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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    ミス晶♂短編
    ミスラが強くなった理由

    #ミス晶♂

    褒め上手、褒められ上手「最近、ミスラの魔法が強くなってる気がするんだよね。」
    「あぁ?そうか?」
    柔らかな陽射しが降り注ぐ談話室に陣取り、オーエンはネロから強奪した生クリームを頬張った。時刻は3時のティータイム。窓辺をちらりと覗けば、西の国の魔法使い達がアフタヌーンティーを中庭で楽しんでいる。
    視線を戻すと、偶々近くのソファで惰眠を貪っていたブラッドリーが怪訝そうな表情を浮かべていた。顔を合わせれば即戦闘、殺し合いへと発展してきた彼らにしては珍しく、殺意も敵意も身を潜めている。
    「傷のせいで不眠になってからは、むしろ逆じゃねぇのか?」
    「最初はそうだったけど、最近は違う。」
    口元についたクリームをぺろりと舐め取り、オーエンは苛立ったように思案していた。
    「別に魔力が強くなった訳でもないのに、質が良くなったというか。」
    「なんか上等な魔道具でも手に入れた様子はねぇしな。それこそマナ石か?」
    「それだったら、急に強くなるから気づくだろ。」
    上等なマナ石を少量ずつ摂取すれば、あるいはオーエンの言ったような変化になるかもしれないが、あのミスラがそんな節約思考な方法を取るとは思えない。むしろ高価なマナ石ほど早く体内に取り入れなければ、他の魔法使いから狙われるリスクが高まる。
    オーエンの指摘に、ブラッドリーもようやく頭が冴えてきたのか、ソファに座り直して足を組む。
    元々ミスラはオズを倒す為に、ありとあらゆる魔法や呪術を取り込み、糧にしてきた男だ。魔力の差は埋まらなくとも、魔法の質が高まる手段を彼が新しく入手したのならば、是非ともモノにしたい。
    「だからブラッドリー、ちょっと聞いてきてよ。」
    「は?何で俺なんだよ。自分で聞けよ。」
    「ミスラに教えなんて乞いたくないね。お前だったら突然殺されそうになっても、くしゃみすれば逃げられるだろ。」
    「そんな絶妙な加減でくしゃみなんかするか。殺されるんだったらお前が最適だろ、死なねぇんだからよ。」
    「死ななくとも痛みはあるんだよ、馬鹿なの?教えてあげようか?」
    「上等だ。ミスラの前に、俺がお前を殺してやるよ。」
    各々の魔道具を取り出して、談話室にはあっという間に殺意が満ちる。幸か不幸か、ここにはブラッドリーとオーエンしか居ない。止める者が居ない代わりに、裏を返せば、遠慮は要らないと言う事になる。

    ≪アドノ…≫
    ≪クアーレ…≫

    敵意を込めた低い声で、呪文を紡ごうとした瞬間。

    「こんにちは。」

    「…ッ!?」
    「…チッ。」

    想定外の来客が、現れた。たった今まで話題にしていたミスラ本人が、常と変わらぬ気怠げな様子で佇んでいる。うっかり話し込んでいたせいもあるだろうが、気配に気付かなかったなんて、北の魔法使いとしては致命的だ。条件反射よろしく逃走しようとした二人だったが、それに待ったを掛ける声があった。
    「あれ?二人ともこんにちは。今日は確か、休みでしたよね。何かされてたんですか?」
    殺伐とした雰囲気に似合わぬ朗らかな笑みを浮かべた賢者が、ミスラの背後からひょいっと顔を覗かせた。魔法舎に来た当初はびくびくとしていたが、そう短くない月日が経った今、あのミスラのそばでのんびりと構えている。
    このまま無視して立ち去っても良かったのだが、その警戒心を微塵にも感じない平和ボケした賢者に虚をつかれ、ブラッドリーは呆れたように溜息を零した。
    「…別になんもしてねぇよ。そっちこそ、仕事はいいのか。」
    「はい、一息つきたいなって思ってたら、ミスラが迎えに来たので。これからちょっと昼寝に行こうかと。」
    「早く行きますよ、賢者様。ブラッドリー、邪魔しないでください。殺しますよ。」
    「誰が邪魔するか。散れ散れ。」
    片手を雑に振り、ブラッドリーは追い払おうとする。いつどのように機嫌が変わるか分からない獣を相手にしなくて済むのならば、それに越したことは無い。だが、ブラッドリーの思惑とは裏腹に、オーエンが突如割り込んできた。
    「ねぇ、賢者様。最近、ミスラの魔法が変わったような気がするんだ。魔力は変わっていないのにね。どうしてだと思う?賢者様。」
    人を食ったような笑みを浮かべ、彼は賢者にそう問い掛ける。そばで聞いていたブラッドリーは盛大な舌打ちをしていたが、それを気に留める様子はない。
    ミスラに教えを乞うのは嫌だから、賢者を使って聞き出そうという魂胆なのだろう。よく見れば立ち位置的に、オーエンが一番ミスラから遠く、その中間にブラッドリーがいるため、ミスラが突然殺意を向けてきても、彼は躊躇なくブラッドリーを犠牲にして、逃げられる。
    さてどう対処するかと逃走ルートを確認し始めるブラッドリーを他所に、問われた賢者はうーんと首を捻った。
    「ミスラの魔法が変わった…?すみません、俺は魔法使いではないので、どこがどう変わったのか全然分からないのですが…。」
    「俺が強くなったと素直に言ったらどうなんですか、オーエン。」
    「うるさい、そんな事言う訳ないだろ。」
    「強くなったと言うよりも、質が上がっているんだとよ。なんか心当たりはないのか、賢者。」
    「え!?うーん、毎日眠れてるわけでもありませんし…。賢者の力は多分関係ないと思うんですよね…。」
    本気で頭を悩ませていた賢者だったが、次の瞬間何か閃いた様子で顔を上げる。

