星に願いを 「ノワール、天体観測をしないか」
そうナイヴスが言ったのはある休日のことだった。どうやらクリムソンが知人からもらったらしいがホコリを被りまともに使われていなかったらしく、その望遠鏡を引き取ってきたそうだ。
「寒くないか?」
「全然」
「そうか。寒かったら言ってくれ」
「うん」
一緒にブランケットにくるまりながら空を見上げる。肉眼で見るだけで綺麗なのに望遠鏡を覗けばもっと綺麗に見えるものだからすごいと思う。
「…星ってこんなに綺麗だったんだ。ううん、星だけじゃなくて空も…」
驚きのあまり声を上げる。以前のハンターをしていた頃の私は星や空など自分以外のことを気にする余裕なんてあまりなかった。服に興味を持たなかったのもそういうことだ。自分自身を知らず、趣味や好きなことを作らないように無意識にしていたのかもしれない。
「だろう?」
まるで自分のことのように、嬉しそうにナイヴスは笑った。隣のナイヴスの変わった瞳にきらきらと星が反射しているように見えた。それくらいーー…私にとってのナイヴスは輝いていた。
「俺は…もう、ハンターではなくなったノワール…いや、ナスカに色んなことを知って、見て、感じて欲しいと思ってるんだ」
「?」
「これは俺の自己満足かもしれないんだが…俺はナスカに生きることを楽しんで欲しいんだ…好きなことも嫌いなことも、たくさん経験してたくさん作ってほしい」
真っ直ぐなナイヴスの言葉が私の胸を打つ。
「…楽しんでるよ。それも…ナイヴスがあの時私を殺さないでいてくれたおかげ」
「…皮肉なものだな」
ふ、とナイヴスは笑い湯気を立たせるコーヒーの入ったマグカップを口につけた。私も倣って、ココアの入ったマグカップを口につける。
「あ!」
と、きらりと一筋の光が空の上を走った。
「来たか」
「来たって…」
「先生によると今日は流星群が降るらしい」
「流星群って…」
そう言っていると星の煌めきの多くが空の上を走っていく。
「わ…!」
思わず感嘆の声を上げると隣のナイヴスは笑った。
「ナイヴス?」
「いや…その顔が見たかったんだと思ってな」
そう言ってナイヴスは笑った後私と同じように空を見上げた。きらきらと瞬く間に消え、そしてまた空を走っていく。私は目を瞑りそっと願う。昔、ソードに流れ星に願い事をすると叶う…なんてそんな話を聞いたことがあったから。
(ずっとずっと…ナイヴスと、ヤマトといられますようにーー)
ナイヴスの願いも同じならいいのにと少しだけ思う私だった。
-Fin-