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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 76

    ナンナル

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    メイテイ。32
    これでいいのかは分からない( 'ㅅ')
    糖度間違えたし、バイトさんがかなり幼い。これでいいのか……?? 幼すぎん…?? って書き終わってから気付いたまる

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です!× 32(司side)

    「わたしは向こうのマネージャーと話をつけに行くけど…」
    「行ってらっしゃい、寧々」
    「……………類、言っておくけど、司に無理させる様なことは絶対しないこと」
    「信用ないなぁ、大丈夫だよ」
    「…………………」

    あのまま、何故かオレは神代さんの家まで連れてこられた。訳が分からず車に乗せられ、手を引かれるままソファーに案内されて今に至る。
    リビングの入り口で、寧々さんと神代さんが何か話している。じとりと神代さんを見ていた寧々さんは、諦めた様に溜息を吐くと、オレの方へ顔を向けた。

    「類に襲われそうになったら、すぐ連絡してね」
    「おそ、………ぇ……?」
    「そこまでしないから。話をするだけだよ」
    「はいはい。じゃ、行ってきます」

    行ってらっしゃい、と慌ててオレも声をかける。ひらひらと手を振って、寧々さんがリビングを出ていった。玄関の扉が開く音と、鍵の閉まる音が響く。それを聞き終わると、神代さんがくるりとこちらに体を向けた。びくっ、と肩が跳ねて、自然と背筋が伸びる。足音が近付いてくるだけで、心臓がうるさい程音を立てた。
    ギシ、とソファーが軋んで、オレの隣に神代さんが座る。

    「それで、天馬くんの話したい事はなにかな?」
    「……ぁ、の…」
    「もしかして、あのニュースを見て、僕と彼女が恋仲なのでは、なんて疑ってしまい、確かめるために連絡をくれたのかな?」
    「…ぅ……」

    にこにこと笑っている神代さんの問いかけに、言葉を飲み込む。確かに、あのニュースを信じて神代さんと彼女が恋人なのかもと思ってしまった。それに、神代さんに特別扱いされているかもしれないという勘違いを正したくて呼び出したのだから、あながち間違いではないだろう。貰ってしまった指輪の入っている黒い小箱を、意味もなく指先で弄る。居心地が悪い気がして、視線が左右へ泳いだ。
    そんなオレの様子に、神代さんはそっと肩を落とした。

    「不安になってほしくなくて、先に言ったつもりだったのだけどね。僕のこの想いは、これからもずっと変わらない、と」
    「それ…、この前店の前で言っていた……」

    聞き覚えのある言葉に、顔を上げる。
    急に抱き締められた事にばかり気を取られて、しっかりと聞き返せなかった時のものだ。あの時はなんの事か分からなかったが…。
    ふわりと笑う神代さんが、そっとオレの頬に手を添える。それだけで、心臓が大きく跳ね上がった。

    「そう。けれど、不安になって連絡してくれて良かったよ。君が不安だと知らせてくれるなら、いくらでもその不安を拭ってあげられるからね」
    「っ、…ん……」

    ふに、と柔らかい感触が唇に触れる。さらりと流れるようにされたキスに、目を強く瞑った。頬を親指の腹でゆっくりと撫でられ、ぞくりと背が震える。重なる唇の熱がじんわりと混ざる様な感覚に、気持ちがそわそわとしてしまう。縋るように神代さんの腕を掴むと、ゆっくりと体が傾いた。

    「…、……はぁ、……ん、…」

    キシ、とソファーが軋む音が響いて、視界いっぱいに神代さんが映る。唇を塞がれると、息が出来なくて苦しい。ぽす、とソファーに体が沈んで、オレの上に、神代さんが覆い被さった。顔の横に神代さんの腕があって、優しく髪を撫でられる。呼吸の出来ない苦しさに、じわりと涙が滲む。
    そんなオレの唇を、ちぅ、と軽く神代さんの唇が吸う。長いキスから解放され大きく息を吸うと、再度唇が重ねられた。酸欠でくらくらする頭が、もう上手く働かない。きゅ、と神代さんの服を握りしめると、耳の縁に指先が触れた。

