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    @94_ROM_12
    稲妻の目金君関連のみ

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    POIPOI 37

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    ゲーム版GO時空。本編より少し前の話
    半田君が目金君の自分語りに付き合わされる話。CP要素なし

    #目金欠流
    ##CP無し

    平凡な日々の一幕「えっ、俺がKFCの監督だって?」
    「勿論。半田ちゃん以外にピッタシな人なんていないわよ」

    桜の花びらが春風に舞い散るある土曜日の昼下がり。稲妻商店街の一角にあるカフェのテラスで半田真一は如月まこによって詰め寄られていた。如月まこは稲妻町の河川敷をホームに構えるサッカークラブ『稲妻KFC』のOGで現在はコーチとしてKFCに関わっている。KFCと半田の在籍していた雷門中サッカー部は長い付き合いに在り、部員が11人に満たなかった頃に円堂の練習に付き合ってくれていた他、雷門中サッカー部と練習試合を行ったこともあった。伝説のイナズマイレブンの一人が監督に就いていたとはいえ小学生が、それも男女混合チームの彼女達が自分たちの動きに食らいついていたのは今思い返すと中々信じられない話だと半田はしみじみと振り返る。

    「ちょっと半田ちゃん、話聞いてる?」
    「ああ、悪い悪い。ちょっとびっくりしちゃってさ」

    自身が感慨に耽っている間に何かしらの説明がなされていたと気付かず、半田は素直に話を聞いていなかった事実を認め詫びを入れる。如月は全くもう、と呆れた後すぐ気を取り直し再び話し始める。

    「もう一度言うけど、監督の会田さんが入院したって話は知ってるわよね。幸い大した症状はなく退院もすぐ決まったけど、この一件以来会田さんが監督引退を考えているみたいなのよ。そこで!半田ちゃんに是非監督になって欲しいって訳」
    「ちょっと待ってくれ。話が飛躍し過ぎじゃないか」

    半田は何故自分が監督候補に選ばれているのかの説明がされず困惑していると、如月は寧ろ何故ぴんと来ないのかと彼女なりの持論を半田に聞かせる。

    「何言ってるのよ。半田ちゃんは高校に入学して以来、放課後に私たちの元を訪ねては皆にサッカーの技術を教えてくれたじゃない。大学に入ってからもKFCの元に通い続けてくれたし、もう半田コーチとしての付き合いも6年よ?現KFCメンバーからの信頼も厚いんだし、半田ちゃん以上に稲妻KFCの監督に相応しい人はいない、……いいえ、半田ちゃんじゃないとダメなのよ」

    どうだと言わんばかりににんまりと笑う如月に対し、客観的事実を突きつけられた半田は苦し紛れに目線を明後日の方向へと目を向ける。半田は高校に入ってからもサッカーが好きで、しかし選手として高校サッカー界を戦っていける程の実力ではなく。その結果、同じ学校に進学したマックスと共に稲妻KFCの面々と草サッカーを行うのが習慣となった。マックスは途中から他にもやりたいことが出来たとKFCを訪ねる回数は減っていったが、半田は他にやりたいこともなかった為大学に上がった今もずるずるとその習慣を続けている。ただそれだけだった。そういった経緯もあり、事実だけ並べれば如月の言う通りこれ以上にない監督候補の適正を手に入れてしまったが、こんな自分が本当に監督になってもいいのか、半田は迷いを捨てられずにいた。

    「__。けど、俺もうじき就活とかもしなきゃならないからさ」

    結局、半田はキッパリと断れもせずに、うだうだと言い訳じみた言葉を並べてしまった。そんな半田の心境を察してか如月は「仕事が休みの日だけでもいいから」と更に頼み込んでくる。

    「社会人になったら生活リズムも変わるし、今みたいにKFCに来れるかどうかも分からない。先が見通せない以上、俺に監督は無理だ」

    本当に自分は監督という立場に就いていいのか。その自問自答に解は出ず、長きに渡る交流により自分を信頼してくれている如月に対し半田は尤もらしい理由を付けて断ることしかできなかった。

    「……分かった。半田ちゃんが変に真面目なのは今に始まった話じゃないしね。何日か待ってあげる」
    「おい、俺は監督はやらないって」
    「やる決心がつかないの間違いでしょ?」

