Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ナンナル

    @nannru122

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 💜 💛 🌸
    POIPOI 76

    ナンナル

    ☆quiet follow

    メイテイ!!×× 4
    仲良しなのにちょっとズレてる二人が好きなのだけど、中々そうならないのなんなのだろう…?
    難しい…。

    メイテイ!!×× 4(類side)

    (……露骨に落ち込んでるなぁ…)

    隣をちら、と見れば、先程のそわそわした様子が一転し肩を落とす天馬くんがそこにいる。ちゃぷ、ちゃぷ、と足を揺らしてじっと足元を見る彼の顔を覗き込めば、眉尻が下がっていた。どう見ても何か別の事を考えている顔だ。

    「天馬くん、どうかしたかい?」
    「んぇっ…、ぁ、いえっ、…」
    「足湯はお気に召さなかったかな?」
    「…そういう、わけでは……」

    視線が逸らされて、もごもごとした返事が返ってくる。どうやら、彼が期待したものとは違っていたらしい。
    ちゃぷん、と浅いお湯がまた音を鳴らす。天馬くんの日に焼けない白い足先が擦り合わさるのを、ちら、と見て視線を逸らす。温泉街には、至る所に自由に入ることの出来る足湯スペースがある。深さも湯加減も違う足湯に、人が代わるがわる入っては抜けていく。いつものように帽子と眼鏡にマスクで顔は隠しているけれど、たまに女性に声をかけられることもある。
    天馬くんとしては、それが面白くないのだろうか…?なんて、彼はそのくらいでヤキモチを妬くような子ではないだろう。けれど、もし万が一、それで不機嫌なのだとしたらどれだけ嬉しいことか。

    「すまないね、せっかくのデートだと言うのに」
    「構いませんっ!神代さん、顔を隠していても背が高くてかっこいいので、声をかけたくなる気持ちも分かりますし…」
    「…そう。けれど、やっぱり人が多くて少し落ち着かないね」
    「…オレは、神代さんと二人きりだと、その、まだ少し緊張するので…」

    すっ、と顔を俯かせるように逸らされてしまい、苦笑する。やっぱり天馬くんは天馬くんのようだ。ヤキモチどころか安心さえされているなんて。分かってはいたけれど。
    緊張する、ということは、多少なりとも意識はされているのだろう。ここで二人きりが良いと言わないのが、天馬くんらしい。他の女性達と違って、控えめというか、幼いというか。

    (……これは、大浴場の方が良いかもしれないね)

    夜は大浴場に誘おう。旅館の部屋にも小さな露天風呂が付いているのは知っている。一般客から隠れて楽しみたい有名人が、気兼ねなく泊まれる旅館だからこその仕様だ。良ければ一緒に、と天馬くんを誘うつもりでいたけれど、この様子ではいつもの様に断られてしまうかもしれない。それなら、人が居たとしても大浴場の方がいいかな。天馬くんなら、僕に部屋のお風呂を薦めて、自分は大浴場に行きますとか言いかねないしね。一人で天馬くんを行かせる方が不安で嫌だ。

    「…天馬くん」
    「はい…?」
    「触れても、いいかい?」
    「っ、……」

    こそ、と彼の耳元で耳打ちすれば、赤く染まった顔がバッ、と上げられる。はく、はく、と口を開閉させた彼が、周りを確認してから、考える様に顔を少し下へ向けてしまう。その瞳が、くるくると回っている様に見えて、なんだか可愛らしい。
    数秒黙った天馬くんが、くん、と僕の袖を指先で摘んだ。

    「……いい、です…」

    消え入りそうな声に、胸の奥がきゅぅ、と甘い音を鳴らす。恥ずかしそうに周りを気にしてはいるけれど、僕の申し出を受け入れてくれる。どこかそわそわとしている様に見えてしまって、緩みそうになる口元を引き結んだ。人通りは少しあれど、今ならこのスペースに人はいない。
    すい、と天馬くんの頬を片手で撫でて、そっと引き寄せる。彼の髪に頭を預けるように合わせ、頬をゆっくり掌で撫でた。頬にキスまでしては、怒られてしまうだろうか。両腕で抱き締めるのですら、照れてしまいそうだな。固くなる天馬くんの足先に、僕の足先を触れ合わせれば、ぴっ、と細い体が背筋を伸ばす。

