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    みしま

    @mshmam323

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    みしま

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    リクエストまとめ⑤「ヴィクターとVがお出掛け(擬似デートのような…)するお話」。前半V、後半ヴィクター視点。

    #サイバーパンク2077
    cyberpunk2077
    #cyberpunk2077

    晴れのち雨、傘はない チップスロットの不具合に、おれはジャッキーとともにヴィクター・ヴェクターの診療所を訪れた。原因ははっきりしている、昨日の仕事のせいだ。
     依頼内容は、依頼人提供の暗号鍵チップを用いて、とある金庫から中に入っているものを盗んで来いというもの。金庫は骨董品かってほど旧世代の代物だったから、目的の中身は権利書とか機密文書とか、相応の人間の手に渡ればヤバいブツぐらいのもんだろうと軽視していた。侵入は簡単だった。一番の障害は金庫自体だった。古すぎるが故のというか、今どきのウェアじゃほとんど対応していない、あまりに原始的なカウンター型デーモンが仕掛けてあったのだ。幸いにしてその矛先はおれではなく、暗号鍵のチップへと向かった。異変に気づいておれはすぐに接続を切り、チップを引っこ抜いた。スロット周りにちょっとした火傷を負いはしたものの、ロースト脳ミソになる事態は避けられた。それで結局その場じゃどうにもならんと判断して、クソ重い金庫ごと目標を担いで現場を後にした。フィクサーを通じて依頼人とどうにか折り合いをつけ、報酬の半分はせしめたから及第点ってところだろう。あれをどうにかしたいなら本職のテッキーを雇うなり物理で押し切るなりする他ないと思う。
     ……というおれとジャックの解説半分、愚痴半分を聞き流しつつ、ドクター・ヴェクターはやれやれと首を振った。
    「これで済んでラッキーだったと思え。これだから安物は……スロットは取り換えだ。もうちょいマシなのを入れるからな。金? そんなもん払えるようになってから気にしろよ」と、いつもの調子で。
     ほどなく処置もおおよその目処がついたところで、「じゃあ、あとは頼むな」とジャッキーはミスティとデートへ繰り出した。凸凹の後ろ姿が連れだって診療所を出ていくのを見送る。大柄で兄貴肌のジャッキーに小柄で可愛らしいミスティ。例えるならスモウレスラーと妖精?(スモウレスラーほど肉付きはよくないけど、ジャッキーの髪型はチョンマゲを意識したものに違いない)、美女と野獣?(大昔のアニメなら見たことがある)、とにかく雰囲気は正反対もいいところなのに、本当に似合いのカップルだ。
    「そんな寂しそうな顔するなよ」
     振り返ると、ヴィクがサングラスの向こうでニヤニヤ笑いを浮かべていた。
    「置いてかれた子犬みたいだ」
    「そんなんじゃ……まあ、羨ましいのは否定しないけどさ」
    「おまえさんだって、相手になってくれるやつの一人や二人はいるだろう?」
    「一晩遊ぶだけの相手なら両手に余る。連絡先も知らないけどな」と、おれは十本指を立てた手をひらめかせた。もちろん、その十本にも余りにもヴィクは入ってない。入れる予定もない。
     先生は呆れた様子で肩をすくめ、施術用グローブを外した。トレーから軟膏のチューブを手にとって、おれのうなじへ薬を擦り込む。少しだけ痛みを感じたが、くすぐったさのほうが勝っている。治療とわかってなけりゃ変な気分になりそうだ。 
    「それならV、おれとデートするか」
     そう、変な気分に――なに? "ヴィクター・ヴェクター"と? "デート"?
    「昼飯もまだだし、診察予約も入ってない。もう閉めちまっても構わんだろう。開けておいてミスティの仕事を増やすのもな。まあ、おっさん相手じゃ楽しくは無いかもしれんが……」
    「する!」
     一瞬のうちに頭を駆け巡った『今日の髪型は大丈夫かな』『適当なパンツ履いてた気がする』『実は聞き間違いでは?』……などという思考のあれやこれやを押しやって、おれは食いつくように返答した。ヴィクは少し驚いた様子で瞬きし、そして笑みを浮かべて首に下げていた聴診器を外した。
    「じゃあ、行くか」