    全部分かってます、と言わんばかりの表情で微笑む如月。だがその表情はすぐムッとした、けれど茶目っ気のあるものへと変わる。

    「私、諦めないから!気が変わったらまた連絡してよね」

    それじゃ、と如月はバッグを手に取って席を立つ。

    「おい、如月っ!」

    半田の呼び止めに笑顔で手を振り返し、如月は人混みへと消えていった。嵐のように去っていった如月の後ろ姿をしばし眺め、半田は背もたれに重心を預け脱力する。

    「…………。って、あいつ代金。俺、奢るなんて一言も言ってないんだけどな」

    つい不満が漏れ出るがまだ高校生の如月にはカフェでお茶するだけでも十分手痛い出費になるのだろうと思い直し、喉元までせりあがっていた溜め息を飲み込む。

    「みいちゃった、みーちゃった。半田さん、女子高生とデートしてやんの」
    「木暮……お前いつからいたんだよ」
    「さあて、いつだろうね」

    いつの間にかやってきた木暮は意地の悪いしかし愛嬌のある顔でウッシッシと笑う。何しに来たんだと半田が尋ねる前に木暮は如月が座っていた席に自身のカバンを置き、店内に居るウェイターの元へと歩いていく。どうやらこちらの了承も得ず同席しようとしていると気づき半田はその身勝手ぶりに眉をしかめる。だがあいつの行動を逐一咎めてもきりがないと半田は眉に寄ったしわを指で無理やり解きほぐす。
    半田にとって木暮は、長らく顔だけ見知った人物という印象だったが、大学入学を機に上京してきたことでその距離はぐっと縮まった。木暮は偶然半田と同じ大学に進学し、偶然キャンパス内で再会を果たし、偶然同じ学部を選択していた。偶然がこれだけ重なったんだからと木暮は事あるごとに半田の元へ訪れ『去年○○教授の講義は選択していなかったか』と尋ねてくるようになった。理由は無論、半田の板書したノートと半田が受けたテストの問題である。そのあまりに素直過ぎる態度に半田もいつしか遠慮が無くなり、生意気な後輩として木暮を可愛がるようになっていた。

    「それで何の話してたのさ。彼女、半田さんが気に掛けてる子なんだろ?」

    ウェイターに注文を伝え終えさも当然の様に席に座った木暮は、ニヤニヤとした表情を隠す事なく先程の状況を説明するよう求めてきた。

    「誤解を招くような言い方はやめろ。……お前も知ってるだろうけど、如月は地元のサッカーチームのOGでさ、そのチームの監督を務めてくれないかって頼まれたんだよ」
    「へえ、監督ねえ。半田さん変に真面目なんだし向いてんじゃない?引き受けてあげればいいじゃん」
    「他人事だと思いやがって」
    「当然だろ?他人事なんだから」

    半田の葛藤など知らぬ木暮は何を悩んでいるのか分からないという顔であっけらかんとそう言い放つ。

    「それで、何がそんなに嫌なのさ。バイトのシフト調整してまでKFCに通ってるのに、そこの監督断るってなにかあるんだろ?」

    運ばれてきたばかりのコーヒーフロートをストローでかき混ぜながら木暮はそう尋ねる。正直に心中を打ち明けてもよかったのだが、部外者に、それも一年下の後輩に弱音を吐くのは気が引けた為半田は「別に嫌って訳じゃないんだけどさ…」と本音は内に仕舞いモゴモゴと口籠る。

    「俺詳しく知らないけどさ。KFCに頻繁に顔出してるのって半田さんとキサラギって子だけなんだろ?半田さんが監督引き受けなかったらその子の負担増えちゃうんじゃないの?」
    「……」

    木暮の言い分は全く間違っておらず、KFCにとっても自分自身にとっても頼みを引き受けることが最善である、という事実を突きつけられ半田は完全に口を閉じてしまう。

    「__。ま、良いけどね、何でも。俺関係ねーし」

    半田の表情の変化を黙って眺めていた木暮は重くなった空気を払拭する様に明るい声でそう笑う。

    「あっ!それよりさ、半田さん去年統計取ってたよね。テストの問題残ってたりしない?」
    「…。あの教授、問題回収するタイプだから残ってねえよ」
    「えーっ!そのために今日半田さんの事探してたのにぃ」
    「お前ちょっとは先輩の力を借りずにテストを受けろよ」

