組長の恩返し その日は生憎の雨だった。
しかし、ありがたいことに店は盛況で、スマホには、学校帰りに買い物をしてきてくれ、という連絡が入っていた。母からのメール通りに、影浦は学校帰りにスーパーに寄って、ディナータイムに間に合うようにと、普段はあまり通らない近道をする。室外機と、業務用のゴミ箱がひしめき合う、そんな道に──
「……あ?」
──その、美しい男は、死んだように眠っていた。
◇◆◇
「ただいま」
「おかえり雅人、おつかいありがとね。レシートはいつも通りテーブルの上にお願い」
「おー」
「雅人、ちゃんと学校行ってっかー?」
「行ってるっつーの、あんたらも飲みすぎんなよ」
家の一階部分の店に顔を出し、母にエコバッグを渡せば、母はニッコリと笑ってそう言った。マスクを外して母に返事をしながら、もう既に出来上がっている常連客に会釈をして、影浦は再度マスクをする。それから、店の引き戸に手をかけて、半分身体を出したところで、ふと母を振り返った。
「母さん、救急箱ってどこ」
「救急箱なら、食器棚の下の引き出しに入ってるわよ」
「ん、あんがと」
食器棚の下の引き出し、と、影浦は脳内で反芻しながら店を出ようとする──しかし、引き戸を閉めきらないところで、雅人、と母に呼ばれた。
「……何拾ってきたか知らないけど、元気になったらちゃんと元の場所に戻してきなさいよ。最近、あんまり治安が良くないんだから」
「……わぁってるよ」
母の忠告にヒラヒラと手を振って、今度こそ引き戸を閉める。そうすると、幾分かどんちゃん騒ぎが遠くに感じられた。
影浦は一つ息を吐くと、家の住居部分に続く階段へ足へ向ける。そこには、変わらず死んだような顔をした男がぐったりと座り込んでいた。
その男は影浦よりも長身で、なおかつ、よほど身体を鍛えているのか、かなりの重みがあった。
男と肩を組むように身体を滑り込ませ、階段をゆっくりと上がっていく。影浦の体力が尽きるのが先か、影浦の自室へ着くのが先か、という具合の重労働だったが、僅差で影浦の体力に軍配が上がった。
男のスーツは泥だらけだったが、致し方ないと、影浦は自分のベッドに男を寝かせる。しかし、男の長い脚は、高校生が使うベッドには収まりきらず、影浦はほんの少しだけイラッとした。
リビングに向かい、お目当ての救急箱と、ペットボトルの水、それから濡れたタオルと洗面器を用意して、大荷物で自室に戻る。男は、未だ眠っていた。
まず先に、汚れたスーツを脱がして、ワイシャツと下着、靴下だけにする。殴られた痕こそあるものの、銃痕や刺傷はないようで、影浦は人知れずほっと息をついた。そんなものがあれば、さすがに警察に連絡をする必要が出てしまうが、この街に住まう以上、それは避けたかった。
身体を綺麗に拭いて、大きな傷から手当をしていく──すると、男の眉間の皺は徐々に薄まって、より顔立ちが端正に見える。
「……ん」
そうして、男の顔を眺めていると、不意に男が身じろいだ。その瞬間、影浦は一歩身体を引くと、両手を上げて、男が起き上がるのを待つ。
「…………」
男は静かに目を開くと、目だけで影浦を一瞥し、それからゆっくりと身体を起こした。そして、影浦の頭から爪先までを警戒しながら観察し、その薄い唇を少しだけ開く。
「ここは」
「俺の部屋つってもわかんねぇか、お好み焼き屋かげうらの2階」
「なぜ」
「三門市立第一高校の近くの路地裏で、あんたが気を失ってた。雨だったし、若干外傷もあったから、とりあえず連れて帰ってきた。それ以上の他意はねえよ」
「……やけに冷静だな」
短い男の言葉に、淡々と答える影浦に、男は少し訝しげな顔をしてそう言った。しかし、影浦はそれに焦ることもなく、肩を竦めてみせる。