     リトルチャイナは今日も犯罪と金とネオンその他有象無象で溢れている。ミスティの〈エソテリカ〉の真向かいがけばけばしい外観のストリップクラブだってのも思うところがないでもないが、きっとこの店の踊り子たちもヴィクの世話になっているんだろう。
    「このあたりには慣れたか?」
    「うん、少しは。まだナビ無しじゃキツいけど」
     半歩前をゆくヴィクの横顔をちらちら見ながら、おれは有頂天が表に出ないよう必至で自分を抑え込んでいた。気を抜くとどうでもいいことを際限なく喋り続けるか、スキップでもしてしまいそうで。ひょっとしたらヴィクはおれの緊張を見抜いているかもしれないけれど、それならそれでいい。デートがデートという意味ではなく、単に"一緒にぶらつこう"という意味でも構うものか。
    「そこの屋台の焼きそばは旨いぞ。ジャッキー第二のかかりつけだ」
    「そういや、おまえさんちの近くにいるフレッドってのには会ったか? まだ? ならおれから話を通しておくよ。格闘家仲間でな。トレーニングするなら機材を使わせてもらうといい」
    「トムズ・ダイナーはおすすめだ。早朝から開いてるし、ファストフードの中でもまともなもんを出してくれる」
    「そこの路地には不用意に近づくなよ。よくメイルストロームの連中がたむろしてるから」
    「一番近い服屋はそこだな。おまえさんの好みに合うかはわからんが」
     などなど、ヴィクはツアーコンダクターよろしく近所を案内してくれた。普段は診療所にこもりっぱなしのくせに、おれが思う以上にこの界隈に詳しい。でもまあ、長年ナイトシティに住んでいることを思えば当然っちゃ当然か。
     ヴィクおすすめのトムズ・ダイナーで昼食を済ませ、屋台で買ったアイスを舐めつつ南へ向かう。途中、「そこを入ると、かの名高い〈アフターライフ〉だ」とヴィクが路地を指さした。一見さんお断りの、腕利きの傭兵たちの集いの場。今はまだ手が届かないが、ジャックと仕事を続けて、いずれ常連として堂々とその席に着きたいものだ。
     やがてワトソンとシティ・センターを隔てる川のそばへたどり着いた。ふと、まだ日も高いのに辺り一帯に影が落ちていることに気づいた。空には暗雲が垂れ込めている。街頭スピーカーからラジオパーソナリティがのたまうには、『グッドアフタヌーン、ナイトシティ! このあとの天気は下り坂、降水確率百パーだ。世の中絶対なんてないなんて言うけど、これに限ってはマジだ。でも夕方には止むから、天然シャワーを浴びたいやつは今のうちに服を脱いで外へ出ろよ! ただし、ご近所さんに通報されないようにな!』
     そうこうしているうちに一つ二つと路面に暗い染みが落ち、まもなく"天然シャワー"が降り注ぎ始めた。道行く人々は歩みを早めるか屋根の下に避難するか、あるいは濡れるがままにするか。準備のいい連中は手持ちの傘を広げて路々に花を咲かせている。
    「あんなに晴れてたのにな」
    「ああ。どうする? どこか適当なバーにでも入るか?」
     そんなこと喋っている間にも雨脚は強まり、おれたちも慌てて庇の下へと駆け込んだ。
     ヴィクを振り返ると、濡れたシャツが肌に張り付いて分厚い胸板やら腹筋やらが透けてすげえセクシーだった。眼福眼福、とそれをじっと見ていると、「よせやい、穴が空いちまう」と笑われた。
     おれがちょいちょい色目を使っているのはヴィクターも気づいているだろう。でも、いつだって難なくかわされてしまう。だからおれも安心してカマかけることができた。もしかしたらもしかすると、泣いてすがれば一回ぐらいヤらせてもらえるかもしれない、けど、それはきっと命取りになる。
     雨脚は弱まったり強まったり。しばらく止む気配はない。どうしたものかと辺りを見回すと、露店で売られているビニール傘が目にとまった。
    「傘でも買おうか?」おれはヴィクにたずねた。「あんたに似合いそうだ」
     それでそのへんのチンピラをボコボコにしてそうだ。返り血に濡れたヴィクとビニ傘、絵になるだろうな。もちろん、ヴィクなら拳だけでも十分だろうが。
    「そう言われてもな、傘なんて買ったことねえよ」
    「おれもないけど。ほら、記念にさ」
    「記念?」
     おれとヴィクのデート記念、なんてさすがに恥ずかしくて言えず。おれは店員にエディーを送金し、淡いブルーのビニール傘を手に取った。
    「ヴィクター・ヴェクター、初めての傘記念に」
     フム、とヴィクはおれが差し出した傘を受け取った。小気味いい音を立ててそれを開き、具合を確かめるようにくるりと一回転させる。そして傘を体の前で差すと、おれの肩に手を添えて体を引き寄せた。
    「肩幅でかくて悪いな。そっち、濡れないか?」
     クソ、どこまで紳士なんだ。おれはうつむき加減に小さく頷き返すことしかできなかった。濡れた路面に険しい顔のおれと、ニコニコのヴィクと、傘の色を透した空が映る。青空だなあ、なんてバカみたいなことを考えながら、おれはヴィクを置いて駆け出したくなるのを堪え、歩調を合わせて足を動かした。

