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    k_kuraya

    相互依存が永遠のテーマ。
    二次創作・ブロマンスの小説などポイポイします。
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    k_kuraya

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    ベレトの眷属にならなかったディミレトの幸せについて考えた、二人の約束についてのお話です。転生を含みます。

    #約束の果てに
    theEndOfThePromise
    #ディミレト
    dimSum
    #小説
    novel

    【約束の果てに 1−2/2】

     肌を刺すような冷気に意識を呼び起こされ、ディミトリは酷く重い瞼をとろとろと持ち上げた。次の節に跨がる夜更けのことである。まだ夢心地であるような、霞がかる天井を暫く見上げ、はたはたと音がする方へと目を向ける。はたはたと、青いカーテンが靡いている。窓が――開いている。そこから満点の星空が見え――しかし綿雪が降る不思議な夜だった。窓から入り込んだ雪が床に白く積もっていた。
     いつからそうしていたのだろう。開け放たれた窓の前に佇むベレトは静かに夜空を見上げている。
     雪明かりに照らされて滑らかな輪郭は陶磁器のように白く、髪の一筋一筋が、エメラルドの瞳がまるで星を孕んだようにキラキラと煌めいている。いつもは黒揃えの衣装を好んで身に着けているが、今夜は雪のような白衣である。群青の裏打ちと金色の刺繍が施された外套は、ディミトリが誂えさせたものだった。
     白衣の衣装はニルヴァーナで陣頭指揮を執っていた頃の――大司教として大聖堂に佇んでいた頃の姿を思い起こさせる。ディミトリは彼が時折見せる神秘的な美しさにたびたび目を奪われることがあった。聖書やステンドグラスに描かれた神聖かつ不可侵のフォドラの女神――その姿に何度重ねて見たことだろう。今も見慣れた寝室の景色がぼやけて、ベレトが立つそこだけが世界から切り取った一枚の絵画のようだった。
     ベレト、と彼を呼ぼうとして喉がひきつるのがわかった。凍りついた蛇口を開いたみたいだ――ぼんやりとそんなことを考えながら、何度となく彼の名前を口の中で転がし続ける。
    「ベレト」
     ようやくそれが声になった時、自身の耳にすら届いたかわからないほど小さな声になった。それなのにベレトはその微かな呼び声を拾って即座に振り返った。ディミトリの空色の瞳と目が合うとみるみる両目を見開き、すぐに泣きだしそうな顔をして笑ったのだった。
    「ディミトリ……っ」
     ベレトはディミトリの元へ駆け寄ろうとしたが、踏み出したその足がびくりと震え、床に杭打ちされたかのように立ち止まる。二人の距離は二メートルにも満たない。腕を伸ばせば指先が触れ合うその距離を、ベレトは越えることができないのだ。
     ディミトリは枕に頭を乗せたまま、ベレトを見上げている。迷子のような顔をした彼の心がすすり泣いているような――そんな気がして、ディミトリは涙を拭う指先のような口調で静かに問いかけたのだった。
    「ずっと、星を見ていたのか?」
     若い頃より随分と細くなった喉を震わせる声はさすがに溌剌とはしていなかったが、さきほどよりはずっと滑らかに言葉になっている気がした。
    「……うん」
     と、ベレトは少し戸惑いがちに小さく頷く。
    「それでは体が冷えただろう。……そう言えば、ここに尋ねてきた日もお前は凍えていたな」
    「……」
     ベレトの顔からすうっと表情の色が消えた。初め出会った時のようなその顔の中で、エメラルドの瞳だけが凪いだ水溜まりのように揺らいでいる。脇に下された手のひらが拳を作った。その拳さえ震えていた。
