寂しさの延長戦アスランは耳を疑って訊き返した。キラは「だーかーら!」と言い直す。
「出来ないんだって!!!」
「は?・・・お前そのために今回の作戦立てたのに・・か?」
「僕だって・・・辛いんだよ・・・」
泣きそうな顔で耐える友人に、アスランはふむ・・・と顎に手の甲を当てて考え込む。
「取りあえず、状況を説明してみろ」
「うん・・・」
涙ぐましい一組のカップルの話。
キラとカガリが秘密裏にだが恋人になり、遠距離恋愛ながら想いを育んできた。
触れ合うこともなく、黙々と仕事を入れ、夜に通信で会話するのが唯一の癒し。そして、キラはある事を実行に移した。相談して(様々な障害はあったがそれらも片付けた上で)プラントとオーブでキラとアスランを三日間交換しよう!!と決められたのだ。
アスランは最初こそ反対したが、本人も久しくラクスに会っていない件もありやれやれと同意してくれた。
目的は・・・勿論カガリと(性的な事含む)触れ合う機会を得るためだ!!
三日の内で、とキラは燃えていた。
だが、いざとなった時・・・キラは猛烈な吐き気に襲われてトイレに駆け込んだ。
大変失礼な話だと思う。カガリに悪い事をした・・・と反省もした。
(僕・・・ダメになっちゃったのかな・・・?)
キラにとってはどうしてもフレイとの一夜を思い出してしまう。
戻って来たキラに、バスローブをはだけさせたカガリがとろんとした目で言う。
「キラ・・・」
「ゴメン・・・僕・・・」
「いや、具合が悪いなら仕方ない!今日は寝よう・・・な?」
「・・・・うん」
カガリの優しさが沁みた。男として情けない。なんとかしなくちゃ・・・!!と思うキラだった。
だが翌日も同様になってしまった・・・ここまで来るとカガリに隠しきれない。
キラは素直に白状した。キラの言い分を聴いて、カガリはすっくと立ちあがる。艶めかしい太ももが見えてまた吐き気がしてしまうキラであった。
「それなら私にも協力させてくれ!・・・その、私も。キラとしたいからな!!」
「カガリ・・・でも僕の問題だし・・・」
「お前一人で抱え込まなくていい。私はお前の恋人だろう?一緒に乗り越えよう」
「そうだね・・・」
起き上がった衝撃でチラリとカガリの胸元が露わになり、再度キラは蹲って吐き気と戦う羽目になった。
(・・・これは重症だ・・・)
とカガリも思った。
三日目。
恥じらいながらバニーガールの服装をしているカガリが居た。
キラは速攻扉を閉じた。扉越しから「・・・ダメだったか?」とおずおず聞こえた。
ダメとかそういう問題じゃない。可愛くてドキドキする。
でもどうしても性的に見てしまって吐き気がしてしまう。こんなの拷問だ。
好きなのに、嬉しいのに、ダメだなんて・・・。
「じゃあこれでどうだ・・・?」
そう言う声が聞こえたので、そっと開けてみた。
ビキニの水着姿のカガリが居てビックリしてしまった。カタカタ震えている。
抱きしめてあげたい・・・と思うのに、思うのに、思うのに・・・。
キラは走って行った。多分トイレで吐くんだろうな、と思ってカガリは仕方ないな・・・と椅子に座り直した。
やっぱり寂しいな、と思う。キラに触れて欲しい。だって今日触れ合えなかったらまた長い事会えないのだ。
「・・・寂しい、か・・・」
同じ気持ちをキラも感じてくれているのだろうか?
そして冒頭へと帰る。
「なるほど・・・今日を逃したらもう終わり、崖っぷちだもんな・・・」
「・・・君はラクスとは・・・?」
「・・・俺はいいんだよ。お前の問題だろう?」
「うん・・・」
ぽつぽつと言葉を重ねる。水着でもアウトとなるといよいよ自分はそういう事が出来ない身体なんじゃないかと思う。好きなのに・・・と思えば思う程から回る。
切なくて悔しくて泣きそうだと思った。
アスランはキラを見ながら、「根本的に・・・」と言った。
「間違ってるんじゃないのか?お前はしたいから、それだけでカガリに会いに行ったのか?」
「それは・・・だって今この機会を逃したら、僕たち遠距離だし繋がっていけるか心配で・・・せめて何か残して行きたいなって・・・二人の結びつきみたいなものを」
「それを・・・何も身体で示さなくてもいいんじゃないか?お前にはそれしかないのか?」
「恋人同士なんだし・・・それは・・・その・・・・」
「ん?」
「アスランにはわかんないよ!!不安になる気持ちなんて!!」
「・・・判るさ。でも、お前は身体の結びつきがないと判らないんだな」
だんだんとキラにも判って来た気がする。本当は・・・出来ない自分はどれ程彼女を寂しくさせるだろうと思っていたが違うのだ。もっと根っこの方で判っていなかった。
カガリの部屋に戻ったキラは、ベッドで横になっているカガリを見て眠ってしまったのかと思った。
だが、彼女が起きていて、その瞳から涙が滴っているのを見て「ゴメン・・・」と謝った。
首長服を着たカガリは起き上がると「海に行きたい・・・」と言った
夜中、近場の海辺に二人で抜け出した。
「水が冷たいな!キラも来い!!」
そう言われて、キラも行くとカガリに腕を引っ張られて波しぶきを盛大に浴びた。
笑っていたカガリにも波しぶきがかかって二人で笑い合う。
背後からカガリをぎゅっと抱きしめると温かな熱を感じた。そうだった。この温もりが欲しかったのだ。ずっとずっと・・・。
「キラ・・・」
「うん・・・」
触れ合わせた唇は震えていたけど。結局触れ合えたのはその一瞬だけだったけど。
それでいいと思えた。額を合わせて、互いにしばらく無言で目を閉じた。それから潮を浴びながら抱きしめ合った。すっかり服は濡れてしまった。
「寒いし・・・帰ろうか?」
「いや、私は泳いでいく!」
「へ?・・・待って・・・」
「キラはそこに居てくれ!!」
カガリは首長服の中に水着を着たままだったようでそのまま海へと飛び込んで泳ぎ回る。その健康的な姿にキラはクスクスと笑って自分も上着を脱ぎ捨てた。
キラの上半身の裸を見たカガリは心臓がドキドキとして一層泳ぎに全力を尽くした。結局、どっちもどっちだった。
「これからはちょくちょくキラが会いに来てくれるって言うんだ・・・!!」
「それは良かったな・・・」
帰って来て報告を受けたアスランはいつもより元気が良くなってウキウキしているカガリに、そっと息を漏らした。
寂しい時に会いたい、だけでもいいのだ。
乗り越えられるかは判らないが、二人には先がある。徐々にでいいから進んで行って欲しいと思った。
―――と思うのも。
「で、アスランとの進展はあったの?」
「・・・そうですわね。唇の横にキスまで行きました」
「へー・・・!!!」
のほほんとキラとラクスはお茶を飲みながら会話していた。
こちらの先は長そうだ。