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    ミクシゲ

    @Mikushi_gee

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    ミクシゲ

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    ニノカゲバーテンパロの第2話です。
    ニノカゲと銘打っていいのかわからないほど恋愛要素がないですすみません。
    今回はカゲのことを知りたい二宮と、カゲについて話す辻ちゃんのお話がメインになります。
    今更ですが年齢操作と、中学時代捏造が加わります。またモブのお客さんも少々出てきます。
    結構長くなりそうな予感がしてますが、必ずハピエンニノカゲになりますSEがそう言ってます。

    愛に恋を混ぜ込んで②「おはようございま~す。」
    「おはようございます。」
    「おはようございます、二宮さん。」

    更衣室で影浦が蹲っている頃、二宮はと言えばホールの仕事を説明するための準備を進めていた。その片手間に掃除をしていれば、店の扉が開いて見慣れた面々が入ってくる。

    「おはよう、犬飼、辻、氷見。」

    犬飼、辻、氷見は全員この店のスタッフである。東の元から独立した後に応募があった者たちで、個々のポテンシャルも仕事ぶりもよかったため、正式に働いてもらうことにした。
    犬飼はコミュニケーションに長けているし、辻は女性客の接客こそ苦手だが完璧にドリンクを提供してみせる。そして二宮を含めた三人をサポートするかのように臨機応変に立ち回ってくれるのが氷見だ。以前は女性スタッフがもう一人いたのだが─今は主にこの四人で店を運営していた。

    「…着替えたぞ。」

    三人が来たところに、着替え終わった影浦がホールに出てくる。どうやら教えた通りにネクタイが結べているようで、二宮は内心ほっとした。

    「影浦、こっちへ来い。紹介する。」
    「おー。」

    自然と二宮の前に整列していた三人に向かい合うように、影浦を隣に立たせる。すると、辻が「あれ…?」と声を上げた。

    「影浦先輩?」
    「?ああ、辻か。」
    「辻です、お久しぶりです。」
    「あれ~?辻ちゃん知り合い?」

    思わぬ再会に辻が目をぱちくりさせている横で、犬飼が面白そうに目を細める。氷見はというと、辻がかけ離れた外見の影浦と知り合いだったことに少々驚いているようだった。

    「中学時代の先輩です。あと、影浦先輩の実家のお好み焼き屋さんにもよくお邪魔するんですよ。」
    「知り合いなら話が早くて助かる。今日からアルバイトとして働いてもらう影浦だ。」
    「…しゃす。」
    「へぇ~?二宮さん、珍しいタイプ採用しましたね。」

    二宮が紹介するのに合わせて影浦が小さく頭を下げると、犬飼がすす、と隣に寄って影浦の顔を覗き込む。その瞬間、ジョンブリアンとスカイブルーの瞳同士が交差し─影浦が大きく舌打ちをした。

    「笑いながら値踏みしてきてんじゃねーよ。」
    「えぇ?何のこと?」
    「とぼけんな。俺はお前みてーな感情と表情が一致してねーやつが一番嫌いなんだよ。」

    まさか初対面でそんなことを言われるとは露ほども思っていなかった犬飼は、笑顔を張りつけたまま逡巡する。その姿を見ていた氷見はどうしようという視線を二宮に向け、その二宮は溜息をひとつついた。

    「影浦、少し落ち着け。」
    「あっはは、二宮さん面白い奴採りましたね~。おれすっごい仲良く出来そう。」
    「あ?誰がてめぇなんかとナカヨシするかよ。」
    「犬飼も火に油を注ぐな。悪いが三人とも、準備に取り掛かってもらっていいか?」
    「了解。」
    「了解しました。」

    睨み合う犬飼と影浦─犬飼は終始ヘラヘラ笑っているだけであったが─を横目に氷見が女子更衣室へと消え、辻が犬飼を男子更衣室へと引きずり込んでいく。嵐の後の静けさとでも言おうか、ホールは一気に沈黙が充満した。
    二宮はもう一度溜息をつくと、イラついたままの影浦に向き直る。