    「ん、…んん……」

    ゆっくりと縁を指先で撫でられ、擽ったさに身を捩る。やめて下さい、と声を出したいのに、顔を逸らすことも出来ない。深く重ねられた口から、くぐもった声だけが零れる。ふにふにとした唇の柔らかさと、息苦しさ、胸の内を満たす多幸感で、意識がぼんやりとし始めた。
    縋るように服の裾を握る指先が震え、ゆっくり力が抜けていく。手がソファーの上に落ちると、漸くキスから解放される。「…ふ、ぁ……」と間の抜けた声が口から零れて、歪む視界で神代さんの瞳を探す。月を思わせる金色の瞳と視線が合うと、ちぅ、と触れるだけのキスをもう一度された。

    「これで、不安は拭えたかい?」
    「……はぁ、……っ、はぁ、…」
    「何度も言うけれど、僕は君がいてくれればそれで良いんだ」
    「…んっ……」

    ちぅ、ちゅ、と頬や目元に口付けられて、擽ったい。溶けてしまいそうな程甘い声音に、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。羞恥に耐えきれず顔を横へ背けると、身の縁にキスをされた。びくっ、と肩を跳ねさせたオレの耳元で、神代さんがオレの名を呼ぶ。甘やかすかのような、とろっとした声で。
    ぞくぞくっ、と背を何かが駆け上がって、思わず息を飲んだ。ぎゅ、と目を強く瞑ると、つぃ、と細い指先で首筋に線を引かれた。

    「ひぅ、…っ、な、ななななにっ……?!」
    「ふふ、首まで赤くなっているのが可愛くてつい、ね」
    「……こ、こういうのは、…すき、なひとと、……」
    「おや、まだ疑うのかい? 僕は君にしか触れる気は無いというのに」

    しゅん、と眉を下げてあからさまに寂しそうな顔をされてしまい、うぐ、と言葉に詰まる。さっきからずっと、神代さんは何を言っているのだろうか。キス、してきたり、指輪、もくれて、恋人に言うような事まで…。
    きゅ、と下唇を軽く噛んで、震える手を握りしめる。おずおずと視線を向けて見上げると、小さく小首を傾げられた。

    「その……、そ、それではまるで、…神代さんが、オレを好き、みたい、じゃ……」
    「え」

    意を決してそう返したオレの言葉に、神代さんがピシッと固まる。呆然としている様な顔でオレを見下ろす神代さんに、オレも目を瞬いた。オレは何かおかしな事を言っただろうか。たっぷり五秒ほど沈黙が続いて、時計の秒針の音だけが室内に響き渡る。
    近距離で覆い被さっていた神代さんが、ゆっくりと体を起こした。

    「……待っておくれ、僕と天馬くんは恋人同士だと思っていたのだけど、君はそう思ってくれていないってことかい?」
    「…………………こ、いびと…? 誰が……?」
    「天馬くんが」
    「………誰と…」
    「僕と」

    今度はオレが固まる番だった。片手で額を押えて引き攣ったような笑みを浮かべる神代さんは、珍しく動揺しているようだ。対するオレも、状況が全く理解出来ない。神代さんには、婚約者の人がいるのではなかっただろうか? そして、オレに恋人はいない。オレの初恋はつい最近自覚したもので、相手は神代さんただ一人だ。告白なんてする気は無いし、この想いは諦めるつもりでいた。ただ、友人として、その隣に並びたいと思っていただけで…。
    ぷす、ぷす、とショートした頭では何がなにやらもう訳が分からん。混乱するオレの上から退いた神代さんは、苦笑したまま息を吐いた。

