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    miNa1423

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    miNa1423

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    カブユウ(ユウリ成人済み)
    前回かきかけの話。
    エスコートらしいエスコートはしてません。つまりかっこいいカブさんは不在です。
    いや、最初からいなかったなぁ。

    #カブユウ

    エスコートはいりませんお酒が飲める年齢になって参加することが多くなったけど、社交の場は未だになれない。
    「よければこの後一緒に抜けない?」
    露骨な夜の誘いに苦笑いを浮かべる。
    隣にいたルリナさんはもっと露骨に眉間にしわを寄せ、口元を大きくゆがめていた。残念ながら私にはそれができるほどの度量はない。
    男達はルリナさんの冷たい表情に気づいているのかいないのか、楽しそうに笑いながら、持っていたシャンパングラスを私たちに押しつける。淡いピンク色のお酒は、炭酸がはじける度に甘いチェリーの香りがした。
    「すみませんが、私たち仕事で」
    やんわり断りの言葉を紡ごうとしていたら、ルリナさんに口を塞がれる。
    もごもごと、塞がれた口でルリナさんに何するのと抗議するが、細くて長い指が離れることはなかった。
    「ルリナ、ユウリ、リーグ委員長が紹介したい人がいるみたいだ」
    私たちの間に入ってきたのは、意外な人物だった。
    「カブさん、ありがとう」
    ルリナさんは優雅に笑うと、私の手を引いてその場を去った。
    「失礼、お話中だったようだね」
    「おい、あんた一体何様のつもり?」
    彼はこのガラルでは小柄な部類だ。男達は露骨に威圧していた。それに対して嫌な顔をするわけでもなく、彼はただ真面目な顔で彼らを見返している。
    「ルリナさん、カブさんが」
    こんな場所で騒動を起こす人じゃないとは思うけど、
    「大丈夫よ、あ、いないと思ったらテラス席にいたのね」
    ルリナさんは私の手を引きながらどんどん歩いて行く。テラス席でネズさんとマリィとヤローさんが話していた。私たちも席に入れてもらおうと椅子を用意しているときに、カブさんがやってきた。特に騒ぎが起きた様子もないし、彼も普段と変わらない様子なので安心した。
    「アレ?ダンデはどこにいったんだい?」
    「キバナを探しにどっか行きやがりました」
    全員がもう戻って来れないとため息をつく。
    私も、緊張していたのだろう、渇いた喉を潤そうともっていたグラスに口をつけようとする。
    「だめだよ」
    グラスを厚い手のひらで遮られる。唇がその手のひらに触れるか触れないかの瀬戸際だった。
    「知らない異性からもらったものは簡単に口にしてはいけない」
    顔を上げれば、カブさんが真面目な顔をして私を見ていた。そのままグラスを取り上げられる。ルリナさんは当たり前のようにカブさんにグラスを明け渡す。その所作に大人の余裕を感じて、うらやましく思う。
    二つのグラスの中身を何の躊躇もなく、外に捨てると、私たちに向かって笑いかけた。
    「おいしいの持ってきてあげるよ。あそこのバーテンダーくん、ぼくがガラルに来たときからの知り合いなんだ」
    楽しそうに向かって行く背中は、バトルの後に見送るものと変わらない。凜と伸びた背筋が、なんだか夜の社交界に似合わなくて思わず笑みがこぼれてしまう。
    「はい、どうぞ」
    ルリナさんには、オレンジ色のグラデーションの入った飲み物。細くて形のいい指が上品にグラスを握り、少し笑みを浮かべた口元がお酒を飲む様を見ているとやっぱりルリナさんは綺麗だなぁと改めて思う。
    そして、私に渡されたのは、シュワシュワと音を立てている透明なグラス。
    「わぁ」
    ふふっと、彼が笑う。
    「ピカチュウですね」
    氷の上に載せられたレモンの皮がピカチュウの顔の形に切り取られていた。
    かわいい、と思わず笑ってしまうと、彼も同じように目を細めていた。
    「飲みやすいけど、お酒だからゆっくり飲むんだよ・・・僕は用事ができたから席を外すけど何かあったら呼んでね」


    「みて、ユウリ」
    ルリナさんがこっそり目線で知らせる。その先にいるのは、先ほどの男達。そして、カブさんが一緒にバーのカウンター席で並んでいた。ついさっき険悪なムードだったのに、何が起きたか分からなかった。
    「おいたをする子には、ちゃんと躾をするんだって」
    フフと笑って、ルリナさんはカブさんから目をそらし、ネズさんと談笑を始めた。
    私は気になって、ずっとその様子を眺めていた。
    わいわいと騒いでいた若い男が徐々に何も言わなくなり、いつしかテーブルに突っ伏していた。
    残っていたウイスキーをくっと飲み干すと、バーテンダーと拳を付き合わす。
    自信に満ちたその表情に、なぜか心が舞い上がる。
    「ね、私たちのほのおのジムリーダーはかっこいいのよ」
    ルリナさんの明るい声。
    あ、これは、分かる。胸がドキドキ言っている。
    「かっこいいです」


