理人とバディを結成したノイは、管理官であるナハトにも挨拶をするため、理人と共に管理官室を訪れていた。
「本日付で配属となりました、真白ノイです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
ちらりとノイを視界に入れたナハトは、表情を動かすこともなくそう答える。
とても会話が弾みそうな空気はではない。
どうしたものかとノイが考えていると、ナハトは静かに席を立ち、二人の元に歩み寄ってきた。
そのまま握手を交わすでもなく、頭からつま先までノイを眺めるナハトに、ノイは少し眉をひそめる。
いくら上官でも、少々無遠慮ではないだろうか。
「……あの、何でしょうか」
「いや、理人の新しいバディはどんな隊員だろうと思ってね」
ふむ、と小さな声を発したナハトは、ノイの隣で二人を見守っていた理人の肩をぐい、と抱き寄せる。
次の瞬間、先程まで無表情だったはずのその顔には、挑発的な笑みが浮かんでいた。
「理人は私が直々に教え込んだ隊員だ。戦い方も、それ以外も」
「あ、暁さん!ノイに何を……!」
慌てたような反応で理人がナハトを見上げる。
だがナハトの指が、制服に隠れた筋肉をなぞるように理人の肩を撫でると、理人はぴくりと身体を震わせて黙り込んでしまった。
そこには二人だけの、暗黙のルールがある。
それがノイには少し面白くなかった。
「君に、理人のバディが務まるかな?」
ピリ、と緊迫した空気が流れる中で、ノイはナハトから目線を外せない。
今目をそらしてしまったら、ナハトに負けてしまうような気がしたのだ。
これからは理人のバディは自分だ。例え最強と言われた相手であっても、負けるわけにはいかなかった。
微動だにしない二人の間で、理人だけがハラハラと二人の動向を伺っている。
先に視線を和らげたのは、ナハトの方だった。
「冗談だよ。君も素質のある隊員だと聞いている。活躍に期待する」
「……はあ」
理人を解放したナハトは、そのまま自席へと戻っていく。
「話は終わりだ。理人、このまま残ってくれ。次の任務について話がある」
「わかりました。ノイ、先にミーティングルームに戻っていてくれ」
「了解、です」
部屋を後にしたノイは立ち止まり、閉ざされた管理官室を見る。
一度外に出てしまえば、中のやり取りは少しも聞き取れなかった。
「……冗談って、それこそ冗談でしょ」
ノイはドアの向こうを目掛けてぼそりと呟く。
あの目のどこに、冗談があったというのだろう。
ノイに見えたのは、理人に対する底なし沼のような執着だけだ。
理人には巧妙に隠しているようだが、ノイに敢えて気づかせたのは、おそらく牽制だろう。
どうやらノイは、とんでもない相手とバディを組んでしまったらしい。
「まあ、負けるつもりはないけど」
これから先、隣に立つ権利があるのはナハトではなく自分なのだから。
ノイは気を取り直し、ミーティングルームへと戻っていった。