    「とりあえず、何か飲んで落ち着こうか」

    手を引かれて起こされ、オレは呆然としたまま小さく頷いた。

    ―――
    (類side)

    「じゃぁ、婚約者さんがいるって話は、嘘だったんですね…」
    「以前は女性とのトラブルが多くてね。あの放送で伝わったのだと思ったのだけど」
    「……すみません。途中で抜けてしまって、そこまで見てなかったんだと思います」

    コップを両手で持つ天馬くんは、俯いたまま小さく謝った。彼が“見た”と言ってくれたから、てっきりあの告白の様な会話まで聞いてもらえたのだと思っていたけれど、どうやらそうでは無いらしい。ずっと彼は、僕に“婚約者”がいると信じていたということだ。それではどんなにアプローチをかけても、“勘違い”だと思い込もうとしてしまうだろうね。
    つまり、あのいかにもプロポーズ同然の言葉にも、彼はそういう意味は無いと思い込んで返事をしたということだ。『一緒に居てほしい』なんて、友人に言ったりはしないだろうに。そこを勘違い出来てしまう所が、天馬くんらしくて可愛らしいのだけれどね。加えて、そこで『不束者ですが…』なんて返答を選んでしまうのも彼らしいと言えば彼らしい。どう考えてもプロポーズを受ける時の返答の仕方じゃないか。
    はぁ、と大きく息を吐き出すと、隣で天馬くんがビクッ、と肩を震わせた。不安そうにする彼に、出来るだけ優しく笑いかける。

    「しっかりと確認しなくて、すまなかったね」
    「ぃ、いえ…、オレが、……勘違い、していたので…」
    「僕も、どうしたら君を意識させられるのかって、毎日必死だったんだ」
    「…ん、ぇ……?!」

    ぼふ、と顔を一気に赤らめた天馬くんの手を掴む。僕より少し小さくて、柔らかい白い手。その手が少し震えている。視線を泳がせて戸惑っている様子の天馬くんは、僕と目を合わせてくれない。けれど、そわそわとしていて、何かを期待しているようにも見える。
    そういえば、彼を目の前にして、ハッキリと言葉にしたことは無かったかもしれない。遠回しな言い方では、彼も信じきれなかったのだろうね。そっと彼の手からコップを受け取って机の上に置くと、びくっ、と天馬くんの肩が揺れた。

    「好きだよ、天馬くん」
    「っ、…」
    「勿論、恋愛対象として、君を誰よりも愛しているよ」
    「…ぇ、…あ、あいっ……?!」

    先程よりも赤く染まっていく天馬くんの顔を、じっと見つめる。琥珀色の瞳が揺れて、その中に漸く僕が映った。ぎゅ、と彼の手を握ると、小さな唇がきゅ、と引き結ばれる。逸らすことすらできない様子の天馬くんへ顔を近付けると、小さな体が跳ねた。

    「結婚を前提に、お付き合いしてくれないかい?」
    「……っ……ぁ、…う…、……」
    「勘違いとはいえ、君の唇を奪った責任を、取らせてはくれないかい?」
    「…っ、……」

    ほんの少し首を傾げてそう問いかければ、天馬くんが息を飲んで固まってしまう。震える唇が何かを言いかけて、また閉じてしまった。彼の瞳に映る僕は、自分でも思う程意地悪な顔をしている。言葉に詰まった天馬くんの額に、そっと僕の額を重ねた。
    近い距離でその瞳を覗き込むと、涙の膜が張っていて、とてもきらきらと輝いている。

    「そんなに息を止めていると、苦しくなってしまうよ?」
    「………、…」

    態とらしく固く閉じた唇に吐息をかけると、天馬くんの瞳が揺れる。けれど、逸らすことなく僕の瞳を見返す彼の健気さに胸の奥が、きゅぅ、と音を鳴らす。鼻先がそっと触れ合って、彼の指先が一瞬震えた。
    カチカチに緊張する天馬くんが、弱々しくほんの少しだけ首を振る。額が擦れて、鼻先が優しくぶつかる。
    ぞくり、と、背が震えた。