    「ふふ、天馬くんの足は少し小さいね」
    「…ぁ、…う……」
    「頬も柔らかくて気持ちいいね。もっと、体を寄せてもいいかい?」
    「んっ、…、…っ……」

    ふにふにと頬を指先で撫でて感触を楽しみながら、体を少し彼の方へ寄せる。指先を少し滑らせて耳の縁に触れさせれば、天馬くんの口から「ひぅっ、…」と悲鳴に似た可愛らしい声が零れた。一層顔を赤くさせる天馬くんが、余計に体を固くさせる。可愛い恋人の手に、僕の手を重ねれば、ビクッ、と肩が跳ねた。
    そんな彼が、震える声で僕の名前を必死に呼ぶのが聞こえて、ゾクッ、と背が震える。

    「…か、みしろ、さん…っ、……」
    「………すまなかったね、からかい過ぎてしまったよ」

    パッと両手を離して体を少し引けば、天馬くんは顔を俯かせた。首まで赤くして、両手で僕が触れていた耳をおさえる姿が、なんとも愛らしい。たったこれだけでここまで赤くなってしまわれると、この更に先を彼に望むのは気が引けてしまう。真っ赤な顔がそわそわと彷徨い、ちら、と僕の方へ向けられる。視線が合えば直ぐに逸らされてしまい、胸の奥がきゅぅ、と音を鳴らす。

    (…可愛い……)

    バレないように小さく息を吐き、握った拳に力を入れる。いつまで経ってもスキンシップに慣れない恋人が、とても可愛らしい。ここまで赤くなって戸惑うというのに、どこかそわそわとしながら僕の様子を伺いにくるのはどうなのだろうか。もっと触れて良い、ということなのかな。それなら、遠慮なく触れるというのに。いや、そんな事をしたら、暫く逃げられてしまいそうだね。

    「そろそろ、次に行こうか」
    「…ぁ、……はい…」
    「夕食を食べたら、一緒に旅館の大浴場へ行こう」
    「っ、は、はいっ…!」

    パッと顔を上げた天馬くんが、嬉しそうに笑う。先程までの戸惑いも落ち込みも嘘のような笑顔に、思わず息を飲んでしまった。まだほんのり赤い顔がへにゃりと緩んで「楽しみですね」と言葉を落とす。きゅぅ、と甘い音を鳴らす胸に手を当てて、元気に立ち上がる天馬くんから顔をそっと逸らした。

    (………嬉しそうに、されてしまうとは…)

    タオルで足を拭く天馬くんは、とても嬉しそうだ。僕も軽く足についた湯を拭き取りながら、額に手を当てる。もしかして、あからさまに落ち込んでいたのは“温泉に入りたかった”からなのだろうか。そこまで彼が温泉好きというのは聞いたことがなかったけれど…。それとも、僕と入るのを楽しみにしていてくれた、とか…? いや、普段お風呂に誘っても断られてしまうのだから、それは無いだろう。きっと、温泉に入りたかっただけだ。大浴場ともなれば家庭のお風呂と違ってテンションも上がるだろうからね。

    「それじゃぁ、今度は向こうの方へ行こうか」
    「はい!」
    「……」

    差し出した手を握り返す天馬くんは、にこにことしている。その笑顔に、きゅぅ、とまた胸が音を鳴らした。これは、どういう笑顔なのだろうか。単に温泉が楽しみ、という意味でいいのか、それとも…。

    (……いや、相手は天馬くんだからなぁ…)

    期待したくなる気持ちをもう一度否定して、彼にバレないようこっそり溜息を吐いた。

    ―――
    (司side)

    「それじゃぁ、司くん、類くん、お休みなさい」
    「あぁ、おやすみなさい、えむ、寧々さん」
    「ん」

    ひらひらと手を振って部屋の中へ入っていく寧々さんを、えむが慌てて追いかけていく。そんな二人を目で見送って、手を下ろした。掬うように手が取られ顔を上げると、神代さんがその手をそっと引く。隣の部屋へ引かれるまま、オレも足を踏み出した。

    「相変わらず、天馬くんは美味しそうに食べるよね」
    「天ぷらがサクサクで、とても美味しかったです! お肉もとろっと口の中で溶けるほど柔らかかったですし、お魚もふっくらしていて脂も乗ってましたし…」
    「ふふ、天馬くんは本当に食べるのが好きだね」

