俎上の鯉(けっこうデカいな)
もう何度も触れた事がある。迎え入れ、内側を暴くのを許した仲でもある。
けれどこんなにも間近に、じっくりとそれを見たのは初めてだった。
片手で支え、そっとキスすると、ピクリと震えた。反応があった事が嬉しくて、思いきって口に含む。当然入りきらないが、そこは手でカバーするとしよう。
出し入れしたり、触られた時気持ちいいと感じる所を舐めてみたりと、思いついた事をとにかく実践してみる。
後頭部に添えられた手が動いて、首筋を弄ぶ。頭上から降ってくる艶やかな吐息に体温が上がり、絞り出すように名前を呼ばれると、まるで耳元で囁かれているみたいにぞくぞくとした。
「出す、って……言えよ、な……ッ」
盛大に咳き込みながら、何とか声にする。
驚いて口から零れた体液は顎を伝い、Tシャツを汚した。脱いでおけば良かった、洗濯が面倒だ──と、こんな状況でも冷静にそんな事を考えている自分がなんだかおかしい。
「……飲んでくれないんですか」
顎を掴まれて、至近距離で見つめ合う。
ちくしょう、顔が良いな(もちろん声も)。
「まずくて飲めたもんじゃねーよ」
べ、と舌を出すと、見目麗しい青年は首を傾げた。
「ミチルくんの部屋に隠してあったアダルトビデオでは、『おいしい』と言って飲んでいましたけれど」
「……〝隠してあった〟を強調すんな。普通にプライバシーの侵害だぜこれは」
いくら同棲していて、お互いの部屋を自由に行き来している間柄とはいえ、親しき仲にも礼儀あり、だ──と、いうようなことを、風刺を効かせて言いたかったのだが、侵入してきた舌に口内を探られて断念した。応えて絡めると、いっそう繋がりが深くなる。
「……本当だ。まずいですね」
「……だろ?」
口元を拭いながら立ち上がり、ベッドに座っている長広の隣に腰掛ける。
ずっと膝立ちをしていたので、流石に日差しが痛い。
「でも、私は飲みたいな。ミチルくんの」
肩を抱かれ、囁かれる。
背筋に甘い痺れが走った。
「……恥ずかしい、から、嫌だ」
顔を逸らすと、ふふ、と笑い声が聞こえた。本当に嫌なら、殴ってでも抵抗すると知っているのである。
「恥ずかしい、のは……ちょっと我慢して。すごく気持ちいいですよ」
そっと押し倒され、慣れた手つきであっという間に脱がされてしまう。
「お前さぁ……気持ちいいって言えば俺が了承するって思ってねえ?」
「 ? はい。気持ちいいの、好きでしょう?」
脚の間に割り込みながら、長広が悪戯っ子のように笑う。
それはお互いさまだろうが、と笑い返して、身を預けるように力を抜いた。
嬉しそうにとびきりの笑顔で魅せる長広を見て、明日が休みで良かった、と、満は心底思うのだった。