    「ふふ、そんな天馬くんに、緊張の解けるおまじないを、教えてあげようか?」

    喉奥から零れるような笑い声。不安に揺れた瞳に目を細めて、そっと顔を横へ傾けた。

    「……、…ん……」

    シン、と静まり返った室内には、時計の秒針の音だけが響き渡る。固く閉じられた唇に、そっと僕のを重ねた。目を瞑って、たっぷり二秒ほど触れ合わせる。引き結んでいるせいで、いつもよりほんの少し固く感じた。それはそれで可愛らしい。ゆっくり顔を離すと、とろりと瞳を溶けさせる天馬くんが視界に映った。

    「…………、…はぁ…」

    詰めていた熱い息をゆっくり吐き出して、ぼんやりと僕を見つめてくれる。寝惚けているかの様に惚ける彼を、そのままソファーの背もたれへ押し付けた。膝の上に乗り上げて、もう一度口付ける。「ん、…」と愛らしい声が聞こえて、彼の手に力が入った。片手でそっと彼の髪を耳にかけると、ぴく、と小さく肩を跳ねさせる。真っ赤に染った耳の縁に指を滑らせて、柔らかい頬を掌で包んだ。触れ合わせるだけのキスをゆっくり味わって、唇を解放してあげる。
    彼は苦しかったのか、熱い息を吐いたあとに呼吸を整えていた。

    「僕を選んでくれないかい? 天馬くん」
    「…………、…」
    「君に触れる権利を、僕に頂戴」
    「……、…は、ぃ……」

    こくん、と小さく頷いた天馬くんが、消え入りそうな声でそう言ってくれた。へにゃりとはにかんで、眉を下げる。恥ずかしそうな、まだ少し戸惑っているような表情。けれど、白い指先はしっかりと僕の手を握り返してくれている。胸の奥から何かがこみ上げるような感覚に、息を詰めた。唇を引き結んで、彼の体を力強く抱き締める。さらさらの髪に指を差し入れると、彼が僕の服をそっと握った。

    「…………その、…ぉ、れも、…ほしぃ、です…」

    胸元から聞こえてくる愛おしい声音に、耳を傾ける。ドクン、ドクン、ドクン、と早る心臓の音が煩い。すり、と彼の髪に顔を擦り付けると、もぞもぞと腕の中の天馬くんが身じろいだ。

    「…か、みしろ、さんに、…ふれる、…けんり…」
    「勿論さ。君以外に触れてほしくはないからね」
    「………ぉ、…れ、も……」

    ぎゅ、と一層強く服を握る天馬くんが、顔を僕の胸元へ埋める。消え入りそうに返してくれた言葉に、胸の内が苦しいほど満たされていく。
    やっと、手に入れた。少し前まで一方通行だった関係が、今漸く繋がった。これで、誰にも邪魔されずに彼を独り占めできる。

    (………愛おしい…)

    ぎゅぅ、と更に腕に力を入れると、身じろいだ天馬くんも慌てて僕の背に細い腕を回した。きゅ、としがみつくように抱きしめ返され、その愛らしさに胸の奥がまたきゅぅ、きゅぅ、と音を鳴らす。むずむずと湧き上がる欲が、溢れて収まらない。

    「天馬くん、顔、上げて」
    「ふぇ、…ん、んんっ……」

    ちゅ、と態とらしく音を立てて唇を奪う。ふにふにとした柔らかさが気持ちいい。戸惑う彼の指先が、僕の服の上を滑る。ほんの少し離して、もう一度触れ合わせる。今度は角度を変えて、次は下唇を食むように。
    何度もキスを贈れば、天馬くんがぷるぷると僕の腕の中で震え始めた。僕より一回り小さな手が、弱々しく背を叩く。服を引っ張ったり、胸元を押したりされるけれど、その弱々しい抵抗がまた愛らしい。
    ちゅ、ちゅ、ちゅ、と意地悪するようにキスを続ければ、今度は足をぱたぱたとさせ始めた。「んんっ、…んーっ、…」と何かを訴える天馬くんがあまりに必死なものだから、仕方なく唇を離す。

