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    せんべい

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    鍾魈ワンドロワンライ
    10/16【記憶】【夢】
    この機会に、死ぬまでに書いてみたかった現パロ物を書きました
    書きたい場面を色々すっ飛ばして書いたので細かい所は目を細めてください

    #鍾魈
    Zhongxiao

    夢と記憶 夢を見る。
     夢の中、その人物は必ず最後に死ぬ。
     死ぬことに恐れはなく、どちらかと言えば夢の中の人物はその死に穏やかなものを感じていた。けれど無性に焦がれるような寂しさと掻き毟りたくなるような後悔が遅れてやってくる。
     どこかに手を伸ばそうとしても手はもう動かず、声をあげようとして声も出ない。そして手が動かないこと、声が出ないことを夢の中の人物は、良かったと思っている。
     夢の中のその人は、その感情にただただ耐え忍んでいた。そうして静かに死んでいく。

     そして目覚めると、自分は泣いているのだった。
     同じ様な夢を何度も見た。いつからかこれがいつもの夢だと夢の中で思えるようになり、そう認識できるようになると夢の中の人物の視界がそのままこの自分の視界となって、夢の中で起こるあらゆる出来事を見ることが出来るようになった。
     所謂、明晰夢かとも思ったが、夢だと認識しているだけで自分の意思で動くことは全くできなかった。夢の中の人物の体の中に入り込んだとでもいうように、その視界、その体を借りて体験をしているという状態だった。体験しているという言葉がぴたりと嵌るほど、それはとてもリアルな夢だった。
     そして最後には決まって死んで夢は終わる。その時だけ、夢の中の人物の感情がどっと自分に流れ込んでくる。その時以外は映画でも見る様な感覚で夢を見ているのに、死ぬ時だけはその人に呑まれて、まるでその人になったようにその寂しさと後悔を直に感じていた。そしてその感情に耐え忍ぶ。
     死んでいくこの人物がいつも何に手を伸ばそうとしているのか、何と声をあげようとしているのか探ろうとしても、それも出来ずにただ耐えて、そして泣いて目が覚める。
    頬を拭って、夢の中の人は泣くことすらも出来ないのだろうなとぼんやりと思いながら、きっと本当にそうなのだろうと確信もしていた。

    「わぁ、ショウ! 珍しいね、こんなに朝早く」
     そう声がして振り返ると、ソラが手を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。ショウは足を止め、そのソラを待つ。ソラの首元を見るときっちりと締められたネクタイが見え、今朝何かを忘れていると思っていたことがネクタイであると気付いた。夏場はネクタイをせずに許されていたが今日からはその限りではなかった。ショウはネクタイがあまり好きではなかった。
    「夢を見て……早くに起きた……」
     ソラはショウの隣に並び、そして二人は歩き始める。
    「ああ、いつもの夢? まだ見ているんだね」
     以前、話の流れで夢の話をしたことがあった。けれど最後に死ぬことは伏せていた。
    「昨日もモンスターと戦ったの?」
    「戦った」
    「いいなぁ、俺もそんな夢みたいよ。VRでゲームしているみたいな感じなんでしょ?」
     ソラは笑いながら顔を傾けた。
    「まぁ……そんなものか」
     ショウはまた今朝の夢を思い出していた。確かにモンスターを倒したり、空を飛ぶように駆けたり、困った人を助けたりするのはどこぞのゲームの勇者のようなものだ。
    「というか、ショウ、ネクタイしてないじゃん」
    「忘れた」
     事もなげにショウは言い、それを聞いたソラは両手を上げた。
    「そうでもなくてもその髪色で先生に目を付けられてるのに、また今日も何か言われるよ」
    「髪は生まれつきだから仕方ない。ネクタイは謝るしかない」
    「ショウらしい」
     淡々と喋るショウにソラはにこりと笑った。
    「皆はさ、よく普通の色に染めたらって言うけど、俺はショウのその緑色が好きだから絶対染めて欲しくないよ」
     ショウの髪には生まれつき緑色の髪がまるでメッシュのように生えていた。メッシュのように、というのがまた枷になって何度注意を受けたか分からない。緑色はあまりに目立った。事を荒立てる要因になることもあったが、それでもこれを別の色で覆い隠そうとは思わない。
    「そうか。染めないから安心しろ」
     そう言うとソラはまた嬉しそうに笑う。
    「あ、見てよ!」
     そして笑っていたソラはショウの背中側にある異変に気付くと大きな声を上げた。
    「あの草むら屋敷にトラックが止まってる!」
     ソラが指差す方向を見る為にショウが振り返ると、そこには引っ越し作業の小さなトラックが一台止まっていた。
    「ついに草むら屋敷に人が越してくるんだ!」
    「いやあの大きな家に、このトラックはあまりに小さいんじゃないか?」
    「一人なのかな」
    「一人で住む家とは思えないが……」
     以前、ショウとソラは学生の中で一時期話題になったこの屋敷に忍び込んだことがある。塀に囲われたその敷地の中には大きな屋敷が建っており、庭園ともいえる大きな庭があったのだが、長い間手入れがなされていないことが分かる程、草が生命力の限りを尽くすように伸びていたのだった。
    「確かにあんなに大きな家……四人家族でも難しいかも。ああけど、色々妹と喧嘩しなくて済みそうだからいいかも、洗面台もきっと沢山あるはずだよね」
    「掃除が大変だ」
    「こういうお屋敷にはお手伝いさんもいる、そうに決まってる」
     ソラは力強く頷くと、ショウは呆れたように鼻を鳴らす。それを見届けるとソラはまた口を開く。
    「こんなお屋敷に住む人ってお金持ちなんだろうな。どんな徳を積めば、こんなお屋敷に住めるんだろ」
    「国でも救えば住めるんじゃないか」
     ショウは皮肉めいて笑う。
    「ぜ……ったい、無理じゃん」
    「オレは夢の中では何度か国を救っている」
     その言葉にソラは大袈裟に驚いてみせた。
    「さすが、ショウ! じゃあ住めるね、俺の部屋もよろしく」
     ショウの冗談にソラは笑って応えて、肩をポンと一度叩いた。
    「馬鹿言ってないで行くぞ」
    「はーい」
     そう言ってまた並んで歩き始めてから、妙にまた屋敷が気になり、そして以前に忍び込んだことに今更ながらに呵責を覚えてもう一度だけ屋敷を見た。引っ越し業者の大人たちが無駄のない動きでトラックから屋敷へと家具を運び入れていく。今いる位置からだとトラックの中身も見えた。その量を見ると、本当にこの屋敷に一人で住むのかもしれない。そんなことがあり得るのかとショウはまた一層屋敷のことが気になり、後ろ髪が引かれる思いで学校へと向かった。