     この日は久しぶりの大雨が降った。
     診療所は地下にあるため、出入り口は外の階段を伝ってきた雨水の侵入を許していた。排水口が設けてあるおかげで、室内の被害は大したことはない。予報では小一時間もすれば弱まるとのことだが、予報とは往々にして外れるものだ。もし排水溝すら溢れるようなら土嚢か何か置いたほうがいいかもしれない。
     一瞬大きくなった雨音に、おれはモニターから顔を上げた。出入り口のドアが開いたのだ。こんな天気に転がり込んできた患者か、あるいはミスティか、しかしその姿は一向に現れない。代わりに床に伸びる人影が目に入った。警戒心を抱く間もなく、それが見慣れた友人の背格好だと気づく。
    「V?」
     まさか動けないほど状態が悪いのだろうか。立ち上がって出入り口まで向かうと、濡れ鼠と化したVが戸口に立っていた。水分を含んで重くなったジャケットが、少しばかり肩からずり落ちている。
    「何してる、入れよ」
    「いや、大した用じゃないんだ。ツケを払いに来た」とV。
    「ツケ? キロシのならこの前完済したろう?」
    「もっと前のやつ」
     もっと前。おれはこの半年のことを振り返ってみたものの、たった半年だというのに思い当たるフシが多すぎるということだけ思い出した。そうしている間にも、Vは相当の額のエディーを振り込んできた。
    「じゃ、おれ行くから」
    「V、待て」
     おれは咄嗟に引き止めた。外はたいして寒くもないのに、掴んだ手首は冷たい。それが血の通わないインプラント仕込みのせいなのか、こいつの体が冷え切っているせいなのかはわからない。おれは少し迷って、口を開いた。
    「この天気だ、雨宿りしていったらどうだ?」
    「遠慮しておく。あんたの仕事場をびしょびしょにしたら悪いし」
    「気にするこたぁねえよ。普段から血だなんだで汚れることのほうが多いんだ、知ってるだろ」
    「うん、まあ……でも時間が無いんだ」
     そんなことは知りたくないほど知っている。これ以上何を言って引き止めればいい? そもそも引き止めるべきなのか? 
     おれは視線を彷徨わせ、目に入ったものに答えをなすりつけた。
    「じゃあ、ほら、傘を貸してやるよ」
     Vはおれが指さした先、隅に立てかけてある青いビニール傘をちらと見やり、珍しいものを見たとでもばかりに眉を持ち上げた。
    「……いや、気持ちだけ受け取っておくよ。こうも濡れてちゃ変わらないしな」
    「風邪をひくぞ」
    「ああ、それもいいかもな」
     ただひたすらに雨を浴びるVは、全身でそれを感じ取っているようだった。肌を打つ雨粒、アスファルトから立ち込める埃っぽい空気、街全体を包むホワイトノイズ。
     重くなった前髪や鼻先からから雫を滴らせつつ、Vは出し抜けに小さく笑った。
    「最近さ、すげえくだらないことが惜しいんだ。死ぬことを前提に生きてるからかな。頭ン中じゃそれと逆のことをしてるやつが居座ってんのに。でも考えてみれば、誰だってそうなんだよな。"生きてりゃ死ぬ"、当たり前のことなのにさ。なんか笑える」
     そう言ってクスクスと笑い声を立てるVは、その実、泣いていたのかもしれない。雨に濡れそぼってわかりにくいだけで。
    「ならおまえさんは、おれが死ぬことを考えたことがあったか?」
    「そういや無いな」とVは目をぱちくりさせた。「……そうだな、きっとあんたは、あと少なくともウン十年は生きて、ヨボヨボのじいさんになってから死ぬんだ。ミスティやあんたの世話になった連中に見守られながらな」
    「そこにおまえもいてほしいと思わないわけがあるか?」
     握った拳が震えるのがわかる。我ながら意地悪な問いだ。でも本心だった。だからこそ滲んでしまった怒りに、後悔はない。
     Vは怯んだように唇をこわばらせ、おれから背けるようにして空を見上げた。そして再びこちらを振り返り、くしゃくしゃの笑顔を浮かべて言った。
    「いいなあ、それ」
     雨が降るたび、おれはこの笑顔を思い出すだろう。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
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    みしま