    そんなぁ、と絶望しきった表情でテーブルに突っ伏す木暮。そのあまりに哀れな姿に半田はつい「テストで出た範囲ぐらいは教えてやるよ」と世話を焼いてしまう。そんな半田の優しさにしっかり反応した木暮は「絶対だからね!」と必死になって縋り付いてくるので半田は可笑しくなってケラケラと笑う。

    半田は、素直ではないが心優しい後輩に感謝する他なかった。





    如月から監督の頼みを受けた翌日。半田は折角の日曜日だというのに上手く寝付けず、日も登り切っていない朝早い時間に目を覚ましてしまった。ベッドの上で再び眠気が来るのをしばらく待ったが、監督の件が頭を巡り一向に眠気が来る気配はない。このままでは悩んでいるうちに昼になりかねないと半田は体を起こし気分を切り替えるために朝飯を買いに出かけることにした。
    寝巻として愛用しているジャージ姿のまま財布と携帯をポケットに詰め、スニーカーを履き家を出る。朝早い時間だがコンビニになら何かあるだろうと半田はフラフラと人気のない道を歩く。徒歩3分もかからず辿り着いたコンビニには昨夜の売れ残りであろうおにぎりが数個、変わり種で手に取るのに勇気がいる味のサンドイッチが2つほど陳列されていた。半田はおにぎりの棚を一通り眺めたが、どれも手に取る気になれず一先ずゼリー状の10秒飯とスティックタイプのバランス栄養食を買いコンビニを後にした。
    目的を果たし店から出るもどうにも家へ帰る気になれず、折角だからと半田はコンビニのすぐ傍にある商店街の入り口へと歩いて行った。半田は日々の習慣として夜にランニングを行っているのだが、そのランニングコースとして重宝しているのが店じまいを終えた商店街のアーケードであった。流石にこんな朝方に開いている店はないだろうと商店街の通りを覗くと、予想通りアーケードに人気は全く無く絶好の散歩道となっていた。

    (休みの日に散歩するのも気分転換になって良いな)

    コンビニで買った物を手に商店街をブラブラと歩いていく。昼間は人で混雑している道を一人占領して歩くのは中々に気持ちが良い。何時迄なら人気が無いだろうかと考えながら歩き続けると、路地裏に続く道の入り口で行き倒れている人影が目に入る。酔っ払いか?と不快に思いつつも避ける理由もないのでそのまま人影の方へと近付いていく。少し近付くとその人影はスーツではなく私服を身に付けていることが分かる。更に近付くと、その人影は若い青年であることが分かる。人影の真隣まで近付くと、それがどうも見覚えのある人物であることに気が付いて。

    「…………。お前何してんだよ、目金」

    繭のように体を丸め、呻き声を漏らしながらアスファルトの上で横たわる行き倒れこと目金欠流はこちらの呼び掛けで目を覚ましたのか二、三度瞬きをした後フラフラと空を見渡し、ゆっくりと身体を起こす。

    「ううう、身体が痛い……」
    「……」

    そりゃアスファルトの上で雑魚寝したら痛いに決まってるだろ。
    そう言える気やすい間柄では無い為半田はまさかの再会を果たした相手に声をかけるわけでも無くじっと見つめ立ち尽くす。

    目金欠流。半田と同じ雷門中に通い同じサッカー部に所属していた同級生である。半田は目金と二人きりで個人的な会話を交わしたことは一度も無く、仮にあったとしても事務的な話だけだろう。半田から見た目金は鬼道や豪炎寺といった秀才にこそ劣るものの成績優秀の優等生で、先生達からの評価も決して悪くなかった。そんな距離感であった為互いの進路など聞いた事は無かったが、半田は勝手に目金は都内の進学校に通い自分の知らぬところでエリート街道を歩いていくのだろうと思っていた。そう思いこんでいたからか、今目の前にいるだらし無く行き倒れていた現実の目金とイメージ上の目金とのギャップに半田はパニック状態に陥っていた。

    目金は衝撃の余り動けなくなった此方など気にも留めず地面に座り込んだまま腰骨をさすり、寝具無し野宿という過酷な環境を耐え抜いた自身の体を労わっている。暫くの間腰骨をさすっていた目金だったが、目の前にいる人物が立ち去ろうとしないことに違和感を覚えたのか胡乱げに顔を上げ、半田と目が合うと驚いたように目を見開く。どうやら目の前にいた人間が知り合いであるとようやく気が付いたらしい。