「そりゃまあ、ここに住んでりゃ、転がってる人間の一人や二人見るだろ。何せ、ミカドはヤクザが締めてんだからよ」
影浦が住まうミカド町は、昔から極道──いわゆるヤクザが締める町だった。特に、飲食店はヤクザとの関わりが深く、お好み焼き屋かげうらを営む影浦家も例外ではない。そのため、影浦は普通の高校生よりも裏の世界に詳しく、また、ごく稀に店に来る、怪我をした構成員の手当をすることもあり、この男を見つけた際も冷静だったのだ。
「だから、別にアンタが名乗る必要はねえよ。なんであんなとこに転がってたのかを説明する必要もねえ。そっち側の人間に深入りする気はねえからな。俺はただ……」
「ただ?」
急に口を噤んだ影浦に、男はつい聞き返す。しかし、影浦は首を振ると、なんでもねえ、とだけ言って、すくっと立ち上がった。
「お前、腹減ってるか?」
「……そういえば、少し」
「なら、飯持ってくっからちょっと待ってろ」
影浦はそう言い残し、部屋を出ていく。
残された男は、自分に施された手当てを見て、思いのほか自分が外傷を負っていたことに気がついた。手足の動きを確認してから、ゆっくりと起き上がり、部屋の中を見回す。そして、薄っぺらいスクールバッグに目を止めた。
中を見ると、小さな筆箱と、ぐしゃぐしゃになったプリント、板書が雑に書き殴られたルーズリーフがあるだけで、教科書類は見当たらない。完全置き勉主義のようだった。
そこまで見たところで、階段を上ってくる足音がして、男は静かに〝目的のもの〟だけを抜き去ってベッドへ戻る。男が元の位置に戻ったところで、トレーを手にした影浦が戻ってきた──が。
「待たせたな」
「……それは」
「?お好み焼きだけど」
「……その、なんだ、用意してもらって悪いが、一応怪我人で……」
「?怪我してんなら余計にしっかり食った方がいいだろ?」
「……そう、だな……」
──普通の高校生より裏社会に詳しい影浦は、成人男性の胃袋事情については無知であった。
◇◆◇
「んじゃ、気をつけろよ」
「ああ、洗濯までさせて悪かったな。あと、飯もありがとう」
「いいってことよ」
結局男は、お好み焼きを完食した後に、影浦が簡単に洗濯をした──泥汚れや血の汚れを落としただけの──スーツを身にまとい、夜中の内に去っていった。
名前も、素性も知らない。なぜあの路地裏に転がっていたのかも知らない。けれど、それでよかった。元気になって、また歩けるようになるなら、それでいい。
「ありがとう。例は必ず」
「……んじゃ、またお好み焼き食いに来てくれよ。よく食うやつ連れてきて、売上に貢献してくれ」
「ああ、そうさせてくれ」
男が微笑むと、影浦はくすぐったそうに腕を摩って、そして追い払うような仕草をした。男はそれに笑うと、身を翻して、もう振り返ることなく夜闇に消えていく。
「……アイツも、どうせどっかの組の構成員だよなぁ」
男が完全に見えなくなってから、影浦は外壁に身を預け、ぼそっとそう呟いた。
彼の顔に見覚えはなかった。あれほどの美形なら、忘れているはずもないだろう。ということは、ここら一帯を締め上げている組の者ではない。きっと、他所のシマから偵察に来て、ここらの組の構成員に襲われたと考えるのが妥当だ。
「……その割には、真っ直ぐ刺さってきやがったな」
影浦は〝彼が飛ばしてきたもの〟を思い出して、無意識に首筋を摩る。
物珍しい感覚に、いつか、また会えたらと、そっと願いながら、影浦は自宅へと戻っていった。
◇◆◇
──それから一週間ほど経ったある日の夜のことであった。
「あ?なんだ?」
一階の店舗から聞こえてきた大きな音に、影浦は読んでいた漫画を閉じて身を起こした。
酔っぱらいの客でも暴れているのだろうかと、自室を出て店舗の様子を見に行く。すると、そこには、どう見てもカタギではない連中と──