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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑦。Cp2077で死神節制ルート後。ケリーが「そうなると思ってた。Vはまったくしょうがねぇやつだよ」とジョニーを慰める話。
    ※エンディングに関するネタバレあり。なおスタッフロール中のホロコールを見る限りケリーは節制の結果を知らないようですがその辺は無視した内容となっています。
    アンコール インターカムも警備システムも素通りして“彼”が戸口に現れたとき、ケリーは思わずゾッとした。姿を見なくなってしばらく経つ。アラサカタワーの事件はテレビやスクリームシートで嫌というほど目にしてきた。だがその結末は? マスメディアの言うことなど当てにならない。噂では死んだともアングラでうまくやっているのだとも聞いた。けれど真相は誰も知らない。ならばとナイトシティ屈指の情報通、フィクサーでありジョニーの元カノ、ローグにもたずねてみた。返事は一言、「あいつは伝説になったんだ」。金なら出すと言ってはみたが、返されたのは立てた中指の絵文字だけだった。
     Vはいいやつだ。彼のおかげで――奇妙な形ではあったが――ジョニーと再会を果たすことができた。それに人として、ミュージシャンとして立ち直ることができた。もし彼がいなければもう一度、そして今度こそ自らの頭に銃弾をぶち込んでいただろう。大げさに言わずとも命を救われたのだ。だから生きていてほしいと願っていた。一方で、心のどこかでは諦めてもいたのだ。自分とて真面目に生きてきたとは言い難いが、重ねた年月は伊達ではない。起こらないことを奇跡と呼ぶのであって、人がどれほどあっけなく散ってしまうかも目の当たりにしてきた。Vの生き様はエッジー以外の何物でもない。もうそろそろ、読まれることのないメッセージを送るのも、留守番電話へ切り替わるとわかっていて呼び出し音を数えるのもやめにしようかと思っていた。だからその姿を目にしたとき、とうとう耄碌したかと落胆すらしかけた。
    3482

