積木魔女が生み出した世界。
旅人から説明を受け、一緒に探索したいと請われて招かれれば幼子が絵筆を取ったような呑気な景色が広がっていた。
世界を変質させる力を有し、命を、元素を実験対象としか見ていない者達という我の認識と、足元を跳ねる紙や木の住人(?)は混乱に拍車をかける。
「まあまあ、たまには息抜き息抜き」
住人に頼まれて旅人は次々に仕掛けを解いていく。
「魈も解いてみる?」
渡された赤色の木の塊と足元にはモジモジする紙の鼠とすぐ側には面妖な形の赤い塊。欠けた部分は手にしたそれが丁度埋まりそうで、案の定きちんと嵌った。
紙の鼠は「勇気が湧いてきた」と他の鼠へと向かう。しばらくして二匹の間に楽しげな雰囲気が生まれた。
なんとはなしに、あの鼠は番の契約に成功したのではないかと感じた。
「へぇ、これ、ハートの形だ。魈のお陰であのリス、告白に成功したんだね」
「はあと?」
「親愛とか、愛情の印だよ。あと1歩を踏み出す勇気をこの積み木にもらったってことかな」
…くだらない、と一蹴できなかった。
この世界は絵本のような世界でありながら、現実の世界を「準えている」という。
決められた運命に抗い、自ら切り開く「可能性」を知って欲しかったと願われ、生まれた世界であり、事実、現実にその影響が出るかもしれないと旅人は言っていた。
ここでの行いの全てが繋がる訳ではなく、繋がらない訳では無い。
だからこそ、我の手で生まれたこの親愛の、愛情の印をないがしろには出来なかった。
空を見上げれば、星が流れる。
凡人は流れゆく星に願いを託すという。
そう、教えてくれた神が…凡人がいる。
この想いが現実にも届くかもしれないのであれば。
現実で口にするのは畏れ多いから。
この足元の小さき住人たちと、はあととやらに我も勇気を分けてもらうとしよう。
かさりと紙の芝生を踏みしめる音がして、シムランカにはない霓裳花の香りが夜叉を包むまでほんの僅か。