    先程四人で食べた夕食は、最高に美味しかった。野菜や魚介の天麩羅にすき焼き鍋と焼き魚と、豪華な食事はどれから食べるかとても悩んだものだ。お腹が幸せで満たされて心地良い。まだ口の中にほんのり残る味を思い出して頬が緩んだ。ついつい いつもの様に食事の感想が口を吐いて出るオレの方へ、神代さんが顔を向けた。優しく目を細める神代さんに、思わず息を飲む。楽しそうにオレを見るその顔は、どう見ても子どもを見守る保護者の様だ。

    「すみません、つい…」
    「おや、もっと話してくれていいのだけど、終わってしまうのかい?」
    「………その、せっかく、神代さんといるので…」

    不思議そうに首を傾げる神代さんに、一瞬悩んでから首を左右に振った。ぎゅ、と引かれる手を握り返して、反対の手も神代さんの腕にそっと添える。ほんの少し体を寄せてくっつくと、繋いだ指先に少しだけ力が入った気がした。
    長い廊下には、オレと神代さんの他に人はいない。普段なら恥ずかしくて中々出来ないが、今日は、神代さんとのデートである。少し勇気を出すだけなら、オレにだって出来る。

    「……それなら、もう少し、近付いても良いかい?」
    「は、はいっ…!」

    繋ぐ手が離されて、反対の手に手を取られる。腰に神代さんの手が添えられ、エスコートされる様な形になってしまった。腕に寄せた体を神代さんの体にぴったり寄り添わされ、ぶわりと顔に熱が集まる。ちぅ、と音を立てて髪に何かが触れるのが分かり、慌てて顔を上げれば神代さんと目が合う。
    細められた月色の瞳に息を飲み、唇を引き結んだ。

    「さて、夕食も済んだことだし、天馬くんがお待ちかねの大浴場に向かおうか」
    「…………そ、ぅ、です、ね…」

    ぎゅぅ、と強く神代さんの手を握り返して、視線を下へ向ける。神代さんの体温が伝わってきて、なんだか熱い。腰に手を添えられるのは、とてもドキドキしてしまう。足が、震えている気がした。怖いわけではない。ただ、これだけ近い距離に神代さんがいる、というだけで緊張してしまうんだ。気恥しい様な、嬉しい様な、少し困る様な、よく分からん感じに顔が上げられない。顔を上げたら、嬉しそうに神代さんが笑っている気がするから、そんな神代さんの表情を直視できない。

    (だ、だが、今回の目的はこれなのだっ…! 逃げるわけにはいかんだろう…!)

    きゅ、と唇を引き結んで、繋いでない手で拳を握る。
    長い廊下を進み、エレベーターに乗り込む。ゆっくり動き出す機械の箱の中で、深呼吸を繰り返した。とく、とく、とく、と神代さんの落ち着いた心音が聞こえる気がして、少し気持ちが楽になる。気持ちは楽になるが、自分の心臓の音は賑やかだ。大太鼓を叩く様な音がしている気さえする。
    ポーン、と音がしてエレベーターが止まり、入口から降りた。男性用の暖簾をくぐると、まるで別世界に来たかのようだ。人の話し声が少し聞こえてきて、慌てて神代さんから体を離す。繋いだ手を離すと、神代さんが少し寂しそうに眉を下げるのが見えた。

    「足元、濡れている様だから気を付けてね」
    「は、はいっ…」
    「ここが空いているね。ここに荷物を置こうか」
    「はい」

    荷物の置かれていない籠が置かれた棚を指さす神代さんに頷いて、足を止める。持っていた手提げをそこに入れ、ほんの少し神代さんに背を向けた。ここからがオレの戦いである。すぅ、はぁ、とゆっくり呼吸を繰り返して、服のボタンに手をかけた。

    (親しい間柄で次のステップを踏むには、温泉や銭湯が良いとあったからな…!)

    決意を新たに一つ頷いて、シャツを脱ぐ。後ろから、神代さんが服を脱ぐ布擦れの音が聞こえてきて、余計に緊張してきてしまった。何人かの話し声や、歩く音も聞こえてくる。それに構わず、シャツを畳んで籠に入れ、ズボンのベルトに手をかけた。
    親しい間柄と言えば、恋人同士のことだろう。男同士で更に仲を深める為に有効なのだと、この前本で読んだんだ。

    (神代さんと、“裸の付き合い”というものをして、少しでも恋人らしくなるっ…!)