    「影浦、たしかに犬飼はたまに何を考えているかわからないことがあるが、悪人というわけじゃない。あまり突っかかるな。」
    「…チッ。」

    大きな舌打ちを落とし、影浦は首の後ろをガシガシと掻く。

    「………てめぇらにはわかんねぇよ。」

    そして、二宮に聞こえないくらいの小さな声で、苦しみを吐き出すのだった。

    ◇◆◇

    「開店するぞ。」

    夕日が沈んでいき、夜が徐々に街を侵食してきた頃。二宮の店も、札を「OPEN」に変えて宿り木としての門を開いた。
    開店までの時間で、影浦に頼む仕事は粗方教え終わった。二宮の教え方の手腕もさることながら、やはり多少経験があることもあり影浦の飲み込みも早かったのだ。
    接客面はおそらく問題ない─が、二宮が気にかけているのは犬飼とのやり取りだ。もしお客様の前で揉めでもしたらと思うと、グラスを拭く手に少し力が入る。
    開店から少し経てば、毎週顔を見せる年配の男性がすぐに来店した。穏やかに店内を見回し、あまり見かけない顔にその視線が止まる。

    「…おや、新しい子かい?」
    「ええ、新人なのでご迷惑をおかけするかもしれませんが。」
    「いやなに、私が若い頃に比べればきっとしっかりしているだろう。たしかにこういうお店ではあまり見ない子だけど。」

    店内には落ち着いたジャズが小さく流れていた。チョイスは基本的に二宮と氷見がしている。おかげで、カウンターで二宮と男性が小さく話している程度では、男性に背中を向けて店の奥の方で在庫のチェックをしている影浦には聞こえない─はずだ。

    「………………。」

    それなのに、影浦は二宮と男性の方を向き、それから少しこちらを見つめて、ゆっくりと近づいてきた。二宮はまさか話し声が聞こえたのかという驚きと、何か迷惑なことを言わないだろうかという焦燥感に駆られる。

    「失礼、聞こえたかな。」
    「…いや、聞こえてはないっす。」

    男性が眉を八の字に曲げると、影浦は顔の前で手を振る。それから少しだけ姿勢を正して、小さく頭を下げた。

    「影浦っす、よろしくお願いします。」
    「…影浦くんか、よろしくね。」

    そんな影浦に、男性はふわりと優しく笑う。それを確認してから「じゃ、失礼します。」と言い、影浦はまた在庫チェックに戻っていった─が、正直二宮と、それからこっそり見ていた犬飼は面食らっていた。

    「とてもいい子じゃないか。」
    「…はい。」
    「いつか、彼の作ってくれるお酒が飲みたいな。」

    二宮の作ったカクテルを飲みながら、男性は楽しそうに笑う。当の影浦は二宮の驚きなど何処吹く風で、相変わらず真面目にボトルたちに向き合っているようであった。

    夕方が過ぎ、夜になればなるほど、宿り木を求める人は多くなる。つまり夜が更ければ更けるほど、二宮の店は多忙を極めていく。

    「犬飼、テーブルのお客様にマンハッタンを。」
    「了解です~。」
    「氷見、チェックを頼めるか。」
    「了解しました。」
    「辻、オイルサーディンを用意してくれ。」
    「了解です。」

    忙しくなるにつれ、二宮だけでなく、他のスタッフや影浦の手も必要になる。気がつけば在庫のチェックをしていた影浦もホールに戻り、スタッフの手伝いに回っていた。

    (次は…ゴブレットが要るな。)

    カクテルの種類は様々で、それゆえグラスもたくさんの種類がある。次のオーダーを確認した二宮は必要なグラスを思い浮かべるが、生憎自分の手近なものは全て出払ったところだった。
    バーカウンター内を見回してそのグラスの姿を認めるが、それは影浦の手元にちょこんと鎮座している。

    (影浦に取ってもらうのが早いか。)

    自分で取りに行ってもいいが、何せ背の高い二宮である。狭いバーカウンター内で移動をすれば、それなりに邪魔になることは目に見えていた。
    頼むのが手っ取り早い─そう思った二宮が「影浦、」と呼びかけようとする前に、影浦が瞳をこちらに向ける。

