首輪が欲しいいぬぴの話②「ハァ〜〜〜」
「ため息やめろ。うざい」
「みつやぁ〜〜」
「チッ、マジでなんなんだよ!」
三ツ谷の冷たい視線が双龍の片割れを突き刺す。いきなりアトリエ兼自宅に上がり込んで来て、溜息連発では温厚な三ツ谷も流石にイライラしてしまう。
「そんなに心配なら一緒にいきゃよかったんじゃね?」
「だってよ〜!黒龍の同窓会、イヌピーすげえ楽しみにしてて、俺なんか部外者だろ?水、差したくないし」
「じゃ、スパッと諦めろ」
龍宮寺は烏龍茶のペットボトルを酒瓶のように抱えて、なおもぐずぐず言い募る。
「でもさぁ、心配だろ?」
「ハァ、もういい加減にしろって!ドラケン!お前らしくもねえ」
今日は珍しく乾が飲みに出かけたらしい。元BDの仲が良かったメンバーが集まっての同窓会的な飲み会で乾は何ヶ月も前から楽しみにしていたようだ。
「心配、心配って…散々牽制してきたんだろ?」
「…やれるだけのことはやった、けどよ」
「ドラケンがそんだけやりゃイヌピーに手出そうなんて命知らずのやついねえだろ」
「そーかぁ?うーん」
「自分の服着せて、薬指にペアリング嵌めさして?送迎して睨みきかして…もう十分すぎだろ。重すぎて、俺なら無理。イヌピー、よく我慢してくれたな?」
「そりゃ、イヌピーは俺んこと好きだもんよ」
「ハァ?んだそりゃ!ドラケン、お前、もー帰れ!」
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昨夜、クローゼットの前で側から見ていても楽しみにしているのが伝わってくるほどわくわくと翌日の飲み会に向けて準備していた乾の背中に龍宮寺は自分のMA-1を着せ掛けてそのまま抱き締めた。
「イヌピー…お願いがあんだけど。これ着てって?明日」
「は?なんで?」
「なんででも」
首だけ振り返った乾は怪訝そうに眉を寄せた。
「俺も上着ぐらい持ってるぞ」
「それじゃ心配だから」
「?あれじゃ薄いか?明日はそんなに冷えるのか?」
「うん…そう。激寒だから、着てって俺の」
いっそう強く抱き締められて、乾はいまだ不思議そうにはしていたがただならぬ龍宮寺の様子を察してか、一応頷いてくれた。
「じゃ、これ着てく」
「ん、そうして」
「でも、それだと、服どうすっか。上着と合わねぇかな。これじゃ」
腕の中から抜け出してクルッと振り向いた乾が両腕を広げて見せる。確かに背中に上り龍が大胆に刺繍された龍宮寺のMA-1と、乾が明日のために選んで、試しに身に着けていたスタンドカラーシャツにチノパンのコーディネートはミスマッチかもしれなかった。
「服も俺が選ぼっか?」
「いいのか?」
龍宮寺には願ってもない好都合な流れに、調子に乗って提案すると、乾はぱあぁっと(龍宮寺にはそう見える)目を輝かせた。
「ドラケンが選んでくれんなら間違いねえな。俺センスねえけど、ドラケンはいつもかっけーから」
「…そんな風に思ってくれてたんだ?」
「ん。だって…東卍のドラケンって言えば東京で一番カッケー男だろ。…で、いまは俺の彼氏」
頬を染めて照れ臭そうに笑みをこぼす。
「イヌピ〜〜っ!」
ぎゅううっ!
「ふはは、なんだよ?ドラケン、甘えてんのか?」
「おう。イヌピーに褒められて嬉しいからさ」
「ばーか」
こんなかわいい人を本当は誰にも見せたくない。部屋に閉じ込めて鎖で繋いでしまいたい。
この首に輪をかけて仕舞えば、と何度思ったことだろう。
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