     淡雪が舞い込む。はたはたと群青の外套が靡いている。
     ベレトは何かと葛藤するようにぐっと瞑った瞼を――やがて開き、その透き通る双眸でただひたすら真っ直ぐにディミトリを見つめて言った。
    「……あの日の約束を、覚えているか?」
     ディミトリは僅かに目を見開き、強く答える。
    「一度たりとも忘れたことはない」
     それを聞いてベレトは小さく微笑むと、そっと目を伏せた。胸に込み上げるのは、喜びと、哀しみと、安堵と、後悔と、それから――。複雑に絡まり合う感情が溢れ落ちてしまわないように胸元を握りしめて、ぽつりぽつりと話し始める。
    「……今節の初め、ここを訪ねた日――。あの日の約束のために君に会いに屋敷の前まで来て、今更ながらに足が震えた。怖くなったんだ。あの約束は、最後の最後に君の心をこの手で壊すようなものなんじゃないか、って……」
     小高い丘の上からブレーダッド領を見下ろした。凍てつくような寒さの中でさえ明るく賑やかな領土の民たち。家々を眺め、視線を遠くへ放る。領土の向こう、ファーガスの各地で活躍するかつての教え子たち。一つ瞬いて振り返る。立派な屋敷はいつ訪ねてもどこも細やかに手入れが行き届いていた。
    「長い時間ぼうっと突っ立って、屋敷を見上げていて――」
     フォドラの民はかつて彼らが押し頂いた解放王を敬愛し、ディミトリもまた彼の生涯をかけて民に心を砕いてきたことを、ベレトは長い時間をかけて知り過ぎてしまった。
     白濁していた意識が身震いとともに鮮明になった。いつの間にか雪が降り出していた。灰色の空を見上げていたら、視界の端に鮮やかな青が靡いた気がした。それは錯覚であったけれども、寒くなると無性に彼に会いたくなった。ベレトはディミトリの腕の中の温かさも、よく知り過ぎていたのだ。
    「ここの皆に合わす顔がなくて、それでも立ち去ることもできなくて、裏からこっそり忍び込んだんだ。本当に情けないな……」
     眉を下げ、薄く苦笑する。続けようとした言葉は空虚となってそれ以上は続かず、僅かに開いた唇は空を食んだ。
     ここを訪ねて来た時から、時折ベレトは迷子のように心許ない顔をする。たった一つと決めた帰る場所に、帰ってよいのか決めあぐねているようだった。
    「……ベレト、こちらに来てくれないか」
     ディミトリはベッドに横たわりながら、ベレトに向けて手を差し伸べた。白い腕は随分と細くなってしまったが、彼を手繰り寄せる糸の代わりにしてはこれ以上のものはないだろう。
     ベレトはディミトリの手と顔とを見比べ、やがて小さく息をついてその大きな手のひらに指先を乗せた。ぎゅっと握られ、引かれる。抗うことはせず、コツ、コツとブーツの底で床を踏み、ベッドサイドで立ち止まった。片方だけの空色をぼんやりと見下ろす。
    「ファーガスの騎士は約束を違えない。お前と約束を交わしたその瞬間から、揺らいだことは一度もない」
     真摯な隻眼が苦笑に細められる。
    「そう言い切れたら格好がつくのかもしれないが、あいにく約束に縋っていたのは俺のほうなんだ」
     手を繋いだまま、ベレトは眼差しだけで言葉の先を問うた。
    「命惜しさに悪逆非道の限りを尽くした権力者がどれほどいたか、歴史を紐解けば呆れるほど転がり出てくるものだ。確かに命は惜しい。今になってようやくそれがわかったよ。昔の俺は死など恐ろしくはないと思っていたが、あれは生きることが辛かっただけだった。だから本当の意味で命の尊さを知った俺もまた、過去の例に漏れず王道を踏み外すことだってあり得たわけだ。――だが、俺にはお前との約束があった。あの約束があったからこそ俺は死を恐れることなく、過去の己の愚行の罪滅ぼしにと粉骨砕身、民のために働き、最後まで王道の真ん中を歩めたのだと思う」
     繋がれた手に力が籠る。
    「だってそうだろう? あの約束がある限り、少なくともこの世でただ一人だけは、今際の際まで俺を愛してくれているのだから。こんなに心強く、幸福なことが他にあるか」
