裏切り者の恋 組から「最近関西で幅利かしてる稲荷崎組を調べてこい」と言われて単身関西へ。とりあえず稲荷崎組のシマのバーで働いていると、関西圏ではないその筋の下っ端のようなやつが店に来て騒ぎ出す。困ったフリをしていると、たまたま様子を見に来た侑と銀が対処する。自分の管轄の店の人間は覚えている銀とはじめましてした角名は「こいつはイケる(チョロい)な」と判断。関西は初めてだということでいろいろ相談に乗ってもらいながら、ちょいちょい探りを入れていく(稲荷崎のシマの範囲、協力・敵対関係の組はどこか、構成員の詳細、収入源などなど)。銀もさすがに簡単には口を割らないけど、酒が入ったら少しは緩くなるのでその時に何気ない話題に紛れて聞き出してた。それでも組の不満がほぼ出てこないので、自分の組とは雲泥の差だなと少し羨ましくなる。
そのうち組長である北さんに「最近ネズミがうろついてるな」と言われて調べてくるよう言われたのが治。とりあえず変なやつがいないか訊いてまわっていると、最近銀が仲良くしてる角名が浮上。探りを入れに角名の働いてるバーに行ってみるも、至って普通のやつ。そりゃ一般人よりはこっち寄りだろうけど、特におかしなところもない。角名は裏社会に興味があるのかどんな仕事をしてるのかとか訊いてくるが、それも許容範囲内かなと思う治。
逆に角名はなんで関西に来たのか訊けば、大学中退して家に居場所がなくてフラフラしてたら関西にいる知り合いにこっちに来ないかと言われたから来たという(大学中退は本当、関西に知り合いがいるのは嘘)。酒は好きだけどホストなんて柄じゃないし、居酒屋で働く気力もないから時給のいいバーで働きだす。そこで困った客が来て困ってたら銀が助けてくれて、そこから仲良くなったのだと話す。
治も酒に弱いと気づき、次のターゲットにしようとする角名。しかし酔ったら銀より面倒で、甘えたになるし、より配慮がなくなるしで失敗したなと思うけど、ふにゃりと笑うのが可愛くて無下にもできなくなる。これは女が放っておかないなと思っていると、「角名ってかわええな」と言われる。酔ってる時にしか言われないから、酔っ払いの戯言だと相手にしていなかった。それでも「すなぁ」と甘えた声で呼ばれるのがいつしか心地よくなってきて、探りを入れるために近づいたのに治といるのが嬉しくなってきてしまう。
情報をあげない角名に焦れた組からの催促も無視して、俺そろそろ消されるかなーと思ってたら組連中に拉致られる。角名と連絡がつかないのを不審に思っていると、愛知の組のもんが複数いたと目撃情報が入る。うちのシマでなにしとるんやと詳細を聞いていると拉致られた男の人相が角名で、「そいつがネズミか」と推測した北さんに「助けに行かせてくれ」と頼み込む治。
「うちを嗅ぎまわってたネズミやぞ。絆されたんか?」
「角名と知り合ってから結構経ってますけど、重要な情報は漏れてへんはずです。愛知のやつらが来たんも今回が初めてや。それは角名が情報を組にあげてなかったからやないですか?やからわざわざ拉致りになんて来たんでしょ。そうやなかったらうちのシマでこんな大胆なことするわけあらへん」
治の言うことも尤もで、さらに銀にも同じことを言われたのでネズミに賭けてみることにした北さん。急いで愛知に向かい、角名の組に乗り込んで居場所を聞くと地下の仕置き部屋にいるという。向かった先にたしかに角名はいたが、腕を鎖で繋がれて身動きがとれない状態でバットなどでタコ殴りにされていた。身体には無数の痣があり、火傷の痕も見てとれた。それを見てキレた治がその場の全員半殺しにして角名を救出。
「…な、に?俺のこと、わざわざ始末しに来たの…?」
「ちゃう、助けにきたんや」
「……ふ、ふふ、なにそれ。面白いこと言うね、治」
「なにわろてんねん、ほんまやって」
「…俺なんかに、そんなことする価値なんてないのに…?」
消えそうに微笑うから肌に残った傷痕をなぞって、手首についた痕に口づけながら治が言う。
「俺のもんに傷つけられたら、そらキレるやろ」
いつお前のものになったんだよって言いたいのに、それを嬉しく思っちゃったあたり、もう終わりだなと思って気を失う角名。
その後、稲荷崎組に連れ帰って献身的に看病する治。傷は治っても火傷の痕までは完全に治らなくて、いつも労わるように治にキスされる。療養のために治の部屋に住んでた角名が「そろそろ体力も戻ったから出てくよ」と言うと、はあ?と怪訝そうな声をあげる治。
「なんで出てくん?ずっとおったらええやん」
「でも、ここに置いてもらう理由ないし」
「理由ならあんで」
近寄り、もう痕の消えた手首をとって口づけて、逸らすことは許さないという真っ直ぐな瞳で宣う。
「自分のもんは、大事に傍に置いとかなあかんってわかったしな」
だから、いつお前のものになったんだよ。そう言いたいのに、言葉にする前に唇を塞がれて。治の傍にいられるなら、それもいいかななんて思ってしまったから。だからもう、与えられる熱を甘受してしまおうと考えることを放棄した。