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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    お題箱 https://odaibako.net/u/palco87

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    palco_WT

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    去年の六頴館高卒業式当日の小話。弓場生徒会長だったらいいねと素面ででっちあげてます。同設定で辻犬(こちらは時間軸はほぼ原作リアルタイム)バージョンはべったに。https://privatter.net/p/6250467

    #かんゆば
    driedBeancurd

     甘い、というよりは清廉な香りだな、と神田は思った。その手には小さな容器に入れられた、南天の実と緑の色の濃いグリーンリーフを添えて、淡いイエローのフローラルテープでくるりとまとめられた白い薔薇のブートニア。
     彼の足が向かったのは、一階の玄関ホールからすぐのところだった。いつも埃ひとつつかないように拭かれたプレートは歳月を示すように少し黄ばんではいるけれど、かつては墨痕も鮮やかにしたためられていたのではあろう、今は少しだけかすれてしまった四文字が書かれていた。
    ――生徒会室。
    「二年A組神田忠臣、入室の許可を願います」
     ノックを二回の後、大きくはないがよく響く豊かな声で室内に問うと、「入れ」とややもするとぶっきらぼうに聞こえる声が応じた。だが神田は、その、耳に馴染んだ声に僅かに口元をほころばせた。
     失礼します、と改めて断って神田が扉を開けると、そこには前生徒会長となった自隊の隊長でもある卒業生の弓場と、前副会長で現会長の同級生の蔵内、現副会長の綾辻ら新旧の生徒会役員が部屋のテーブルを囲んでいた。それぞれの手元には印刷されたコピー用紙の束とサインペンと役員印が置かれていた。
    「おう、なんだ」と応じたのは弓場だ。
     お忙しいところお時間をいただきます、と神田は折り目正しく告げる。
    「弓場さ……弓場先輩、献花式出ないんですよね」
    「前生徒会長はそんな暇ねえからな。それと」
    「?」
    学校ここでも『さん』でも構わねェーってずっと言ってたのに、結局そのままで通したな」
    「ケジメは必要でしょう?」
     神田の言葉に、ふん、と弓場は満更でもなさそうに鼻を鳴らし、「それで献花式がどうした」
    「だから、俺が今おつけしようかと思って」
    「めずらしく可愛げのあることを」
    と弓場は笑うものの、そう悪い気分ではなさそうだった。
     卒業する三年生に、一年が作ったブートニアを二年が手ずからその胸元に飾る献花式は卒業式に欠かせない六頴館高校の伝統行事だ。
    「御留めさせて頂きます」
    「おう」
     神田は太くがっしりとした指ながら巧みに素早く、華奢な生花を損なうことなく弓場の左胸に飾った。さすが何事にもそつのない男の面目躍如といったところだろうか。
    「……似合わねェーよな」
     窓ガラスに映った、瑞々しい白薔薇のブートニアを飾った己の姿に、弓場は苦笑する。
    「そんなことないわよ、弓場くん」
     ノックを二回、返事を待たずに、勝手知ったるとばかりに扉を開いて現れたのは、口元のほくろも艶めかしい、長く豊かな髪を背に流した佳人だった。
    「加古さん、どうして」
    「去年の卒業生として来賓にお招き預かったの♡ 一年ぶりとはいえ懐かしいわね」
     弓場の前の代の生徒会長でもある加古は、くるりと生徒会室を見渡した。
     ひとつしか年が違わないのに、ボーダーの隊服とも違った、華やかでいながら決して派手ではなく丁寧な仕立てのスーツ姿の加古は、とても去年まで六頴館高校の制服を着ていたようには思えないほどにおとなびていた。
    「今年は白バラなんだ。蔵内くんの趣味でしょ」
     ええ、と綾辻は慧眼の先輩に微笑んだ。
    「去年のミディ胡蝶蘭、お似合いでしたよ、加古先輩・・
    「ふふ、ありがとう。コサージュに仕立てるのは大変だったみたいだけど」と加古はちらりと弓場を見やる。
    「弓場くん、意外に器用よね」
    「え? あれ、弓場先輩が造ったんですか?」
    「……後継として最後にできる餞だからな」
    「はー、律儀ですねー」
    「お前が言うかな」と蔵内がくすりと笑う。
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    palco_WT

    DOODLE合コンの頭数合わせに呼ばれてうっかりした弓場ちゃんが神田に回収されるの巻。
    (https://twitter.com/palco87/status/1331039561263181824)
    合鍵を貰っておいて良かった、と居酒屋から何とかか彼の部屋まで連れて帰ってきた弓場をベッドに横たえて、水やタオル、万が一嘔吐した時のことを考えてバケツと新聞紙をその傍らに用意する。
    「すまねェ」
     一度も聞いたことのない弱々しい弓場の声に、神田は眉をひそめながらもベッドの近くに引き寄せた椅子に腰かける。
    「大丈夫ですか?」
    「こんなことなら手ェすべったフリでもしてグラスを倒すほうが利巧だったかもしんねェな」
    「?」
     意味が分からずきょとんとした顔の神田に、店に迷惑かけるしなァと、弓場は言い足し、
    「俺の隣に座ってた女が化粧直しに立った隙に、反対側に座ってた奴が一服盛った気配があってな」
    「は!?」
     話には聞いたことはあるがそれは犯罪では???と神田はまなこが落ちそうなくらいに目を剥いた。
    「胸倉掴んで鼻骨のひとつもへし折ってやっても良かったんだが、幹事の知り合いの諏訪さんたちの顔ォ潰すわけにも行かねェーからな。間違ったフリして俺が呑んじまえばいいやと思って、一気に空けちまったんだが、睡眠導入剤ってやつだっけ? 結構効くもんだな。未成年だってェーのは言ってあったから酒呑むわけにはいかね 966

    palco_WT

    MAIKING今宵星がきみに降りるから

    高三弓場ちゃ、神田や蔵内、王子たちが二年のまだ旧弓場隊の頃のクリスマス前後。
    弓場が大学進学が内定したあたりで王子は独立する予定。六頴館だからもう決まってるのかな……
    六頴館高校から本部へと、部下の神田と蔵内を共に向かう道の途中、弓場がふと足を止めたのは青果店の前だった。
    「神田、蔵内、おまえら、リンゴ好きか?」
    「……? 好きですよ」
    「ええ。王子がたまに淹れてくれるアップルティーを楽しみにするくらいには」
    「そうか。なら、キャラメリゼして……」
     何事か小さくつぶやいた弓場は少し考えてから、一見梨にも見えそうな薄い黄色の皮の林檎を幾つか買い求めた。
    「煮るんなら紅玉みてェな酸いリンゴのほうが味が際立つんだが、甘みが強いならキャラメルソースにも負けねェだろ」
     星の金貨、と書かれた林檎を掌に納めて、弓場は透明なレンズの奥の天鵞絨《ベルベット》のようなしっとりした夜の色でありながら品の良い光沢を備えた瞳を細めた。
    「星の金貨……? っていうと昔のドラマの?」
    「関係ねェよ。見た目が金貨みたいな淡い色だからそう名付けたって話だ。品種名はあおり15だったかな」
    「弓場さん、農学部にでも行くんですか」
    「ねえだろ、三大《サンダイ》には」
     何言ってんだと弓場は笑いかけた蔵内にひとつ手渡し、もうひとつには軽くキスをしてから、神田へと放り投げた。お手玉をするよ 720

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