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    みしま

    @mshmam323

    書いたもの倉庫

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    みしま

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    半端だけど供養上げ。本編後、ジョニキとアンディの昔話捏造。※一人称は吹替版準拠。一部ネット翻訳使用。コミック版の過去編は無視した話になってるのであしからず。

    ラ・スパーダ・ディ・クピド、アルフ・ライラ・ワ・ライラ 隠れ家の中庭で、ナイルはジョーとニッキーから剣の手解きを受けていた。アンディは近場へ買い出しに出ていて、かれこれ二時間近くになるだろうか。まだ戻らないのかな、寄り道でもしているのかもねなどど口に登らせていると、ちょうど彼女が帰ってきた。ただし袋を抱えるその腕には、出かけるときにはなかったはずの大きな切り傷ができていた。
     ジョーは飛びかからんばかりの勢いで彼女へ駆け寄り、ニッキーは戸の外へ鋭い視線を走らせた。
    「大丈夫よ。そういうのじゃないから」
     当の本人は何事もなかったかのように言ってのける。二人は彼女の腕から荷物を奪い取ると、さっそく傷の処置に取り掛かった。その一方で、ことの次第を問い質すことも忘れなかった。
     アンディが面倒臭そうに言うには、「ひったくりに出くわしてね」「まさか。ちょっと蹴ってやったらすぐ逃げたわ」「去り際にバイクで突っ込んできたのよ。いえ、当たりはしなかったけど、折れたミラーに引っかかれちゃって」
     「ひとりのときは無茶をしないでくれ」と、当然ニッキーは良い顔をしなかった。ジョーに至っては「警察を呼ぶべきだった」と普段ならば絶対に言わないであろうことまで口にした。
     二人からは怒りが、そしてことさら不安がにじみ出ている。アンディは小さく肩をすくめた。
    「死ぬ〝かも〟ってことに慣れなきゃね」
     するとまた「縁起でもない」だの「呼んでくれればすぐに駆けつけたのに」だの不満の声が上がった。
     それも無理からぬ話だ、とナイルは思う。
     アンディはもう不死者ではない。怪我が数秒で癒えることはおろか、死んで生き返ることもない。普通の人間よりははるかに強靭な肉体と精神を持ち合わせているというだけの、普通の人間。
     その事実にいまだうまく向き合えていないのは、アンディ本人だけではない。新参者のナイルも、まして千年来の付き合いであるジョーとニッキーはなおさらだ。
     それにしたって、ねえ。ナイルは汚れたタオルを片付けながら、小さく吹き出した。
    「なんだかアンディが妹みたい」
     ナイルの言葉に、三人は揃って顔を見合わせた。
    「うちの一番下の妹を思い出しちゃった。風邪をこじらせると酷くて。家族総出で世話を焼いてたっけ」
     もはや遠い存在となってしまった家族を想い、ナイルは目を伏せた。それを見たニッキーが途端に表情を和らげた。
    「きみこそ、ぼくたちにとっての妹だよ、ナイル」
    「そうよ。わたしなんかここにいる誰よりもずっと年寄りなんだから」とアンディが苦笑した。「まあ、老人介護扱いされないだけマシね」
    「アンドロマケを妹だ老人だなどと、畏れ多い」とジョー。「きみは嵐の夜を切り裂く雷光、焼け野を潤す慈雨。そしてわたしとニコロにとってのクピド」
    「あるいはアンテロース、オウェングス」(※それぞれギリシア神話、ケルト神話における愛の神)
     ニッキーが後を続け、伴侶と愛おしげに視線を交わす。アンディはまた始まったとばかりに天を仰いだ。
     クピドはナイルも知っている。天使のような翼を生やした幼子の姿をしていて、恋人たちに愛の矢を射る神様だ。アンテロープだかオーウェンだかいうのは知らないが、語感からしてどこかの神話に登場する神かその類だろう。
    「二人がもともとは敵同士だったっていうのは聞いたけど、アンディが仲人だったの?」
     ナイルの問うと、ジョーは懐かしむように目を細めた。
    「そうだ。忘れもしない、あれは――」
    「よしてよ、ジョー。昔話のために大事な訓練の時間を浪費したくないし、惚気に耐えかねて死ぬなんてごめんよ」
    「いいじゃない、聞かせてよ!」
    「ナイル、時間は誰にでも有限なの……ちょっと!」
     ジョーが咎めるようにぐいと包帯を締め、そんな彼の腕をアンディは軽く叩いた。
    「きみの英雄譚なら千夜一夜と語れるのに……わかったよアンディ、そんなに怖い顔しないでくれ」
    「わたしに長生きしてほしいなら、もっと強くなってもらわないと。ほら、訓練に戻って!」
     追い立てるように手を降るアンディ。三人はクスクスと笑い、あたりに放り出していた武具を手に取った。
    「よし、今夜の寝物語に聞かせてあげよう」
    「楽しみだわ。じゃあ、疲れて寝てしまわないように手加減してくれる?」
    「それはどうだろう、ニッキー?」
    「ぼくから一本取ったらね」
    「それは無理!」
    「ならハンデをつけようか。そうだな……」
     賑やかなおしゃべりが中庭のほうへと遠ざかってゆく。アンディはそっと微笑み、ソファーに寝転がった。
     くたびれたスプリングがギャアギャアと喚く。ふと、アンディの頭にある夜の出来事が蘇った。
     みんなが思い出させるからよ、と彼女はナイルたちを密かになじった。あれは、そう、もう何百年も昔のこと。