    「おや半田君。お久し振りです」
    「……久しぶり。お前さ、こんなとこで何やってんだよ」

    道端で偶然会ったかのような気軽さで話しかけてきた目金に半田は再び(目金にとっては一度目であろう)質問をぶつける。

    「お恥ずかしい話ですが、家へ帰る途中に倒れてしまったみたいですね」

    よくある事です、と目金はこちらが聞いてもいない事の顛末を語り始める。

    「ここ数日ゲーム制作の納期に追われていまして。昨日漸く一区切りがついたので久し振りに家に帰ろうと思ったのですが、その途中で倒れてしまったみたいです。勿論、スケジュールはちゃんと組んでいたのですが、完成間際に何度も各々のこだわりたい所が出てきてしまいましてねえ。まあ元秋葉名戸学園の皆さんと制作している以上これは避けられない問題ではありますし、僕も作ってて楽しかったですよ」

    ゲーム制作って何だ。元秋葉名戸の皆さんって誰なんだ。聞いている側への配慮など全くされていない状況説明を質問をさせる間も与えずべらべらと喋っていた目金は、一気に喋り過ぎたせいか頭をふらつかせ壁にもたれかかる。

    「おい、大丈夫かよ」
    「問題ありません。ただの低血糖によるふらつきです」
    「低血糖って…。十分やばいだろ」
    「ふふふ、舐めてもらっては困りますね。この程度の症状、僕にとっては日常茶飯事です」
    「いや、堂々と言うことじゃないだろそれ」

    自己管理を怠ったが故の事態を胸を張り誇らしげに語る目金に、半田は呆れて溜め息をつく。

    「という訳ですので、僕はもう少し休憩してから動きます」

    気にしてくれなくて大丈夫ですよ。そう言って目金は顔色こそ悪いものの深刻さを微塵も感じさせない笑みを浮かべ、ひらひらと手を振り半田に立ち去るよう促す。目金の言う通り、半田がここに居続ける意味は無く早く立ち去って仕舞えばいいと分かってはいる。だが、気がつくと半田は手に持っていたゼリーを目金に差し出していた。

    「…?えっと、半田君?」
    「食えよこれ。別に俺も食べたくて買ったわけじゃないし。それやるからさ、もう少し喋ろうぜ」
    「……。別に僕は構いませんが」

    不思議そうに手渡されたものを受け取り「いただきます」と呟いた後ゼリーを口にする目金。軽い脱水症状もあったのかものの数秒で半分程のゼリーが消えていく様子が半田の目からも確認できた。

    (さて。引き止めたは良いが、こいつと何話せばいいんだ?)

    半田は手持ち無沙汰を誤魔化すように目金に続きスティック状の栄養食の封を切る。気が参っていたからか、ついこの場に居座ってしまったが正直話す事はない。正確には何をどう話せばいいのかさっぱり分からない。だがこうなった以上世間話の一つくらい自分がリードしなければならないと、半田は必死に記憶の棚から無難な世間話の切り出し方をリストアップする。

    「あー…。お前さ、最近どう?上手くやれてる?」
    「…………」
    「~~~っ、ありきたりな世間話で悪かったな!」
    「そこまで言うつもりはありませんが……」

    声にこそ出てはいなかったが「そんな話をするために残ったのか?」と語る目金の目線に耐えられず半田はやけくそ気味に声を荒げる。だが目金はそんな半田の様子など気にも留めず「そうですねえ」と絞り出された話題に応えるべく思考を巡らせる。

    「上手くいったと言えば、ゲームセンターの売り上げが安定してきたことでしょうか」
    「ゲームセンターって、まさかあの路地裏に出来たやつか?」
    「ええ」
    「嘘だろ?!あれお前が運営してるのかよ!」
    「正確には、僕と元秋葉名戸学園の皆さんを合わせた3人で、ですけどね」

    ふふん。と自慢げに微笑む目金。路地裏に新しくできたゲームセンターは、中高生だけでなく大学生や社会人も多く訪れる稲妻町内で指折りの娯楽施設だ。半田もそのゲームセンターに訪れた回数は二度や三度では収まらず、立派な常連客の一人と言えるだろう。

    「そう言われてみれば何か納得がいくな。あのゲームセンター、収益度外視のロマン追求型って感じの筐体の揃え方してるし」
    「おや、分かってくれますか半田君。そうなんです!クレーンゲームや音ゲーといったオーソドックスな筐体は勿論、最新のシューティングゲームや格闘ゲーム、更には名作と名高いレトロゲームの筐体まで完備しているのが我がメガネハッカーズが誇るゲームセンターなのです!!!」