     放課後、ショウは一人で家路につく。
     学校の時間と寝る時間以外はおおよそバイトに明け暮れていたが、今日はそのバイトもなくなってしまった。今の自分の年齢では受けられない仕事を隠れて斡旋してもらっていたが、今日は自分がいると都合が悪いことが起きるようで突然来るなと連絡があった。本来得るはずだった賃金とこの余った時間を考えると、あまりに無駄な時間だと笑えそうだった。
     力なく歩いていたが、今朝の草むら屋敷の前に通りかかったところで先ほどのショックにより忘れていたモヤモヤを思い出した。
     少し離れた場所からじっとその屋敷を見つめる。そして今日の自分には時間が余り切っていると、意を決する思いでショウは屋敷の近くまで行き、その門をしげしげと見つめた。その立派な門を見れば、やはりこの屋敷は単身用ではないことは明白だった。
     ショウは視線を左右に振り、その塀の端と端を確認する。
    「一人には大きすぎるだろ……」
     そう呟いた。
    「俺もそう思う」
    「わああ!」
     突然自分の背後から声がし、ショウは生まれてから一番の大きな声を出した。
    「す、すみません。驚いて」
    「驚かせてしまったか」
     ショウが慌てて振り返ると、自分の真後ろに男が立っていた。全く気配がしなかった、とショウは内心更に驚いた。いつから自分の行動を見ていたのだろうかと冷や汗も出る。長身でほっそりとした黒髪の男だった。自分と同じように見慣れない色のメッシュがあることに気付き、動揺の中、少し親近感を覚える。
    「近所というのはどこまでを近所とすると思う?」
    「きんじょ?」
     男はショウの動揺など気にすることなくそう言い、ショウは鸚鵡のようにその言葉を繰り返した。訝しげながら男を見て、目がとても綺麗だとまたそこで気付く。
    「今日ここに越してきた。だから近日中には近所への挨拶をしようと思っている。その近所というのをこの家が隣接する家屋と考えたのだが、そうすると世間一般の数より些か多いように思う。少し困ってな」
    「は、はぁ……」
     聞く者によっては嫌味になるのではと思った。
     男は腕を組んで考えるポーズをとる。その姿を見てショウは自分の中のモヤモヤが濃くなるような、薄くなるような気がした。どちらとも寄れないこの不安定さに気持ちが悪くなる。
    「あの……どこかで、お会いしましたか?」
     ショウは堪らず質問をした。普段の自分であれば考えられない行動力だった。他者には積極的には関わってこなかったが、それを今悔いた。どういった言葉でコミュニケーションを取ればいいのか分からない。
    「どうだろう? 俺はとても記憶力が悪いから」
     男は考えるポーズを解くと両手を少し開いてみせながら僅かに首を傾げる。
    「あ、いえ、すみません。夢の話かもしれません」
     そう言ってしまってから、夢というワードを出した自分を恥じた。何の脈絡もなくこんな言葉を出せば不審がられてしまうと、ショウはすぐに弁解の準備をする。
    「夢で俺と似た人物にあったことが?」
     けれどその弁解の必要もなく、男は不審にも感じていない様子で更に質問をしてきた。その声色に面白がっている様子もない。真摯な姿勢にショウは肩の力を緩めた。
    「おかしなことを言いますけど、いつも同じ人物の夢を見るんです、その人物の色んな場面の夢を。そこに、その、あなたも出てきたかもって思ったんですけど……けど、多分違います」
     言葉を発しながら、会ったばかりの人に何を自分は話しているのだろうと思えて、漠然としたものは漠然としたまま、イエスともノーとも言えない状態だったが、この話題をこれ以上出すのは気が引けてノーとして話を終わらそうとした。
    「その夢は辛いものだろうか?」
     自分が終わらそうとしたものを男がまだ質問をしてくるので、ショウは不思議な気持ちでその問いを受け取った。
    「辛くはないです。いつも、最後には死ぬのですけど、死ぬ時も、辛くはなくて……」
    「そうか」
     男は表情の読めない顔で微かに頷く。
    「変な夢ですよね」
     ショウは男の反応が見たくてそう投げ掛けた。
    「確かにおかしな夢だ」
     男は今度ははっきりと頷いた。
    「本当にリアルで……これ夢ですよね?」
     ずっと感じていたことが何故だか今吐露した。ショウはまた男の反応が見たくてその姿を見つめる。
    「まさか自分が死ぬかもしれないと、不安に思っているのか?」
    「いえ、そうじゃなくて」
     今の話の論点はそこではなかった。けれどその不安も勿論あった。
    「そんなことは決してない」
     男にそう断言されると、本当に決してないだろうと思えた。
    「記憶として持っているもの、なのかもしれない」
     続けて男はゆっくりと言った。
    「けれどまさかそんなことはおそらくないだろう。夢はただの夢。夢のままであることが良い時もある」
    「どういう意味ですか?」
    「いや、すまない。気にしなくていい」
    「気にするなと言われても……」
    「良く眠れているか?」
     ショウが食い下がると男は別の質問を口にした。
    「良く、眠っています」
    「なら、良い」
     男が穏やかに笑うのでショウはそれ以上何かを言うことが出来なくなった。