     昔むかし、風の強い夜のことであった。奴隷商人の館は金のかかった堅牢な造りで、そこここに私兵が配備されていた。一方で厩にまでは金をかけたくないのか気が回らないのか、立て付けの悪い扉が風に煽られるたびにギャアギャアと叫び声を上げている。
     馬たちが不安げに嘶き、床を引っ掻く。馬房に身を潜めるアンドロマケは、側にいる馬の横腹を撫でて宥めてやった。落ち着きがないのは轟々と吹き荒ぶ風のせいだけではない。ほんの目と鼻の先に、怯えて縮こまる捕虜たちがいるからだ。
     物音か馬の様子が気になったのか、外壁のそばを歩いていた巡回兵が不意に足を止め、厩を振り返った。揺らぐ松明の炎に影が踊っている。
     クインと共にこなかったことは愚策だっただろうか――否、とアンドロマケは胸をかすめた不安を追いやった。捕虜が囚われているのはここだけではない。わたしにはわたしの、彼女には彼女の役割がある。万が一どちらかが失敗しても、その騒ぎでもう一方が脱出しやすくなるだろう。そうして一人でも多くを救い出そうと話し合ったのだ。
     幸い、巡回兵はそのまま行ってしまった。また息を潜めて待っていると、やがて別の兵士がやってきた。その手には鍵束とバケツが下がっている。バケツの中身は奴隷商や兵士の食べ残しだ。
     捕虜たちへ食事をやる時間。これこそ、彼女が待っていたものだ。アンドロマケは静かに動き出し、兵士の後を追って牢へと向かった。
     牢の番兵もまた、この時を待っていた。バケツを持った兵士に気が付き、もたれていた壁から背を離す。軽口とともに浮かべた笑顔は、しかし次の瞬間には驚愕に取って代わった。
     兵士の手からバケツと鍵がこぼれ落ち、口元を覆うスカーフが暗く染まる。胸からは血に濡れた切っ先が飛び出していた。その体が崩折れたかと思うと、剣を持った女がすぐ目の前まで迫っていた。番兵は咄嗟に剣を抜き、女の繰り出した一閃を弾き返した。
     アンドロマケは少しばかり感心した。この番兵、なかなかに腕が立つようだ。
     彼女は背中へ手を回し、愛用の両刃斧ラブリュスを掴んだ。その重さを感じさせない身のこなしでもう一撃、二撃と振るい、番兵を追い詰める。番兵はどうにか耐えたが、彼よりも先に剣が折れた。大きな刃にざっくりと胸を裂かれ、とうとう膝をつく。
     アンドロマケはとどめを刺すべく、斧を振りかぶった。だが、その刃は番兵へ向かうことはなく、くるりと切り替えして背後からの白刃を防いだ。襲いかかってきた人物は素早く回り込み、傷ついた番兵とアンドロマケの間に立ちはだかる。
     彼女は驚きに目を見開いた。一晩に二人の手練に出会ったからではない。反撃の刃を握っているのは先程殺したはずの兵士だったからだ。しかも、スカーフが取り払われたその相貌は明らかにこの辺りの出ではない。高く通った鼻筋、白い肌に淡い色の瞳。
     雲間から差した月明かりに照らされ、男は不敵な笑みを浮かべた。
    「この男を殺すのはぼくだ」
     彼の命を奪ったはずの傷はすでに癒え、番兵の胸の傷もまた塞がりかけている。
     アンドロマケの口元に、自然と笑みが浮かんだ。わたしは彼らを知っている。彼らもわたしを知っている。
    「見つけたわ」