    先ほどまで行き倒れていたとは思えないほど生き生きとした顔で自慢のゲームセンターについて語る目金。途中挿し込まれた[メガネハッカーズ]という不穏な単語が何を表すのかさっぱりだったが、聞いたところでまた訳の分からない話をされそうな予感がした為半田は余計な好奇心をそっとしまい込む。

    「とはいえ、あのゲームセンターも僕らの今後の目標のための施設にすぎません」
    「目標?」

    相槌を兼ねた復唱に目金は「聞きたいですか?」と聞いて欲しくてたまらない、といった顔でもったいぶる。特に断る理由もないため半田は首を縦に振り続きを促す。

    「ふっ、仕方がありませんね。こうして出会えた縁です。半田君には特別にお教えいたしましょう!」
    「いや別にそんなに聞きたくは無いけど」

    半田はやんわりと否定の意を伝えるが、ボルテージが上がり切った目金の耳には届いていないのか声高らかに目標とやらを宣言する。

    「僕らがゲームセンターの運営をしている理由はずばり、最高のゲームを作る為です!」

    「……ゲームを、作る?それって、最初の方に話してた納期がどうとか言うやつか?」
    「…少し端折り過ぎましたかね。では順を追ってご説明いたします」

    ゲームセンターとゲーム制作を上手く繋ぐことが出来ず困惑する半田。そんな半田の様子を見て目金は少し思案し、そこに至るまでの過程を語り始める。

    「そうですね。事の切っ掛けからお話ししましょうか。さかのぼること数年前、僕は高校に入学して間も無くプログラミング部に入部しました。部の活動の一環でゲーム制作を行っていたのですが、それが我ながらなかなかの好評ぶりでして。無料DL配布した際のネットでの評判、文化祭で訪れた外部の人たちの反応などを加味した結果、僕が作成したゲームを冬コミに出してみないかという話になりました」
    「…冬コミ?」

    聞き馴染みのない言葉に半田はつい疑問を抱く。それに対し目金は「素人が気軽に創作物を売り買い出来る場だと理解していただければ十分かと」と簡潔に答え話を続ける。

    「冬コミにサークル側として参加すると決まってからは流石の僕も緊張してしまいまして。生半可なものを売るわけにはいかないと、漫画君…漫画萌先生にイラストの依頼をし、芸夢君にゲームバランスの調整を手伝ってもらいました。これを機に、芸夢君や漫画君と一緒にゲームを作るようになりました」

    (あ、元秋葉名戸学園の皆さんってその二人のことか)

    目金の話にちょくちょく出てきていた『元秋葉名戸生』が誰の事を指していたのかようやく分かり半田は独り得心する。

    「あの漫画萌先生がイラスト担当をしている、という前評判もありゲームはそれなりに売れました。流石に会場内で完売はしませんでしたが、パケ買いした人の口コミから冬コミ後もゲームはじわじわと売れ行きを伸ばしていきました」

    「自身の作ったゲームが次々と売れていった時はとても嬉しかったですね」と、目金はその当時を思い出したかのように微笑む。

    「それ以降僕らは毎年夏と冬にゲームを作り、大学2年になった年の夏コミでは壁サー……売り上げの多い大手サークルが配置される場所を使わせて貰えるようになりました」
    「その年の冬コミ、2回目の壁配置では搬入した五百枚のゲームソフトが完売し、それから僕らは卒業後もこの活動を続けることを、この活動により力を入れていこうと考えるようになりました」

    五百枚。と具体的で、且つその大きな数字に半田は驚嘆から目を瞬かせる。

    「三人での話し合いの結果、自分たちが作りたい物だけでなく、より多くの人の目に留まるようなゲームも作っていきたいという方向で考えはまとまりました。その後、どうせ市場調査をするならばと芸夢がゲームセンターの設立を提案し、今に至るという流れですかね」

    事の経緯は話し終えた、と目金は満足げに残っていたゼリーを飲み切る。
    正直、話の半分以上理解出来ていない気はするが、目金が元秋葉名戸学園の面々と共に学生生活の中で大きなことを成し遂げ、大きな夢を抱いていることはわかった。だからこそ、半田は心中に沸いた疑問のような何かを目金にぶつける。