    「何が要んだよ。」
    「………………、」
    「?あ、名前で言うなよ、わかんねぇから。」

    影浦の言葉に、二宮は目を瞬かせる。
    自分は今、影浦の名前を呼ぶ前であったはずだ。少なくとも声には出ていなかった。視線だって完全に向いてはおらず、意識だけが影浦に向いていた。
    それなのに影浦は、二宮を見ていた。

    「?二宮?」
    「…お前の左手のところにある少し足の短いグラスを取ってくれ。容量が少し多いやつだ。」
    「これか?」
    「そうだ、ありがとう。」
    「おー。」

    目当てのグラスを受け取ってもなお、二宮の中の疑問は消えない。最初に来た男性の時と言い、今と言い、影浦という男はあまりに人の気配に敏感すぎる気がする。いや、気配というより、視線の方が近いだろうか。

    その後二宮は、少し余裕が出来る度に影浦を目線で追った。そして見れば見るほど、彼の立ち回りに疑問が生まれる。

    「水用意しましょうか。」
    「あら、いいの?お願いするわ。」

    「次のドリンクどうしますか。」
    「じゃあ次は─」

    「よければ食事のメニューもどうぞ。」
    「フードもあるの?せっかくだしちょっと見せてもらうわ。」

    お客様が影浦を呼ぶ前に、影浦はそちらを向いて提案をする。一人一人をよく見ていれば可能なのかもしれないが、今の状況ではそんな暇もない。
    それなのに影浦は確実に忠実に、お客様の要望を汲んでみせた。

    「またのご来店をお待ちしております。」

    氷見が綺麗に腰を折り、扉が閉まったところで、誰からともなく息を吐く音が聞こえた。最後のお客様がお帰りになれば、宿り木としての役目は終了だ。

    「お疲れ様。」
    「お疲れ様でした。」
    「お疲れ様で~す。」
    「お疲れ様です。」

    氷見は手早く掃除のために椅子を上げ始める横で、犬飼が辻に飲みの誘いを投げていた。辻がそれに応じるのは正直半々なのだが、犬飼は終業後必ず声をかけている気がする。
    影浦はといえば、氷見に倣い椅子を上げ、早々に掃除用具を手にしている。見かけによらず周りをよく見ている証拠であろう。

    「辻、このあと少しいいか。」
    「?はい。」
    「犬飼、氷見を頼む。」
    「は~い。じゃあひゃみちゃん、準備出来たら裏口で集合ね。」
    「うん、よろしく。」

    時刻は深夜1時─女性が一人歩きをするにはあまりに不向きな時間だ。そのため二宮、犬飼、辻のローテーションで、氷見を家まで送り届けている。

    「…お先。」

    氷見と犬飼が帰ったのを確認してから、影浦は更衣室へ入っていき、昼間に見たパーカー姿で二宮と辻に声をかけた。やたらと丁寧に掃除をしているように見えたのは、おそらく犬飼と更衣室で二人きりになるのを防ぐためだったのだろう。

    「影浦、また明日も頼むぞ。」
    「おー。」
    「影浦先輩、またよろしくお願いします。」
    「ん、色々教えてもらうかもしれねぇから、そん時はよろしく。」
    「はい!」

    ヒラヒラと手を振り、裏口から出ていく影浦を二人で見送る。どうやら初日は無事終えられたらしい。
    小さく息をついた二宮は、着替え終わったあとの辻をカウンターに座らせる。そして二つのグラスに烏龍茶とジンジャエールを注いだ後、自分もひとつ開けた隣に腰かけた。

    「お前には、聞きたいことがあって残ってもらった。」
    「影浦先輩のことですか。」
    「察しが良くて助かる。」

    グラスに口をつけると、シュワシュワとした刺激と優しい甘みが口の中に広がる。辻もそれに倣いグラスに口をつけ、それから小さく言葉を紡いだ。

    「…自分が知ってるのは中学校の頃の影浦先輩ですし、それ以降のことは本当に噂程度のものになりますが、」

    辻はそう前置きしてから、言葉を選びながら影浦の学生時代についての話を始めた。

    「自分が影浦先輩に会ったのは、入学してすぐの頃です。その頃にはもう…悪い方に有名で、俺も怖い先輩なんだって思ってました。でも、ちょっとした憧れもあって。」
    「憧れ?」
    「…その……歯と目が、恐竜みたいだなって……」
    「……続けろ。」

