ、あぁ…」
    「司先輩はとても素晴らしい方ですからね。その司先輩のお師匠さんも、とても素晴らしい方なのでしょうね」
    「……………………………」

    キラキラした目から、そっと目を逸らす。すまん、冬弥。大切な弟(の様な存在)の冬弥を騙すのは、なんだか心苦しいが、これも神代さんの為だ。作り笑いで流して、わたがしを二つ頼んだ。彰人が作ってくれたわたがしを受け取ると、冬弥に挨拶をしてさっさと店を離れた。

    「面白い後輩くん達だね」
    「……ぅ、…すみません、変な所を…」
    「ふふ、僕は君の師匠だからね。気にしないよ」
    「わ、忘れてください…」

    わたがしを指で摘んで食べる神代さんがくすくすと笑う。その声に余計自分の発言が恥ずかしくなった。頬が熱くなって、手で軽く仰ぐ。二人の前では全く喋らなかった神代さんは、わたがしを食べながら校舎の方を指さした。

    「他にも色々あるんだよね。案内しておくれ、天馬くん」
    「は、はいっ…!」

    手を引かれて、大きく頷く。次は、どこを案内しようか、それを考えながら、校舎に踏み込んだ。

    ―――
    (類side)

    「そろそろ時間だね」

    時計はもうすぐ一時になる。天馬くんも時計を見て、気付いたらしい。ほんの少し顔を俯かせた彼が、ぎゅぅ、と手を握り返してくれた。

    「そうですね。そろそろ行かないと…」
    「なら、送っていってもいいかい?」
    「は、はいっ!」

    パッ、と表情を綻ばせた天馬くんが、頷いてくれた。それが可愛らしくて、つい口元が緩む。ずっと繋いだままでいてくれる手は温かくて、僕より少し小さくて柔らかい。そんな手を引いて、劇が行われるホールの方へ足を向けた。知り合いとすれ違う度に笑顔で返事を返す天馬くんは、学生らしかった。僕が知らない、普段の彼の姿。あのお弁当屋では、彼は店員さんだ。お客である僕に笑いかけてくれるけれど、それは仕事だからだ。学生らしく子どものように笑う彼は、同じ学生である彼らにしか見られない姿だろうね。

    (…羨ましい、なんてね……)

    さっきの後輩くん達とのやり取りも、僕の知る彼とは違った。年相応と言うべきか、子どもらしい姿だった。砕けた言葉遣いも、コロコロ変わる表情もそうだ。僕に対しては、いつだって敬語なのに。名前だって、きっと呼び捨てにはしてくれないのだろうね。

    「楽しみだな。君が立つ舞台を見られるなんて」
    「…精一杯、頑張ります」
    「大丈夫、いつも通りの君で良いんだよ」

    あっという間に着いてしまったホールの入口では、入場の列ができている。天馬くんの手を離すと、彼は掌を見つめてから、ふわりと笑った。

    「ありがとうございますっ!」

    ぱち、と瞬きをすると、目の前がちかちかした。なんとも綺麗な笑顔だった。嬉しそうにホールの裏へ走っていく彼を目で追って、額を抑えた。まさか、あんなに綺麗に笑うとは思わなかった。

    (……あんな顔でステージに立ったら、きっと誰よりも輝くだろうなぁ…)

    そんなことを思いながら、係の子に指示されるまま観客席に座った。それなりに前の方の席だ。ステージがよく見える。ざわざわと騒がしいホールの音を聞きながら、スマホを開いた。待受画面は、彼の作ったあのハンバーグの写真だ。パスコードを入力して画面を開くと、時刻は一時を少し過ぎたところだった。始まるまではまだ時間がある。すい、とメッセージアプリを開くと、寧々の名前が出てくる。その下に出てきた天馬くんの名前。それを見て、スマホを閉じた。早く、彼の声が聞きたい。さっきまで彼と繋いでいた掌が、とても冷たくなった気がした。

    (……こんなにも胸が高鳴るのは、いつぶりだろうか…)

    ギッ、と椅子の背もたれに体を預けて、目を瞑る。彼の家で一緒に練習した時の彼を思い出しては、期待で鼓動が早まる。ずっと、見てみたかった。初めて彼を見た時から、彼がステージに立つ姿を想像していた。こんなチャンスを逃したくなくて、彼の提案に乗った。彼にアドバイスもしたし、練習にも付き合った。演出についても色々話をした。彼が目を輝かせて聞いてくれるのが嬉しくて、色んなことを教えてあげた。幼い頃から芸能界で演じる事をしてきたけれど、そのどれよりも楽しい時間だった。彼が演じるのを見るのが、とても楽しかった。今日はその本番だ。練習なんかでは無い、衣装を着て、他の人たちと合わせて演じる本番。