    「っ、ぷは……、はぁ、…はっ…、…っ、はぁ……」
    「すまないね、感極まってしまって」
    「…だ、…だぃ、じょ、…っ、…けほ…」

    噎せてしまった天馬くんの背を優しく撫でると、彼はへらりと弱々しく笑った。どうやら、キスの間息を止めていて苦しかったようだ。涙の滲んだ瞳が少し可哀想で、反省する。机に置いておいたコップを手渡すと、彼はそれに口を付けて、ゆっくり傾けた。こくん、と上下する喉元をぼんやり見ていると、漸く落ち着いたらしい天馬くんがコップを机にもどす。

    「すみませんでした」
    「いや、こちらこそ、急にすまなかったね」
    「違うんですっ、…嫌だったとかではなくて…、その、…か、神代さんと、き、す、するの、は、…嫌では、ない、ので……」
    「…天馬くん……」

    きゅぅ、とまた胸の奥が音を鳴らす。そんなにも可愛らしいことを言われてしまっては、また襲ってしまいたくなるというのに。こほん、と一つ咳払いをして気持ちを落ち着ける。
    天馬くんの可愛さを噛み締めていれば、彼の手が僕の袖を軽く摘んだ。

    「…………その、…ぃ、いのがして、た、んですが…、オレも、…か、神代さんが、好き、です…」
    「うん。知っているよ」
    「…へ……?」

    恥ずかしそうに俯いて、必死に愛を返してくれた天馬くんに、にこりと笑って返す。その瞬間、彼は驚いたように目を丸くさせて固まってしまった。

    「…し、しって……ぇ…?」
    「君が僕を特別に見てくれている事は、知っていたよ」
    「………な、んで、……ぃ、いつ、から…?」
    「結構前かな。多分、毎週月曜日のお弁当を君が作ってくれるって言ってくれた時に、もしかして、とね」

    動揺を隠しきれていない天馬くんに、にこりと笑って返す。
    彼は上手く隠しているつもりだったのだろう。僕の返答を聞いて、なにやら唸っている。僕のアプローチにも全然気付いてくれなかった彼は他人からの好意に相当鈍いのだろうね。それでいて、人懐っこい性格と優しい所は他人をその気にさせてしまうはずだ。僕ですら、何度そう思わされたか。否、僕に対してだけそうだったと思いたい。

    (…まぁ、以前ストーカー騒ぎもあったくらいだからね。彼にその気にさせられた人は少なくないんじゃないかな)

    いつも笑顔で優しく声をかけてくれる。きらきらした瞳で見つめてくれて、素直に賞賛もしてくれる。そんな彼を、誰が邪険に扱うのか。だからこそ、早く僕のモノにしなければと、不安にさせられてしまう。彼が好意を持ってくれていると気付いても、もしかしたら、を想像してしまう。

    「あんなにも熱烈な『かっこいい』を、聞き逃せなくてね」
    「っ、……、そ、れは…」
    「もしかして、これも僕の勘違いだったかい?」
    「………か、んちがい、では、なぃ…です…」

    俯く彼の耳は真っ赤だ。聞き間違いではなかったことに安堵して、そっとその頬に手を添える。びくっ、と肩を跳ねさせた天馬くんの頬に口付けると、彼が顔を上げた。揺れる瞳が、僕を映す。眉が下がっていて、真っ赤に染まった顔は林檎のようだ。甘そうで、もう一度柔らかい頬にキスを贈る。