「っ……父さん!?」
出血する腕を押さえる父と、そんな父の背中に庇われる母の姿があった。
「あ?ンだこのガキ」
「ッ……!」
「雅人!いいから部屋ァ戻れ!」
「いや、ちょうどいいな……おいガキ、ちょっとこっち来い」
連中から〝刺さる〟殺気と威圧感に、意図せず膝が震える。しかし、ここで逃げるという選択肢は影浦の中にはなく、一歩一歩をゆっくり踏み出して、騒ぎの中心に近づいていった。
「お前、今いくつだ?」
「……18、ッス」
「ほう?」
両親を脅していた構成員は、愉快そうに目を細めると、両親に向けていたナイスを、一転して影浦の首筋に向ける。そして、影浦の両親に向かって、煽るように怒号を飛ばした。
「おいおい!息子がいい時期じゃねえの!ンなに反抗するようなら、貰ってってやってもいいんだぜ?」
「なっ」
「高校生なら、臓器も綺麗だろうなぁ。それに、世の中にゃあ物好きっつーもんがいるからな。よく見たら面は悪くねえ……良い値で売れると思うぜ?」
「っ、待って!雅人は関係ないでしょう!連れていくなら私を──」
「てめぇみたいな老いぼれじゃ金になんねぇんだよ!黙ってろ!」
「が、っぁ……!」
「っ、母さん……!」
影浦を庇おうと前に出た母が他の構成員に突き飛ばされ、思わず身体が動く。その際に、少しばかり肌にナイフが触れて傷がつく──が、今の影浦には、痛みはよくわからない。
「なあガキ、お前が俺たちと来れば、この老いぼれ2人の命は助けてやる」
「……てめーらみてぇな無法モンの言葉が信じられるとでも思ってんのか」
「カタギには嘘はつかねぇよ」
「……どの口が言ってんだか」
──身体的な痛みはわからない。けれど、影浦に刺さる感情はよくわかった。
影浦は生まれつき、人の感情を、感覚として捉えることが出来る能力がある。あの日拾った男について興味を持ったのも、その特殊な能力のせいであった。
今、影浦に刺さっているのは、揶揄や嘲笑といった、影浦を馬鹿にするようなものばかりで、そこから誠意は感じられない。たとえこの場で「2人の命は助ける」と言ったところで、明日には命を奪いに来るかもしれなかった。
(……けど、今俺が断れば、ここにいるヤツら全員皆殺しだ……なら、俺が着いていって、その隙に他の奴らが逃げれば……)
影浦は拳を握り、ナイフを持つ男を見上げる。
死ぬのは怖い。けれど、この男たちの真意を図れる自分が、この状況で唯一のキーポイントになると思った。
「俺は──」
お前たちに着いていく。意を決して、そう言うつもりだった。
しかし。
「っ?おい、ンだてめぇ」
──ガラガラガラ、と引き戸が開いて、一人の長身の男が、取り込み中の店内に入ってきた。
その男は、ナイフを持った男に凄まれても表情一つ変えず、静かに店内を見渡している。
(……?あれ、アイツ──)
その男に、影浦は見覚えがあった。たしか、数日前に影浦が拾って、少しばかり世話をした男だ。
数日前よりまともな身なりをしていて、一瞬わからなかったが、その精悍な顔立ちを、客商売で育ってきた影浦が見間違えるはずがなかった。
「おい、シカトしてんじゃねえぞ。てめぇどこの組のモンだ」
他の構成員がその男に近づき、見上げるようにしてメンチを切る。しかし、それが目に入っているのか、いないのか──おそらくは、目に入っているのに無視をしているのだろうが、構成員には目もくれず、ナイフを持った男を一瞥した。
「……そのガキはカタギだろう」
「あ?だからどうした。コイツはウチのシマの奴だ。ウチのシマの奴なんだから、カタギでもなんでも、どうしようと勝手だろうが!」
「……そうか」
喚き立てるその男に、長身の男は溜息を一つ吐くと、高い靴の音を立てながら、ナイフを持った弟に近づいていく。そして、ずっとポケットにしまっていた手をゆっくりと出して──
