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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    オール・ダージュplus5

    二十歳になった弓場ちゃんと王子と記憶の中の神田。
    タイトルに困ったあげく、ブランデーの十五年もの+5で二十年って意味にこじつけた。゚(゚´Д`゚)゚。

    #かんゆば
    driedBeancurd
    #弓場拓磨
    takumaBowaba
    #王子一彰
    princeIchiaki
    #ワールドトリガー
    WorldTrigger

    ランク戦と遠征選抜試験の三月が過ぎ、四月を迎え五月を控える、世間ではゴールデンウィークと呼ばれる頃、弓場は二十歳になった。
     一日早く二十歳になった生駒を含めた同輩のみならず、気のいい隊員や、元隊員たちはせっかくだからパーティでもしませんかなどと可愛いことを言ってはくれたが、せっかくのランク戦オフシーズンで任務だけしか決まった予定の入ってない貴重な時期、どうせなのだから巧くスケジュールをやりくりして、授業のない期間にしか出来ないことをしろ、ときっぱり断ったのだった。
    「……って俺は言ったはずだぞ、王子ィ」
    「承知してます。だからこれはぼく個人の用向きです」
     築二十年という、奇しくも弓場と同い年のアパートの玄関の前に立っているのは、かつての部下であり、今では同じB級隊長として競い合う好敵手でもある若者だった。明るい色のトップスにサマーカーディガンを羽織り、タッセルのついたバブーシュという少女めいたコーディネイトが似合う彼は、ひょい、と手にしていた小さめの可愛らしい紙袋を顔の高さまで持ち上げてみせた。
     バニラエッセンスとバターと蜂蜜の甘い香りがふわりと弓場の鼻腔をくすぐる。
    「商店街の町おこしプロジェクトで空き店舗に今年入ったばかりのパン屋さんで、美味しいパウンドケーキがあるって聞いたから買ってきたんですよ」
    「わざわざ?」
    「いいえ、デートのついで、です」
    「ふん、だったらありがたく受け取っておく」
    「誰とって聞いてくんないんですか? デート」
    「訊かれてェのか?」
    「そりゃもう惚気たいですもん♡ 隣町のミニシアターで古いドイツの映画を観て、シアターの三階にあるギャラリーカフェでドイツの町並みを描いた絵を眺めながらウォーレンホプトの美味しい紅茶を呑んで、それからショッピングモールで買い物をしてから、併設されてる小さい水族館に寄って、帰りに評判のええパン屋を教えてもろたからクロワッサンでも買うて明日の朝ごはんにどうや、って。そのついで、ですよ」
     もうその言い草だけで「誰と」の部分は分かってしまって、弓場は表情を選びかねて結果的に無になるしかなかった。それでも王子の好意に、茶でも入れるから一緒に食ってかねェかとは誘ったが、「今日は蔵内と勉強会なので」と惜しそうな様子ではあったが断られてしまった。
    「ところで、弓場さん」
    「何でェ?」
    「これは隊の運営上の機密みたいなものだから答えてくれなくてもいいんですけど、来期……神田が抜けた分を補充しないんですか」
    「するつもりはねェな」
     迷わず応じた返事の素早さからか、内容からか、王子は片方の眉だけを器用に上げて、無言で弓場を見やった。
    「おまえと蔵内が抜けて、弓場隊うちはアタッカーとシューターを補充したか?」
    「……いえ」
    「そう言うことだ」
     神田が抜けたら抜けたなりの戦術を組み、自他ともに鍛えていくだけのことだ。その人にはその人なり、その人にしか担えない役割があって、どんなに卓越した人材が仮に見つかったとしてもそれを埋めるという形で補うことは出来はすまい、というのが弓場の考え方であり、立ち位置だった。それは間違いなく出来る《・・・》隊員おとこだった神田であろうがあるまいが関係ないことだった。王子と蔵内が脱退し、神田と藤丸に相談しながら弓場の目で選んだのが帯島と外岡だ。A級に指先がかかっている上位部隊である弓場隊が、その卓越した攻撃手と射手が欠けた後にどうなるのか、周囲から注視されている中彼らは立派にその力を発揮してきた。
    「安心しろ。うちがおまえンところに上を明け渡すのは今季限りだ」
     猛々しくはないけれど、鋭い視線で五位を譲った部隊を率いる男を見据える。みな、傑物たちは容赦なく巣立つ。彼とても、そうだ。いつか、王子や蔵内や神田のように、帯島も外岡も弓場の元からそれぞれの形で発つ日が来よう。それを楽しみに思い、惜しむ気持を、この眼の前の綺麗な顔をして油断ならない男も知る日が来るのだろうか。
     王子は弓場の弾丸のような視線を受け止めて、花のように微笑んだ。楽しみにしてますよ、と。