    『開演前に、皆様にお願いです』

    放送がホールに響く。気付くと、辺りは少し暗くなっていた。ざわざわとうるさかった周りの声が落ち着いてきている。機械越しに、諸注意が説明された。飲食の話や、私語、離席について、よくある注意事項を適当に聞き流しながら、ほんの少し帽子を上げる。ステージの幕は閉まったままだ。じっと待っていれば、更にホールの中が暗くなった。話し声が、更に減る。パッ、とステージの端にライトが当たり、一人の少女が照らされた。薄桃色の髪の少女が、にこりと笑顔を浮かべた。

    『この物語は、私が、ある探偵さんに出会うお話です』

    物語の書き出し部分がマイクを通してホールに響く。ゆっくりと幕が開いて、ステージは公園に変わった。背景は学生が描いただろう手作り感満載のイラストだ。その可愛らしい背景の前で、コートを纏った少年がベンチに腰をかける。少女がその人の前を走って通り過ぎた所で、何かが落ちた。この落し物を拾うところから、この物語は始まるのだ。
    探偵と少女の出会い。その後、少女が巻き込まれた事件に現れる探偵。少女は探偵に恋をしていく。難事件に巻き込まれやすい少女と、頭の回転の早い探偵の恋愛小説。僕も自分の演技の為に何度も読み返した話だ。

    (…あの子も上手いな。それに、とても楽しそうに演じている……)

    ヒロイン役の少女は、小さな体を使って元気なヒロインを演じている。この物語のヒロインは大人しい子ではあるけれど、これはこれで良い。何より、彼女の笑顔は人を惹きつける魅力もある。そんな彼女と息を合わせて演じる天馬くんは、やっぱりキラキラしていた。時折見せる憂いた顔も、引き締まった表情も、本当にあの天馬くんかと疑ってしまうほどだ。ステージには他の生徒も代わる代わる登場するのに、他が印象に残らない程惹き付けられる。

    (…あぁ、やっぱり、彼は舞台に立つ方が良い)

    彼がこちら側へ来れば、どれ程輝けるだろうか。きっと、どの役者よりも輝いて、人々を魅了するのだろうね。それだけじゃない。僕が話してみせた演出が所々で使われていて、ゾクッ、と背が震えた。ドラマでは決して使われなかった演出。それを、天馬くんが演じて見せてくれている。わぁ!っと周りが感嘆の声を溢すのを聞いて、僕も嬉しくなってしまった。堂々とステージの上をあっちへこっちへ動き回る天馬くんの姿に、グッと膝に揃えていた拳を握り込む。この時間が続けばいい。もっと見ていたい。彼が輝くのを、もっと見たい。心臓がドクドクと早く鼓動して、身体中が熱かった。

    (僕が、もっと輝かせたいッ…!)

    ごくん、と喉が音を鳴らして、ステージの上で笑う天馬くんから目が逸らせなくなる。パチパチパチっ、と盛大な拍手がホールに響いて、慌てて僕も拍手を送る。集中しすぎて、終わったことにすら気付けなかった。ステージの上では、少女と共にお辞儀をした彼が、嬉しそうに笑うと視線をさ迷わせた。ぱち、と目が合って、少し照れた様に、天馬くんがへにゃりと笑う。その笑顔に、ドキッとした。

    (……ぅ、わ…)

    幕が閉まっていく。彼の笑顔が見えなくなるまで、視線が逸らせなくて、真っ暗な会場の中で、僕の心臓は破裂しそうなほど煩かった。パタ、と汗が膝に落ちて、熱いくらい蒸気した顔をスカーフで覆う。ぐぅ、と背を丸めて組んだ腕に顔を埋めると、ホールはパッと明るくなる。ざわざわと観客がゆっくり退場していく音を聞きながら、僕は少しの間動けなかった。心臓は一向におさまらなくて、喉が異様に渇く。もう一度喉を鳴らすと、何故か大きく響いて聞こえた。あれは、ずるい。僕よりずっと年の離れた子どもなのに、今までに見た事がないほど色っぽい顔をした彼に、情けなくも魅せられてしまった。気の所為ではない。確かに、あの瞬間、彼は僕へあの笑みを向けたんだ。

