【子猫くわぶぜ】僕の膝日曜日の午後は僕たちにとって幸せな時間だ。
僕の学校も、豊前のバイトも休みで、ただひたすらにネコたちと遊ぶ。
新しいおもちゃを上げてみたり、ふたりでキャットタワーを組み立てたり、それは最近になって始めたふたりのと二匹の楽しいひと時だった。
今日もそんな午後を過ごしている。
「なあ、桑名見てみろよ。オムは猫じゃらしよりこっちのネズミの玩具が好きみたいだぜ」
飼い猫のおむすび(通称オム)とおみおつけ(通称ミオ)は豊前の降る猫じゃらしやらネズミの玩具に夢中だ。
特にオス猫のオムは活発で、豊前の投げるネズミの玩具を咥えては戻ってきて「もう一度投げろ」と言わんばかりに豊前の目の前に置く。
僕はその様子を動画で撮影してはネットに投稿するのが最近の日課になっている。
ネコたちの可愛い姿を映すのが目的なので、豊前の姿はなるべく映さないようにはしているが、ちらりと映る「イケメン」もなかなかの人気で、動画の閲覧数はシロウトにしてはなかなかの閲覧数だ。
「豊前、もう一回。最後帰ってきたオムを撫でるとこまで入れて。ハイ3・2・1スタート」
「注文多いなぁ……」
ぶつぶつ言いながらも、豊前はオムとミオと遊びながら、僕の注文にもきちんと答えてくれた。
「OK、ちょっとだけ編集してアップしちゃおう」
「だいぶミオは疲れたみてーだ。ネコたちは昼寝の時間にするか……」
豊前がミオを撫でると、ミオはゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らした。
「よし、OK!」
僕が動画投稿を終えて、豊前を見ると、豊前はソファに座って雑誌をめくっていた。
胡坐をかいた片方の膝にはオムがしっかり陣取って眠っている。
見事な膝枕だ。
ミオはといえば、窓辺に置いたキャットタワーの一番日当たりのいい場所を選んでお昼寝だ。ネコにも好みがあるらしい。
しかし……
僕はするりと豊前の隣(オムのいるのとは反対側)に陣取って座る。
「ちょっと前まで豊前の膝枕は僕の専売特許だったのになぁ……」
「ははは、最近はずっとオムに取られたっぱなしだな」
なんか悔しいがその通り。
「いいもん、まだ反対側、残っているもんね」
僕はぷぅっと頬を膨らませたままオムが眠るのとは反対側の膝にドスンと頭を乗せた。
「痛っ、お前もっと優しく寝ろよ」
僕が頭を乗せた衝撃で豊前の膝が大きく揺れ、眠っていたオムがパチッと丸い目を開いた。
「だって、全然僕のことか待ってくれないじゃん、最近ネコばっかり……」
「はははっ、下の子が生まれて拗ねる長男くんか?」
豊前が優しく僕の頭を撫でる。
「むぅぅ……」
僕が唇を尖らせると、ちょうど目の前にオムがいた。
「お前のせいだ……」
頭を少しだけ撫でる。
しかし、オムは反応せず、一点を凝視している。
「オム……何を見ているの?」
オムは僕を凝視しているようだった。
その瞳孔がぎゅううんっと丸くなる。
「オムどうしたの?」
僕もオムをまっすぐに見つめ続ける。
「豊前、オムが……なんかへん……」
「ン……?どうした?」
その瞬間だった。
びしっっ!!
オムの鋭い右ストレートが僕の右目にクリーンヒットした。
「いったぁぁぁぁぁ!!!」
その衝撃に豊前の膝の上から転げ落ちる僕。
「あーはっはっはっはっ!!!」
大笑いする豊前。
「なに?なんでそんなひどいことするの?オム!!」
僕の訴えにも、オムは豊前の膝の上でキョトンとしている。
「まつげが気になったんだろう。それとも普段あまり見えない瞳、かな?」
厚い前髪の奥でふぁさふぁさと動くまつげか……それともいつもは見えない僕の瞳が目の前にあって気になってしまったのか。
どちらにしろ、その辺のモノがオムには獲物に見えて思わずパンチしてしまったらしい。
僕にしてみれば大ダメージだ。
ボロボロと涙を流しながら、もう一度豊前の膝に頭を乗せる。
「ひどいよ、僕は豊前の膝を半分、分けてもらおうと思っただけなのに……」
「オム、ごめんな。お兄ちゃんが拗ねちゃうから半分、分けてやってなぁ」
「なあに、お兄ちゃんって僕のこと……?」
豊前が言いながらオムを撫でるとオムは「くるる」っと喉の慣らしてから、僕の髪の毛をショリショリと舐め始めた。
「許すってさ」
「なんだよ、もう!この膝はもともと僕のモノなんだからね!オムに貸してあげてるんだからね!!」
「お兄ちゃん、怒るなよ」
豊前が、ニコニコと笑っていた。
こうして、僕たちの日曜日の午後は過ぎていくのだった。