みひつのこい堂本大我×朝日奈唯
コンサートが終わり制服に着替えた朝日奈が控室を出ると、廊下に緊張した面持ちの男子生徒が立っていた。
「あの、朝日奈さん、あなたのヴァイオリンのファンですッッ!これ、受け取ってください!」
そう言って半ば強引に押し付けられた衝撃で花束の花からひらりと一枚花びらが落ちる。
「えっと……あ、ありがとうございます」
その気迫に気圧された朝日奈がそう答えると、男子高生は顔を紅潮させて
「スタオケ、応援してます!!」
そう言って朝日奈が止める間もなく走り去って行った。
丁度グランツの控室から出てきた堂本は、あっけに取られている朝日奈の背中に声を掛ける事もせず、自販機のある反対側の曲がり角へと足を進めたのだった。
菩提樹寮のメンバーと一緒に帰るためにロビーで朔夜達を待っていた朝日奈が、堂本に首根っこを掴まれてタクシーに乗せられたのは1時間程前の出来事で、
成宮のマインに、先に帰っててと送ると特に何の詮索もなく【了解しました、あまり遅くならないでくださいね先輩】と返って来たことに安堵の溜息を吐いた朝日奈が連れて来られたのは、堂本が寝泊まりしているウィークリーマンションだった。
「……それでね、急にこんな大きな花束を渡されて私、びっくりしちゃってね」
「へぇ~、そうかい」
最低限の生活用品と着替えが入ったトランクとファゴットケースしかない殺風景な部屋は家と言うよりはホテルの様で、早速朝日奈は先ほど我が身に起こった出来事を堂本に話して聞かせるが、当の堂本は聞いているのか聞いていないのか、ベッドの端に腰かけると適当に相槌を打ちながらスマホの画面に視線を落としていた。
「もう、聞いてるの堂本君?」
「あー聞いてる聞いてる」
明らかに聞く気のない堂本に口を尖らせて、朝日奈はガラスコップに生けられた花束に視線を移した。
「で、知らない野郎に花なんてもらって嬉しいのかい、お嬢さん?」
「そりゃあ、嬉しいよ」
「花なんて腹の足しにもなりゃしねえのに」
「堂本君はそう言うだろうと思ってました~」
「ハハッ、拗ねるなって……まあ、お嬢さんが欲しいって言うなら俺だって花束の一つや二つ、贈ってやらない事もないんだぜ?」
思わず花束を抱えて自分の前に立つ堂本を想像した朝日奈は、どうあっても似合ってしまうだろうその姿に何故だか負けた気持ちになってしまった。
「う~ん、でも堂本君にもらうなら花束よりもファゴットの演奏が良いな」
「まあ、報酬次第じゃ考えてやらないでもないぜ」
「ええ!お金取るの?!」
「ははッ、安心しなお嬢さんから頂くなら、金じゃなくてこっちだ」
そう言って、朝日奈の腰を抱き寄せると堂本がその唇に自分の唇を重ねた。
「んんッ……」
経験の差か、技術の差か、あっという間に舌を絡めとられて朝日奈は口の端から甘い声を漏れ出る。
「イイ声で鳴くんだな、アンタ……」
鼻先が触れ合う程の距離で囁く堂本の声に、朝日奈の熱は上がっていく。
「ま、まって堂本君ッ……」
プリーツスカートの中に侵入した大きな手に太ももを撫でられると、朝日奈が慌ててその胸を押して静止する。
「シャワー先に浴びるか、後に浴びるか選べ、唯」
「お……お先に、失礼しますッ!!」
上擦った声を上げて、そのままバスルームに消える朝日奈の背中を見てクツクツと堂本が声を立てずに笑いを漏らす。
「残念だったなあ~、間男さん」
その姿が見えなくなった事を確認すると、堂本は花束のセロファンの間に挟まっていた連絡先が書かれたカードを握りつぶすと、中身を見る事もせずゴミ箱へと放り投げた。
─了─