    「じゃあ、アンディも敵だったってわけ?」
     ベッドの上にあぐらをかいたナイルは、興味津々の体で身を乗り出した。ジョーとニッキーは苦笑を浮かべて窓際のアンディを見やり、彼女もまた似たような表情を返した。
    「まあ、味方とは言えないわね」
    「仕方ないさ」とジョー。「たまたま同じとき同じ目的で、それぞれのやり方で館に忍び込んでいたんだ」
    「ワオ」
    「そうとは知らず、なおも戦った」とニッキー。「まあ、ぼくら二人ともアンディには太刀打ちできなくてね。死んで、生き返って、やっと話を聞く気になったんだ。それで一時休戦ってわけさ」
    「捕虜を救い出すために。もちろん、成功したよ」
    「あれは……大変だったわ」
     うんざりと言うアンディに、ナイルは疑問符を浮かべた。不死者三人、いやクインも入れると四人もいて、苦戦することなどあるだろうか。
     すると、事情を知る二人がニヤニヤとして言った。
    「アンディが手を焼いたのは救出じゃない。その後なんだ」
    「助けた捕虜のひとりが、やたらとアンディを慕っていてね。あの子ときたら、ぜひとも旅に同行してほしいと言って聞かなかったのさ」
    「旅?」
    「いわゆる十字軍遠征のことだよ」
     ああ、とナイルは遠い目をした。自分にとって、いやほとんどの人類にとって遥か昔、歴史の教科書の中の出来事だ。それが不死者たちにとっては思い出話になってしまう。
     あたしもいずれそうなるのかな。ナイルは妙な気分になった。
    「かつては十字を胸に掲げていた手前、ぼくもあのしつこさには少し申し訳なく思ったよ」
    「あの子は良くも悪くも熱心な教徒だった。アンディを神の使者と信じて疑わなかったしね。クインのことも、『遠い異国の民すら改宗させたのか!』って」
    「こんな酷い旅路つかせた挙げ句に手を差し伸べるなんて、計算高い神様だこと」
     アンディは皮肉を呟き、手の中のスニフターグラスを傾けた。
     アンディに――少なくとも今は――信仰がないことはナイルも知っている。もちろん、彼らと一緒には行かなかったのだろう。
    「それで、どうしたの?」
     アンディは苦い顔をするばかりで、代わってジョーが答えた。
    「わたしとニコロでその子を説得したんだ。『この方には神に遣わされし戦士!』『流血のときは過ぎ去った。この先は汝が信徒を導き、家路につかねばなりません』とかなんとか、それっぽいことを言って」
    「信仰心が仇になったわね」
    「アンディ、ジョーがいなければ、きみはエルサレムまで連行されていたかもしれないよ?」
     ニッキーが釘を指すと、アンディは小さく肩をすくめた。
     なるほど、ジョーは外見からすればイスラム教徒だと思われて当然だ。その彼がアンディを『神の使いだ』と語るのだから、なおのこと説得力が増したのであろう。
    「じゃあ、それがきっかけで仲良くなったのね」
    「ああ。クピドの剣に胸を貫かれたのさ」
     ジョーが背後からニッキーの胸を突く。ニッキーもまたそれに乗っかって、芝居がかった身振りで胸を押さえて倒れ込んだ。アンディは呆れ顔でぐるりと目を回す。
    「本当のことさ。何しろアンディは気づかせてくれたんだ。わたし以外に殺されるニコロを前に、どれだけ彼に執着していたかってことをね。それにわたしを庇うニコロの姿と言ったら!」
     ジョーはうっとりとニッキーを見つめ、優しく頬を撫でた。
    「La luna ha rifiutato le nuvole per illuminare il tuo coraggio.(月はきみの勇姿を照らすために雲を退けたんだ)」
    「O forse abbiamo benedetto il nostro incontro.(あるいは、ぼくらの出会いを祝福したのかもしれない)」
     ニッキーは微笑み、伴侶の指にキスを返した。
    「昔話はもう十分でしょ」とアンディは窓枠から身を起こして言った。「さ、いい子はそろそろ寝る時間よ」
    「子どもじゃないんだけど」とナイル。
    「あと十倍は年をとってから言うのね」