    辻は一見クールだが、その実甘いものが好きだったり恐竜が好きだったりと、今でも童心を携えている男である。中学生の頃なら、それに拍車が掛かっていてもおかしくはない。

    「部活も違いましたし、特に接点もなくしばらくは過ごしてました。けど夏休み前に、ちょっとした事件があったんです。」
    「その事件の内容は。」
    「……俺、夏休み前最後の日に…教室で女子に囲まれまして。」
    「……………………。」

    何となく事件の内容がわかったと、二宮は再度グラスを手にする。辻は極度に女性が苦手で、氷見や以前ここに勤めていた女性スタッフとは話せていたが、初対面や関わりのない女性とは目を合わせるのもやっとなのだ。

    「なんでも、そのグループの一人の子が俺に好意を持ってくれていたみたいで…『夏休みにこの子が遊びたがっているから連絡先教えなさいよ』と囲まれたんです。」
    「ああ、よく見る光景だな…。」

    もしここに影浦がいれば「いや、全然よく見る光景じゃねーから。」と突っ込んでくれたのだろうが、生憎彼はもう帰路についている。そのためここには、飽きるほど女性にアタックされて嫌気がさしているイケメンと、女性が苦手なのにイケメンだと囃し立てられるイケメンしか残っていなかった。

    「連絡先の交換は構わないんですが、お出かけに誘われたところで俺は何も出来ませんし…正直その場で断りたかったんです。けど、その子の友達に囲まれてると、どうしても断りづらくて……。」

    「そうして困ってたら、たまたま生徒指導で居残りをさせられてた影浦先輩が、うちの教室の前を通ったんです。」

    ◇◆◇

    「連絡先くらいいいでしょ?ほら、スマホ出して!」
    「いや、えっと、」

    それは、辻の今までの人生の中でも五本の指に入るピンチだったと思う。女子に囲まれてしまえば、自分はもうどうにも動けない。
    せめて先生でも通りかかってくれれば、早く帰れとこの子達を散らしてくれるのに─そう思って廊下の方にしきりに意識を向けていた。
    そしてそれが功を奏したのか、辻は廊下を歩く猫背にいち早く気がついたのだ。

    (あれは…たしか影浦先輩!)

    入学当初から、新入生の間で悪名の高い彼が、だるそうに歩いていたのだ。正直影浦に対する恐怖心もあったが、それよりも目の前に群れる女性たちへの恐怖心がそれを上回った。

    (なんかこう、なんでもいいから、助けてください…!)

    今ここで大声を出せば、うるせぇぞ!と牙を向けてくれるだろうか。それとも名前を呼べば、見てんじゃねえぞ!と睨んでくれるだろうか。そんなことを悶々と考えながら辻は影浦を熱心に見つめていた。
    しかし普通であれば、そんな視線に気がつくはずがない。

    ─彼が、普通の人間と同じであれば。

    「………チッ、」

    一度教室を通り過ぎた影浦だったが、舌打ちを一つしたかと思うと、乱雑な足取りで踵を返し、それから教室の扉をガラッと開けた。

    「おい!」
    「ひっ……!?」

    影浦の声に、数人の女子生徒が飛び上がる。しかしそんなことは全く気にせず、影浦は「あー、」と頭をガシガシかいたあと、辻を見ながら廊下の方向を顎でしゃくった。

    「待たせてんじゃねーよ、来い。」
    「!は、は、はいっ!ちょっとごめんね!」
    「あ、ちょっと…!」

    好機とばかりに、辻は自分のバッグを掴むと影浦の待つ廊下に駆けた。待たせるも何も、辻と影浦はこれが初対面なので、約束など何も無いのだが、それを女子たちが知る術もない。

    「ありがとうございます!影浦先輩!」
    「…んで名前知ってんだよ。」
    「先輩は……その、有名なので。」
    「チッ。」

    突っかけサンダルのように履いた上履きがぺちぺちと廊下を叩く。呆れているものの、辻に対して怒っているような様子ではなかった。

    「俺、辻と言います。」
    「…おー。」
    「本当に、ありがとうございました。」
    「これからは自分で何とかしろよ。」
    「はい!」

    影浦は辻に手を振ると、二年生の下駄箱へと消えていった。昇降口には体格のいい少年が立っていたから、きっと彼と帰るのだろう。

    (…なんだ、いい人じゃないか。)

