三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい明け方、大包平は目を覚ます。遠くでカラスが鳴いている。まだ部屋の中は青く、陽は昇っていないようだ。大包平の腕の中で眠る小竜を見る。彼はまだ起きそうになかった。
夏至を抜けたいえ、昼は長く、夜は短い。二人で居ればなおのこと。起こすのも何かと大包平は思っていたが、指先が勝手に小竜の金色の髪を梳いた。ざんばらな猫っ毛は、髪を結っていないと、頬に落ちて邪魔そうだった。大包平はその髪を耳にかけてやる。その感触なのか、小竜がもそりと動いた。起こしてしまったのかと思ったら、大包平の胸の方に身体を寄せる。
(いつもは甘えてこないのに)
小竜の微かな仕草を見逃してしまうと、彼は本当にそっけない。だから、毎日小竜を見ていることになる。大人しくなるのは閨の中くらいか。小竜の髪を弄びながら、大包平は小竜の枕と化している、自分の腕を見る。そこには小竜が齧った痕が付いていた。日に日に小竜の噛み痕が増えていく。情事の時、小竜は尖った犬歯で、思いっきり噛んでくる。それは大包平が小竜に付けた赤い痕よりも、長く残る。数が増えるたびに、あまりまっすぐに話さない彼の、愛情のようで、大包平は嬉しかった。
空は徐々に明るくなっていく。大包平はそれに反比例するように、小竜を抱いたまま、またうとうとと目を閉じる。それは、つかの間だったのか、それとも長かったのか、外は完全に陽が差して、騒がしく雀が鳴いている。
「もう朝?」
小竜が目を覚ますが、まだぐずぐずと大包平の体温を預かっている。もう一つ忘れていた。寝起きの彼はすこぶる機嫌が悪いか、こうやってぐずぐずといつまでも眠そうにしているかどちらかだ。大包平としては後者の方がありがたい。
「朝じゃない。」
大包平は、小竜をぎゅっと抱く。腕の中で、ふふっと小竜が笑っている。完全に目は覚めたようだ。大包平は小竜の額に口づけ、頬に、首の竜に戯れのようなキスをする。くすぐったいのか、小竜は大包平から逃れるように、身体をひねる。大包平は小竜の顎を取る。大包平に先ほどの戯れとは違う、空気を感じた。
「駄目だよ。大包平。」
二重の意味で、小竜はそう言う。空はどんどん明るくなり、誰の声がするわけでもないが、空気がざわめき始める。陽は朝を連れてきた。
「朝飯を食べ損ねる。」
たぶん、一番鶏も鳴いた頃はもう過ぎてしまったようだし、炊事当番は卵を集めているところだろう。ぐいっと小竜は大包平の肩を押した。その腕を大包平は自分の方へ引き寄せた。そして、小竜をもう一度、腕の中に閉じ込めてしまう。
「朝飯と俺とどっちが大事だ?」
鼓膜をくすぐる、低い声が囁く。そっと見上げると、銀の瞳が笑っていた。
「……キミの方。」
負けたと思いながら、小竜はもう一度、大包平の胸に身体を預けた。