     ディミトリは柔らかく目を細め、ベレトを見上げる。その口から紡がれる言葉は泣きたくなるくらいに優しい音を立てる。
    「ベレト、お前はどう思う? それでもまだ俺を哀れに思うのか」
    「……参ったなぁ」
     溜め息混じりにそう溢したベレトのエメラルドの眼球には涙の膜が張り、ゆらゆらと波紋を立てる。それを隠すように顔を手のひらで覆って、首を横に振った。手のひらの下でぐっと眉間にしわが寄るのは、その涙を溢さないためだろうか。
    「……幸せなんだ。怖いくらいに、幸せなんだよ」
     ベレトこそが約束に縋り、幸福に甘んじて生きてきたのだ。けれど、心の奥から繰り返し問う声がする。この世界から、この世界に住まう彼を愛する人々から、彼を奪い去っていいのだろうか――と。それでも心が泣き喚く。目覚めないディミトリの枕元に突っ伏して、駄々をこねる子供のように何度も繰り返した言葉がある。
    「……置いていかないでくれ……」
     顔を覆う手のひらの下からつうっと頬を滑った雫が、小さな音を立てて白いシーツに落ちた。
    「置いていかないでくれ……。一人に……しないでくれ……」
     ぱたぱたと続けざまに降るのは涙か、言葉か。
    「……しないよ。するはずがない。だってそれが、俺たちの約束だったろう?」
     ディミトリの言葉は真実である。あの日、確かに交わした約束がある。約束は二人の生きるよすがだった。
     ベレトは言葉に促されるように顔を覆っていた手を下ろした。再び露になった両目からは、ほとほとと涙が溢れている。目元や頬、鼻頭は朱色に染まり、ずずっと鼻を啜るのを見て、ディミトリは小さく声を立てて笑った。まるで大きな子供のようだったから。
     出会ったばかりの頃が夢であったかのように、ベレトは喜怒哀楽をよく表現するようになった。澄ました顔も、怒りに満ちた顔も、困り果てた顔も、子供のような泣き顔さえ――ディミトリはすべてを愛しいと思う。そして、心のままに感情を揺さぶらせたその後には、笑ってほしい。楽しそうに、はにかむように、満足そうに、幸せそうに――笑ってほしい。己の隣が彼の居場所になった時から、そう願わない日はなかった。
     ディミトリはベッドに落としていた手を持ち上げて、彼に向けて腕を広げる。
    「……だから、ベレト。迷わず俺の元に帰っておいで」
     ベレトは涙に濡れる睫毛をはたはたと瞬かせて、ようやくそれ以上の涙を呑みこんだ。頷く代わりに、繋いでいた手のひらにすり寄るようにして指を絡める。膝からベッドに乗り上げると、ゆっくりと上体を傾がせて広い胸へと倒れ込んだ。ディミトリの腕がベレトの頭を優しく迎え入れ、そっと抱き締めてから、大きな手で薄緑色の髪を柔らかく撫でる。ベレトは身を任せたまま、とくとくと規則正しい彼の拍動に耳を澄ませていた。心地よい命の音だった。それなのに、この胸の中で確かに脈打っている鼓動もまた――間もなく終幕の時を迎えようとしている。
    「……手を、貸してくれるか」
     どれくらいそうしていたか――降雪のように静かで穏やな言葉に、ベレトはそっと頷いた。名残惜しさを頬に残して、ベッドに片腕をついて上体を起こす。ディミトリを見下ろすと、
    「枕元に」
     と彼は短く言い、その言葉従って彼が頭を乗せる枕の下に腕を差し入れる。羽毛が詰められた柔らかな布地の下で何か固く冷たいものが指先に触れ、手繰り寄せてみればそれは手のひらで包み込めるほどの太さで――長年それに関わるばかりであったベレトには、すぐに剣の柄であることがわかった。取り出して眼下に収めれば、やはり一振りの剣だった。剣先から柄頭までの長さは指先から肘ほどあり、長剣には短く短剣には長い。鞘や鍔は銀で、見事な彫り細工が施されていた。よく磨かれた鏡面にベレトの半顔が映る。