    パーティーも終盤を迎え、人もまばらになってきた。知り合いも少なくなってきた。今日エスコートを申し出てくれたダンデさんはとうの昔に姿を見なくなった。
    「あれ・・・」
    ふと視線をずらせば、廊下に人影が見えた。明かりの少ない場所で壁を手にうなだれている姿に、
    ペットボトルを差し出すと、
    「異性からもらったものは簡単に口にしてはいけないんですよ」
    ふふっと私の笑い声が小さく響いた。
    「ユウリ君・・・これは一本取られた」
    本当に驚いているようで、彼は目を見開いている。
    「恥ずかしいところを見せてしまったね」
    「無茶しすぎですよ。でも、ありがとうございます」
    「何のことだい?」
    本当に何も思っていないのか、誤魔化しているのか、分からない人だ。
    「そろそろ帰ってもいい頃だと思います」
    「うん。今日はよく頑張っていたね。スポンサーとの挨拶もよくできていたよ」
    褒めてほしくて話を振ったわけじゃないけれど、どうにもくすぐったい。
    「カブさんもです。帰りましょう?」
    わがままなふりして、手を引く。
    「本音を言えば、ずっと前から帰りたいって思っていました」
    「ははっ、それは・・・」
    ぼくもだ、とは口には出さなかったけれども、なんとなく分かった。
    「ルリナさんはヤローさんがついていますし、マリィはネズさんが早々に連れて帰りました。ビートはとうの昔に帰りました。ダンデさんはもう一時間は姿を見ていないんで、ここにはいないと思います」
    だから、貴方の心配の種は私ひとりなんですよ。
    「よろしければ、エスコートさせてもらえませんか」
    えっ!!といってたじろく彼に笑顔で伝える。
    「レディにエスコートしてもらうことになるとは思わなかったな」
    なんだか申し訳ないなぁ、とヘニャリと眉を下げる姿に、頬が緩む。
    「じゃあ、次のパーティーはカブさんがエスコートしてくださいね」
    「分かった。全身全霊をかけてエスコートするよ」
    「とびっきり素敵なエスコートを期待しています」



    「今度のパーティーは、外国からの来賓も多い、リーグ委員長の俺が一番ふさわしだろう?」
    「おまえ、前回とちゅうできえていったじゃねぇか。そんなやつに任せられねぇよ。有識者も多く来るんだろう、宝物庫の管理をしているトップジムリーダーのオレ様の方がふさわしい」
    「ギャアギャアうるさい奴らですね。俺と一緒はどうです?マリィもいますから安心できますよ」
    「らちがあかねぇ、こうなったらバトルで決着をつけるか」
    「それはつまり、俺がユウリの相手だと決まったわけだ」
    ようやく嫌なイベントが一つ終わったと思っていたら、オリーヴさんから次回のパーティーの話。今度は、国立公園を貸し切って外国からの来賓を招いて大々的に催すとのことだ。桜が見頃になるのでそれに合わせられたのかもしれないな、なんて他人事に思っていたらこの騒動だ。
    はぁと隣で息をつくが、隣で騒いでいる男性陣には聞こえなかったようだ。
    私には彼らの行為が、本当の好意なのか、ただの心配なのか判断がつかなかった。他のよく知らない男性に付き添ってもらうのも、嫌だったし、何よりそんな相手もいないので、助かっていると言えばそうなのかもしれない。
    正直言うと、社交の場が苦手だった。エスコートしてもらうのも、好きじゃない。大きな手が肩や腰に触れるのも、守ってくれている感じよりも緊張が大きかった。
    そして、時折彼らの目に熱がこもるのを、気のせいだと思い込むようにしてきた。
    だからこそ何も言えなかったし、何も言わなかった。


    「今、バトルって言っていたかい?」
    ピリピリとしていた部屋に明るくハキハキとした声が響いた。
    私は反射的に顔を上げる。
    「今から、トーナメント形式で、どうです?」
    いつもの赤いユニフォームに肩にかけた姿でタオルをダンデさんの誘いに、大きく頷いた。
    「いいよ!」
    「じゃあ、カブさんも参戦な」
    「カブさんまでユウリのエスコート狙っているなんて知りませんでしたよ」
    あっ、と思った。
    「エスコート?」
    首をかしげる彼に、焦った。
    「あ、あの!!」
    誰が一緒でも、変わらないと思う。
    そもそも私は誰かにエスコートしてもらうような女性じゃない。
    でも、今回は違う。
    「すみません。次は、カブさんにエスコートしてもらうって約束しているんです!!」
    しんと静まりかえる部屋。部屋にいたのはトレーナーや私の知り合いばかりじゃなかった。その全員の視線が私に向かう。
    ・・・何だろう顔が熱い。