    「……無意識なんて、一番タチが悪いじゃないか…」

    はぁ、と盛大に溜息を吐いて、ゆら、と立ち上がった。とりあえず、心を落ち着かせないと、こんな顔じゃ、彼と合流出来ないね。
    演じる事を仕事にしているのに、この時ばかりは表情を戻すのに時間がかかってしまい、彼を待たせたのは別の話。

    ―――
    (司side)

    神代さんが、変だ。いや、変なのはオレもかもしれない。じわ、と、繋ぎ直した掌が熱い。手汗が滲んでいる気もするが、気付かない振りを続ける。劇が終わって、少し片付けをしてから神代さんとの待ち合わせ場所に向かったが、そこにはいなかった。待ち合わせ場所に漸く来た神代さんは、優しい笑顔のままオレの手を掴んでから、一向に話さなくなってしまった。オレも、何を言っていいか分からなくて、何も言えない。無言で、校舎の中を徘徊している。

    (……さっきの劇、何か失敗していただろうか…)

    そもそも、学生の劇なんだ。神代さんが普段しているもっと本格的な劇とはやはり出来が違う。あんなにも沢山練習に付き合ってくれて、がっかりさせてしまってはいないか。そればかり気になってしまって、落ち着かない。ちら、と神代さんへ目を向けると、パチ、と視線が合った。心臓が、大きく跳ねる。

    「ぁ、…えっと…」
    「次はどこへ行こうか?」
    「……そ、ぅですね…」

    ぎゅぅ、と手を握り返して、視線をさ迷わせる。すれ違う生徒が、ちらちらと神代さんを見ている。背が高いから、余計に目立つんだろうな。早く決めなければ、もっと目立ってしまう。きょろきょろとしていれば、黒い暗幕で硝子を覆う教室を見つけた。

    「お化け屋敷…」
    「天馬くんは、こういうのは苦手かい?」
    「いえ、そんな事は無いです」

    受付の女子生徒がオレたちに目を向ける。「お二人ですか?」という問いかけに、反射的に頷いてしまった。どうぞ、とすんなり通されてしまって、慌てて神代さんを振り返る。どうやら神代さんは平気らしい。ふわりと笑んで返されて、オレは慌てて顔を逸らした。隣に並んだ神代さんが、「行こうか」と呟く。それに小さく頷いて、中へ踏み込んだ。真っ黒の暗幕で覆われた教室の中は、視界が暗くて歩きづらい。簡易ライトが所々に設置されているが、色が水色な為、余計見えづらかった。ダンボールや机で道が作られていて、手作りの墓や作られた火の玉が揺れる。足元に散らばる白いものは、多分骨だろう。

    「天馬くんは、お化けとか大丈夫なんだね」
    「あ、はい。これくらいなら、作り物だって分かりますし…」
    「ふふ、それは残念だね。怖かったらもっとくっついてくれてもいいよ」
    「……え、遠慮しておきます…」

    ふわりと微笑む神代さんに、ぶわわっ、と頬が熱くなる。女性なら即答でくっつくのだろうな。なんというか、大人の色気と言うやつだろうか。ドキドキする胸を抑えて、顔を逸らす。こういう所を見ると、咲希や世の女性に神代さんが人気なのが分かるというか、実感させられるというか…。むに、と熱い頬を片手で摘んでいると、ひやりと首筋に何かが当たった。

    「ひぅっ、…?!」
    「…おや、大丈夫かい?」
    「ぅ、…び、びっくりしただけ、です…」

    ぺと、と項にくっついたこんにゃくを睨み付けて、片手で顔を覆った。なんというか、恥ずかしくて穴があったら入りたい。変な声が出たし、神代さんに聞かれてしまった。情けなくて、泣きたい。くす、と笑った神代さんは、気にしていないのか、そのままオレの手を引いて進んでいく。

    「こんにゃくと言えば、パンフレットに味噌田楽のお店もあったね」
    「!…ありましたね」
    「後で行ってみるかい?」
    「いいですね!」

    パッ、と顔を上げると、神代さんが楽しそうに笑う。オレが落ち込んでいるから、話題を変えてくれたのだろう。その優しさに、唇を引き結んだ。だが、食べ物の話を振られたという事は、オレが食いしん坊だと思われているのだろうか?そうでなければいいが、神代さんの前では食べ物の話ばかりだからな。そう思われていてもおかしくない気さえしてきた。その後は特に驚くことも無くお化け屋敷を抜け出した。
    お化け屋敷を抜けた後は、一度一階まで降りてまた屋台を見て回った。神代さんと食べ歩いている内に、さっきまでの緊張が全部消えていく。自然と普通に話せるようになって、楽しかった。繋いだままの手は熱くて、ドキドキした鼓動も全然収まらないのに、神代さんの隣は心地よかった。楽しくて、あっという間に時間が過ぎていく。一般参加は四時までだ。終了時刻が来てしまい、校舎内にアナウンスが流れ始める。それを聞きながら、のんびりと校門の方へ足を向けていた。ぞろぞろと来場者の波が校門を出ていくのをぼんやりみながら、繋いだ手を握り返す。

