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    Laugh_armor_mao

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    鬼狐ワンドロワンライ
    お題『家デート』

    世界線は学パロのヤツです。ヴォックス→金持ちのボンボン、ミスタ→訳あって一人暮らし。
    高校生。

    #FoxAkuma

    HOME 珍しく数日学校を休んだヴォックスに、年度末の書類を届けに行く事になった。流行り病では無いらしいケド。

     長い土造りの壁沿いを暫く歩いて、料亭のような向こうを透かす縦格子に引戸の(数寄屋門っていうらしい)門に辿り着く。

     車2台分位の門戸の横に、黒いインターフォンが2つ並んでいる。「納品用」では無い方をポチっと押すと、直ぐに門が自動で開いた。

     ……どうして金持ちの家って門から母屋まで遠いのかな。死ぬわ。庭園の向こうから、ベルジアンマリノアシェパードのジャックと、イーストヨーロピアンシェパードのチャーチルが駆けて来た。
     第二次世界大戦の狂戦士に因んだ名前の2匹は、シェパードの中でも大型で攻撃性の強いデカい犬種だ。懐いてくれてるからとてもカワイイしうれしい限り。短毛種特有のベルベットの様なつるつるとした毛並みを堪能しながら2匹に挟まれて歩き、正面玄関が見えてきた頃、チャーチルが俺の服を引っ張って裏手へ誘導しようとする。
     いいのかな?と思ったけど、コイツらに抵抗しても引き倒されて引き摺られるだけなので、大人しく付いて行く事にした。

     正面はがっつり瓦葺きの日本建築で、手入れされた寒椿や梔子の低木林を抜けて角を曲がると、八角形にせり出した白いテラス?温室?を挟んで西洋風の木造建築が現れた。

     マホガニーの渋い外壁と、濃いグレーの屋根。バ○オハザードの洋館みたい。

     二本の石柱が支えるポーチの重厚な扉の前で、まおうーーーもとい、ラフな臙脂のパーカーを羽織ったヴォックスが待っていた。

    「ミスタ、よく来たな」

     ジャックとチャーチルを撫でて、褒めながら。でも真直ぐ俺を見て、本日の最初に交わす挨拶。ガイメイクも無く、珍しくほにゃほにゃとした笑顔に、プライベートなんだと強く実感してこそばゆい。

     で、ヴォックスん家の番犬は高度な命令を遂行できるとも知った。後で聞いたが、正門から入らない「知らない人」は問答無用で排除されるらしい。どこのゾルディック家?今更なんだけど、怖がった方が良い?



    「お邪魔しまーす」

     広い玄関で靴を脱いで、もう一つドアを潜ると大広間に正面階段。なんてものは無く、1階は壁際の階段と母屋へ続く廊下、食堂、客室と物置、2階に書斎と私室。
     奥さん、聞きまして?各部屋にトイレとシャワールームがあるんですってよ。 広い浴室は母屋だけなんだって、「ごめんね?」みたいに言われても困るわ。んなもん。

    「何代か前が欧羅巴かぶれでな。海外の客人の為に建てたそうだ」

     実際は病弱な愛人とその家族を住まわせてたんだ。とウインクして、先導するヴォックスの後に付いて行く。

     シュウの家の、檜が清々しく薫る神社特有の匂いとも違う、ヴォックスの家。

     濃いコーヒーみたいな苦い香りの黒檀の柱、微かに薔薇の芳香を放つ紫檀の床。柔らかい色の壁と、部屋の調度品。開いた書斎から古書の乾いた印刷紙の甘い匂いとスッと冷たいインクの匂いが漂って。建物を形成する資材のケミカルと天然素材の無機質な混合臭。
     そして、棲むイキモノノニオイ。

    『ぢ づ が  !!』

     踏み込む度僅かに撓む角の取れた冷たい木材の感触と、洋間独特の陽に温められた空気と冷えた空気のたゆンとした温度差が足裏をそわそわさせる。
     知らない匂いに巻かれて認識がゆがむ。ヴォックスの家なのに、ヴォックスが居ない。 階段を上がって10歩の距離が長く感じた。

    「ここだよ。 ミスタ」

     開けられたドアから、嗅ぎなれたシャンプー、服の洗剤、トリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、脂肪酸、呼気に含まれる00001%の微量ガス。
     俺の知ってるヴォックスを構成する匂い。気付かれない様にそっと深呼吸して、俺は顔を上げて宇宙猫になった。

     リビングと寝室が分かれている。
     キッチンみたいなのもある。
     シャワーとトイレがあるんだっけ?

     戸建ての部屋のドアを開けたらワンエルデーケーのマンションの1室だった時の俺の心境を答えよ。

     さっき迄の緊張なんて、一気にどうでも良くなった。
     勧められるままクッショビーズのソファに身体を埋めた。

    「そう言えばなンで休んでるの?」
    「あー、キャバリエに選ばれて…」

     ヴォックスが冷蔵庫から取り出したのは、ペットボトルのペプシとプロテインシェイカーに入った牛乳。え?

    「好きな濃さで作って」 

     横に添えられたのは、女性と老人に人気になって一時品薄になった緑のアイツ。ヴォックスの顔と交互に視線を移していると、

    「牛乳はいつでもあるし、紙パックや缶はこの国には無いしね。何時でも飲める方が良いよな」
    「何時でもって」

     ヤバ。顔が熱くなりそう。

    「あ、キャバリエってなんなの?」

     隣に座ったヴォックスに、何でも良いから話題を繋げて、シェイカーを振った。甘い香りで全部誤魔化せれば良い。

    「舞踏会のエスコート役。姉がデビュタントに招待されて、参加するとか言い出したから」
    「舞踏会」

     悪役令嬢の断罪シーンしか思い付かないが、アレか。スゲェな。

    「最悪なのがダンスをしなければならなくて、アホ程練習させられて」

     それ以外にも少し色々な。とか言いながら、酷くウンザリした顔をしていたから、本当に嫌だったんだと判る。

    「参加は防犯上伏せなくてはいけなくて、ミスタにも連絡出来なかった。すまない」
    「えー。しょうがねぇジャン。そんなの」

     それよりさ、やっぱスーツ着てクルクル回んの?って聞けば、チョットだけ考えて、ニヤリと口角を上げた。

    「こうやって手を繋いで、よっと!」

     不意に手を引っ張られて立ち上がると、腰を支えてターンする。
     俺はステップとかわからないし、力任せにぐるぐるとぶん回されるままに身を任せた。

     ぎゃはは!と笑い合ってもう一回ソファに座り直して、グダグダお喋りをしていると、結構な時間が経っていて。そろそろ帰ろうかな?と切出そうとしたとき。

     トントン。とドアが叩かれた。

     ヴォックスがドアを開けて対応すると、食事のトレイを持って来た。

    「ん?んんっ?」
    「ん?今日は泊まるだろう?」

     嬉しそうに笑うヴォックス。

    「折角のデートなんだ。もっとゆっくりしていってくれ」

     なんか、実家暮らしのヤツの処に来てたハズだけど。一人暮らしの狼の処に来ちゃった?気分。

     友達の家へご訪問が家デートだった件について。

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