    みしま

    DONEリクエストまとめ③「コーポVがコーポのお偉いさんに性接待したあと最悪の気分で目覚めて嘔吐する話」
    ※直接的な表現はないのでR指定はしていませんが注意。
    ルーチンワーク ホロコールの着信に、おれは心身ともにぐちゃぐちゃの有様で目を覚ました。下敷きになっているシーツも可哀想に、せっかくの人工シルクが体液とルーブの染みで台無しだ。高級ホテルのスイートをこんなことに使うなんて、と思わないでもないが、仕事だから仕方がない。
     ホロコールの発信者は上司のジェンキンスだった。通話には応答せず、メッセージで折り返す旨を伝える。
     起き上がると同時にやってきた頭痛、そして視界に入った男の姿に、おれの気分はさらに急降下した。数刻前(だと思う)までおれを散々犯していたクソお偉いさんは、そのまま枕を押し付けて窒息させたいほど安らかな寝顔でまだ夢の中を漂っている。
     意図せず溜息が漏れた。普段に比べて疲労が強いのはアルコールの影響だけじゃないはずだ。酒に興奮剤か何か盛られたに違いない。こういう、いわゆる“枕仕事”をするときは、生化学制御系のウェアをフル稼働させて嫌でもそういう気分を装うのが常だ。ところが今回はその制御を完全に逸脱していた。ろくに覚えちゃいないが、あられもなく喚いておねだりしていたのは所々記憶にある。羞恥心なんかどうでもよくて、油断していた自分に腹が立つ。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑥
    TF2で「デイビスとドロズのおちゃらけ日常風景」
    おちゃらけ感薄めになってしまいました。ラストリゾートのロゴによせて。※いつもどおり独自設定&解釈過多。独立に至るまでの話。デイビスは元IMC、ドロズは元ミリシアの過去を捏造しています。
    「今日のメニュー変更だって」
    「えっ、"仲良し部屋"? 誰がやらかしたんだ」
    「にぎやかしコンビ。デイビスがドロズを殴ったって」
    「どっちの手で?」
    「そりゃ折れてない方の……」
    「違うよ、腕やったのはドロズ。デイビスは脚」
    「やだ、何してんのよ。でドロズは? やり返したの?」
    「おれはドロズが先に手を出したって聞いたぞ。あれ、逆だっけ?」
    「何にせよ、ボスはカンカンだろうな」
    「まあ、今回の件はなあ……」

     そんな話が、6−4の仲間内で交わされていた。
     6−4は傭兵部隊であり、フリーランスのパイロットから成る民間組織だ。組織として最低限の規則を別とすれば、軍規というものはない。従って営倉もない。しかし我の強い傭兵たちのことだ、手狭な艦内で、しかも腕っぷしも強い連中が集まっているとくれば小競り合いはしょっちゅうだった。そこで営倉代わりに使われているのが冷凍室だ。マイナス十八度の密室に、騒ぎを起こした者はそろって放り込まれる。感情的になっているとはいえ、中で暴れようものなら食材を無駄にしたペナルティを――文字通りの意味で――食らうのは自分たちになるとわかっている。そのため始めは悪態をつきながらうろうろと歩き回り、程なくして頭を冷やすどころか体の芯から凍え、やがていがみ合っていたはずの相手と寄り添ってどうにか暖を取ることになるのだ。こうしたことから、冷凍室は〈仲良し部屋〉とも呼ばれていた。
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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑦。Cp2077で死神節制ルート後。ケリーが「そうなると思ってた。Vはまったくしょうがねぇやつだよ」とジョニーを慰める話。
    ※エンディングに関するネタバレあり。なおスタッフロール中のホロコールを見る限りケリーは節制の結果を知らないようですがその辺は無視した内容となっています。
    アンコール インターカムも警備システムも素通りして“彼”が戸口に現れたとき、ケリーは思わずゾッとした。姿を見なくなってしばらく経つ。アラサカタワーの事件はテレビやスクリームシートで嫌というほど目にしてきた。だがその結末は? マスメディアの言うことなど当てにならない。噂では死んだともアングラでうまくやっているのだとも聞いた。けれど真相は誰も知らない。ならばとナイトシティ屈指の情報通、フィクサーでありジョニーの元カノ、ローグにもたずねてみた。返事は一言、「あいつは伝説になったんだ」。金なら出すと言ってはみたが、返されたのは立てた中指の絵文字だけだった。
     Vはいいやつだ。彼のおかげで――奇妙な形ではあったが――ジョニーと再会を果たすことができた。それに人として、ミュージシャンとして立ち直ることができた。もし彼がいなければもう一度、そして今度こそ自らの頭に銃弾をぶち込んでいただろう。大げさに言わずとも命を救われたのだ。だから生きていてほしいと願っていた。一方で、心のどこかでは諦めてもいたのだ。自分とて真面目に生きてきたとは言い難いが、重ねた年月は伊達ではない。起こらないことを奇跡と呼ぶのであって、人がどれほどあっけなく散ってしまうかも目の当たりにしてきた。Vの生き様はエッジー以外の何物でもない。もうそろそろ、読まれることのないメッセージを送るのも、留守番電話へ切り替わるとわかっていて呼び出し音を数えるのもやめにしようかと思っていた。だからその姿を目にしたとき、とうとう耄碌したかと落胆すらしかけた。
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