    「嬉しかったんだ。君に想ってもらえていることが」
    「…ぅ、……」
    「本当は、君の口からその言葉を聞きたくて、待っていたのだけれどね」
    「………か、神代さんは、…オレにとって、憧れ、なんです…」

    視線がそっと逸らされて、小さな声がぽつりぽつりと言葉を落とす。

    「本当は、好き、なんて、言うつもりなくて…。神代さんには、婚約者さんがいるから、諦めないとって…」
    「…その誤解を解きたくて、態々放送で宣言したのだけどね」
    「聞いていても、言えなかった、と、思います。…オレは、男で…、神代さんに、嫌われたくなかった、から…」

    きゅ、と袖を掴む彼の手に力が入る。
    彼がそんな事まで気にしていたなんてね。小さな声で話してくれる天馬くんの髪をそっと撫でて、優しく抱き締める。胸元に彼の顔を招くと、すり、と頬を寄せてくれた。

    「………好き、です…」
    「…うん」
    「…………オレも、…神代さんを、…ぁ、ぃ、…して、ます…」
    「…ふふ、ありがとう、天馬くん」

    ちぅ、と彼の額に口付けて、腕の力を少し強めた。
    ふんわりとお日様の様な匂いがして、心地いい。ぎゅ、と抱き締め返してけれる天馬くんの腕の感触も、触れ合って伝わる熱も、愛おしい。
    髪を何度か撫でて、さらさらの金糸にキスを贈る。擽ったそうに身じろいだ天馬くんが、小さく僕の名前を呼んでくる。
    それがまた愛おしくて、彼の体をソファーに押し倒した。

    「天馬くん、もう一度、いいかい?」
    「……ぇ、と…」
    「キス、したいのだけど」
    「…っ、………ど、…どうぞ…」

    恐る恐る、彼が僕の方へ顔を向けてくれる。柔らかい頬がじわりと赤く色付く様が愛らしい。額を触れ合わせると、びく、と大袈裟に彼の体が跳ね上がる。緊張しているのが伝わってきて、僕にも移ってしまいそうだ。ごくり、と喉が音を鳴らして、口角が上がる。
    ゆっくりと顔を近付けると、彼はきゅ、と強く目を瞑った。そっと唇を重ねて、熱を混じ合わせる。

    「………、…ぁ…」

    相変わらず息を止めているらしい天馬くんが可愛らしくて、苦しくなる前に、と、短めに唇を離す。触れるだけのキスが終わると、彼は物足りなさそうに眉を下げて僕を見上げた。言外に、もう終わりですか? と問われているかの様な表情に、思わず息を飲む。
    ゆっくりと息を吐き出して、消えかけの理性を呼び戻す。

    「…そんな顔をしないでおくれ」

    優しく彼の頬を撫でて、眉を下げる。今すぐにでも、とろとろに溶けてしまうほど彼をめちゃくちゃにしてしまいたくなる。
    彼にとっては、僕と恋人になったばかりなのだ。しかも今しがた。キスの仕方も知らない天馬くんに、今ここで手を出すわけにはいかない。触れるだけのキスだけ、と自分に言い聞かせる。

    「……かみ、しろさん…」
    「そんな顔をされては、最後までシてしまいたくなるよ」

    ちゅ、ちぅ、と彼の額や頬にキスを贈って、気持ちを落ち着ける。戸惑う様な表情をしていた天馬くんは、僕の言葉を聞いて、目を瞬いた。僕の言葉の意味を考えているのか、返事が返ってこない。そんな考え込む表情ですら可愛いと思ってしまう僕は、相当に天馬くんに惹かれてしまっているらしい。自嘲する僕に気付かず、彼が漸く何かに思い至った様だ。
    頬を撫でていた僕の手に、彼がそっと手を重ねる。

    「いいですよ」

    そう返ってきた。
    今度は僕が固まってしまう。今、なんて言ったのだろうか? 呆然とする僕の目の前で、彼はふにゃりと笑った。あどけない笑みに、良くない感情が顔を出す。

