「らしくないわよね」
ジョーカーがシルバーハートの家へ運び込まれて1時間。一応はジョーカーの様子が見える部屋に控えているものの、クイーンは紅茶を手にゆったりと過ごしていた。
「そう見えるかい」
台所ではエプロンを着けたシルバーハートが、回復料理を作っている。
「だってあんな怪我、いつものハチくんならスカイジョーカーで面倒見てるのに。絶対安静にはさせるかもしれないけど、今ごろ痛がるジョーカーに『大したケガじゃないでしょ』って笑うくらいはしてるはず」
実際、裏社会ネットニュースでジョーカーの音沙汰のない時は、ハチがジョーカーに仕事へ行けないようにとスカイジョーカーのあらゆる罠を駆使して留めていたことだってあったくらいだ。
クイーンのカップへ紅茶のおかわりを注ぐロコは、気遣わしげにジョーカーのいる部屋を見ただけで口をつぐんでいる。
「そうよ、こんな時に家に帰らないなんて。変よ」
ジョーカーの師匠も修行仲間たちも皆、スカイジョーカーをジョーカーとハチの家だと認識していた。彼らはいつまでもあの船から共に夜へ飛び込んで来るのだと思っていたのだ。
シルバーハートは、今し方かき混ぜた鍋を眉を下げて見下ろす。
「そうさなぁ……。ワシらに出来るとしたら、見守ることくらいか…」
「おじいちゃん…」
「師匠…」
しんみりとした空気が流れる。
しばらくしてシルバーハートがパッと顔を上げた。
「よしご飯にしよう! こうやって落ち込んどっても何にもならん!」
ニッコリと笑うシルバーハートに、長年彼に育てられてきたクイーンとロコも同じように笑みを作った。
「…そうね! お腹空いてちゃなんにもできないもの! ロコ、ジョーカーの様子を見てきてくれる?」
「はい! でもご飯の匂いで起きるかも、いちおう持って行きましょうか?」
「そうしてくれる? …もう、本当にそのくらいのケガなんだから、ハチくんもジョーカーもヤキモキなんかさせないでよね!」
何かを理解しているらしいシルバーハートやロコに及ばずとも、クイーンだって二人のことが心配なのだ。
今ではスカイジョーカーで食事を取るのが当たり前のジョーカーだ。久しぶりのシルバーハートの作る食事だ。いつ嗅いでも胸が弾む料理を前にすればきっとすぐ目も覚めるだろう。
ロコが帰ってくるまで、といっても隣室だが、お預けを食らっていたクイーンだったが、ベッドからジョーカーが消えた、というロコの慌てた声にシルバーハートと共に別室に駆け込んだのち、家を出るまでの間に用意されたご飯を急いでかき込む羽目になる。
ゆっくり食を味わえなかった怒りも載せて、クイーンは血眼になってジョーカーを探し始めるのだった。