    思えば神代さんは何度もお風呂に誘ってくれていた。それはつまり、恋人として次の段階に進む為に必要だからだろう。恥ずかしいとか、き、キスをされそうで恥ずかしいと、いつまでも逃げてはいられん。神代さんの恋人なのだから、優しい神代さんに甘えて逃げ続けていたくはない。
    バッ、とズボンと下着を一気に下ろし、手早く畳む。タオルを腰に巻いて、神代さんから貰った指輪も首から外した。それを籠に入れて、もう一度ゆっくり深呼吸をひとつして振り返る。オレを待っていたらしい神代さんと目が合い、ふわりと柔らかい笑みを向けられた。視界に映る肌の色に、思わず視線が下へ降りる。
    その瞬間、ピッ、と姿勢が伸びた。

    (……す、すごぃ…、…しっかりしている…!)

    神代さんは俳優で、アクション映画なんかにも出ていたことがあったので、何となく察していたが、体がしっかりしている。固そうな胸元やお腹につい視線が行き、じわりと頬が熱くなっていく。大人の男性らしい逞しい体に、ついつい魅入ってしまう。鍛えているのだろうとは思っていたが、まさかここまでしっかりした体をしているとは…。
    思えば、高校生のオレを軽々と抱き上げたりもしていたのだから、これくらいは当然なのだろう。抱き締められた時も、えむとは違って包み込まれる様な抱擁感もあった。そう思えば、体が鍛えられているのは納得出来てしまう。

    「あまり見られると恥ずかしいかな」
    「…あっ、…す、すみませんッ…!!」

    気恥しそうに眉を少し下げて笑う神代さんの言葉に、まじまじと見つめてしまっていたと気付き慌てて視線を逸らす。熱くなる頬に手の甲を当てれば、じわりと熱が伝わってきた。
    いくら恋人の体といっても、まじまじと見るのは失礼ではないか。同じ男として羨ましい体付きではあるが。オレも頑張って鍛えれば、神代さんの様になれるのだろうか。いや、子役の時から俳優をしている神代さんを目標にしても、難しいのだろうな。

    「体が冷えてしまうから、一先ず入ろうか」
    「っ、はいッ…!」

    俯いた視線の先に手が差し出され、慌ててその手を取る。綺麗な指先が、ほんの少し冷たい気がした。ぎゅ、と握り返せば、手が引かれる。人とすれ違う度に、見られているのではないかと気になってしまう。心臓の音が大きく鼓動して、煩い。視線を上げると、神代さんの背中が見えて、余計に心臓が煩くなった。
    カララ、と引き戸が開けられ、ぶわりと熱気が顔にかかる。

    「……わ…」
    「この時間はやっぱり人が多いね」
    「…そう、ですね……」

    脱衣所には人が少なかったので気付かなかったが、浴室の方はそこそこ人がいる。大きな浴槽が四つほどある浴室内を見回しながら、神代さんに手を引かれるまま中を進んで行く。洗い場にも人がいて並んで使えるところは無さそうだ。

    「ここ、使っていいよ。僕は向こうを探してくるから」
    「ぇ、…それなら、一緒に使っても…」
    「時間がかかってしまうからね。終わったら、先に入っていて構わないからね」
    「…はい」

    パッ、と離された手に少し寂しく感じて、慌ててシャワーを出す。
    確かに人一人分の洗い場は狭いので、二人並ぶのは邪魔だろう。髪をお湯で濡らして、備え付けのシャンプーを掌に取る。それで髪を揉むように洗えば、モコモコと泡が立っていく。止まったシャワーをもう一度出して泡を流し、一度顔にかかった水を手で拭った。

    (………お互いの体を洗う、というのも、大事だと読んだのだがな…)

    裸の付き合いとは、そういうのも含めてだと読んだ。だから、それも期待していたのだが、現実はそう簡単ではないらしい。この後もう一度お風呂に、なんてことにはならんのだろうから、もう機会はないだろうか。
    掌に出したボディーソープを軽く泡立て、体を洗っていく。泡のついた掌で肌を撫でながら、ふと先程の脱衣所で見た神代さんを思い出してしまった。あのしっかりとした体は、やはり触れると固いのだろうか。少し、触ってみたかった、な…。

    (…って、オレは変態か……)

