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    つつ(しょしょ垢)

    @strokeMN0417
    げんしんしょしょ垢。凡人は左仙人は右。旅人はせこむ。せんせいの6000年の色気は描けない。鉛筆は清書だ。
    しょしょ以外の組み合わせはすべてお友達。悪友。からみ酒。
    ツイに上げまくったrkgkの倉庫。
    思春期が赤面するレベルの話は描くのでお気をつけて。

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    POIPOI 33

    タイトル出オチモラショ。
    もしも仙人があのワル魔神によって作られたハニトラだったら。
    そんなこと考えましたが結局それ以上にワルイ魔神さんには効かない気がしました。
    今回のモラショの距離感は「近め」です。

    ##小話

    寵鬼寵鬼

    「あの夜叉を傍に置くのはお止めください」
    執務室にて、いくつかの状況報告を終えた部下の一人が苦々しげに最後に告げたのはこれまでも何度となく聞かされた諫言だった。
    ゆったりと却砂材で作られた椅子に腰かけていた岩王帝君は少しだけその黄金の瞳を揺らす。それだけでも部下は体のどこかが石にでもなった心地がした。
    危険だから、恨みを持つ者が大勢いるモノを傍に置けば自身の名に傷がつくからなどなど身を案じた進言から単なる心配、それから「傍に置いている」という事実への妬みまで…かの岩王帝君が目にかけているという事実は側近のみならず他愛もない噂話にも飛び火していることなど百も承知している。
    自身で救い上げた者たちを手の届く限りは守りたいという考えに賛同した者たちが集まっているはずだが、ことあの夜叉に関しては眉を顰める者も少なくない。

    敵対する魔神に操られ、殺戮を恣にしてきた悍ましい夜叉。
    しかしその姿は沈魚落雁、羞花閉月とはよく言ったもので夜叉としての気高さ、強さと少年らしい無垢さが相まって危うささえある美しさを誇る。

    だからこそ、
    「岩王帝君はあの夜叉に魅入られて、政を疎かにし、武器を置いて隠遁するに違いない、と」
    口さがない噂話は容易に耳に入る。否、入るようにされている。
    低く、抑揚のない言葉に部下は軽く背筋に冷たいものが走った心地がしたが、踏みとどまり一度唾を飲み込むと覚悟して続けた。
    「かの魔神は確かに帝君の手によって下されました。そしてあの夜叉も解放され帝君によって新たな生を得たも同然でしょう。しかし魔神の部下だったものたちが口々に言うのです」
    ほう、と思わず声が漏れ出た。その情報は初耳だと向き直る。
    帝君の興味を引いたと悟った部下は安堵して続ける。
    「あれはあなたを篭絡するために作り上げられた人形であると」

    曰く、敵を内側より崩すには閨の言葉ほど効果のあるものはない。
    ならば見目は完璧なモノをより相手の意に添うように育て上げ懐に潜り込ませれば意のままに操ることなどたやすい。
    しかし業とらしくあっては見抜かれる。あくまで自然でなくてはならない。生まれつき、まるで連理の杖のごとく「定められたモノ」と当人さえも錯覚させるほどでなくてはならない。
    あの夜叉は若き頃に名を奪ってやったから「自身」というものが朧気だ。
    ならばやがて自分の前に立ちふさがるであろう「モラクス」の意に沿う人形として育てれば、やがて領土を広げ、統治者となったそのときに夜叉に一言命じるだけで事足りる。

    「帝君は殊の外あの夜叉をお気に召しているご様子。手ずから手当をし、知識を与え、最近では武術の手ほどきもなさっていると。そのほどまでのめり込んでは、その…」
    言い淀み、こほんと業とらしい咳払いに帝君はにやりと嗤う。
    「俺がそのうち閨であれに「武器を捨て、領土をそこらの魔神に明け渡し、自分と一緒になれ」とでも睦言を言われるとでも」
    言ってしまえばその通りなのだが、あけすけな情事を想定した会話に部下は恐縮し首を垂れる。
    「あの魔神は下され、そのように命じる者はおりませぬ。ただ、その…」
    「情事にふけり、現を捨て、洞天に籠り、世間を見捨てる昏君となり得ると」
    淡々と、並べられていくだけの言葉がまるで罪を数えるかのようでじりじりと部下は皮膚が泡立つような感覚にとらわれる。
    何故だ。自分は正しく、主君が道を踏み外すかもしれないという危惧をただ伝えにきただけだ。
    あの夜叉は美しく、そして強い。戦場をまさに風にとなって駆ける姿に見とれる者も多く、救われたものも数知れない。だが、縁者を殺されたものも少なくないのだ。
    だからこそ璃月の統治者として君臨する岩王帝君の信望を脅かす存在は排除されるべきであろう。
    「ですから」
    「その理屈であれば」
    重ねて進言するより先に、重く、低い声が遮る。
    「俺の望みに添うように生きる人形は俺の望み通りに行動するということなのだろう? 俺の望みはこの璃月の民が妖魔に脅かされることなく生きていき、己の足で歩むことができるようになるように導くこと」
    こんっと指先で机を弾く。
    「あれに命令するものはもういない。あれは己の意思で俺の拓く道をともに行くと誓いを立てた。それさえもあの邪智邪念の魔神に作られた意思であるなら構わん。今は利用できるものは利用するべきだろう。そうだな、それでも俺が道を踏み外しそうだというのであれば…」
    ふわりと風が巻き起こり、翡翠の髪色の少年が現れる。
    「俺を斬れ」
    「…御意」
    凛とした声とともにすっと立ち上がる。
    人形のように美しい、だが人形というには生命力に満ち、何より溢れ出る仙気は文官である部下をひるませるには余りある。
    魔よけの朱がひかれた黄金色の目が男を捕える。鋭く怜悧な視線に部下は思わずひっと悲鳴を上げる。
    「話はそれだけか? ならば最前伝えたように荻花洲西部の魔物の監視、それから例の採掘の件も報告書を後でまとめてくれ」
    がたりと立ち上がる音に救われたように部下は一度深くお辞儀をすると冷静さを装いながら退室した。背後にじりじりと視線を感じたが己は己のなすべきことをしたまでと言い聞かせながら責務を果たすべく足早に去る。

