「こんな時間まで、精が出るなァ」
静かな研究室で研究に没頭していたクラレンスは、気配もなくひょこりと顔を出したアルフレッドに、飛び上がりそうになった。
「お前……いつの間に」
「そう毎日遅くまで根を詰めて、神様に近づけるもんかねェ?」
最近のクラレンスの様子を知っているかのようなアルフレッドの口振りに、クラレンスは眉を顰める。
最強のホムンクルスを生み出すためのクラレンスの研究は、最近行き詰まっていた。次の段階に進むためには何かが足りない。それが見つからないまま、クラレンスは時間を忘れて文献を漁り、実験を繰り返していた。
集中が途切れると、身体に溜まった疲労を実感する。だがそれでも、クラレンスは止まるつもりはなかった。
「研究の邪魔だ、帰れ」
「そうだ、俺がここに来るのもいいが、たまには学者さんが俺を訪ねてきてくれてもいいんじゃないか?」
「おい!」
アルフレッドは相変わらずクラレンスの話を聞かない。良い事を思いついた、というような顔でクラレンスの腕を引き立ち上がらせたアルフレッドは、そのままクラレンスを連れて研究室を出る。
「待て、どこへ連れて行くつもりだ」
「夜の散歩ってところだな」
「誰かに見られたらどうする!」
クラレンスの静止を気にも留めず、アルフレッドは歩き続ける。
常闇と言われるファンタスマゴリーの夜は深い。真っ当な人間であれば、夜中の街を歩こうなどとは考えないだろう。そんな人気のない街中であっても、誰が見ているかわからない。密かに手を組んでいる二人が共にいるところを誰かに見られることだけは避けたいところだ。
だが、久しぶりの外の空気は、籠もりきりだったクラレンスには悪くないものだった。
手を引かれるままにたどり着いたのは、アルフレッドが管理する教会。中に入ると後ろでバタンと重い戸が閉まる音がする。
「おい、狂信……」
言葉は最後まで続かなかった。クラレンスの方を振り向いたアルフレッドが、クラレンスの顎を捕らえ、口づけてくる。
驚いてアルフレッドの身体を押し返そうとするが、アルフレッドはびくともしない。逆に腰を抱き寄せられて、逃げられなくなってしまった。
「お、まえ……何を……」
「今夜はここで、俺に付き合ってもらおうじゃないか」
そう言ってニヤリと笑ったアルフレッドの顔が再び近づいてくる。
すっかり研究どころではなくなってしまったクラレンスは、諦めたように目を閉じた。