    ぶんぶん、と頭を左右に振り、慌ててシャワーのお湯を頭からかぶる。いくら神代さんと付き合っているとはいえ、体に触れてみたい、なんて言えば、変に思われるではないか。手を繋ぐのとは違うというのに。
    全身の泡を流して、備え付けの椅子を立ち上がる。一度考えるのをやめよう。でなければ、もっと変な方向へ行ってしまいそうだ。
    タオルをしっかり巻き直して、浴槽の方へ向かう。比較的人の少なそうな湯船に足をいれると、じんわりと熱いお湯の温度が伝わってきた。程よいお湯の温度に安堵して、ゆっくり体を沈めていく。

    「…ん〜……」

    ぐぐーっと体をのばしてゆっくり力を抜く。程よい心地良さに目を瞑ると、ぽかぽかとした熱に包まれる体がふわふわしているように感じた。ちゃぷん、とお湯の揺れる音や、人の話し声が響いているのを、ぼんやりと聞き流す。温泉に来るのは、いつぶりだろうか。こんなに気持ちが良かったのだな。瞑っていた目をそっと開ければ、湯気がゆらゆらと揺めている。それすら、見ていて気持ちが落ち着いた。
    ゆったりとした心地でお湯に浸かっていれば、ちゃぷん、とまたお湯が濡れる。人がお湯に入ってくる気配にそっと顔を向けて、近付く肌の色に数回瞬きをした。

    「ここにいたんだね、天馬くん」
    「か、神代さんっ…!」
    「ふふ、気持ち良さそうにしていたね」
    「気持ちいい、ですよ…」

    どうぞ、と少し体を避けて隣を開ければ、神代さんが迷わず座る。肩が少し触れて、思わず背筋が伸びた。ちら、と視線を向ければ、お湯を肩にかける姿が見える。髪が濡れてぺったりしていると、少し幼く見えた。神代さんの胸元の少し下までしかないお湯が、肌を伝って落ちていく様に息を飲む。胸元だけでも、神代さんの身体はオレとは全然違う。肩幅と、腕の太さとか、首回りとか…。
    ぱしゃん、とまたお湯が肩にかけられ、お湯が照明の光で反射すると神代さんの体がきらきらして見えてしまう。はわ、と片手を口元に当てて、じっと見つめれば、神代さんの手が頬に触れた。ビクッ、と肩を跳ねさせて顔を上げると、頬を赤くさせた神代さんが額をオレのに合わせてくる。

    「そんな目で見られてしまうと、勘違いしてしまうよ」
    「…ぇ、あのっ、…すみませっ……」
    「僕も見たいのを我慢しているのだから、ね?」
    「ひぅっ…」

    キスをされてしまいそうな程近い距離に、強く目を瞑る。いつもより少し低い声に、心臓が大きく跳ね上がった。湯船の底についていた手に神代さんの指先が触れ、ゆっくり指と指の間に長い指が滑り込む。たったそれだけで、背をゾクゾクゾクッ、と何かが駆け上がった。
    頬を撫でる神代さんの指が、ゆっくりとオレの髪を耳にかける。寄せられた唇が、「天馬くん」とオレの名を囁いた。

    「み、見られて、しまいますっ…」
    「湯煙で分からないよ」
    「っ、…」

    神代さんの声が、近い。人は少なくないのだから、誰にも気付かれないなんてあるはずがない。こんな所を見られては、神代さんの仕事に影響だってしてしまう。
    ふるふる、と首を左右に振って、神代さんの肩を手で押す。これ以上は嫌だと、そう態度で示せば、ゆっくり神代さんが離れてくれるのが分かった。

    「…はぁ、……」

    詰めていた息をゆっくり吐き出して、胸を撫で下ろす。絡む指先が解け、隣に座る神代さんがほんの少し眉尻を下げてオレを見た。

    「僕に触れられるのは、嫌かい?」
    「ぇ、あ、違いますっ…、その、他に人がいるので…」

    ちら、と周りを見てみるが、こちらを見ている人はいなさそうだ。というより、先程まで同じ浴槽に入っていた人達も居なくなっている。見られていなかったのは幸いだが、見られる可能性はまだあるので控えたい。神代さんの為にも。
    周りを見ていた視線を神代さんへ向けると、捨てられた子犬のような顔でオレをじっと見ていて、思わず言葉を飲み込む。とても残念そうにする神代さんは、何も言わない。が、その視線が『嫌だった?』と聞いてきているかのようで、きゅ、と唇を引き結ぶ。神代さんにそんな顔を、してほしくない。

