Blanc 目が覚めるとベッドには自分一人しかいなかった。隣にいるはずの恋人の姿が見えず焦ってしまう。
何の前触れもなく僕の前から消えてしまう。そんな雰囲気をKKはまとっているから、ぼくは彼の姿が見えなくなると焦りを覚えてしまうのだ。
僕は慌ててベッドを抜け出した。
下着だけで寝ていた体に急いでTシャツを纏って、小走りに寝室を出た。
玄関に一度目を向け、彼の靴がそこにあることを確認して僅か安堵する。けれど、KKの姿を見るまで完全には安心できない。僕はリビングへと向かう。
リビングに入ると、カーテンが揺れていた。
ベランダに続く掃き出し窓が開いているらしく、風が白いレースのカーテンを優しく揺らしている。今日はよく晴れているみたいで、差し込む日差しがカーテンを輝かせていた。
その奥に、KKの姿を見つけた。ベランダで煙草を燻らせているらしい。
白。真っ白だ。
風が揺らすカーテンも
KKが吸う煙草の煙も
彼が纏うシャツも
室に差し込む太陽の眩し過ぎる光も
白。
その白の中にKKが拐われてしまいそうで——。
僕は後ろからKKを抱きしめた。強く、強く。
「どうしたんだよ」
KKの声は落ち着いていた。急に抱きついたのに特に驚いている様子はなくて。リビングに入ってきた僕の気配に、彼は気づいていたのかも知れない。
KKの肩口に顔を埋める。
洗い立てのシャツの香りの奥にKKの匂いを見つける。それと煙草の香り。
「暁人? あきとくーん」
僕が黙りこくっているからか、KKがふざけた調子で僕の名前を呼ぶ。けれど僕は相変わらず黙ったままで、彼の存在を確かめるように抱きしめる腕に力をこめた。
そんな僕の様子に呆れたのか、それとも諦めたのか。KKは嘆息すると僕の手に自身の手を重ねた。直に触れる体温に僕は思わず涙をこぼしそうになる。
KKの声が、体温が、鼓動が、匂いが、彼がそこに存在しているのだと僕に教えてくれる。それがどうしようもなく愛おしくて、同時に切なくて、僕は彼から離れることができない。
麻里を連れ攫われた時でさえ口にしなかった言葉を、思わず言ってしまいそうになる。
——ああ、神様。この人を連れて行かないで。