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    xxsakanaxx_hq

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    公園で花壇の手入れをする角名とおにぎり屋のお兄さんの話

    #治角名
    nameOfTheCorner

    君に紫苑の花束を公園の管理組合で働く角名は花壇のお手入れをするのが仕事。朝出勤したら公園中の花に水をやり、草をむしったり土を整えたり株を入れ替えたりして一日を終える。終わったあとは必ず日誌を書くのが決まり。いつどこで何の手入れをしたか、日が経っても思い出せるように。それに倣って、角名は夜寝る前にも日記を書くように決めている。どちらもたまに忘れてしまいそうになる時は、同僚の管理人や一緒に住んでいる妹が教えてくれるので、どうにか毎日続けられている。
    そんなある日、角名は公園で花の植え替えをしている時に、自転車に乗った男の人に声を掛けられた。
    「ご精が出ますね」
    見たことのない男性。背が高くて筋肉質で、黒いTシャツに黒いキャップをかぶっている。誰だこの男は。角名は初めて会う人物を警戒する。するとその人は慌てて両手を軽く上げて、
    「ああすんません!怪しいモンやないんです!ここの管理組合さんにいつも弁当届けとるおにぎり屋です!」
    一生懸命弁明する。その様子があまりに必死だから、角名は思わず笑ってしまった。不思議な感覚だった。初対面の人なのに、この人はきっといい人だと確信が持てる。落ち着いて、ポケットから仕事用のメモを取り出して、角名はページをめくった。おにぎり屋。お昼の配達をしてくれる人。ああ、書いてある。
    「宮さん…ですよね?配達ならあっちの管理棟にお願いします。ドアの横のインターホンを鳴らしてもらったら、係の人が受け取ると思います」
    「こりゃあ、ご丁寧にありがとうございます。そうします。…ところで、お兄さんは今は何をしてはるんですか?」
    「花壇の花を入れ替えてます」
    「へえ。ご苦労さんです。新しい苗は何を植えるんですか?」
    「これは、えっと…紫苑です」
    「ああ、そりゃええなぁ。きっと今年もきれいなんやろな」
    「紫苑の花、知ってるんですか?俺は見たことないんですけど」
    「そうでしたか。紫苑は小さい紫色の花をつけるんですよ。夏の終わりから秋の頃です。こんだけいっぱい植えたら、ここら一面紫苑でいっぱいになるから、通りがけの人も喜ぶやろなぁ」
    「そうですか。なら、苦労の甲斐もあるかな」
    「せやな。お兄さんが毎日元気で働いてくれとるだけで、喜ぶ人は仰山おりますよ」
    「あははっ。それは大げさですよ。…そろそろ時間、大丈夫ですか?」
    「…アカン、長話しすぎてもうた。昼前に店戻らんと、店員に叱られてまうわ。俺行きます。邪魔してすんませんでした」
    「いいえ。色々ありがとうございました。お昼ごはん、楽しみにしてます」
    「まいどどうも。明日もまた来ますんで、どうぞよろしゅう。俺はおにぎり屋の、宮治です」
    「あ…ここの、管理組合の、角名倫太郎です。こちらこそ、またどうぞよろしくお願いします」
    名乗り合って会釈をして、角名と治は別れた。角名はポケットのメモ帳を取り出してもう一度端から端まで探してみる。『紫苑の植え方、花の特徴』——しまった、ちゃんとメモに書いてあった。あの人、宮さんは気を悪くしていないだろうか。一瞬不安に思うけれど、すぐに思い直す。たぶん、あの人なら大丈夫だろう。初対面の角名に優しく話し掛け、たくさん話をしてくれたのだから。
    「来週もまた話し掛けてくれるといいなぁ…」
    ぽつりと呟いて、角名は仕事に戻った。

    《種明かし》
    治と角名は高校の同級生で、同じバレーボール部に所属していて、恋人同士だった。
    社会人になって数年後、角名は事故で瀕死の重体となり、かろうじて命は助かったものの、後遺症で高次脳機能障害になってしまった。日常生活や言語能力に問題はないものの、10歳以降の記憶を全く失くしたため、高校三年間のことは何も覚えていない。記憶の持続時間も短く、通常は一週間サイクルで新しく覚えたことも忘れてしまう。仕事においては、花を植えたり草をむしったりする日常動作は問題なくできるが、同僚の顔や名前、公園までの行き方などは毎週リセットされるため、メモを持ち歩き、日誌を書かさずにつけている。(スマホはすぐに使い方がわからなくなるので大幅に機能制限した状態で持たされている。角名本人も電話をかけるくらいしかできない。)
    治は当初角名を引き取りたいと申し出たが、角名が治を覚えていないこと、これからも覚えられないことを理由に反対され、角名は愛知に戻って実家の近くで妹と同居している。両親と妹のことは子供の頃の記憶でかろうじて思い出せるので。それでも角名の身を案じて、治は店を愛知の角名の職場近くに移して、今は近所に住んでいる。事情を知っている人たちの計らいで、角名が働き始めてからは毎日公園の管理組合にお弁当を配達しているが、角名は毎日治と話をしても、月曜日には『初対面』に戻ってしまう。それでも治は毎日角名に話し掛けている。その生活が始まって7年、角名は未だに治を思い出せない。
    なお、角名は事故の怪我で脚の腱を切ってしまったため、走ったり跳んだりする運動、バレーボールは二度とできない。

    紫苑の花言葉
    「追憶」「君を忘れない」
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    😭😭😭🙏💘😭😭😭😭😭😭💗❤❤😭😭😭
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    mona5770

    MEMO(治角名)リモート会議に参加する角名と甘えにくる治
    リーマン軸は彼らにはないはずなのに、自分の土俵に入れようとするのはやめなさい。
    いやでも角名は午前中だけでも会社員のはずだ。よし。
    (バレー関係、仕事関係は完全捏造です)
    無難に総務とかに配属されてコピーしてるのも想像したけど、角名はSNSとか得意なんでしょって無茶ぶりでHPメンテとかの仕事してるイメージ。
    リーマン角名に夢を見る。仕事中はPCメガネ着用よろしく。ご時世もご時世だし「シーズンオフの出社は最低限でいいよ」と言われた。選手としてはともかく会社員としては絶対にいなければ困る存在かと言われたらそうでもないし、毎日がちがちに出社しないと困るような仕事量でもないことは自分でもわかっている。
    仕事内容もパソコンさえあればどこでもできるものだし。
    となれば躊躇せずに「ありがとうございます」とその提案をありがたく素直に受け入れるしかない。つかほんとにありがたいし。
    もちろん代表関係の招集もあるから完全なオフではないし、出社しなくていいだけで、リモートワークで決められた仕事はこなすわけで。
    もちろん会議やミーティングがあれば参加しなければならない。
    とはいえ出社が免除されればどこを拠点にしても、それが招集されたときに困るほどの僻地でなければまったく問題はなくなるのだ。
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