とある管理官の記録【2回目】
時が巻き戻った。
どうやらこれは夢ではないらしい。
私は敬愛する父のみならず、唯一無二のバディである理人までもを失い、空虚な抜け殻のまま生を終えたはずだった。
だが、次に目を覚ました時には過去の、理人が新たなバディを組むための手続きを行った日に戻っていた。
私を見つけ、嬉しそうに駆け寄る理人は生きて存在している。
亡くしたはずの相棒の元気な姿に、ここからなら彼の運命だけでも変えられるのではないかという期待が過ぎる。
かつて経験した出来事を振り返るように続く毎日は、思いの外悪くない。
これがやり直すチャンスなのだとしたら、今度は理人を失ったあの瞬間を迎えないようにしなければいけない。
やってくるタイムジャッカーはわかっている。
そうして迎えた事件の日は、先手を打てたことで理人を失うことなく乗り越えられた。
だが、事件は多発し、日を追うごとに任務の過酷さも増していく。
日に日に疲弊していく理人は、それでも自分の仕事に誇りを持っているようだ。
そんな理人を私は送り出すことしかできない。
結局、そう遠くない先で理人は任務中に不意をつかれ、命を落としてしまった。
【3回目】
繰り返している。
戻る日時はやはり、理人が新たな隊員とバディを結成する日の朝のようだ。
タイムワープの技術はあれど、タイムリープを行う技術なんてものは、この世界には存在しない。
それが何故今私の身に振りかかっているのだろうか。
繰り返す日々は変わらない。
だが、先を知る私の行動が変われば、それに合わせて変化が起こることはわかった。
前回は理人に無理をさせてしまった。
ならば彼を万全な状態に保つことができれば、想定外の死は回避できるのではないか。
首を横に振る理人をなんとか説き伏せて、一時的に休息を与えることに成功した。
だが、事態は理人の回復など待ってはくれない。
事件が増えたことで、TPA本部はすっかり手薄になっていた。
本部に現れたタイムジャッカーに対処するため、理人は一人飛び出し、そうして命を落としてしまった。
【7回目】
どうしても、理人が死ぬ未来を変えることができずにいる。
前回の理人は新たなバディである真白ノイを庇って命を落とした。
真白ノイを庇って命を落とす可能性があるのなら、彼をバディにしない方が良いのではないか。
そのくらい大きな変化が、理人を生かすためには必要なのではないか。
そう考えて、管理官の権限で理人のバディを変えた。
だが、真白ノイの代わりにとバディに置いた、理人に次いで実力があるはずの隊員は使い物にならなかった。
そのせいで、本来理人が命を落とすはずだった事件に至る前に、バディを庇った理人は命を落としてしまった。
【12回目】
本部に襲撃してきたタイムジャッカーと戦う理人は、今度は私を庇って命を落とした。
私を守る必要などなかったというのに。
事切れる寸前、良かったと安堵したように笑う理人に、私は何もできない。
この世界では、肩書きも権限も何の役にも立たないのだ。
どうして私は、あの日にしか戻ることができないのだろうか。
かつての自分であれば、こんな結末を迎えることはなかったはずだというのに。
【28回目】
強硬手段ではあるが、理人を閉じ込めることにした。
どうして、としきりに問いかけてくる理人に少し胸が痛む。
だがこのまま囲い続ければ、理人を失うことはない。私の元で、このまま生きてさえいてくれればいい。
だが、真白ノイの手で助け出された理人は再びタイムジャッカーとの戦いに身を投じ、その先で命を落とした。
【47回目】
やはり、真白ノイという存在は理人を生かすための障害になるのではないか。
そう考えて、何度も違う人間を理人のバディ置き、理人をソロにすることも試した。
だがそれは理人の死を回避するどころか、早める要因にしかならない。
結局、あの日を越えるためには真白ノイでなければはらないのだ。
あの日を越えても先は長くない。
最初からそうなる運命であるかのように、理人は命を落としてしまう。
それでも、あの日すら越えられないのでは意味がない。
少しでも長く理人が生きるために、真白ノイがバディであることは必要なことなのだろう。