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    いもこ(猫好き)

    @nekosukidomei

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    いもこ(猫好き)

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    バレンタインネタです。
    団メンバーでワーワーしてるのが書きたくてpixivにアップしましたが、なんとなくしっくりこなかったため削除した作品です。
    せっかくなので期間限定で置いておきます。

    #美茶謎
    teaEnigma

    チョコレートの思い出「招集令です、眉美さん」

     耳元の電子機器から、先輩くんこと、美声のナガヒロの声が聞こえた。
     団の支給品であるキッズケータイを通してもこの美声。録音機能があったなら、迷わず録音してしまいそうだ。心なしか喜色を含んだ声音の余韻を感じながら──電話が切れた。
     正確にはわたしが誤って電源ボタンを押したので切れた。この癖はいつまでも治らない。
     いつものことなので、電話の向こうの美丈夫はきっと、やれやれまたかと首を振っているだろう。


     来いと言われると行きたくなくなる、所謂『美観の流儀』に則って(何が所謂だ、世間一般にそんな流儀はねえ、と真面目な不良に突っ込まれそうである)帰路につこうとした足を止めて、ふーっと深呼吸をする。このまま帰っては、ほんのちょっとだけ早起きして、登校中に寄り道した意味がなくなってしまう。
     招集令ということは、団員が全員揃うはずだ。
     全員揃っているならちょうどいいな、と考える。

     そしてわたしは、わたしのほんのちょっとの労力を無駄にしないために、美少年探偵団の事務所である美術室へ向かったのだった。






     たどり着いた美術室には、甘い香りが漂っていた。
     わたし以外の全員がすでに揃っている。
     正確にはわたし以外の四人だ。しかし四人が紅茶を飲んで寛いでいる様子からして、もう一人は準備室もといキッチンにいると推測でる。


    「やあ、来たね眉美くん」

     リーダーこと美学のマナブが、嬉しそうにニコリと笑う。
     その声が聞こえたのか、キッチンから不良くんこと美食のミチルが現れた。ティーポットとカップを手にした美食は、お馴染みの三角巾とエプロンを身につけている。

     ソファの空いている場所に座ると、隣でひっくり返っていた生足くんこと美脚のヒョータが、わたしの足の上にその美脚を置いた。遠慮なく撫で回すと、「事前に言ってってば、眉美ちゃん」とたしなめられた──事前に了承を得ず、人の足の上に美脚を置くのは許されるのか?
    ……許されるか、美脚だし。むしろ感謝しなくちゃね、ありがたや。なでなで。

     慣れた手つきでわたしの前に紅茶をサーブした不良くんは、サッと周りを見渡し、唯一空になっていた先輩くんのカップにおかわりを注いで去っていった。
     本物の給仕専門スタッフみたいだな。
     まだわたしの脳内でしか喋っていないよ、不良くん。

     宿敵(なのか疑わしい)のアシストで紅茶のおかわりを得た美声は冒頭に喋ったのでスルーして、わたしは天才児くんこと美術のソーサクに目を向けた。
     とりあえずわたしの脳内では喋った不良くんよりも、ずっとずっと無言を得意とする彼。
     全員が集まっていても絵を描いたり彫刻を掘っていたりする彼がキチンと座っているということは、きっとリーダーがそうするよう言ったのだろう。
    みんなリーダーには従順だ。


    「さて、全員揃ったね」

     わたしが無事、吐き出すことなく紅茶で喉を潤したのを見計らって、リーダーが再び口を開いた。今日の招集令の内容について説明があるのだろうか?