    「なあ、目金。お前ってさ、これからゲーム制作で食べていくんだよな?」
    「……。まあ、ええ。そうですね」
    「それってさ、大変なんじゃ無いか。そんな危ない橋なんか渡らずに、企業に入ってゲームを作った方が安定した生活も送れるだろ」

    自分でも嫌になるほど陳腐で無難な考え。だがそれでも半田は目金にそう尋ねずにはいられなかった。自分では絶対に選ばない進路を選んだこいつがどう答えるのか知りたかったのだ。
    そんな半田の思いなど露も知らぬ目金はその問いにぱちくりと目を瞬かせ数秒呆けた後、

    「僕らを見くびらないでください」

    そう言って、ハッと笑った。

    「確かに、企業に入りゲームを制作する方がいくらか安定した生活を送れるでしょう。ですが、それでは意味がありません。僕は彼らとゲームを作りたい。彼らじゃないとダメなんです」

    そう力強く目金は語る。その真っすぐな熱い眼差しに「半田じゃないとダメだ」と語る如月の姿が脳裏に過ぎった。

    「今はまだ個人クリエイターが日の目を浴びる機会はそうありません。ですが近い将来、自身の作品を多くの人の目に、海外のユーザーにも見てもらえるようなプラットフォームが現れる筈。そうなればもうこちらの物です。僕らはくすぶったりなんかしない。必ず大勢の人に評価されるような作品を作って見せます」

    「僕は、僕たちは!日本中の若者の心を揺り動かすゲームを作って見せますとも!」

    すっくと立ちあがった目金は不敵な、しかし何処か無邪気な笑みを浮かべ、指を天へ突き上げる。その指し示された空は朝焼けと夜の名残が入り混じる不思議な色をしていて、有明の月が煌々と輝いていた。

    「さて。もう動いても問題なさそうですし僕は帰ります。ゼリー御馳走様でした」

    それでは、とこちらが引き留める暇もなく目金は路地裏へと消えていった。あまりの出来事に半田は暫し呆然としていたが気が付くと自身の頬がうっすらとつり上がっていたことに気が付いた。

    (なんか、馬鹿みたいだな俺)

    一人残された半田はくつくつと小さく笑う。野望ともいえる大きな夢に向かい堂々と己が道を歩んでいる目金を見ると、半田は悩んでいた事そのものが馬鹿らしく思えてきた。

    (中学の時もこんなことあったな)

    思い出すはFFIの日本代表に選考洩れしたあの夏の日。自身の特性を生かしちゃっかりとイナズマジャパンに同行したあいつの姿を見て皆で練習に励んだあの頃を思い出し半田はフフッと笑う。

    (__、今日もあいつら練習あったよな)

    半田はKFCの練習スケジュールを思い出しつつ家へと帰る。今日の昼、河川敷に行き監督の話を引き受けようと思いながら。





    [おまけ:音無と目金]


    薄暗い路地を進んだ先にあるゲームセンター、の奥にある管理者のみ立ち入ることが許された部屋。そこで二人の若者が他愛もない話を交わしていた。

    「え。目金さん、半田さんと会ったんですか?」
    「ええ、つい先日路上で倒れていた僕に声をかけてくれまして」

    驚いたように尋ねてきた音無に対し、目金はパソコンから目を話すことなく問いに答える。久遠監督からの言伝を伝えるために音無は目金の元を訪ね、そのついでに世間話を交わす。二人にとってごくありふれた日々のやり取りである。

    「貴方また倒れたんですか……いい加減自分の体の管理位ちゃんとして下さい」

    路上で倒れたと当たり前のように語る目金に音無は呆れて溜め息をつく。軽い栄養失調に陥った目金の世話を音無がしてあげた回数はもう両の手では足りないほどだ。再三栄養を取るようにと言って聞かせてこれなので、音無はもう強く注意せず、小言を言うだけに止めている。

    「それで、何話したんですか」
    「えーっと確か、メガネハッカーズの活動内容について…」
    「半田さんにハッカー活動について喋ったんですか?!」
    「ゲーム制作、ゲーム制作に関してだけです!」

    音無の剣幕に押され目金は両の手を上にあげる。その様子から嘘は感じられず、音無は一先ず落ち着くために一呼吸する。

    「全く。何で気軽に『自分は犯罪まがいの活動をしています』って言おうとしちゃうんですか」
    「えー、かっこよくないですか?ハッカー集団って」

    再びパソコンに向き合い心底不思議そうな反応を示す目金に音無は頭を抱える。きっと自分が前もって止めていなかったら半田にもハッカー活動について喋っていたのだろうと思うと、音無はより頭痛がひどくなったような気がした。

