共通課題カゲは二宮に心底惚れているけれど、付き合おうとは思っていなかった世界線(だと思ってる)。
「間違えた」というセリフと、後悔の念から、カゲは「彼女と間違えた」だと思う。頭を掻きながら「あ"~……まあ他の女と間違えるよりよかったろ。妊娠するわけでもねえから、責任取れなんて言わねえよ。安心しろ」と笑って、そそくさ浴室へ。
付き合おうとも、ましてや付き合えるとも思っていなかったため、例え間違いでも二宮に抱かれたという事実は、カゲにとって役得だった。
シャワーを浴びていると、そこかしこにキスマークや噛み跡があって、アイツ涼しい顔してンなことすんのか、とまじまじ考えちゃう。すると次第に「昨日の夜みたいに、今まで女を抱いてきたんだな」と思ってしまって、その瞬間胸が苦しくなるのを感じた。
今までそんなこと考えなかったのに、一度抱かれて、二宮の熱を知ってしまったせいで、あれを手に入れられる二宮の彼女が羨ましくて、悔しくて、虚しくて、カゲは浴室で頭を抱える。あんな風に求められるのが俺だったらよかったのにと、嫌でも考えてしまうようになる。
こんなんで今まで通り接することが出来るのか、本部で何食わぬ顔が出来るのか、闘いの最中に何も考えないでいられるのか。そう考え出すと苦しくて、シャワーに紛れて涙が止まらない。
すると急に浴室の扉が開いて、先程と同じように下着一枚の二宮が入ってくる。カゲは慌ててシャワーで顔を洗って、何入ってきてんだよ、と平静を装って言う。
「……泣いてたのか」
「ばーか、泣いてるわけねえだろ。泣きてえのはお前の方じゃねえのか?」
「……ああ、そうだな、泣きたくなる」
そのセリフを聞いて、ああ、やっぱり二宮も自分を抱いたことを後悔してる。自分だって、こんなに苦しくなるのなら抱かれたくなかったと、つい唇を噛む。
「勘違いするな。後悔してるのは、お前を勢いで抱いたことじゃない」
「……フォローなんざ要らねえぞ」
「そうじゃない。説得力に欠けるかもしれないが……聞いてくれ」
二宮はシャワーを止めて、びしょ濡れのカゲを抱きしめる。
「お前が好きだ。だから、気持ちを伝えずに抱いたことを後悔してる」
「……は?」
「ついでに言えば、お前を抱いた記憶が朧気なことも後悔してる。せっかく一度だけでもお前を抱けるのなら、この目にしっかり焼き付けておきたかった」
何言ってんだ、と言いたかったけれど、二宮の至極真面目な声と、肌に刺さる温かい感情が、それが冗談や嘘の類ではないということを裏付けている。
「酒の勢いで、なんて、最低な行いだ。それはわかっている。けれど、このチャンスを逃せば、俺は一生お前と向き合えないと思う。だから聞いてくれ。俺は、心底お前が──」
言い終わる前に、カゲは二宮にキスをする。なんだ、苦しむ必要なんてなかったのだ。
「……一度、じゃなくてもいいぜ」
「……なに?」
「何回でもいい。お前のその目に、俺のこと焼き付けとけよ」
「……どういう意味かわかって言ってるのか」
「わかってるから言ってんだよ。生憎、俺もてめーに惚れてるからな」
そう言って笑ったカゲに、二宮は感極まったようなキスをする。すれ違い数分の激速ハッピーエンドです。ちなみにこのまま2回戦する。