    「…今日は、ありがとうございました」
    「こちらこそ、楽しかったよ」
    「……オレの方こそ、色々教えてもらえたお陰で、無事に劇も終わりました」

    校門の前で、神代さんが足を止める。オレも立ち止まると、ぽん、と頭を軽く撫でられた。大きな手が温かくて、途端に頬が熱くなる。肩に力が入って、視線がほんの少し泳いだ。さっきまでのドキドキと、少し違うドキドキに、息を飲む。

    「素晴らしかったよ」
    「………ぇ、…」
    「今日の劇は、とても素晴らしかった。練習の時よりずっと輝いていて、君の演技に魅せられてしまったよ」
    「…そ、ぅ、ですか……」

    優しい声に、口ごもってしまう。今、神代さんはどんな顔をしているのだろうか。じわ、と胸の奥が熱くて、肩が震えた。お腹の奥から、ぶわわっ、と満たされるような、なんとも言えない感覚に、口元を引きしめる。どうしようもなく、嬉しかった。他の誰でもない、神代さんに言われたのが、嬉しかった。本職の神代さんからしたら、きっととても拙い演技のはずなのに、優しく賞賛されて、舞い上がってしまいそうだ。じわりと目頭が熱くなって、逸したままの視線を少し上へ向ける。少し日が落ち始めた空に、藤色が混ざる。満月の様なキラキラした金色の瞳が細められて、息を飲むほど優しく微笑まれた。ドクンッ、と心臓が大きく跳ねて、思わず、ごくんと喉を鳴らす。

    (……綺麗、だ…)

    優しく髪を撫でる神代さんは、溶けそうな程甘い目をオレに向けてくれている。それにとてもドキドキして、言葉が出てこなくなる。このまま、飲み込まれてしまいそうだ。ぎゅぅ、と服の裾を握り締めると、神代さんがそっと手を離した。掌の熱が、ゆっくりと離れていく。そんな消失感に、思わず「ぁ、…」と声が零れた。慌てて両手を背中へ隠せば、神代さんが帽子を被り直した。

    「それじゃぁ、そろそろ帰ろうかな」
    「…そ、そうですねっ!今日は本当にありがとうございましたっ!!」
    「また、お店でね」
    「はいっ!」

    ひら、と手が振られて、深くお辞儀をする。顔を上げた時には、少し遠くに行ってしまった背中に、胸を抑えた。詰めていた息が、そっと溢れる。胸の鼓動が、煩い。ずっと繋いでいた掌は、まだ感触が残っていて、じわ、と熱を持ったままだ。曲がり角を曲がるまで、その背中を見送って、へな、とその場にしゃがみ込む。ガタガタと受付の机を片付ける音が少し離れたところから聞こえた。それでも、足に力が入らなくて、動けない。心臓は痛いし、身体中熱くて倒れてしまいそうだ。特に顔がこれ以上無いほど熱かった。手の甲で額に触れると、じわ、と熱が伝わってくる。まだ、神代さんの声が聞こえる気がした。

    「……どうすればいいんだ…」

    ぼそ、と零した声は誰に聞かれることも無く消えていく。こんな事なら、話しかけなければよかった。なんで、一週間に一度来るお客さんを気にするようになったのか。誰が予想したと言うのか、こんな展開になるなんて。

    「………こんなの、迷惑でしかないだろう…」

    心臓の鼓動は全然おさまらん。きゅぅう、と苦しくなる胸をおさえれば、とても熱い気がした。咲希がずっとファンだった。そんなことは知っている。オレは、あまり気にしたこともなかったのに、もう今まで通り見ることなんか出来ないじゃないか。兄妹で好みというのは似るものなのだな。オレは、身の程知らずの馬鹿だ。咲希のように、遠い存在の彼に憧れを抱くくらいが相応しいというのに。

    (……隣にいたい、とか、…叶うわけもないのにっ…)

    じわ、と目頭が熱くなって、視界が滲む。気付いてしまった自分の想いに、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。沢山の人を惹き付ける、雲の上の人だ。たまたま、バイト先に通ってくれていて、たまたま話をしてくれるようになった、そんな人。オレよりずっと大人で、オレよりずっと凄い人。かっこよくて、優しくて、ちょっとだけ子どもっぽいところのある人。きゅぅ、とまた、胸が音を鳴らした。ここ最近で、沢山知れた神代さんのことを思い返す度に、胸が熱くなる。想いが、溢れてくる。

