なんで「ナギリさん!好きです!!!」
聞き飽きるくらい聞いたカンタロウの台詞だ
俺は毎回、俺は興味ないとあしらっていた
それでも毎日、俺に抱きついて同じ台詞で言い寄ってきて
最初は鬱陶しいからやめろと怒鳴っていたが、根負けして今は好きにさせていた
今日、話があると珍しく真剣な顔で言われ、思わず正座になって向かい合っていた
カンタロウの口から出たのは、いつもの「ナギリさんが好きです」だった
違うのは、いつものヘラヘラした顔じゃない、俺を刺す様な眼差し
「なんだ改まって、またそれか」
「俺はナギリさんが好きです。ナギリさんに人生を捧げたい、貴方の人生全てが欲しい。」
俺を焼き尽く様な燃える目で、ゆっくり、そう言った
「ナギリさんは、俺の事、好きになってはくれませんか?俺に、望みはありませんか」
正直、好きとか良くわからんが、きっとカンタロウの事は好きだ。
今、一緒に暮らせるくらいに。
でもそれがカンタロウと同じ好きかと言われるとわからない。
「…嫌いじゃない。お前と同じ好きとは違う…と思う。それに、お前は俺なんかに構わず早く女でも作って結婚した方が幸せになれるんじゃないか?」
本心だった。
いつだって辻斬りだけを追って、人生を顧みず、辻バレした今だって俺だけを見ている。
俺が斬った事でコイツが壊れてしまったなら、壊れたまま俺といるより、結婚とかそういう世間一般のいう幸せ…ってやつを掴んだ方がいいに決まってる。
まあでも、言って聞くような奴じゃないだろうなって。
俺は心の底で思ってたんだと思う。
「そうですか…。」
「…」
「これでキッパリ諦めがつきました」
(は?)
「実は親にお見合い相手にあってほしいと言われまして。俺は貴方がいるからと断っていたんですが、父の仕事上の付き合いがある方の親戚らしく、会うだけでも良いから…と」
困り顔をしたがらへらっと笑ってカンタロウはそう言った
「これで貴方に受け入れてもらえなかったら、貴方にしつこくして嫌われるよりは諦めて友人のままの方がいいと思って…」
(お前、そんなの、今更だろ、今更何言ってんだ)
「ハッ!!もう仕事に行く時間でありました!!!それではナギリさん仕事に行ってきます!!ナギリさんはこれからおやすみですよね!おやすみなさいであります!!!」
そういってドタバタと物音を立て出て行った
俺も寝るかと布団に入ったが、頭がボーっとして眠れない
カンタロウが俺を諦める?あの諦めが悪い男が?
結局辻斬りを捕まえた今、あいつにとって俺はその程度だったのか。
いや、これで良いんだ。
あいつはこれで普通の人生に戻れるんだ
結局、その日は眠れなかった
─────────────────────
カンタロウが帰ってくるなり荷造りをはじめていた
聞けば突然県外での仕事が入ったらしい
「2週間ほど帰れませんので!!また帰る日に連絡しますね!!ナギリさん!!寂しいですが行ってきます!!」
いつもならここで抱きついてくる様な場面だが、アイツは抱きつきもせずそのまま出て行った
アイツがいないなら、掃除も料理もしなくて良いか
何故だか、やる気が何もおきない
日に日に血液パックを摂ることも億劫になってきて俺は1日何もせず横になることが増えた
横になると考えるのはカンタロウの事ばかりだった
飯は食えているかとか無理してないだろうか、とか
いつの間にか、こんなにも俺の中でカンタロウの存在は大きくなってたのかと驚いた
カンタロウのことを考えると勝手に涙が流れることもあった
俺はどうしてしまったんだろう
わからない
「…丸、丸に会いたい。」
久しく会ってなかったから、久しぶりに丸に会いに行くか
俺は久しぶりに起き上がって風呂に入って身支度を整えて家を出た
─────────────────────
「ヌリヌリヌン?!ヌヌヌヌヌ?!?!」
「ギリギリさん、酷い顔だな、どうしたの」
丸と砂が俺の顔を見るなりそう言ってきた
俺はそんな酷い顔をしていただろうか、いや、元からだろう
「…元からだ」
「いやいやいや、私が言うのも何だけど痩せすぎじゃない?ちゃんと食べてる?」
「カンタロウが出張でいないからな、料理はしてない、血も…摂る気になれなくて摂ってない」
「…意外だな。君にも吸血鬼らしい部分があったんだね」
「吸血鬼らしい?」
「吸血鬼が靴下を取られるとどうなるか知ってるかね?」
「知らん。どうなるんだ」
「弱るんだよ」
何で靴下取られたくらいで弱るんだ意味がわからん
「なんで」
「吸血鬼は執着した物を取られるのが大嫌いでね、昔はそれで退治人達が吸血鬼を退治した事もあるんだよ」
靴下取ったくらいで退治されるなんて弱すぎないか昔の吸血鬼
「それが俺に何の関係がある」
「君はあの吸対の爆音くんを仕事にとられて弱っているんだよ」
「は?」
「だから、君は爆音くんに執着してるって事だよ」
「誰がするか!!馬鹿馬鹿しい!」
「そんな事言って〜あんな特大の愛ぶつけられて君も好きになってるんじゃないの?」
「ヌーヌヌ!」
「ま、丸まで!第一アイツはもう俺を諦めるって言ったんだ!今更、」
「待って待って待って?!初耳だけど?!?!」
「ヌアーー?!」
ーー!!俺はどうして口が滑る!!
