お題「忘れられた指輪」「研人、これやる」
帰り道で拳也が投げてよこした小さな何かを受け取ると、装飾のない少しくすんだ銀色の指輪だった。
「なにこれ」
「ばあちゃんの形見」
「はぁ!? そんなの貰えないよ」
慌てて指輪を返そうと差し出す。
「貰ったん忘れててん。昨日掃除しとったら出てきた」
それはオレがこれを貰える理由にはならず、差し出した手を引っ込めずにいると、拳也はその手を取って指輪をオレの左の人差し指にはめた。
「子供の頃、なんや母さんが可哀想でな。大人になったらオレが結婚したろ思っとった。それをばあちゃんに言うたらその指輪くれたんや。もし母さんやなくても、将来拳也があげたいいう人ができたらあげたらええ言うてな」
そう言って指輪をはめたオレの手をぐっと押し戻した。
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