    慌てて遠ざかる足音に、ははっと軽い笑い声が漏れた。
    対する夜叉のほうは抑えてはいるものの明らかに不機嫌そうにちらりとこちらを伺う。
    「お前に恨みを持つ者は多い。俺がお前を監視していると思わせられれば僥倖と思ったが、なかなかうまくはいかないものだな」
    「ですから我のことなど捨て置けばよかったのです・・・彼奴の言うとおり、いつかは帝君の御名に傷が付きます」
    「それでは俺を斬るものがいなくなってしまう」
    ぎくりと夜叉が身じろぎをしたのを見逃さなかった。
    「上に立つというのは存外に難しい。驕りが少しでもあればあっという間に信頼は瓦解する。公平にあれかしと願ってもその実は砂糖菓子より脆いものだ」
    もっとも、と付け加えながら机の上の器を手に取り、中身を夜叉の口に放り込むと再び椅子に腰を落とす。
    「手を加えれば柔くもなり、堅くもなる」
    口の中に広がる甘さとは裏腹に、先ほどの言葉を飲み込めない夜叉の表情は暗いままだ。
    「口に合わないか?」
    応えようにも思ったより堅い飴玉を口の中で転がしたまま応えていいものかどうか、何よりまず何をどう応えればいいのか、ちぐはぐな思考に囚われてもごもごとと口が動くだけだ。
    その様にモラクスは息を吐くように笑う。
    「そのままで構わん。答えてくれ。先ほどの話は真実か?」
    この夜叉が護衛のため姿を仙術で隠しているなどと、あの部下はまるで気づいていなかった。それほど高度な技術を持つ仙人を事もあろうに貶めたのだ。
    そっと伺うとフードの下の黄金の瞳は微かに怒気を孕んでいる。時に冷徹な裁可を下す魔神がそこにはいた。その怒りが自分に向けられたものではないとわかっているからこそ、彫刻よりなお美しく精悍な貌は息を忘れるほどにうっかりと見とれてしまいそうになる。
    口の中の飴玉が味を失う。
    だが答えよという命に応じないわけにはいかない。
    「我には分かりません。名を奪われていた間は命じられるままに命を殺め、命じられるままに…使われておりました」
    知らずに握りしめた拳は思ったよりも手のひらに食い込む。痛みは、感じない。
    「もしその時に何か、我も感知できぬほど深い場所に何か術でも施されていれば、貴方に仇をなすことは間違いないでしょう。ですから…」
    深刻な告白に違いないのに飴玉が邪魔にならないように必死に口を動かしている姿に思わず口が緩む。
    夜叉の身体がふわりと浮く。次の瞬間には岩王帝君の膝の上にいた。
    「て、帝君?」
    「俺は件の魔神より欲深いぞ? 一度手に入れたものは手放したくはない。璃月の大地、民、それから」
    強張った夜叉の手を包み、解していく。
    「俺を操れると思うか?」
    にいっと吊り上がった三日月の端から竜の牙が覗く。
    「俺に何を願う?」
    言葉を失ったままの夜叉の唇をそっと撫でる。
    「ははっ、もしあれの言う通りならとっくに俺は骨抜きにされてお前と洞天に籠っているところだ」
    微動だにしない、まさに人形のように脱力してしまってもなお、あどけなさの残る相貌、主君の膝の上にいるという申し訳なさと羞恥でわずかに頬を染めている姿はこの上なく愛らしい。
    「まだ今しばらくは」
    つんと鼻を突くとますまず混乱してぱちぱちとせわしなく瞬きを繰り返す。これが一騎当千どころか万の妖魔を屠る夜叉なのだから心のそこかしこがむず痒くなる。
    「璃月の槍であれ、魈」
    その言葉に「はい」と応じる夜叉の息をそのまま飲み込む。
    「言い忘れていたが」
    口の中に砂糖菓子の甘みが広がる。
    「最後の一つだった。惜しくなったからもらうぞ」
    俺は欲深いからな、と心で付け加えながら。
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