    「いやあ、半田君にも聞かせてあげたかったですね。我がメガネハッカーズが成し遂げてきたハッカー業の数々を!」
    「大きな声で言わないでください、そんなこと」

    誇らしげに犯罪歴を語りたがる目金に音無はジトっとした目を向け窘める。

    「……大体、そんな活動何になるんですか。あなたたちがどれほど頑張ったって、フィフスセクターの牙城は崩せるわけがないのに」

    音無がそう呟くと目金はパソコンを操作する手を止め、こちらを向く。

    「起きますよ、革命は」
    「馬鹿なことを言わないでください」

    不敵に笑いそう断言する目金に対し、吐き捨てるようにその言葉を否定する音無。八つ当たりでしかない態度に目金は気を悪くするでも、謝るでもなく、ただじっとこちらを見つめる。

    分かっている。目金は決して慰めにそう言っているわけではないと、本気でそう思っているのだと。だが、音無には、長きにわたる管理サッカーによる支配に苦しみ続ける中学生たちを傍で見ている音無には、そう気安く肯定できる言葉ではなかった。

    「___、ところで音無さん。こんな話は聞いたことありますか?」

    だから目金はこれ以上何も言わない。
    先ほどの会話などなかったかのように、取り留めの無い馬鹿げた話を目金は意気揚々と語りだす。音無はそんな目金の態度に内心腹立たしく思いながら、そして有難いと思いながら、話に相槌を入れるのであった。
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    REHABILI「嘘はまことになりえるか」https://poipiku.com/4531595/9469370.htmlの萌目の2/22ネタです。22日から二日経ちましたが勿体無い精神で上げました
    猫の日「……えっと、つまり。漫画君は猫耳姿の僕を見たいのですか?」
    「今日は2月22日だろう?猫の日に因んだイベント事をこう言う形で楽しむのも、恋人がいるものならではの体験だと思うよ」

    2/22。2という数字を猫の鳴き声と準えて猫の日と呼ばれているこの日。そのイベントに乗じてインターネット上では猫をモチーフとしたキャラクターや猫耳姿のキャラクターが描かれたイラストが数多く投稿されている。そして、猫耳を付けた自撮り写真が数多く投稿され、接客系のサービス業に勤めている女性達が猫耳姿になるのもこの日ならではの光景だろう。
    古のオタクを自負する萌にとって、猫耳とは萌えの象徴であり、身に付けたものの可愛さを最大限までに引き出すチートアイテムである。そんな最強の装備である猫耳を恋人にも身につけて欲しいと考えるのは自然な流れの筈だ。けれど、あくまでそれは普通の恋人同士ならの話。萌と目金の間に結ばれたこの関係は、あくまで友として萌と恋人のごっこ遊びに興じる目金と、目金に恋慕する萌という酷く歪な物であった。
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    DONE隠れオタクな弟とオープンオタクな兄の話。
    表現の都合上、少し古いオタク観が出てきますが『00後半〜10年代前半のオタク観にVカルチャーが現れた世界』だと思って読み進めて下さい。
    隠れオタクとオープンオタクオタクとは。
    愛好者を指す呼称であり、特定の分野に過度に熱中し詳しい知識を持っている者を指すサブカルチャーの分野で用いられてきた言葉である。昨今では寛容に受け入れられる事の多いオタクではあるが、多感な学生達の中にはオタク趣味をバカにする者も当然存在する。そして、そんな学生達に馬鹿にされることを恐れ己のオタク趣味をひた隠す者も当然存在するのだ。かく言う雷門中に通う目金一斗も漏れなくその『馬鹿にされることを恐れているオタク』であり、所謂隠れオタクという存在であった。

    「なあ、第七人格ってソシャゲあるじゃん。あれ映画化するらしいぜ」
    「え、そうなんですか?」
    「あれストーリーとかあったっけ」

    さして興味のない流行りのソシャゲや芸能人をきっかけにバズった音楽、新発売のスニーカーの情報にまでアンテナを伸ばしそれらの話でクラスメイト達と盛り上がる。そんな涙ぐましい努力を重ね、一斗は日々学生生活を謳歌していた。
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