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    nanana

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    nanana

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    付き合ってる二人。
    ソロコレのときのプリンの話。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    カードとプリン(雷コウ) ギリギリのところでシャワーを浴びてそのまま一瞬寝落ちていたらしい。意識を取り戻したときには真っ暗にされた部屋に一人きりで、シャワー室から水音が響くだけ。入れ替わるようにしてあの男はシャワーを浴びに行ったのだろうから寝ていたのはそんなに長い時間ではなかったのだと推測する。
     気怠く重たい体を引きずって備え付けの冷蔵庫を開ける。今日はしつこく鳴かされたせいだろうか、酷く喉が渇いてせっかく準備していた水も飲み干してしまった。水分を含んだはずなのにケホと漏れ出た咳はカラカラに乾いていて、どうにも喉の調子が良くない。明日は講演の予定が入っていた。のど飴でも舐めればマシになるのだろうか。
     残りの体力と明日のスケジュールとを天秤にかけて、十秒ほど思案してから着ていたバスローブを脱いで、朝に着る予定にしていた服に手をかける。確かホテルを出たすぐのところにコンビニがあったはずだ。
     いつまでも夏が終わらないと嘆いていたというのに冬の訪れは早かった。もう欠かせなくなった冬用の白いコートを身にまとい財布を手に取ろうと鞄を探っていたところでシャワー室の扉が開く。
     男はだらしなく羽織っただけのバスローブと濡れ髪のままこちらの姿を見て狼狽したように瞳を揺らす。まるきり正反対で理解しがたいと思っていたこの男は、『苦手』と『いけ好かない』のフィルターを外してみれば存外わかりやすい男だった。どれだけカリスマ性があって、どれだけ魅力的で、どれだけ精一杯背伸びしてみたところで所詮は七つ下。わかりにくさでいうのなら藻津君の方がわかりにくい。
    「……帰んのかよ」
     実際のところこのホテルから自宅までは近くて、泊まる必要なんて一つもない。それでもわざわざホテルをとって、泊まる準備までしてきているのはそういうことなのに、それを知っているはずなのに何を不安がっているというのだ。まぁ理由なんて明らかで、お互いの素直じゃない性格と足らない言葉のせいだ。それだって直す気が無いのはお互い様だから仕方がない。
    「いや、コンビニに行こうかと」
    「……あっそ」
     大きく息を吐いた後、男はふいと目をそらしてそのままぺたぺたとベッドへ歩いていく。シーツがぐしゃぐしゃのままのベッドにドスンと腰掛けてすぐに携帯の端末を手にした。ピロンと聞こえたのはこの男が一番気に入っているゲームの起動音。
    「……何か欲しいものがあれば買ってくるが?」
     タンタンと白と黒の指先が画面を叩く。男の喉の奥から唸るような声が漏れた。画面から目を離さぬまま眉をひそめて「カード」と男は言う。
     男の言うカードがゲームに課金をするためのカードだというのは言われなくてもわかっていた。いい加減控えたらいいのではないかとは思うのだけれど、それにまで口を出すのはさすがによくない。クレカで支払うよりはマシ、と言っていたからそんなものなのだろう。よくわからないけれど。
     カードの金額を確認して部屋を出ようとしたとき、あとプリンも、という聞き逃してしまいそうなほど男にしては小さな声を聞いた。
    「プリン?」
    「……プリン、ちょっと固くてクリームとか乗ってねぇやつ」
    「えらく可愛らしいものを頼むんだな」
    「うるせぇ、アンタらのせいで自分じゃ買えねぇんだわ」
     いや、アンタは関係ねぇけど。むぅと不満気に口を尖らせてふくれてみせる姿はなかなかに年相応で可愛らしい。珍しいこともあるものだともっと深く聞いてみたくなった。
    「『せい』とは?」
    「……」
    「黙っているならカードもプリンも買ってこないが?」
    「じゃあ別にいらねぇ」
    「拗ねるな」
    「拗ねてねぇ」
     完全にそっぽを向いてしまった男の言葉を待つ。この待つという静寂の時間が意外と効果があるものだと職業柄知っていた。
    「……この前プリン買おうとしたら店のやつに『やっぱプリンお好きなんですね』って言われた。ぜってぇこの間のあのノラたちの書き込みのせいだろ」
     この間、というものにはすぐに思い当たる。ソロコレクションのライブの時、ちょっとしたことで機嫌を損ねたこの男にプリンが与えられ、そしてその様子はネットを介して世界へ届けられた。
     この男の性格からしてそんな風に言われてしまえば素直にプリンを買うことなんかできやしない。そんな可愛らしい小さな意地に思わず漏れかけた笑いを必死で噛み殺す。ここで笑ったらさらに拗ねることになってそれはそれで面倒だ。
    「わかった、カードとプリンだな」
    「固いやつ」
    「はいはい」
     ゲーム音に見送られてたどり着いたコンビニ。のど飴と飲み物と、それから指定のものを買ってレジへと持っていく。D4の、特に夜鳴の和食さんのファンなんです、と興奮したように告げたレジ打ちの若い男が、差し出された品物を見て冗談のように「また和食さん拗ねてるんですか?」と聞いた。
    「実はそうなんだ」
     そう重ねて冗談めかして返した言葉。この店員もまさか本当にその男と今一緒にいるなどとは思ってはいないだろう。
     次のライブも楽しみにしてます、と笑う店員を背に店を出る。そんなやりとりはあの男のプライドのために絶対に内緒にしなければと今度こそ殺しきれない笑い。ホテルへと戻りながらコウはギリギリ声を出さないままに肩を震わせたのだった。
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    nanana

    DONE付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。
    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
    2302

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