愛しすぎて憎らしいアイクが憎い。美しい文章を生み出す才能が憎い。優しい声が憎い。心底ホッとしてしまう、不思議な力を持った手が憎い。自分を甘やかして、ドロドロに溶かしてしまう彼のすべてが憎くてしょうがない。
一体全体、大切な仲間に抱くべきではないこの気持ちがどうやって出来上がってしまったのか。それを当事者のミスタ自身に問いても、何も答えは出てこない。なぜなら、彼もこの気持ちに戸惑っているのだから。最初は淡い恋心だったはずなのだ。優しく自分を褒めてくれる彼に、もっと褒めて欲しいんだと思っていただけだった。その期待に、アイクは必ず応えてくれた。それが嬉しくもあったが、さらなる欲求に火をつける原因でもあった。
アイクは、自分と比べて素晴らしい人物だと思う。彼の書く本は、美しい文章であふれていてファンもたくさんいる。彼の歌声は、やさしさと力強さの両方を兼ね備えている。性格も優しく、面倒見がいい。彼を慕わない人間はいないだろう。だから、何もない自分を見て同じように恋心を抱いて欲しいなんて無理に決まっているのだ。
それでも、ずっと自分の些細な希望でさえ拾ってかなえてくれたアイクならと思ってしまう自分がいる。でも、現実は残酷だ。アイクにとって自分は、大切な友人で仲間の1人にすぎない。それ以上の気持ちを抱くことはないだろう。それが分かってしまえば、綺麗な薄ピンクの恋心はどす黒いものに変貌していった。
“俺だけを見て”
“もっと褒めて”
“もっと話したい”
“好きなんだ”
“俺と同じ気持ちになって”
叶いもしない願い事。それが積み重なって、叶わないことに絶望する。そうして気づけば、恋していたアイクを憎むようになっていた。
それでも、アイクが大切な友人で仲間であることには変わらなくて。相反する気持ちを抱えたまま、俺は今日も笑顔の仮面を被る。
「ミスタ!今日の配信も最高だったよ!どうしてあんなアイディアが思いつくんだい?」
興奮冷めやらない様子で、話しかけてくるアイク。そんな彼に、嬉しさを抱きつつも褒めるくらいなら俺の所まで落ちて来いよとも思ってしまう。
「ミスタ?」
黙っている俺に、訝し気に声をかけてくるアイク。
「ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
「大丈夫?配信で疲れちゃった?」
「そうかも。ごめん、今日はもう落ちるわ」
話をするだけで、自分の気持ちが抑えられそうになくてさっさとその場から退散する。いつまでこの仮面を被り続けられるか分からない。被れなくなるその時までに、この黒く変色しきった汚らしい恋心を捨てられればいいなぁ。できもしない望みを、俺は1人寂しく呟いた。