    「今日はチョコレートを食べる日だ! 今日だけは探偵団の活動は休んで、ゆっくりと過ごそうじゃないか!!」


     いやいやいや、今日だけはって、それじゃあ365日年中無休で熱心に活動してるみたいじゃない。普段から結構ゆるゆるふわふわの活動でしょ。
     毎日熱心に事務所(美術室)に通ってる不良くんの発言ならともかく。
     わたしだって不良くんに次ぐ出席率の良さではあるが、それは団の活動に熱心な訳ではなく、Cafeミチル目的というのが大きい。
     しかし団長に従順な団員たちは、パチパチと拍手をして(生足くんは拍足をして)団長の発言に同意を示していた。

     それにしても、『チョコレートを食べる日』とは。
     節分(恵方巻きや豆を食べる日)を引きずってないか。
     男子はみんな、『チョコレートをもらえる日』と考えてワクワクドキドキしているものだとばかり思っていたのに。
     そもそも、美少年たちの本日の収穫はどうだったのだろう。漫画みたいに靴箱や机からドサーっは無いにしても、貰いすぎて食べ切れねえよ人気者は辛いぜ困ったなあなんて心底むかつくことが起きるのだろうか。
     実際のところ、恐れ多くて渡せない……って子が多くて結果収穫ゼロだったりして。
     誰しも推しを目の前にしたら、カオ○シみたいな状態になるもんね。
     抜けがけは無しよ! ってファンクラブ(あるのか?)でプレゼントが禁止されてたりするかもしれない。


     彼らの収穫がどうであれ、こうして今、彼らは揃って学園一の不良の手作りチョコレートを心待ちにしている。すごい絵面だ。わたしもめっちゃ楽しみなんだけどね!




    「去年は、中からチョコがとろっと出てくるやつだったな!」
    「フォンダント・ショコラです、団長」

     リーダーの発言に、先輩くんが答える。いい発音で。
     日本語では『フォンダン・ショコラ』と言われることが多いフランスのチョコレートケーキだが、『フォンダント・ショコラ』のほうがフランス語発音に忠実らしい(w○ki調べ)……。
     気取りやがって過去の男が。


    「えっと、その前は……」
    「ブラウニーでしたね」

     生足くんがせっかく思い出を辿ろうとしていたのに、先輩くんがそれをぶった斬る。
     即答すぎて恐怖すら感じさせる過去の男だが、美食のミチルの新作発表に敏感な男なので致し方ないのかもしれない。


    「今年はなっにかな〜♪」

     先輩くんのぶった斬りにもめげず、生足くんが美脚をバタバタさせながら、歌うように声をあげる。
     するとそれに応えるように、キッチンから美食の声が聞こえた。


    「ガトーショコラだぜ」

     この声に、団員達がわーっと歓声をあげた。
     正確には歓声をあげたのはリーダーと生足くんだけだったけれど、先輩くんはにっこにこしてるし(あれは完璧に素だ)、天才児くんは無口ながらもリーダーとハイタッチしている。楽しそうだな。
     遅れをとってしまったが、わたしも歓声をあげようかとタイミングを伺っていたところに、もう一度美食の声が聞こえた。
     先ほどは声だけだったが、今度はキッチンから少し顔を出している。


    「ちょっと誰か手伝ってくれ」

    …………誰か、と言ったけれど、確実にわたしを見ていたぞあの不良。まあ消去法的にわたしに言ったんでしょうね。誰か、なんて言わず名指ししろ!まあ名指しされたら無視するけどね。
     美観の流儀に則って。


     心の中で悪態をつきながらも体は正直なので、早く不良くんのチョコを食べたいわたしは生足くんもびっくりなダッシュでキッチンへと駆けつけた。
     美少年探偵団が誇る凄腕シェフは、ガトーショコラに生クリームとフルーツを添えている。どうやら最後の仕上げ中らしい。


    「おー、悪いな眉美。ワゴン壊れてたの忘れててよ」


     ワゴン。
     紅茶やらお菓子やらディナーやらを乗っけてゴロゴロ運んでたあれのことか。あれだけ大活躍していれば壊れるのも頷ける。少しだけゆっくり休んで、今後も活躍してくださいワゴンさん。あなたが元気に戻ってくるまで、わたくしめが美食の運搬を担います。