    「……いいのかい…?」
    「はい」

    僕の手に自分の手を重ねたまま、彼は愛らしい笑みを向けてくれている。喉がごくりと大きく音を鳴らす。
    高校三年生ともなれば、知識くらいはあるのだろう。天馬くんだって男の子だ。けれど、まだ義務教育も終えていない、成人もしていない男子高校生にそこまで手を出すのは…。
    じわりと手の甲から伝わる彼の体温が熱い。期待するような瞳に、喉が渇いていく。彼は、僕が望めばなんでもしてくれるのだろうか。お弁当の件と良い、同棲の件と良い、少し危機意識が無さすぎではないかな。
    はぁ、と重たい息と共に、邪な気持ちを全て吐き出す。ほんの少し残った理性が、なんとか仕事をしてくれた。

    「また今度、ね」
    「…だ、だが、オレなら大丈夫ですよっ…!」
    「その気持ちは嬉しいけれどね、君に無理はさせられないよ」

    彼の髪を撫でて、体をゆっくりと起こす。
    そう、無理はさせられない。一度ゆっくり気持ちを落ち着ける必要がある。ギシ、とソファーが鈍い音を立てて、軋む。僕に続いて体を起こした天馬くんは、まだ何か言いたげだ。
    くん、と袖が軽く引かれ、眉を下げた彼がもごもごと口ごもる。

    「……だ、大丈夫なので、…して、くださぃ…」
    「…天馬くん……」
    「こ、今度は、もう少し長く我慢しますからっ…!」
    「……………ん…?」

    何故か必死に食い下がる天馬くんに、一瞬心が揺らぐ。けれど、最後の言葉が引っかかった。『長く我慢』とは、なんの事だろうか。どうやらまた会話が食い違っているらしい。このまま放っておいたら、どんどん変な方へ進むだろう事も体験済みなので、修正しておかないといけないね。ゆっくりと息を吐いて、天馬くんに向き直る。緊張しているのか、彼はぴっ、と背筋を伸ばして僕を見上げた。

    「えっと、長く、とは…?」
    「? その、さっき、オレの息が続かなくて、…キス、が、途中になってしまったので…」
    「………………」
    「次は、もっと長く息を止めていられるように、いっぱい吸うのでっ…!」
    「…………………………、はぁ…」
    「ぇ、…神代さん…??」

    きゅ、と目を瞑って必死に説得しようとする天馬くんが可愛い。思わず額を手で抑えて、深い溜息を吐き出した。
    そうだった。天馬くんはこういう子だ。こちらの意図なんて伝わらない、疎い子だ。そういう知識がなくて当然なのだろう。何せ“キスの仕方”すら知らないのだから。
    一気に気が抜けてしまって、ぽすん、とソファーの背もたれに体を預ける。戸惑う天馬くんが、あわあわと僕の隣で慌てているけれど、今僕はそれどころでは無い。否、そんな天馬くんも可愛らしいのだけれども。

    「ぁ、あの、…オレ、変なこと言いましたか…?!」
    「気にしないでおくれ。自分が汚れていると自覚しただけだから」
    「……あっ、…オレも歯磨きしてませんっ…!」
    「…………後で一緒にしようね…」

    ハッ、とした顔をする天馬くんに、毒気が抜かれてしまう。
    これは今後が大変かもしれないなぁ、とぼんやり考えつつも、それはそれで楽しいのだろう、と結論付ける。論点が少しズレている天馬くんの思考は1周回って面白い。手を出すことは躊躇ってしまうけれどね。
    それでも、そんな彼が、いつか僕の色で染まっていくのは見てみたい。

    (…とりあえず、キスの仕方はまだ教えないでおこうかな)

    そう心の中で呟いて、彼の要望通りもう一度触れるだけのキスをしてから、二人で洗面所に向かった。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
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