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    野イタチ

    @itcnomaho
    成人済腐/いろんなジャンルを書きます/今書いてるのは兼堀・進京・ガエアイ·花憐·おおこりゅ(大こりゅ?包こりゅ?)

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    野イタチ

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    今日は歌仙ちゃんの日らしいので、前に書いた大浸冦の話、置いておきます。

    #歌仙兼定
    singingFairy
    #刀剣乱舞
    Touken Ranbu

    ある刀の瞳孔 一瞬何が起こったのか分からなかった。
    「増援!?」
    歌仙は、目の前の光景が信じられなかった。あと少しだったのだ。あと少しで、この形勢を打破できるはずだった。それが一瞬で押し戻された。残っている者は皆、手傷を負っている。
    「こんのすけ!どういうことになってる!」
    「分かりません!おそらく増援ではなく、本隊が来たと考えるのが妥当でしょう!」
    唯一の通信手段である管狐が答える。
    「本隊とは厄介ですね。」
    その真っ白な髪を血で染めながら、ふわりと横に立った、小狐丸が言う。
    「各防衛ラインの戦況を教えてくれ!」
    歌仙は敵を切る手を止めずに聞いた。
    「はい。前衛はやや有利、中央は拮抗、そして、最終ラインが不利です!」
    その報告を聞いて、歌仙は深く息を吐く。主に近侍を命じられ、そのためにこの大戦の指揮を任された。その任の重さを甘く見たことなど、一瞬もなかった。なのに、なのにだ。総大将がこの体たらく。一人の敵の浸入も許さぬこの最終ライン。そこが最も攻められてる。
    (前衛、中央をくぐり抜けて、なおこの戦力。こちらに、新参を集めた僕の失敗か?)
    戦いながら、歌仙はチラリとこんのすけの護衛を見る。
    「白山くん、他の本丸と連絡する事はできないのかい。」
    「私の狐もこんのすけも、すべて断絶しています。わかるのは戦況くらい。」
    「なるほど。大事なときに演練相手とも話せないなんてね。」
    ぽたたと、音を立てて血が落ちる。その血は乾いた血にまた色をつける。
    (考えろ。今は歌ではなく、この戦を詠むことだ。)
    歌仙は自分に言い聞かせる。
    「一期一振!すまんが短刀達の再配備を頼む。お小夜は、天下五剣の三振をここへ。」
    歌仙は戦況を打破するための、命令を飛ばす。向こうから、返事が聞こえる。それでようやく彼らが折れていないことが、分かる。最終防衛ラインは、それほどの乱戦になっていた。各部隊長が何とか自分の隊を、まとめようとする声が聞こえる。
    「前衛からここへ何振りか連れて来られれば……」
    歌仙は目の前の敵と、各ラインの状況を思いながら、独り言を言った。
    「そりゃ命令かい?それとも独り言かい?」
    伝令として控えていた薬研が尋ねる。いつもの口調だが、苦戦を強いられているという、焦りも滲ませていた。
    「そうだねえ。出し惜しみして共倒れとか、雅の欠片もない。……行ってくれるか?薬研。」
    おっとりとした、歌仙の口調はもうない。
    「任せな。生きのいいやつ、連れてくるぜ。」
    薬研と歌仙は、一瞬目を合わせ頷くと、双方のあるべき場所へ足を向けた。



     薬研が前衛の戦況の確認と指令を伝える。目立って体をはってるのは、和泉守の部隊だ。
    「おいおい、之定よう。有利っていうのは、よゆ、うって、わけじゃねえんだぜ」
    相手の攻撃を交わしながら、和泉守が言う。最も精鋭が集められた最前線の、部隊長の一人である彼の自慢の、浅葱色の羽織がずっしりと吸った血で、どす黒く重くなっていた。
    「ここ守るので、手一杯だと言いてえ、とこだが、お土産無しで帰す、のも、ぎ、り、がねえ」
    和泉守は口に溜まった血を吐く。
    「国広ぉ!二、三人連れてってやれ!」
    「でも!」
    そんな国広もシャツが赤く汚れている。
    「こんくらい持ちこたえてやらあ!」
    持ち前の気迫で和泉守が言った。
    「それなら俺たちが行ってやるぜ。」
    見事な鶴になった鶴丸が言う。血で汚れた顔を拭うと、また新しい血が頬を汚した。大倶利伽羅も燭台切も、了解したように、視線を寄こす。
    「すげえな、うちは大損害だ。」
    口の端を曲げて、笑いながら、和泉守は言う。彼の刃が敵の刃を受けてチリチリと金属音を響かせていた。行けと、和泉守は目で合図する。
    「伊達部隊、堀川国広、前衛を離れます!」
    四人は振り向きもせずに去っていった。堀川の声を背にしても、誰も視線すら向けない。それが彼ら戦場の刀のあり方だ。
    「しっかし、この状況であの四人出すとは、強気じゃな。和泉守!」
    陸奥守が、銃と刀を両手にもって笑う。
    「あっちが押されてんのは、俺たちの責任だろ?、奴さんに傷ぐらい負わせとかねえと申し訳がたたねえ。」
    「全くじゃ。」
    和泉守と陸奥守はお互い背中を預ける。
    「さあ、やってやろうぜ!てめえとの喧嘩はその後だ!」
    和泉守は柄を握り直した。
    「まーだやるんか、和泉守。」
    二人の足が大地を蹴る。敵を屠る二人の眼光は、修羅のそれで、頭からつま先まで、血に濡れていない箇所はない。