    「十倍って……」
     それまで一緒にいるって約束できるの?
     言うに言えず、ナイルは黙って口を尖らせた。そんな彼女に構わず、アンディは空のグラスと共に寝室を出てゆく。その後に続いて「包帯を替えよう」とジョーも出ていった。
     ナイルはまだ眠りたくはなかったが、ニッキーが毛布を持ち上げたのでおとなしく横になった。子ども扱いは気に入らない。それでも、ニッキーの穏やかな笑みと面倒見のよさを前にすると、つい甘えたくなってしまうのだ。
    「ニッキー」
    「うん?」
    「ブッカーのこと、まだ怒ってる?」
     ニッキーはすぐには答えず、ついと窓の外へ視線をやった。
    「あたしだって、アンディにしたことには腹が立つ。でも、ブッカーの気持ちもわかる。大事な人たちに置いていかれるのは……つらいもの」
     裏切りの罰として、百年の孤独を言い渡された仲間、ブッカー。その名を出すことに抵抗がないではなかったが、ナイルは正直に言った。
    「別れには、いずれ慣れる」ニッキーは伏せた睫毛を悲しげに震わせ、独り言のように続けた。「たくさんの人と出会った。良き人、悪しき人。その娘や息子、そのまた子孫たち。ぼくがあっという間だったと思うよりも早く、彼らの歳月は過ぎてゆく。その現在や未来を語るより、思い出を語るほうが簡単だ。
     だからね、出会う前から覚悟しているんだ。どれだけ素敵な時間を過ごしたとしても、その早さを共有することはできない。そこを、ブッカーは割り切ることができないんだろう」
    「あたしだって」とナイルは思わず口を挟んだ。「……ママたちはまだ生きているけど、いつかあたしを置いていってしまう」
    「でも、彼らのために戦うことはできる」
    「わかってる。でもブッカーもあたしも、ニッキーたちみたいに強くないんだよ」
    「ぼくだって弱い」
    「同情はよして」
     ニッキーは微笑み、深く息を吐いた。そして身を乗り出して、口元に人差し指を立てる。
    「秘密を教えよう。誰にも言わないって約束してくれる?」
     どういうことだろう。ナイルは疑問に思いつつもうなずいた。
    「別れには慣れる。でも生きることはそれ以上だ。慣れすぎて飽きてしまう。戦い続けることにも、死ぬことにも。生きることを諦めてしまいたくなる。でも死ねないんだ、〝その時〟が来るまでは」
     我知らず、ナイルはギュッと毛布を握り込んでいた。ニッキーは彼女の手にそっと自分の手を重ねた。
    「ぼくだって怖い。それでも強く見せかけていられるのは、ジョーがいるからだ。彼はぼくにとっての楔(くさび)なんだ。
     ジョーが手や口がその美しさを語るなら、どれほど人の卑しい部分を目の当たりにしようと、この世界を愛おしいと思う。彼が隣りにいてくれるなら、千年後だってまだ生きていたいと思うだろう。
     だから、彼を失うのが怖い。死よりも、他の何よりも。ぼくからこの幸運を奪おうとするなら、ブッカーだろうとアンディだろうと許さない」
    (死が二人を分かつまで)
     皮肉にも、この言葉がこれ以上似合う二人はいないだろう。ナイルは思った。ジョーだって、きっとニッキーと同じ気持ちのはず。あの影すらも吸い込みそうな黒い瞳は、ニッキーを捉えているときは特別な色をしている。アンディやあたしに向けられるものだって暖かいけれど、それとはまるで違うのだ。あたかも……いや、彼本人のほうが素敵な表現を知っているに違いない。
    「あたしにも、そんな人が現れるかしら?」
    「きみの道行みちゆきはまだまだ長く、果てしない。さあ、寝物語はここまでだ。おやすみ、Mia cara sorellina.(愛しい妹)」
     ニッキーの手が額を撫で、暖かなキスを落とす。彼は肯定も否定もしなかった。現実を偽ろうとしないその誠実さが、たとえ心をチクリと刺そうとも、ナイルには嬉しかった。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
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