二、額(祝福/友情) 召集がかかった後の本丸は慌ただしい。出陣する刀たちはもちろん、装備品や弁当など、それを用意する者たちも、一斉にバタバタと廊下を行き来する。あらかじめ、審神者の指示はあるが、それでも、念には念を入れる。誰しも誰一人として欠けたくはない気持ちは強い。
「大包平。そろそろ支度しなくちゃ。」
小竜は大包平に抱かれていた。
「まだ、時間はあるだろう。」
大包平は小竜の首筋の竜に舌を這わす。
「出陣のとき、足腰立たなくなってたら、どうするつもりさ。」
「そこまではしない。」
「嘘は言わない。」
小竜は何とかして、大包平の腕から脱出しようとするが、大包平はなかなか離してくれなかった。
「本当に遅れるから、離してくれる?」
小竜が真面目な顔で大包平を見る。その顔に、さすがの大包平も手を離さずにはいられなかった。
布団には、まだ小竜の温もりが残っている。その上に転がったまま、大包平は小竜の戦支度を見ていた。小竜はピンを口に咥え、乱れてしまった髪を結う。慣れた手つきで、スーツを着てその上に鎧をつける。そして、たくさんの道具が入ったバックを身につけた。
「それは邪魔にはならんのか?」
身の軽い大包平としては、小竜の姿は重装備に思えた。大包平も何度か質問したことがある。
「必要だと感じたことはあるし、逆に無いと戦えなくなりそう。」
「そういうものか。」
「そういうものだよ。」
小竜はジャケットを羽織る。
あのね。と、小竜は大包平に背を向けたまま言う。
「昔はどこかへ行くための、旅道具だと思ってたけど、最近は帰るための道具かなって思うようになったんだよね。」
耳が赤いのは、髪を結ってしまったので、大包平からも見えてしまう。どんな顔をしているのか、大包平は見たかった。大包平が着流しを羽織って立ち上がろうとしたとき、小竜が大包平のほうを向いた。
「もちろんキミのところにね。」
小竜は片目をつむる。その仕草が照れ隠しでも、大包平には、ちゃんと伝わっている。二人ははにかんだ。
「ほら。忘れるな。」
それは、端がほつれた御守りだった。彼らは新しい物はもらわずに、一緒の出陣以外は、交互に使っている。もう、効果があるとも知れないそれだが、その代わり二人分の想いがつまっている。
「忘れるわけ無いじゃないか。」
小竜はそれを、たくさんのポーチの中ではなく、胸のポケットの中に入れる。
「ちゃんと帰って来い。」
大包平は小竜の額に口付ける。
「約束するよ。」
小竜がマントを身につけるまでの束の間、二人は抱き合った。