    「普通の……って言うとおかしいけれど、ころっとした丸いのとか四角いのとか、そういうチョコは作らないの?」

     団員の証言を聞く限り、ケーキにこだわりがあるのかしらと思って、わたしはそんなことを聞いた(溶かして固めるだけだからケーキより簡単なんじゃないの? と思ったことは口にしない。ふざけるなと怒られた挙句、目の前にあるガトーショコラがお預けになるという耐え難い拷問を受ける可能性がある)。
     トレーに仕上げたガトーショコラを載せていた不良くんは、何やら少し考える様子を見せた。
     テキパキと動いていた手が止まる。




    「…………いつもの『ご自由にどうぞ』形式だとお前が全部食っちまうじゃねえか」

     少しの間のあと、不良くんは眉間に皺を寄せてそうこぼした。

    「失礼ね、そんなことしないわ」
    「悪かった、九十五パーセントだよな」
    「言いがかりはやめてもらえる? せいぜい九十パーセントよ」
    「お前のそういう図々しいところ、少し見習った方がいいかな、俺も」

     ため息をつきながら、不良くんは右手を額にあてた。
     わたしが失態や失言をする時に先輩くんがよくやっているポーズだね。
     おそろいのポーズとは、やはり二人の不仲設定には疑問が──と、それは置いといて。


    「クズから学ばないで! 不良でクズだなんて意外性がないじゃない。不良くんは真面目な不良っていうのが存在理由なんだから」
    「あ? 悪りぃ良く聞こえなかった。俺のガトーショコラはいらねえって言ったのか?」
    「袋井満さま最高! 早くそのゴッドハンドから生み出されたガトーショコラをお腹いっぱい食べさせて😉って言ったのよ」





     
     必死にごまを擦り、なんとかお預けの刑を回避して食べたガトーショコラは吐くほど美味しかったし(頑張って吐かなかった代わりに、変な声をあげながら食べたのでみんなから嫌がられた)、なんと不良くんは全員にお土産分まで用意していた……出来る男である。
     料理に関しては。








    「みんな! 手を出して!!」

     美食のガトーショコラを堪能し、そろそろ帰宅しようかという場面で、わたしは意を決して叫んだ。
    ガトーショコラのしあわせな余韻のせいですっかり忘れていたが、わたしの労力がまだ報われていない。
     わたしの奇行には慣れたと言わんばかりに、美少年たちは疑問符を浮かべながらも素直に手のひらを見せた(天才児くんを除いて。袖を捲りやがれ)。



    「製菓会社の戦略だとか言うけど、一応今日は女子が男子にチョコをあげる日ってのが一般的な認識? みたいな感じ? だし? 一応女子のわたしからみなさんに」

     早口で言ってから、何か言われる前に素早く美少年どもの手のひらにチョコを置く(天才児くんは袖を捲らなかったので中に放り込んだ)。
     美少年に恩を売るためにと、今朝コンビニで買ったチロルチョコである。
     変に気合いの入ったものより、こういう気軽なのがわたしっぽいでしょと、照れ隠しにごにょごにょと言っていると、

    「ありがとう、眉美くん」

    「ありがとね、眉美ちゃん。やった〜チロル好き!」
    「受け取った。ありがとう、まゆ」
    「お、期間限定のやつじゃねえか。ありがとな、眉美」
    「格好はともかく、あなたは歴とした女性なのですから、『一応』なんて言うものではありませんよ──それはそうとして、ありがとうございます、眉美さん」



     一斉に、美少年たちから感謝されてしまった。
     天才児くん、わかってるじゃん『まゆどころ』を……!




     美少年たちが喜ぶふりではなく、ちゃんと本心から喜んでくれているのがわかる。
     

    それがわかるようになるほどの時間を共に過ごせたことを、わたしは嬉しく思ったのだった。






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