    「……人、に、見られる、のは、困ります…」
    「そうだね」
    「…困る、が、……触れたい、とは、思ってます…」

    もごもごと、言葉が小さくなってしまったが、神代さんには聞こえただろうか。視線をほんの少し下へ逸らすと、お湯がちゃぷ、と揺れて、大きな手に頭を撫でられた。ほんの少し顔を上げれば、嬉しそうに笑う神代さんと目が合って、思わず息を飲む。

    「本当に?」

    一言返ってきた問いに、こくこくと首を縦に振る。それを見た神代さんは、更に嬉しそうな顔をした。蜂蜜の様な溶ける程甘い表情に、胸の奥がきゅぅ、と音を鳴らす。
    もしかしたら、神代さんもオレと同じなのだろうか…。先程も、オレが止めなければ、キス、もされていた気がする。神代さんに、お風呂に誘われる時に想像してしまうのと同じように。ぎゅってされたり、キス、されたりして、お風呂に入るような事を、神代さんも考えていたり、するのだろうか。

    (…それなら、やはり、神代さんの背中を流したりとかも、したかったな…)

    神代さんが望んでくれているなら、恋人らしい触れ合いもしてみたかった。今度自宅で誘われた時は、一緒に入ってみるのもいいかもしれん。温泉は、思った以上に人がいて、並んで入るのも少し気になってしまうからな。
    そんな事を考えながら濡れた手で前髪を払うと、その手を神代さんに取られた。

    「もし、天馬くんさえ良ければ」
    「………む…?」
    「後で、部屋にある露天風呂にも一緒に入らないかい?」
    「……ぇ、部屋に温泉があるんですか?」
    「うん。ここよりは小さいけれど、それなりに大きい露天風呂があるよ」

    ちゃぷん、とお湯の中で手を握られ、指がゆっくりと絡む。じっとオレを見る神代さんに、目を瞬いた。
    やけに隣の部屋と感覚が開いていると思ったが、露天風呂付きの部屋だったのか。なんとも豪華な客室だろう。だが、客室の露天風呂なら、人目もない。そこなら、神代さんと落ち着いて入れるかもしれん。もっとくっついて、キス、とか、されたり…。
    じわぁ、と顔が熱くなって、慌てて首を左右に振る。また邪な事ばかり考えてしまっているではないか。神代さんはお風呂に誘ってくれているのだから、まだキスをされるとは決まってもいないだろうっ…!

    「……嫌かい?」
    「行きますっ…!」

    首を振ったオレを見て、断られたと勘違いした神代さんが、寂しそうな顔をする。そんな神代さんに、慌てて返事を返そうとして、大きな声が出てしまった。ハッ、と気付いて周りを見るが、数人と目が合って直ぐに逸らされる。反響してしまった自分の声が恥ずかしくなり、反対の手の甲で顔を覆った。そんなオレの目の前で、神代さんが小さく息を吐く。

    「そう、良かった」

    安心した様に笑った神代さんの表情に、オレの恥ずかしさが少しだけ和らいだ気がした。神代さんが笑ってくれるなら、それでいい。大人な神代さんに釣り合う様に、オレだって頑張りたいと思っているからな。
    すす、と顔を寄せる神代さんに、オレも耳を傾ける。

    「僕も君に触れたいと思っていたんだ」
    「…っ……」
    「楽しみにしているね、“司くん”」

    たまにしか呼ばれない呼び方に、ビクッ、と肩が跳ねる。甘やかす様な声音に、思わず片手を耳に当てた。ド、ド、ド、と心臓の鼓動が早くなり、神代さんを凝視する。にこりと笑う神代さんは、とても楽しそうな顔をしていた。繋ぐ手が引かれ、ざぷ、と湯を揺らして立ち上がる。

    「そろそろ、向こうのお湯にも入ってみようか」
    「……は、はぃ…」

    既に逆上せてしまいそうな程熱いオレの手を引いて、神代さんが露天風呂の方に足を向けた。その前を歩く背中を見ながら、煩く鳴る胸元に手を当てる。
    “触れたい”って、オレと同じ意味で、良いんですよね…?

    (…なんというか、神代さんの雰囲気が、いつもと、違った気が…)

    繋ぐ手の熱さに、ごくりと喉から音がした。
    神代さんに言われた“触れたい”の意味が分からず悶々と考え過ぎて、露天風呂からの事をオレは何も覚えていなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💞👏👏👏💖💒💘💖💖💒💯😍💞💖💒💯💖💖💘😍💯💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖🌠
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142