Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    hagi_pf

    @hagi_pf

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🌂 🐳
    POIPOI 79

    hagi_pf

    ☆quiet follow

    昨日ワンドロ書けなかったけど私も雨クリ初デートさせてえなあとなり結局書いた。
    一言足りない彦とやや鈍い論の初デートの話。

    #雨クリ
    raincoatClipper

     ユニットでの仕事を終えた夕刻、雨彦はクリスを連れて、とある水族館へ向かっていた。
     一週間ほど前に晴れて恋人という関係に収まったクリスとは、仕事のスケジュールもあってなかなか二人きりの時間をとれずにいた。ようやく時間ができた今日、雨彦は行き先も告げずに、クリスを連れ出したのだ。
    「ここは……」
     たどり着いた水族館の入口で、クリスはぱちぱちと目を瞬かせた。
     本来であれば既に閉館しているはずの時間帯。気にせずチケットを購入する雨彦の目的に、水族館に詳しいクリスはすぐに気づいたらしい。
    「ナイトアクアリウムですか?」
    「ああ。お前さん、来てみたいって言ってただろう?」
    「覚えていてくださったのですね……」
     期間限定だというナイトアクアリウムの話をしたのはいつのことだったか。夜の水族館の魅力を力説するクリスの様子に、連れて行けばきっと喜んでくれるだろうと思っていた。
     だから恋人になって初めて二人で出かける場所を選ぶ際に、真っ先に頭に浮かんだのだ。
     館内に足を踏み入れるや否や、嬉しそうに辺りを見渡すクリスを見て、あの時の予想は間違っていなかったことを悟る。
    「綺麗ですね……」
     照明が落ちていつもより暗い館内は、水槽の中から届く光に照らされた青の世界だ。
     平日にも関わらずそこそこ人は入っているが、どこか静かな館内の雰囲気にあわせるかのように、皆声を潜めながら展示を眺めている。
    「チョウチョウウオは、夜になると体の色が変わるのですよ」
     そう語るクリスの声も、いつもよりも随分と小さい。それでも目の前の魚の夜の習性について楽しそうに解説するクリスの目は、いつものようにきらきらと輝いていた。
     そんな恋人の姿を見られたことに満足しながら、雨彦は流暢な解説に耳を傾け、展示を眺める。
     都会の限られたスペースに設けられた水族館を巡る時間はあっという間だ。この時間がもっと続いてほしいと思っても、終わりはあっさりとやってきてしまう。
    「楽しかったね!」
     出口へと向かう道すがら、楽しげな声がする方へ目を向けると、手を繋ぎ仲睦まじく歩くカップルの姿があった。よくよく周囲を見渡してみると、随分とカップルが多い。確かにこの雰囲気であれば、恋人同士で見に来るのにうってつけだろう。
     そんなことを考えていると、雨彦の視線を追うように近くを歩くカップルの方を見たクリスが、ハッとしたような顔で立ち止まった。
    「あの、雨彦」
    「うん?」
    「……これは俗に言うデート、というものでしょうか」
     ほんのりと頬を染めて雨彦を見上げるクリスは、どうやら今の今までこれがデートだということに気づいていなかったらしい。思い返すと雨彦も、デートをしようなどとは言っていなかったことに気づく。
     二人の関係を知る想楽がこの状態を知ったら、きっと呆れたような顔をするだろう。そんな光景がありありと脳裏に浮かんで、雨彦は内心苦笑する。
    「ああ、俺はそのつもりだったぜ?」
    「それは……すみません、気づくのが遅くなってしまいました」
    「俺も言っていなかったからな。まあ、デートなんて名前を付けずとも、お前さんが楽しんでくれていたならそれで十分さ」
    「ですが、これが恋人になって初めての、デートだったわけですから。何も知らず、いつものように楽しんでしまいました」
     その心持ちの差は、ほんの僅かな、けれどクリスにとっては重要なものなのだろう。クリスに惜しむような顔をされては、雨彦も弱い。
     けれど雨彦は、これで終わりにするつもりはなかった。
    「ならもう少しだけ、俺に時間をくれないか?改めて、デートの続きをしよう」
    「雨彦……」
    「お前さんを連れて行きたい店があるんだ」
     そう伝えてやれば、クリスはぱっと表情を明るくする。嬉しそうに頷いたクリスは、雨彦に少しだけ体を寄せて、内緒話をするように声を潜めた。
    「あの、デートと気づくのは遅くなってしまいましたが、なんだか今日はいつもよりとても楽しくて……だからまだ、帰りたくなかったんです」
    「……俺もまだ、お前さんを帰したくないよ」
     少し恥ずかしそうに打ち明けるクリスの姿に、雨彦の鼓動が跳ねる。ここが人目がある場所じゃなかったなら、きっと抱き寄せていただろう。
     アイドルという立場上、外で恋人らしい触れ合いができないのは、仕方がないこととはいえもどかしい。
    「もしかすると、このまま帰してやれないかもしれないな」
    「……ええ、構いません。このまま、帰さないでください」
     そこまで言われてしまっては、その期待に応えないわけにはいかないだろう。
     時間はまだたっぷりある。クリスが忘れられないくらいの初デートにしてやりたいと、雨彦はこの後のプランを頭の中で練り直した。
    「それじゃあ、まずは腹ごしらえといこうか」
     そう言いながら一歩進むと、楽しみだという感情を隠しきれない様子のクリスが隣に並ぶ。その距離はこれまでよりも、ほんの少しだけ近い。
     それに心が満たされるような感覚を覚えながら、雨彦は今日のために探し出したとっておきの店に向けて歩き出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤☺☺☺🐟🐡🐠💖☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works