    「……ふん」
     王子の手にしていた紙袋を目にした時から気づいていた。
     それは、かつて、まだ三月も浅い日、神田が弓場の部屋に手土産に持ってきたものと同じ店のものだった。
     神田の懇願を受け入れる形で、たった一度だけ共寝してから少ししてからのことだった。狎れた様子など一切見せず、以前と変わらぬ、隊長と部下だった頃のような屈託のない様子で。
    『フルフトクーヘン買ってきましたよ。ドライフルーツとナッツがぎゅうぎゅうに入ったパウンドケーキです。弓場さんお好きでしょ。ドイツ菓子風なんですって』
     どいつもこいつも、と弓場は中を覗き込んで、かすかに破顔した。
     神田は彼らしく豪快にまるごとのパウンドケーキを二種二本持ってきたけれど、王子は一切れサイズのものを何種類か詰め合わせたものを選んでくれたようだった。
     そのうちの一番スタンダードなものの包装を剥がして一口齧ると、表面に塗ったブランデーの香気が弓場の口の中に拡がった。まだ、慣れぬアルコールの気配は、しかしこうして甘味と共に口にするとするりと喉を、ほのかな熱だけを余韻に通っていく。
     戸籍の上では成人ということになったけれど、正直なところ弓場に特に感慨があるわけではなかった。望めば酒や煙草を嗜むことも赦される程度のことにしか過ぎなかった。ボーダーに入ると決めた時点で一人暮らしを始め、学生と防衛隊員という二足の草鞋を履き、小さいなれど小隊を率いる立場になった時のほうがよほど弓場拓磨という男の人生においてはそれなりの節目だった。
     だが、ふと思うことがある。
     もし、俺がとうに成人していたならば、もっと違う形で、或いはもっと早くあいつの想いに応えてやれていたのではないかと。
    『弓場さん、俺、ずっとあんたのこと好きでいて、いいですか』
    ――俺がダメだ、って言ってどうなるようだったら、おめェだってもうちっと簡単に済んだもんだろうよ。
     あんな、今にも泣きそうな面で人を抱きやがって、と弓場は苦笑だけを表情として選んで、レンズに遮蔽されていない視線を南へと投げかけた。
     遠く、遠く、遥か彼方の九州で、きっとそれなりに上手くやっているであろう男の、未だ薄れぬ面影を辿るように。この感情を「会いたい」と名付けてはダメだ、と思いながら。
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    palco_WT

    MAIKINGフィルター みんぐと王子と。
    新書メーカーでTwitterにあげたやつ。https://twitter.com/palco87/status/1337402360893587456
    災害や内乱などで壊れ、復興しかけた場所を、ずっと撮って回っているのだと彼は言った。それこそ世界各地を。
     もし行けるなら、近界だっけ、向こうの世界もフィルムに収めてみたいな、と子どもみたいな笑顔で男は笑った。
     壊れかけ、修復のまだただなかにある風景で、そこで生きていく人たちの姿を、一枚の銀塩に写し取る。三門市までやってきた男が、そのモデルに選んだうちのひとりは、意外なことに水上だった。