    「またここに来てもいいですか?」
     少しの間の後、また意を決してショウがそう言うと男は複雑な顔をした。穏やかにしながらも、どこか噛み締める様に、目を揺らす様にしてショウを見る。その表情に拒絶を垣間見た気がして、ショウは慌ててまた口を開いた。
    「すみません! いきなり、あの、突然変な事を言ってしまって、忘れて下さい」
     その男に向かってショウは頭を下げた。
    「謝らなくていい。顔を上げて」
    「はい」
     言われて通りにショウは顔を上げ、またその男を見る。
    「大人としてはこうした場合、見知らぬ人間にそう簡単に会いに行ってはならないと示してやらねばと思ったのだが、そうしたことが出来なかった。その自分が大人げなくてすぐに言葉が出なかった」
    「オ、オレはそんな子供じゃないです」
     幼稚園児でも見えているのかとショウは少しばかり声を荒げた。
    「それは失礼した」
     男は愉快そうに笑い、笑う顔を見てショウは安堵を覚える。
    「子供じゃないお前が来たいというなら、好きなだけ来ていい。俺は大体ここに居る」
     いきなりのお前呼ばわりに、学校の先生などに言われたのであれば不快感を持っただろうが、今は何も感じなかった。
    「ありがとうございます」
     ショウは軽く頭を下げ、そして上げながらはっとしてまた口を開く。
    「そう言えば、今更なんですけど、名前を聞いてもいいですか」
    「確かに今更だな」
    「すみません」
     くすくすと笑う男を見て、ショウは気恥ずかしくなり、肩を竦める。
    「俺の名前はショウリと言うんだ。変な名前だろう?」
     ショウはその響きに目を丸くした。
    「びっくりしました。オレの名前と似てますね。オレはショウって言います」
     無性に嬉しくなってショウは被せるように言葉を発した。ソラにこの姿を見られたら暫くはからかわれるだろうと思えた。今の自分は本当にらしくなく、普段では考えられない程浮かれていた。
    「ショウか、良い名だな」
     その言葉に何故だかまた嬉しくなって、不思議と涙が出そうになる。





    「また来ますね」

    「そう言ってくれるのなら、待っているよ」




                   了
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