     ベレトが剣からディミトリへ眼差しを落とすと、ディミトリはそれに目で頷く。促されるまま鞘を払えば、まるで氷柱のように青白く透き通った剣身が姿を現した。よく見れば金剛石の破片のような煌めきが剣身に散りばめられており、それがまるで夜空に瞬く星のようであり、水中で群れを成す魚の鱗の輝きのようでもある。いっぺんの曇りもない滑らかな剣身は、ファーガスの最北端、万年雪の下から採掘された水晶を削り鍛えたものであった。
    「きれいだ……」
     ベレトは思わず感嘆を漏らした。
     拵えから剣身までもが宝剣や飾り剣と見紛う美しさであるが――その刃の鋭利さは間違いなく実戦用の剣である。ベレトはその素晴らしい一振りを眺めながら確信する。ディミトリはベレトとの約束を守るためこの剣を用意し、片時も肌身離さず持ち歩いていたのだろう。ベッドに伏せるようにってからも、今日この日まで。
     ベレトは深く瞬いて、ディミトリを見つめた。見上げてくる隻眼は冬の晴れた日の早朝のように透き通る空の色をしている。月を溶かし混ぜたような金髪も、そこに白銀が混ざっているのも、目尻や頬にうっすらと走る皺の一筋一筋まで、どれもがベレトが慈しんだものばかりだ。
    「……君は幾つになってもいい男だなぁ」
     うっとりとベレトの唇から溢れ落ちた囁きに、ディミトリは目尻の皺を深くする。
    「お前にそう思ってもらえるなら光栄だ」
    「最後に抱いてもらえないのが本当に残念だよ」
    「それはすまないな。昔のように抱いてはやれないが、抱き締めてはやれる。それで許してくれ」
     相好を崩してそう答えたディミトリに、ベレトも思わず破顔する。その笑顔はあどけない少年のようだった。
    「うん。いい。それでいい。抱き締めていてくれ、ずっと――」
     微笑んで、ベレトは剣の柄をディミトリの手に握らせた。節くれだった長い指がしっかりと柄に絡められたのを確認し、垂直するその剣の上に上体を倒していく。
     剣先はベレトの鳩尾を僅かに押し上げ、衣服ごとその柔らかな皮膚を突き破る。刃はバターを切るより容易く肉を割り開いていく。
     パタッと小さな音を立てて、ディミトリの頬に赤い滴が落ちた。それはベレトの口端から溢れ落ちたものだった。刃先が内蔵に達したのだろう。
     その顔に苦悶はない。ディミトリはベレトの頬を撫で、ベレトもそれに応えるように手のひらにすり寄ると、首を下げて唇を重ね合わせた。触れるだけの口付けを繰り返す。深く舌を絡めないのは、ベレトに流れる女神の血をディミトリが誤飲しないためである。
     互いの顔の至るところに唇を寄せ、啄みながら、ディミトリはベレトを抱く腕に力を込めていく。
     ――やがて剣先は音もなくベレトの背を貫き、溢れる赤色が白衣を染める。ちょうど、雪原に赤い花びらを蒔いたかのように。
     体を寄せる二人の間には一分の隙間もない。互いの体に腕を絡め、失いつつある体温を二人で分け合う。
     静寂が満ちる部屋には雪が降り積もる音と、微かな息遣いがあるだけだった。綺羅星の瞬きさえ耳に届くようだった。
    「……やくそくを……ありがとう……」
     ディミトリの腕の中でベレトは囁く。
    「……俺もすぐにいく。少しだけ、待っていてくれ」
     ベレトは頷く代わりに、もう一度唇を寄せた。それはディミトリの唇に触れたまま微かに動いて――やがて呼気が、止む。
     あの日――生涯を共に生きることを誓った日、二人はたった一つの約束をした。愛しさと切なさと痛みとを織り込んだ約束は、今日まで二人繋ぐ糸だった。
    「……知っているよ。ずっと、ずっと俺を愛してくれてありがとう――ベレト」
     最愛を両腕に抱いて、ディミトリは眠りに落ちるようにゆっくりと瞼を落とした。片方の目尻から滑り落ちた涙を拭う手はもうなかったが、凍えるほどの室温がその一粒を頬の上で結晶に作り替えた。
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    k_kuraya

