今朝も流星は手の中に 遮光カーテンの隙間からチラチラと僅かな陽光が漏れ、温もりはやがて部屋の中を満たし室温を上げていく。
昨夜に見た天気予報では、春と称する季節にしては気温が高く、一部地域では夏日になると伝えていたことを覚醒へと至る微睡の中で思い出す。
さて、この体全体に覆い被さる温かさと重みは天気の所為なのだろうか。晴れの日に身体、特に胸に圧迫感を感じあり呼吸が上手く出来ないというような事象はよくあることなのだろうか。
うんうんと唸り、どうにか瞼を開けば、目の前にはとある男がこちらを見捉えている。
それは見知った人物であり、最近胸を騒がせてやまない存在でもあった。彼をこちらからも見つめ返していると相手は目を細め、微笑みに幸福を滲ませながら挨拶を投げかけて来た。
「おはようふぅふぅちゃん」
「浮奇……なんで俺の上に寝そべっているんだ?息苦しくて心霊現象かと思った」
「もしかして重いって言ってる?」
「……なんでここに居るんだ?」
「遅刻しないように起こしに来たんだよ」
「ならもっと軽〜い方法で起こしてくれ」
浮奇を退かす為に腰を押し横に転がそうとしたがなかなか落ちない。体内に強力な磁石でも仕込んでいるのかと突飛な事を考えてしまう程に微動だにしない。
その様子に、当の本人は更に口角を上げ笑い声まで漏らす始末である。
「ふふっ、もう起きちゃうの?俺まだこのままが良いんだけど」
「遅刻するだろ」
「一緒に休んじゃおうよ」
「ダメだ。今日は新刊が図書館に入る日なんだから」
「貸出予約してるやつ」
「一緒に読みたいって言ってたやつ」
じゃあしょうがないねー、なんて呟きながら浮奇はあっさりと身体を起こし、ベッドから降りてしまう。
「おい、今気づいたんだが」
「なぁに?」
「どうして俺の制服のシャツ着ているんだ?」
「なんでって、ここに用意されていたから」
「俺が寝る前に準備しておいたからな……。それとなんで下を履いてないんだ?」
「ふぅふぅちゃんのに着替える時邪魔だったから。安心して?俺は下着ちゃんと着けているよ」
「はぁ……朝から刺激の強いもの見せないでくれ」
「んー?どこ見たのー?」
「脚……とか」
「へへっ、胸も見る?」
「本当にそろそろ時間がヤバいから!早く自分のに着替え直せ!」
「むぅ……。ふぅふぅちゃんが顔洗っている間には着替え終わっちゃってるからね」
「はいはい。朝御飯は」
「歩きながらでも食べれるようにサンドウィッチ。お昼もお弁当作ってきたからね」
「ああ……ありがとう」
高校に入学して間もないというのに、浮奇に出会ってからの毎日は充実している。
浮奇が毎朝独り暮らしの俺を迎えに来て一緒に登校するところから始まり、休み時間も昼食も共に過ごす。放課後も毎日ではないが遊びに誘われたりと浮奇と行動する機会は多い。
ただ、不思議に思うことがある。
毎朝何故か俺の家の内にいる。当然鍵は渡した覚えがない。
初回は驚き過ぎて大声で叫んでしまったが、回数を重ねれば慣れて来て、この状況をほぼ受け入れているのが現状だ。
たまに、何気なくを何故毎日部屋に居るんだと問いただしても「開けたから」としか答えは返ってこない。予備の鍵も含めて持っている本数に変わりは無く、オートロックのエントランスと部屋の入口を難なく突破している。
おそらくこれは部外者から見れば「ヤバい」状況というやつなのだろう。