    「あ、もしかして!」

    オーエンとブラッドリーに緊張が走る。これはもしや本当に、何か手立てがあるのかもしれない。それがタダで手に入るのならば、と固唾を飲んで見守る二人だったのだが。
    「ミスラが精神的に成長したって事じゃないですか?」
    にっこり笑顔で、賢者はそう言った。それはもう、曇りなき眼で嬉しそうに破顔する。
    対してブラッドリーとオーエンは白けた顔で、「何言ってんだこいつ」と言う空気を漂わせていた。
    「あのなぁ、千年超えてるような奴が今更情緒なんて…」
    「すごいですミスラ!まだまだ伸び代があるなんて、さすがは魔法舎きっての期待のエースですね!」
    「当然ですよ。俺はこの世界で一番強い男になるんですから。」
    「これからも、頼りにしてますね!ミスラ。」
    ブラッドリーはよくよく二人を観察した。それはもうつぶさに二人を見遣り、やがて一つの答えに辿り着く。

    「お前が原因か、賢者!!」

    「へ?」

    なんて事はない、本当に単純なことだったのだ。齢千年を越えようが、ケダモノと称されようが、誰だって褒められれば嬉しい。それがどんな些細なことでも大きく持ち上げられれば、自信に繋がる。自信とは、己を信じられること。魔法は心で使うのだから、賢者がそばでただただミスラを褒め続けた結果、それが魔法の質の向上に結びついたというわけだ。

    (虫も殺せないような顔をして、なかなかやってくれるじゃねぇか。)

    元盗賊の首領という手前、『誉めて伸ばす』というのは自分もよく使った。自分がその逆をされるのはプライドに関わるが、賢者を試しにそばに置いておくのも良いかもしれない。オーエンをちらりと見遣ると、こちらは既に興味を失っていたのか、退屈そうに生クリームの残りを舐めていた。
    「本当、馬鹿みたい。北の魔法使いがデレデレしちゃって。今の顔、鏡見たら?」
    「はぁ、格好良いですね。」
    「今日も素敵ですよ、ミスラ。」
    今度こそ、オーエンとブラッドリーは黙った。

    「………ッ。」
    「…あほくさ。」
    これ以上やってられるかと零しながら、オーエンとブラッドリーは談話室をあとにした。
    残された方である賢者は、きょとんと首を傾げて、彼らを見送る。
    「どうしたんでしょうか、なんだか疲れた顔をしてますけど…。」
    「さぁ、知りませんよ。それよりも優先すべき大切なことがあるでしょう。」
    窓から差し込む柔らかな光に目を細め、ミスラは至極どうでもよさそうに返事をした。中庭の方からは、優雅で上品なチェンバロの音色も聞こえてくる。これ以上ないほどの、絶好の昼寝日和だ。
    賢者は差し出された手を握り返し、はい、とミスラと共に歩き出した。
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    りう_

    DONE11/14逆トリオンリー「月よりのエトランゼ」で展示していた作品です。
    逆トリで晶くんの世界にやって来たフィガロと晶くんが買い物デートして二人でダーツをしています。
    ご都合主義なので、厄災がどうにかなって、二人はお互いの世界を行き来出来るようになっている…という想定です。
    ※ちょっとだけフィガロ親愛ストのネタバレがあります。
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     彼と連れ立って歩くとちらちらとすれ違う人たちの視線を感じた。その視線は、俺では無く隣を歩く人へと一心に向けられている。それはそうだろう、俺の横にはこの国では見かけない珍しい色彩と、頭一つ飛びぬけた長身、それに整った顔立ちを持った麗人が居るのだから。
     そっと斜め上を見遣ると、彼は珍しそうに立ち並ぶ建物たちを眺めているようだった。色とりどりの看板がひしめき合うように集まり、その身を光らせ主張している。建物の入り口には所々のぼりがあるのも見えた。
     その一つ一つに書かれた文字を確認するように、時折フィガロの唇が開いては、音もなく動く。どうやら看板に書かれた文字を読み取っているようだ。
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