理想郷 21
「なんでいるんだ」
それは俺のセリフなんだけどなあ、とフィガロは苦笑した。かつては尊敬もした人物だが、こうして改めて見ると実に胡散臭い笑顔の持ち主だ。
入学式から数日経った放課後、一年生の教室。担任ではない教師との接点はあまりなく、ようやっとふたりきりで言葉を交わす機会を得た。
ファウストがわざわざ実家から遠い他県の寮付きの学園を選んだのは、誰も自分を知らないところに行きたかったからだ。
メディアに出ていたこともあるので、多少顔を知られているのかはもう仕方ない。興味本位で近づいてきても現在の無愛想な自分を知れば自ずと離れていくだろうからどうでもいい。
そう考えていたのに、いざ入学してみたら旧知の教師がいたのだ。脱力もしたくなる。
14879