「ならば、お前たちを潰すまでだ」
「なっ──」
一瞬の間で、ナイフを持った男の腕をひねりあげ、床になぎ倒した。
「っ、野郎……!」
その場のリーダーが制圧されたのを皮切りに、周りの構成員たちが一斉に武器を取り出す。
その溢れ返った殺気に、影浦は気圧されそうになる──が、そこを、誰かが抱きとめた。
「大丈夫ですか、お気を確かに」
「っ、誰だ、てめ……」
「安心して、あなたに危害は加えません」
七三分けのような髪型のその黒髪の青年は、それだけ言うと、影浦を支えたまま、ゆっくりと影浦の両親の方へと近づく。そして、両親に影浦を預けると、腰からスラリと日本刀を抜いた。
「少し騒がしくします、すみません」
日本刀を持った青年は、影浦家3人を背中に庇うようにして、刀を構える。そして、迷うことなく敵の方へと突っ込んでいった。
長身の男とはと言うと、サイレンサー付きの小銃を手にしているようで、なるべく店内に傷がつかないようにして、敵対する構成員たちを無力化していく。
それは、血飛沫の飛び交う、凄惨な光景だった──それなのに、影浦はどうしても。
「………………っ」
あの男から、目が離せなかった。
◇◆◇
数時間か、それとも数分だったか。
気がつけば、店内は静かになってきて、影浦の両親を襲っていた構成員たちはズルズルと運ばれていった。結果的に影浦たちを守ってくれた長身の男と、日本刀の青年は、その後金髪の青年と落ち合うと、何やら話をして、日本刀の青年は車に乗って去っていった。
「もうすぐ救急車が来ますから、お父様とお母様はそちらに」
金髪の青年は人の良さそうな笑みを浮かべて、両親にそう話しかけた。まるで、接客をするかのような物腰の柔らかさだったが、影浦に刺さる感情がひどく複雑なもので、影浦は少し、苦手な印象を受ける。
「あ、あの、雅人は」
「雅人くんは、一時的に我々が保護しましょう」
父の止血をしながら、母が影浦の身を案じると、長身の男が、青年と両親の間に割って入る。
さっきの今で、両親が影浦の身を他人に預けるとは到底思えなかったが、両親は何やら訳知り顔で、よろしくお願いします、と頭を下げた。
──その数分後、金髪の青年の言う通り救急車が来て、両親と金髪の青年がそれに乗り込んでいった。
残された影浦はというと、長身の男に言われるがまま、車に乗りこみ、車はどこへやらか走り出す。
「……さてと」
車が走り出してしばらくしたところで、男は身体を向き直し、影浦に手を伸ばす。
先程までナイフを突きつけられていたこともあって、少し身が硬くなったが、男から飛んでくる感情に不快なものはなく、影浦は、抵抗らしい抵抗もしなかった。
「……痛くはないか」
「……あ?」
「ここだ。少し切れている。おそらく、先程の男の刃先が少し当たったのだろう。今、手当をしてやる」
男は影浦の首筋を優しく撫でると、静かに消毒をして、小さなガーゼを当ててくれた。そして、他に目立った外傷がないことを確かめると、安堵するように笑った。
「……あ、の」
「どうした」
「……なんで、アンタが助けてくれんだよ」
「先に助けてくれたのはお前だろう」
「だからって……!俺は、ただ、」
「ただ?」
言い淀む影浦に、男は優しく聞き返す。
あんなことがあったから混乱しているのか、それとも、男から飛んでくる感情が優しすぎるからか、それとも、その両方か。影浦は、あの日言い淀んだ言葉のその先を、戸惑いながら口にした。
「俺は、人の感情がわかんだよ。俺に向けてくる感情が、肌にチクチク刺さる。昔っから、転がってる奴らが向けてくる感情が痛くて、ウザったくて、だから、いつからか、なんとなく助けてるだけなんだよ。助けてやれば、俺にうざってぇもんは飛んでこねえから。 別に、善意なんかじゃねえ。俺の自己満足だ。だから、その、申し訳ねえ、っつーか」