    一方、中央も手を抜けなかった。
    「ここで抑えなければ、最終ラインに逃すことになる!前衛が打ち漏らした敵だ!覚悟を持て!」
    大包平のよく通る大声が、味方を鼓舞する。その背後から忍びよる敵を、鶯丸が切り伏せた。
    「そんなことを言って、一番油断してるのは誰かな?」
    鶯丸の言葉に大包平は二の句が継げない。
    「余所見をしない。」
    鶯丸の言葉を聞くこともなく、大包平は何体かの敵を撫で斬りにした。
     そのとき、小夜左文字から伝令が入った。
    「小夜。無事でしたか。」
    宗三が駆け寄る。その隙を狙った敵を二人は鋭い刃で一突きにした。
    「伝令です。数珠丸恒次、大典太光世、鬼丸国綱の三振りは、急ぎ最終ラインに回ってください。」
    宗三はその伝令にちょっと驚いた顔をした。最終ラインはそれほど劣勢なのかと。
    「小夜!」
    すぐに去り行く小夜左文字に、宗三が声をかける。それは、弟を気遣う声だった。
    「僕はもうここの本丸の一振りだ。」
    まっすぐ、前だけを見つめて小夜は、次の戦場に走った。
    「ならば、僕も天下人の刀たる由縁を示さなければなりませんね。」
    すうっと、宗三の刀が空を滑るように、敵群を指し示した。刀を閃かせると、彼は軍勢へ切り込んでいった。
     伝令はすぐに中央ラインへ周知された。
    「これで、俺がもっとも、強く、美しい刀と認められた訳だな!」
    大包平の士気はうなぎ登りだ。みるみる敵を切り裂いていく。確かに頑強な刀だよ。鶯丸はそれを見て、少し笑んだ。
     一方、他の部隊も同じように傷つきながらも、手を休めなかった。
    「カカカ。兄弟。修行の成果をみせるときであるな!」
    豪胆に笑いながら、その声と同じように山伏は、荒々しく敵を薙ぎ倒していく。背中を預ける兄弟は、金色の髪を晒し、普段は汚れてはいても、生成色を残していた、布が真っ赤に染まっている。二人とも戦い方は違えど、肩で息をしているのは同じだ。
    「まあ、やり手応えは十分だな。」
    何度目かわからないが、山姥切は刀を振って血を落とす。
    「では、参ろうか。兄弟!」
    「ああ。」
    二人は円を描くように、刀を振った。辺りの敵を一掃するが、すぐに第二陣が押し寄せる。