    その日から影浦は、辻の中でちょっとした憧れになった。

    ◇◆◇

    「…ということで、それ以来影浦先輩と少し仲良くなりまして、お店にも呼んでもらったりしたんです。」

    中学時代の話を終えた頃、辻の烏龍茶は三分の一ほど減っていた。グラスを力強く握っているのを見ると、余程その記憶が怖いのだろうと思える。

    「なるほど…中学時代の影浦は、そんなに素行が悪いわけではなかったんだな。」
    「そうですね、怖いという噂はありましたが、そこまで大きな事件はありませんでした。」

    辻のエピソードは、高校時代に問題があるということを裏付けるものであった。東からも「高校時代に暴力沙汰を起こしたことがある。」と聞いている。

    「あ、でも…」
    「でも?」
    「影浦先輩について、ちょっとした噂があったんです。」
    「噂?」

    役目を終え溶け出した氷が、辻の烏龍茶の中に混ざっていく。同じ液体という物質─けれども明確に違うものが、強制的に溶けだして、混ざりあっていく。

    「…人の心が、読める、と。」

    ─カランと、氷が音を立てた。
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    ミクシゲ

    DONEエイプリルフール893パロのニノカゲ(未満)です!とある事件から、普通の高校生カゲが893の組長宮と同居することになる話ですが、それの馴れ初め的な話です。続きは出来たら書きます。
    敵モブが出るのと、その敵モブが犯罪を仄めかすようなことを言っているので、そちらだけご注意ください。
    組長の恩返し その日は生憎の雨だった。
     しかし、ありがたいことに店は盛況で、スマホには、学校帰りに買い物をしてきてくれ、という連絡が入っていた。母からのメール通りに、影浦は学校帰りにスーパーに寄って、ディナータイムに間に合うようにと、普段はあまり通らない近道をする。室外機と、業務用のゴミ箱がひしめき合う、そんな道に──

    「……あ?」

    ──その、美しい男は、死んだように眠っていた。

    ◇◆◇

    「ただいま」
    「おかえり雅人、おつかいありがとね。レシートはいつも通りテーブルの上にお願い」
    「おー」
    「雅人、ちゃんと学校行ってっかー?」
    「行ってるっつーの、あんたらも飲みすぎんなよ」

     家の一階部分の店に顔を出し、母にエコバッグを渡せば、母はニッコリと笑ってそう言った。マスクを外して母に返事をしながら、もう既に出来上がっている常連客に会釈をして、影浦は再度マスクをする。それから、店の引き戸に手をかけて、半分身体を出したところで、ふと母を振り返った。
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    ミクシゲ

    MAIKING人外宮×町の人間浦の出会いとくっつくまでのお話です。
    楽しくてたくさん伏線張ったらわかりづらくなっちゃってます、すみません。
    後日修正した後に、後日談と申し訳程度のすけべを加筆して支部に投稿予定です。
    SEや家族についての捏造や、未遂にすらなっていない程度の自死表現があります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
    優しく溶かして飲み干してはあ、と息を吐けば、それはあっという間に真っ白な雪の中に紛れていった。
    山を登れば登るほど、しんしんと降っていた雪は表情を変えて、びゅうびゅうと頬に刺さる。呼吸をすると気管さえ凍る気がして、少年はつい着物で口元を覆った。

    少年は生来、変わった力を持っていた。人間から向けられる感情を、肌で感じることが出来たのである。
    一見便利なそれだが、本人が被る負担は大きく、また人間離れした特性のせいで村の人々からは嫌煙されていた。
    少年の実家は町の食事処である。しかしその食事処が気味の悪い少年を抱えていると知れれば、きっと経営が傾いてしまう。
    また少年には兄がいた。その兄は勤勉で、食事処を継ぐために日々勉学に励んでいた。誰にでも優しく朗らかな兄は、無論少年にも優しく、友人も多かった。しかしそんな兄の弟が"これ"では、きっと兄の交友関係に支障が出る。
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