    「……神代さんの、一番になりたい、なんて、夢を見過ぎだろうっ…」

    オレの拙い演技を褒めてくれた、あの優しい笑みが消えてくれない。もっと、あの顔を傍で見ていたい。オレだけに向けて欲しい。もっと、見てほしい、とか。こんな事を思う日が来るなんて思わなかった。こんな気持ちは初めてで、どうしていいのか全く分からん。多分、初恋なのだろう。
    絶対に、神代さんに知られてはいけない感情。

    (…神代類には、婚約者がいる……)

    世間で一番有名な話だ。知っている。神代さんに恋をするファンが何人いることか。その内の一人に含まれてしまっただけだ。だが、こんな事が知れたら、もう、オレに会ってくれることも無くなるだろう。お店に、来てくれなくなるのだろう。それは嫌だ。もう、こんなに関わってしまったんだ。今更、知り合う前に戻ることなんかできるわけが無い。

    (……絶対に、この事は隠し通さねば…)

    やり切って見せる。神代さんとの時間をもう少しだけでいい、もう少しだけ、続けていたい。だから、いつも通りの天馬司で、神代さんと接するんだ。ぐし、と涙の滲んだ目を袖で拭って、立ち上がる。

    「…決めた。オレは、役者になるっ!」

    グッ、と拳を握りこんで声に出す。隣にいたいなら、隣に並べるように頑張るんだ。恋人としてでは無く、仕事仲間として。それくらいなら、許されるだろうか。このまま諦めるなんて、オレには出来ない。いつか、神代さんに認められるくらいの役者になって、隣に立ちたい。別の舞台で同じ役をするのではなく、同じ舞台で、一緒に共演したい。

    「それで、いつか絶対、笑顔で祝福するんだっ!」

    隣に並べたら、きっと諦めがつくはずだからな。神代さんが婚約者の人と結婚する時に、笑顔で祝福出来るようになる。素敵な人を愛することが出来たと、思い出にできるように、今出来ることを頑張るんだ。

    そう決意して、オレは自分のクラスへ向かって駆け出した。
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    👏👏💞💞💞💞💖💖💖👏👏💖😍😍😍💯💯💯💯💯💖💖💯💯😭💖😭💖💖💜💛💖💖💖💖💖👏👏👏👏👏❤😭😭😭👏👏👏💖💖💖💖😭😭💖💖👏👏💴
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。やつを一話分だけ書き切りました。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写有り(性的な事は特になし)
    ※突然始まり、突然終わります。

    この後モブに迫られ🎈君が助けに来るハピエンで終わると思う( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    9361

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    14289

    recommended works

    yemeng62643217

    DOODLE参谋x将校(架空向)
    预警:催///眠、强制、车
    想看的人多可能会写续集
    直到相遇为止(一)

    那是一个艳阳高照的夏天。灼热的空气呼入鼻腔只会使身体的温度升温,小小的身体奔跑着,奔跑着,曲折的田间小路上遍地都是枯萎的向日葵,有许多已经被血迹点染,就像什么诡异的画像。银质的太阳,在烤焦着稻田。我感到害怕。一不小心被绊倒了,倒在地上。

    好累,好痛,不想起来了,想休息,想停下。但是被那些士兵追杀到的话,就会死…我不想死…爸爸妈妈不在了,如果没有我,咲希该怎么办…?

    不敢设想那种后果,拼命地支撑起身体想要向前爬,却又起不来。脸深深埋在泥土里无法动弹,其实心里已经知道结局了,这样也不过是鱼死网破的挣扎罢了。背后叫骂的脚步声越来越近,啊啊,要结束了吗,一切——
    是那一道七彩的光救了我。


    看不清他的脸,或者说是记忆模糊了他,我只记得那双金黄色的眼睛,像直视月亮才能看到光辉,飘扬的淡白色斗篷,被黑色半边手套勾勒的手指,在我的心刻下了深深的痕迹。那个男人就像天降那般出现在我和那帮士兵的中间,轻轻念了句咒语,可怕的、一直在追杀我的家伙顿时化作一缕烟消失了。是炼金术…?可是我记得魔法已经失传很久了,只有小时候看过的画本记载曾经有过这个东西的存在。我呆呆地坐在泥土上,太阳还很强烈。那个男人转过身,向我伸出了手。
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