わざわざ、この男が助けに入って、ここまで優しくしてくれる意味と、この男への感謝と謝罪が入り乱れて、影浦は頭を掻きむしる。
しかし、男は影浦の態度に何を言うでもなく、少し逡巡した後に──静かに口を開いた。
「俺は、とある女を探してる」
「……は?」
何だ急に、と言いたげな影浦を目だけで制し、男は話を続ける。
曰く、その女は、男の組の重要な構成員だった。しかし、ある日を境に姿をくらまし、その行方が未だわかっていない。
捜索のエリアを広げるには、男の組のシマを広げていくのが最も効果的で、なおかつ都合がよかった。そのため、このミカド町にも、そう言った理由で足を運んだという。
「あの日は1人で歩いてたんだが、この町の組の奴らに目をつけられてな。体調が優れねえこともあって、少し格好悪ぃとこ見せちまった。だがまぁ、頭が期せずして狙われたってことで、俺の組の奴らも殺気立っててな、そんで端から潰してこうと思ったら、あそこに立ち会ったってわけだ。何もお前を助けに来たわけじゃない。だから、影浦が申し訳なく思う必要もねえ」
男がそう言うと、影浦は何か言いたげな表情を浮かべる──が、そのすぐ後に、その金色の瞳を見開いて、男の顔を未確認飛行物体でも見るような顔で見た。
「……あ!?待て、お前ちょっと待て、今なんつった?」
「?何がだ」
「お、俺の組?……つーか、頭……!?」
「ああ、そういや、言ってなかったか」
何かとんでもなく嫌な予感がする──そう思ったつかの間、車が止まり、運転手が後部座席に顔を覗かせた。
「頭!お待たせしやした、着きやしたぜ!」
「ああ」
「は?待て、着いたって、どこに、」
男が影浦の問いに答える前に、後部座席の扉が開き、男が長い足で車を降りる。影浦も、扉を開けた構成員に促されるまま車を降りて──絶句した。
「……なん……っだ?この、デケー家……」
「俺ん家だ」
「……お、前、何モンなんだよ……」
影浦の家の何倍もある大きな日本家屋に、影浦はつい、男の顔をまじまじと見てしまう。男は、影浦のまん丸い瞳にくすりと笑うと、改めて身なりを整えて、影浦の顔を見た。
「俺は二宮組の組長、二宮匡貴だ。今日からしばらく、お前をここで匿うことにした。よろしくな、影浦雅人」
男──二宮はそう言うと、ポケットに手を突っ込み、歩を進めると、目だけで着いてこい、と合図した。
影浦はしばらく呆然としていたが、やがて我に返って、慌てて二宮の背中を追いかけた。
(……?つーか、ンでこいつ、俺の名前知ってんだ?)
──こうして、二宮組組長の二宮と、ヤクザに匿われた高校である影浦の、愉快な生活が始まるのであった。
◇◆◇
「二宮さん、どうしたんです?この学生証」
「ああ、恩人からくすねてきた」
「なるほど……?」
「辻ちゃん、首傾げながら納得しないで?……それで、この子をどうしろと?」
「……そいつの住む町一帯を牛耳る奴らが、近頃不穏な動きを見せている。そいつの家は割と盛況な飲食店なんだが……もしかしたら、シノギを上げるために襲って金銭を奪う、ということもありえるかもしれない」
「それなら、自分と何人かで見張っておきます」
「ああ。頼んだぞ、辻」
「はい」
「…………♪」
「……犬飼、何を笑っている」
「いーえ?けど二宮さん」
「なんだ」
「この子守るのって、ホントにそれだけの理由ですか?」
「……何が言いたい」
「一目惚れ、とか?」
「……そうだと言ったら、お前は俺に着いてくるのをやめるか?」
「まさか!俺はずっと二宮さんに着いていきますよ」
「……まあ、その、なんだ……美味いお好み焼きが食えなくなるのは、困るからな」
「ふふ、そういうことにしておきましょうか」