    当日、カブさんに呼び出されたのは、エンジンジム。申し訳なさそうに、会場入りの三時間前に来てほしいという彼に、首をかしげながら頷いた。
    話は通っていたようで、受付に行けば奥に通された。案内された場所は、会議室だ。何度か打ち合わせで入ったことがあるが、いつも並べてあるはずの机が隅に追いやられていた。
    そこで、カブさんは知らない女性と親しげに話をしていた。
    私よりも年上で黒くて艶のある髪が笑う度にふわふわと揺れて、なんだか目をそらしてしまう。二人の間で交わされる知らない言葉はきっと彼の故郷の言葉だろう。何を言っているのかは分からなかったが、二人が親密なのはすぐに分かった。
    『――――――』
    『――――――』
    女性が私に気づく。じっと私のことを見定めるように観察された。正直落ち着かないけど、隣にカブさんがいる手前何もいえなかった。
    「この子がユウリ?」
    「あぁ、お願いしてもいいかな」
    「もちろん」
    さあ、こちらへと女性が私を椅子に促す。
    不安になって、彼を見るが、すでに背を向けていた。
    「外で待っているよ」
    最後に笑みを向けられて、頷くしかできなかった。
    どういう関係だろうか、尋ねたくても、その理由がない。
    「貴方、かわいいのね」
    私の顔を見て笑う女性は、私にはない色気があった。かわいいという言葉も私をからかっているようにすら聞こえる。
    でも、そうじゃなかった。
    「大丈夫、私に任せて」
    自信に満ちた笑顔、躊躇のない手で女性は私の髪をすいた。


    カチャリとドアノブが音を立てる。
    女性は扉を開き、私を外に出るように促した。
    ふっと息を吸って足を前に出す。会議室前の窓から景色を見ていた彼がこちらを向いた。
    その灰色の瞳が見開いた。
    桃色の着物は、たくさんの花が彩られ、光を浴びる度にキラキラときらめいて、今まで着てきたどんなドレスよりも綺麗だった。
    その着物に負けないように、私のそれほど長くない髪は上品に編み込まれて、桜をもした飾りが添えられた。一歩進む度にシャラシャラと音を立てるその飾りが、とても貴重なものに思えた。
    普段しない、はっきりとした色の口紅に、目元を薄く赤く染められた。
    なんだか私じゃないようで、それでいて、私らしくあるような、不思議な感覚だった。
    扉を開いていた女性がクスクスと笑って、彼に声をかける。
    『――――――』
    『――――――!!』
    何を話しているのか分からないけど、彼が照れているのはなんとなく分かった。なんだか、私まで照れてしまう。
    『ありがとう』
    かの国で一番有名な言葉だ。バトルしかしてこなかった私ですらその言葉の意味を知っている。友達とふざけ合って言い合ったこともあるぐらいだ。
    でも、感謝の気持ちが染み渡ると、こんなにも素敵な言葉になるとは知らなかった。
    女性は柔らかい笑みを浮かべると、私の背中を少し押す。
    「カブ叔父さん、エスコートを」
    叔父さん?顔を見返せば、いたずらにウインクされた。
    うわぁ、勘違いしていたのばれている。
    「ああ、ユウリ君」
    いこう、そう言って彼は私の半歩前を歩く。小さく差し出された手を指先だけでそっと握る。少し指先だけをからませるエスコート。初めての着物と下駄にうまく歩けない私のペースに合わせて、彼はゆっくりと歩き出す。
    半歩後ろから彼を眺める。赤い羽織には黒い炎が描かれ、彼らしいデザインでしっかりと着こなしているから、すごいと思う。やっぱり似合うなぁと眺めていると声をかけられた。
    「・・・ユウリ君、こんなじじいに言われたくはないだろうけど」
    彼を見上げると耳まで真っ赤になっていた。
    「とてもよく似合っている・・・それに」
    ほとんど力の入っていない繋いだ手に力が込められた。
    「とてもかわいいよ」
    「っ!!」
    思わず手を握り返してしまった。
    誰かにエスコートされるときは、誰もが褒めてくれた。ドレスだったり、瞳の色だったり、アクセサリーだったり、それはそのときによって違ったけれど。
    こんなに居心地の悪いものだったろうか、やっぱり私にエスコートは似合わないようです。
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