    PROGRESSベレトの眷属にならなかったディミレトの幸せについて考えた、二人の約束についてのお話です。転生を含みます。【約束の果てに 2】

     かつてアドラステア帝国、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟領、セイロス聖教会の四大勢力によって保たれていた均衡は、フォドラを呑み尽くさんとした大戦火の末に瓦解した。四勢力は国を廃し領と改め区分され、それらを統合して一国とし、フォドラ統一国と名を定めた。
     戦火の爪痕は凄まじく、傷を負ったのは目に見えるものばかりではなかった。二度と戻らない命を嘆く人々の慟哭は、フォドラの大地を空を震わせた。彼らは涙に暮れ、身を寄せ合い、何度眠れない夜を過ごしただろう。
     そんな彼らの肩を叩いたのは、傲慢磊落なアドラステア皇帝を打倒したまさにその人である。ファーガス神聖王国国王ディミトリは人々から解放王と呼び讃えられ、戦場で縦横無尽に槍を振るったその辣腕を今度は復興と泰平のために奮ったのである。戦争を共に越えた仲間たちも彼らの王を力の限り支え、新しい世のために骨身を惜しまず力を尽くした。
     そして、王と足並みを揃え、未来への道を共に作る人がガルグ=マクにもあった。それはフォドラ解放の立役者であり、セイロス教会大司教の座を託されたベレトである。国を引率するものたちのかつての師でも 9041

    k_kuraya

    DONEベレトの眷属にならなかったディミレトの幸せについて考えた、二人の約束についてのお話です。転生を含みます。【約束の果てに 1−2/2】

     肌を刺すような冷気に意識を呼び起こされ、ディミトリは酷く重い瞼をとろとろと持ち上げた。次の節に跨がる夜更けのことである。まだ夢心地であるような、霞がかる天井を暫く見上げ、はたはたと音がする方へと目を向ける。はたはたと、青いカーテンが靡いている。窓が――開いている。そこから満点の星空が見え――しかし綿雪が降る不思議な夜だった。窓から入り込んだ雪が床に白く積もっていた。
     いつからそうしていたのだろう。開け放たれた窓の前に佇むベレトは静かに夜空を見上げている。
     雪明かりに照らされて滑らかな輪郭は陶磁器のように白く、髪の一筋一筋が、エメラルドの瞳がまるで星を孕んだようにキラキラと煌めいている。いつもは黒揃えの衣装を好んで身に着けているが、今夜は雪のような白衣である。群青の裏打ちと金色の刺繍が施された外套は、ディミトリが誂えさせたものだった。
     白衣の衣装はニルヴァーナで陣頭指揮を執っていた頃の――大司教として大聖堂に佇んでいた頃の姿を思い起こさせる。ディミトリは彼が時折見せる神秘的な美しさにたびたび目を奪われることがあった。聖書やステンドグラスに描かれた神 6061

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     戦火の爪痕は凄まじく、傷を負ったのは目に見えるものばかりではなかった。二度と戻らない命を嘆く人々の慟哭は、フォドラの大地を空を震わせた。彼らは涙に暮れ、身を寄せ合い、何度眠れない夜を過ごしただろう。
     そんな彼らの肩を叩いたのは、傲慢磊落なアドラステア皇帝を打倒したまさにその人である。ファーガス神聖王国国王ディミトリは人々から解放王と呼び讃えられ、戦場で縦横無尽に槍を振るったその辣腕を今度は復興と泰平のために奮ったのである。戦争を共に越えた仲間たちも彼らの王を力の限り支え、新しい世のために骨身を惜しまず力を尽くした。
     そして、王と足並みを揃え、未来への道を共に作る人がガルグ=マクにもあった。それはフォドラ解放の立役者であり、セイロス教会大司教の座を託されたベレトである。国を引率するものたちのかつての師でも 9041

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     目を閉じると、ふ、と視点が浮かぶような感覚になる。見えるのはぼくの後頭部、道行くぴかぴかの生徒たち、さらにぐぐっと視点が浮上して、学校の校舎が見え、自宅が見え、遥か向こうの街並みの際が、緩やかに歪曲している地平線まで見える。上昇していくと、晴れ晴れとしていたのにそこには実は薄雲が張っているのだと分かる。対流圏を越え、成層圏に及ぶと次第に空の青色は群青へ、さらには夜のような黒色へうつり変わっていく。これが宇宙の色 2162