丸と砂がめちゃくちゃ詰め寄ってきてちょっと怖い!!
咄嗟に手が出た
「ジョンガード!!!」
「ヌ!」
「ヴアアアア!!馬鹿!!丸を殴るとこだったろ!!丸になんて事するんだ!!死ね!!」
あ、危なかった!!丸を怪我させたら俺は耐えられない
「それより!!隠してる事あるよね?吸血鬼の先輩!このドラルク様に話してごらん!相談にのってあげようじゃないか!」
ニヤニヤニヤニヤするな!!ぶっ殺すぞ!!
「それに、ジョンも心配してるよ」
「丸…」
ウッ、丸にそんな顔されたら…
俺はポツポツとこの2週間の出来事を話した
「なるほどね、あの彼がそう簡単に諦めるとは信じられないけどなあ」
「ヌヌ」
でもアイツはそう言いきったんだ
事実は変わらない
俺は別に気にしてないから良いんだ
気になってなんかない
「君さ、本当に良いの?彼を知らない女に取られても」
「元々俺のじゃない」
「ふーん。彼きっと良い夫、良い父になるだろうね。子供なんて産まれたら、友人の君とは中々会ってくれなくなるだろうね」
「…別にいい」
「そんな顔して良く言うよ」
どんな顔だ、元々こういう顔だって言っただろ
「彼、もうすぐ出張終わって帰ってくるんだろう?」
「ああ」
「そんな姿じゃ、また大騒ぎするよ。しっかり食事して寝なさいな」
カンタロウが俺の周りで煩く騒ぐ姿が目に浮かぶ
「その間に、考えてごらんよ彼の事。」
「…今日はもう帰る、世話になった」
「ヌヌヌ…」
丸が俺の手をそっと撫でた
俺も丸を撫でて礼を言って事務所を出た
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家に帰ったら、掃除してダメになった血液パックも捨てて、新しい血液パックの買い出しに行こうと思っていたのに
結局帰ったらまた、何もする気がおきなかった
また、布団の中で、俺はカンタロウの事を考えた
アイツが見合いに成功したら、俺はこの家を出てかなきゃいけなくなるのか
そんなのはずっと先の、話、だと思っていた
付き合ったりするのに、家に俺がいたらおかしいだろう
アイツが俺以外に、笑いかけたり、抱きしめたり
元々低い体温の、俺の心臓がさらに冷えていくような
苦しい
なぜこんなに泣きたくなる
急にアイツの声が聞きたくなって、気づいたら通話ボタンを押していた
1コール、2コール、3コール…
仕事中なんだろう、出れる訳ないか
何してるんだろう俺は。
通話を切って、いつの間にか泣いていた俺は、そのまま疲れて寝てしまった
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やっと今回最後の仕事が終わった
この2週間、ナギリさんに会いたくて会いたくて堪らなかった
あんな事言ったけど、やっぱり諦める事なんて出来そうにない
結局、見合いもしっかりお断りした。
でもナギリさんに嫌われたくもない。
ちゃんと諦めたように見せなければ
ずっとそう考えて仕事をしていた
「ん?ナギリさんから…着歴?!」
ナギリさんから掛けてくるなんて初めての事だった
何かあったのだろうか
…すぐに掛けなおしたが出なかった
着歴が入った時間は3時間以上前で今は普段なら彼が寝ている時間だ
寝ているのだろうか、それとも何か事件に巻き込まれて出られないのだろうか
居ても立っても居られず、隊長に相談して明日帰る予定を、俺だけ早めてすぐ帰る許可を頂いた
家に着いて駆け足でナギリさんがいるであろう寝室に飛び込む
顔まで被っているのか顔は見えないが、布団が膨らんでいるのが見える
よかった、無事だった
そろそろ起きる時間だし、起こしてもいいだろうか、顔が見たい、声が聞きたい
長い出張で疲れ、思考も鈍っているからか普段なら起こさないが布団越しに体を揺すってみた
「ナギリさん、ナギリさん、」
反応がない、熟睡してるのかもしれない、やっぱり起こすのはやめよう、無事なのはわかったし、とりあえず風呂にでも入って…と考えていたら、気づいたら布団の中に引きずり込まれて押し倒されていた
「えぇ?!なッナギリさん?!」
起こしてしまって怒っているのかと思い顔を見上げた…ら、なんで、泣いて、る?