     風が吹き、春の予感をはらんだほのかな温もりをともなった風が、ばさばさと屋上に佇み、警戒区域を見下ろす水上のバッグワームをはためかせる。本来、トリオンではない物理法則の影響を受けないバッグワームが風に揺れるのは、それが換装体ではなく、生身に隊服をまとい、更にバッグワームを模したマントを羽織っているからだった。
    「なんで、彼なんですか」
    「色気かな」
    「色気?」
    「そう。一秒後には自分を害してしまいそうな危うさって言ったらいいのかな。不意に気まぐれで、線路やビルの屋上から飛び降りてしまいそうな」
    「確かに、ぼくたちの防衛任務《しごと》はとてもじゃないが安全というものではありませんが、彼はそこまで捨て 931

    水鳥の

    MOURNING初のイコプリSS。大半が十九歳。関西弁は空気で読んでください。 付き合ってからと言うもの、王子は事あるごとに生駒に好きを伝えたがる。
    「好きだよ、イコさん」
     時も場所関係なく伝えられる言葉に、生駒は不思議そうに尋ねたことがある。
    「なんや、王子、どないしたん?」
    「うーん、何でもないよ。ただ言いたいだけ」
    「それなら、ええ」
     にこにこといつもと変わらない笑顔を張り付けて、王子は生駒に言う。生駒は、本当にそうなら問題ないな、と頷いた。
     
    「で、今も続いてる、と」
     生駒から経緯を聞いていた弓場は、片眉を器用に持ち上げて嫌そうな表情をした。
    「そうや」
     生駒はいつもと変わらない表情で弓場の問いに答えた。
     日差しの気持ちよい午後、ボーダーのラウンジの一角に何故か十九歳組が集まり、何故か近況はどうなのかと言う事になり、何故か、王子と付き合っている生駒の悩み相談が開始された。
    「王子も可愛いところあるじゃないか」
     嵐山が、どこが悩みなんだ? と不思議そうに言う。
    「いや、何回も続くと生駒も鬱陶しいんじゃないのか?」
     嵐山の問いに柿崎が答える。
    「いや、そんなんないな」
     生駒は、当たり前だと言うように柿崎の言葉を否定した。
    「ないのかよ」
    1089

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    「で、今も続いてる、と」
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    「そうや」
     生駒はいつもと変わらない表情で弓場の問いに答えた。
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    「王子も可愛いところあるじゃないか」
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    「いや、何回も続くと生駒も鬱陶しいんじゃないのか?」
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    「いや、そんなんないな」
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    「ないのかよ」
    1089

    palco_WT

    PROGRESS冬コミ新刊の水王の、水上の過去の捏造設定こんな感じ。
    まあそれでも入会金十万円+月一万余出してくれるんだからありがてえよな……(ワが2013年設定だとたぶんんぐが小学生で奨励会にあがったとしてギリギリこの制度になってるはず。その前はまとめて払ってダメだったら返金されるシステム)
    実際、活躍してるプロ棋士のご両親、弁護士だったり両親ともに大学教授だったり老舗の板前だったりするもんね……
    「ん、これ、天然モンやで」
     黄昏を溶かしこんだような色合いの、ふさふさした髪の毛の先を引っ張りながら告げる。
     A5サイズのその雑誌の、カラーページには長机に並べられた将棋盤を前に、誇らしげに、或いは照れくさそうに賞状を掲げた小学生らしき年頃の少年少女が何人か映っていた。第〇〇回ブルースター杯小学生名人戦、とアオリの文字も晴れやかな特集の、最後の写真には丸めた賞状らしき紙とトロフィーを抱えた三白眼気味の、ひょろりと背の高い男の子と、優勝:みずかみさとしくん(大阪府代表/唐綿小学校・五年生)との注釈があった。
    「でも黒いやん、こん時」と生駒が指摘する。
     彼の言葉通り、もっさりとボリュームたっぷりの髪の毛は今のような赤毛ではなく、この国にあってはまずまずありがちな黒い色をしていた。
    1983