     歌仙は目まぐるしく変わる戦況と敵の攻撃にさらされながら、何とか次の一手を考える。
    (駄目だ、敵に邪魔されて、考えがまとまらない。誰がどこで戦っている?)
    部隊ごとに分けた全員の戦力がどこでどう拮抗しているのか、全体像を歌仙はもう描けなくなっていた。歌仙はもともと前線で映える刀だ。不似合いな総大将だと、自分でも思う。それでも主に命じられた責務と、全刀剣を預かる重圧に、矜持で耐えていた。戦闘で落ちたものではない汗が、歌仙の頬を伝って顎から落ちる。
    (ここを突破されたら……)
    左胸に咲く花のひとひらが落ちる。
     そのとき、誰かの声がした。疲弊した耳は一瞬でその声の主を拾えなかった。
    「軍師が必要じゃないか?」
    二振りが助け船を出す。
    「山鳥毛?日光?」
    歌仙は目を見開く。
    「ここは戦場。総大将だけでやる戦など、どこにもない。」
    山鳥毛が言う、それでも、彼の白い上着には血が飛び散った痕がある。彼も悠長に戦況を見守ってるわけでもないらしい。
    「総大将と言うものは、奥に構えているものだ。戦いながら、つまらん絵図など、書くな。」
    日光が山鳥毛の言葉の後を継ぐ。
    「言われるまでもない」
    そう、ここが一番安全でなくてはならない。そして、一歩も引けない気持ちは本丸の全員が思っている。だが波状にくる敵に、どう対応していけばいいか、答えは見えない。
    「報告です。前線、中央より増援が来ました。」
    こんのすけが声をあげる。
    「なるほど劣勢ってだけは、あるな。」
    もう鶴とは呼べないほど、衣装が赤く染まった鶴丸が飛び出てきた。
    「鶴丸、前線は?」
    「らしくない驚きようじゃないか。歌仙兼定。」
    鶴丸が地に足をつける。
    「前線は残りの奴らが、頑張ってくれるさ。それより、おまえさんが、その状態ってのが気がかりだぜ。」
    歌仙を見て、鶴丸が言った。言われて見ると総大将とは呼べない体たらくだった。
    「天下五剣まで呼んだのかい?」
    燭台切も駆けつける。小夜はうまくやってくれたようだ。
    「どうする?歌仙殿。」
    山鳥毛が急かす。
     歌仙は少し考えた。
     そこら中に敵がいる。気を抜けば折られてしまいそうな、気の遠くなる敵の圧力。
    「一文字の申し出はありがたいが、もう僕から出せる指令は一つだけだ。」
    歌仙は、あちこちに血の染みがある、幾枚かの紙を出してばらまいた。そこには、本丸全員の配置図が書いてあった。
     歌仙は声を張る。
    「全軍に、状況を伝える。前衛はうちの旅帰りの精鋭で、固めてある。中央は古参だ、修羅場を抜けてきた経験値が高い。大包平もいるから士気は下がらない。そして、最終防衛ラインは不味いことに、だいぶ押されてる。」
    それは、士気を落とす可能性がある言葉だった。
     ふっと、歌仙の耳に剣戟の音が遠退いた。そして、目の前には、はっきりと本丸の一人一人の顔が見える。三日月もそこにいた。
    (やれやれ。風流じゃないねえ)
    血まみれの自分の姿を見て歌仙は思う。
     歌仙はすっと刀を前に出す。まるで扇のように。その瞳に美しい月が揺れる。そう、この戦は。
    「全部片付けろ!そして折れるな!」
    戦場に花が開く。こぼれるような笑みで、はじまりの刀が言った。



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    NanChicken

    MOURNING結局らくがき漫画にして上げたたぬ歌まんがの元にしたSSを供養
    文章のほうがセリフいっぱい入れられるところがメリットだねぇ
    「ったく、ついてねぇ。追いつかれるぞ」
    本丸への転送ポイントまでもうあと少しというところで、同田貫は来し方の空を振り仰いだ。天空まで立ち上がり広がった鉄床雲の先からゴロゴロと響く重低音は、雨の到来を告げている。
    「お前さんがが寄り道なんぞするからだろ歌仙」
    言われた方は平然として
    「あの店のは絶品なんだよ」
    と応えた。
    あっさり済むはずの短い遠征。夕立の前に帰れる筈だった。
    ポツ、ポツ、と地面に染みが描かれる。
    「ああ、もう来やがった」
    みるみる強くなる降りに、ふたりは急いで大樹の木陰に逃げ込んだ。通り雨ならばいずれ上がるだろう。
    歌仙の手の内には、竹皮で包まれた硬豆腐。江戸への遠征の帰り道、これまでも時折食卓に上ってきたそれは、豆腐にしてはしっかりした歯応えを持つ、古いタイプの食材だった。
    「戻ったら、木の芽の味噌で田楽にしようか。君の好物だろう?」
    「呑気なもんだな」
    そういえばいい酒もあったな、と同田貫が思った刹那、閃光で周りが真っ白になった。
    落雷か?慌てた瞬間に目に焼き付いた見覚えあるシルエット…敵大太刀それは確かに歌仙のすぐ向こう側に立っていた。
    瞬時に眩さは去り、暗反 1314