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    いもこ(猫好き)

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    いもこ(猫好き)

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    クリスマスネタ
    同棲している食と声(左右不定)

    #美茶謎
    teaEnigma

    サンタは遅れてやって来る「俺んち、サンタ来たことねえんだよな」
     満が腕によりをかけたクリスマスディナーの数々。それらを存分に堪能したあとのティータイム。ソファに並んで座り、ゆったりと紅茶を飲んでいた長広の耳に、満の呟きが届いた。
     それは、特に長広に話しかけたわけではなく、思わずポロッと言葉が溢れた、といった風の響きだった。
    『何歳までサンタを信じていましたか?』という質問に、街行く人々が答える──そんなよくある企画の番組が、テレビから流れている。クリスマス一色の番組も、明日からは一気に年越しモードになるのだろう。長広としてはBGM代わりのつもりで、なんとなく電源を入れただけだったのだが、満はしっかりと視聴していたらしい。
    「来ないことに関しては納得してたんだよ。いい子じゃなかったからな、俺は。それでも、サンタがいないって知った時はショックを受けたもんだぜ」
     記憶を辿り懐かしむ満は、自作のクッキーをつまみながら長広に視線を向け──ビクッと肩を震わせた。長広が、この世の終わりとでも言いたげな表情をしていたからである。以前、満作のドーナツを誤って落としてしまった際にもこんな表情をしていたなあと思いながら(落ちたドーナツは満が食べ、長広には新しいドーナツを食べさせた)、出来栄えの良いクッキーを飲み込んだ。
    「どうして今日、そんなことを言うんですか?」
     冷静沈着でクール、そしてストイック──と言えば無口で冷たい印象を受けそうだが、そこに魅力的な声・物腰の柔らかさ・お喋り好きをプラスした長広は、感情表現が豊かだ。表情だけでなく、ご自慢の美声にも感情を乗せるのが得意なのだから、単純に考えると他人よりも二倍の力がある。今まさに、この世の終わり顔+絶望声で満を攻撃──いや口撃しているのが立派な証拠である。付き合いが長く、長広の抜けた部分も含めた全てを知っている満にとっては、効果は薄いが。
    「なんだよ、その顔と声は。どうしても何も、ピッタリの話題じゃねえか」
     満の反論を聞いているのかいないのか、黙って考え込んでいる様子の長広を横目に、暖かい紅茶を淹れ直した。
    「紅茶、おかわりいるか?」
    「いります」
     もったいぶった言い方が鼻につくこともままあるが、こういう時は即答するのだと知っているのはなんだか気分がいい、と満は思った。


     すうっと、自然に瞼が開く。
     横になったまま、ベッドに備え付けられた棚からスマートフォンを取ると、起床予定の五分前の時刻が表示されていた。いつも通りの朝である。
     念のためセットしてあったアラームを止めてから、ぐっと伸びをし──、何かがコツンと、手に当たった。
    「……?」
     そちらを向いた満の瞳に、学生時代の制服を思わせる深緑色が映った。
     ふんわりと柔らかそうな赤いリボンがあしらわれた深緑色の包み。持ってみると、固く、そこそこ重みがある。中身は本だろうか、と予想した満は、リボンに差し込まれた可愛らしいカードの存在に気がついて、それを手にした。

    『いい子の袋井満くんへ
     遅くなってごめんね
     メリークリスマス!
     サンタクロースより』

     二つ折りのカードを開くと、驚いたことにサンタからのメッセージがしたためられていた。
     クリスマスはもう終わっただろ、と心の中でツッコミながらも、頬が緩む。
     どういうわけかサンタの字はよく知る筆跡で、短いメッセージを何度も読み直すと、なぜか少し、涙が出た。



    「ナガヒロ、ナガヒロ!」
     隣で丸まって眠る長広の肩を、強めにゆする。遅刻しそうな場合でもない限り、満は朝が苦手なこの美丈夫を強引に起こしたりはしない。けれども満は、今すぐ長広と話がしたかった。童心に帰った気持ちで、興奮しているのがわかる。

    「……………………こえが、おおきい」
     不機嫌そうな長広の声が聞こえたので、満は肩をゆするのをやめた。朝が苦手とはいえ、一度目覚めたら徐々に覚醒していく──それがいつもの長広の起床スタイルなのだ。
    「サンタが来たぞ! ナガヒロ!」
     もぞもぞと体勢を変えて長広が満の方へ向いたのを確認すると、ずいっと深緑色の包みを差し出した。
    「ミチルくんが、いいこだったからですね」
     ふわりと笑う表情をしっかりとみつめたくて、満は長広の顔にかかる髪をサラリと撫でた。くすぐったそうにする表情も美しい。
    「もうクリスマスじゃねえけどな」
     クリスマス前にやってきて、やることないし踊ろう! というサンタが登場する歌があったが、あれの逆バージョンだろうかと、満はおかしくなって、つい笑い声をもらした。
    「サンタは世界中の子どもたちにプレゼントを配るのですから、大人は後回しなんですよ。一日くらい、遅くなることもあるでしょう──配達を専門とする某宅急便や某宅配便だって、日時指定をしてもその通り配達されないこと、ありますしね。誤差の範囲ですよ」
     と、長広がサンタの遅延をフォローした。某宅急便と某宅配便に対する不満にも聞こえるが、そこには触れないでおく(ちなみに、長広は実際にはこんなにはっきりと喋っていない。寝起きはいつももにゃもにゃと喋る長広の言葉を、満が要約したのである)。
    「サンタも大変なんだな」
     サンタが今どこにいるのかをチェックし子どもたちに伝える団体もあるそうだし、高齢のサンタにはなかなかきつい仕事だろう。長広の現実的な話に釣られて、満の思考も現実的になる。

    「来年はちゃんと、クリスマスに届きますよ」
     プレゼントを持つ満の手に自身の手を重ねて、長広が微笑んだ。
    「……お前のとこにもな」
     満は微笑み返して、寒そうに縮こまる長広を、毛布ごと抱きしめた。
     苦しい、と長広は訴えたが、その声音は穏やかで優しかった。







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