《Call me》[if]セイ×羽悠 はゆせんぱいと二人だけの暮らしをしたくて、必死でバイトをして貯金をし、少し遠くの大学を選び、進学。そして晴れて新生活がスタート! そんなタイミングで僕は、はゆせんぱいにスマホを渡した。
と言っても、プリペイド式のもので、アプリをダウンロードするためのパスワードは教えていないし、電話帳に僕の番号以外は入っていない。
見た目はシンプルで無機質、特に変わったところもない白いスマートフォンだ。
「せんぱい。僕が留守の間に、困ったこととかあったら電話してくださいね」
「……うん」
──と、それが三ヶ月ほど前の話だ。
「……せんぱい! 何でスマホ渡してから一回も電話くれないんですか!」
僕の通話履歴があまりにも悲惨だ。どこまで辿ってみても、せんぱいの端末からの着信は見当たらず、他の電話番号を除けば、僕からせんぱいに発信をした履歴しか残っていない。
「えっ? 何で、って……いつも惺雫が色々してくれるから、特に困ったこともないし……」
「んんんッ……そう、でした……。ううん、そうだな……せんぱい、あの、僕が学校に行ってる間、僕に会いたいとかは思ってくれてます?」
「はっ!? え、えっ、と……そ、それ……は……う、う……っ」
せんぱいは分かりやすく顔を赤くして動揺した。いくら愛し合って言葉を交わしても、こういう問答にせんぱいはまだ全然慣れていない。かわいい。
「分かりました……じゃあこうしましょう。僕に会いたいって思ったら電話をくれますか?」
「……っ。わ、わかった……」
せんぱいは承諾しながらも、必死で僕から視線を逸らそうとする。それでも、ありがとうの気持ちを込めて思い切り抱き締めれば、照れながらも優しく抱き返してくれた。ちゃんと応えてくれるようになったせんぱいに、僕はより一層愛しさを噛み締める。
「時間割はアプリに入れておくので、空いてるとこだったら絶対に出ますから」
「う……わかった……」
◆
翌日、僕はスマホを握りしめて、学食でミートソースのパスタを掻き回していた。
「おかしい、掛かってこない」
今日は二コマ分連続で空きがあり、かかってくるなら絶対にこの時間だと踏んでいたのだが、せんぱいからは電話どころかメッセージのひとつもない。電話がないのはまだしも、先程送った晩御飯を相談するメッセージにも、既読がついたまま返事がない。
まさか何かあったのだろうか。朝は元気だったけれど、メッセージ返せないほど体調が悪くなった……とか? 僕は心配のあまり脊髄反射のレベルで通話のアイコンをタップした。
コール音がしばらく鳴り、そろそろ留守に入るかというところで、静寂が訪れた。
「もしもし? はゆせんぱい?」
『……っ、もし、もし……』
蚊の鳴くような囁き声が脳を殴ってきた。
「せんぱい!? 出てよかった……えっ、大丈夫ですか?」
『ん……っ、だい、じょぶ……だ、よ……』
「えっ? な、なんか息荒くないですか……?」
『ぅ、う……ちが、ちがう……』
「……?」
『惺雫の、こと……考えて……っ、でんわ……しようと、思って……でも、そんな、意識したら、むり……って……緊張……して』
「ん、ッ」
やばい、こっちまで緊張してきた。
こういう電話サービスの広告、雑誌で見た事はある。僕は絶対に無用だったし、そもそもハマる人の気が知れなかったけれど……これは……。
「……せんぱい。ヤバいです」
帰ったらいっぱい声をきかせてもらいますねと伝えたら、その時せんぱいはどんな表情をしてるんでしょうか。
……きめた、今夜は声が掠れるまで愛してあげよう。