「ど、どうしました?!!!お腹痛いですか?!?!」
いつもなら怒鳴られそうな勢いで言ってしまい、しまった!っと思い身構えたが思った様な怒号はとんでこず、ポタポタ、ポタポタと涙が降ってくるだけだった
「な、ぎり、さ「お前は、本当に諦めがついたのか?」
?????諦め?
「お前は本当に諦めたのか、俺を」
心が読まれたのかと思った、諦めがつかず、隠し通そうとした気持ちを
嫌われたくないから隠すのに、心の底では誰にも奪われないように貴方を隠してしまおうか、と怖い考えをしている俺を
「あの、その、…すぐには、すぐにはできません。が、貴方に迷惑がかからないようにします」
「…」
こんな状況でも、貴方との距離が近くて、ドキドキドキドキしてしまう自分が恨めしい
こんな、布団の中で、こんな距離で
「あの、ナギリさん、ちょっと本官この状態マズいと言いますか、その、」
「諦めるな」
「え?」
「お前は俺だけ見てれば良い」
「あの、それ、どういう、」
汗が、動悸がとまらない
諦めなくて良いって、それって、
「お前がいないと何も出来なくなった、俺はずっと一人でも生きていけたのに、お前が俺を駄目にしたんだ」
こ、れは、今なんかすごい事言われているのではないだろうか、
でも、まだ人と関わる事に慣れていない彼にとっては友人への嫉妬、もしくは家族の様に思ってくれているのかもしれない
「さ、寂しくなっちゃいました?」
「…」
スリッ
体が軋んで固まって、動けなくなる
あ、あの、ナギリさんが、本官の、俺の胸に頭を寄せて擦り付けてきた
宙に浮いた手もどうする事もできず止まっていた
「…いなくなるな、俺を、一人にするな…」
顔を隠すように押しつけるナギリさんの耳は暗くて見づらいが、赤い気がする
「ナギリさん、本官は貴方の事が好きなんでありますよ?こんなことされたら勘違いしてしまいます」
まだ、宙に浮いたままの手が震える
「…お前がいない間、こんな、みっともなく泣く程…俺にとって大きな存在になってたんだって気づいた」
ふにっ
「す、すきだ」
唇に触れたのがわかった瞬間、カッっとなって気付いたらナギリさんをひっくり返して押し倒していた
ナギリさんが口を開く前に唇にふれて、開こうとした口に齧り付くようにキスをした
「な、な、な、何しやがるッッ」
バコッと殴られ自分が何したか理解していく
「あ、あ、オワーーーー!!本官!ナギリさんになんて事を!!!!申し訳ありません!!!つい!!!!で、でも先にしてきたのはナギリさんでは?!?!」
「うううううるさい!!!騒ぐな!!!!お、俺は、こんな、こんな事してない!!」
「な、ナギリさん、あの、もっもう一回しても?」
「なッッ!良い訳あるか!馬鹿!死ね!」
「うえーーーん!両想いですよね?!ナギリさん照れ屋さんでありまーーーす!!」
結局あの馬鹿また口の中に入ってきやがった
息が苦しくて、手がジリジリ震えて痺れておかしくなりそうだ
気づいてしまったら、もう戻れない